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讃美歌
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「僕はあんたなんか嫌いだ」
夫はアヤトくんに、
最早掴み掛かってしまい圧巻。そして。
「だからここに来たんだよ」静かな低い声で、あまりトーンを変えずに夫は言って、ふらっとアヤトくんの胸ぐらを離す。
挑戦的に見つめ返してアヤトくんは言った。
「そんなのは押し付けだわ、死ねいっぺん、」
なんという迫力。
そしてやはり浮かんだのは、那由多くんと、夫の、こんなやり取り、ありそうだなと感じました。
「セリフ違くね…」とトキくんは呟きました。しかし二人は続けます。
「構わないでやりたいけど、なら」
「それがうぜぇって言ってんだよ」
「そうか、結構です」
間があって。
「ぷはっ、」とアヤトくんはまた笑いだし、なんなら泣いてしまい、その場は「おぉ、」だの「そんな?」だの、また雰囲気は劇団に戻りました。
「すっげ、ま、マジで背筋凍ったよ団長!」
「お前なぁ、セリフ変えんなよ。軽く焦ったんですけど」
「いや雨祢、掴み掛かるのもどーなの?」
「いやそれあんたが言うのトキ。あんたもセリフ変えてたよね」
「え、うん。感情移入」
「じゃ俺のもよくない!?トキさん」
「うーん。
つうか雨祢意外。お前そんななんか男優感出るの?いつもやってよ」
「いや全然出てないから」
なるほど。
貴方の本心、少し見えた気がしました。
「でもアヤト、俺らそれでやろっか」
「うん!そうする!」
「待ってダメだって。なんでそんな反抗的なの君たち」
「え団長ーマジ台本読んでくれませんん?その方がぽいでしょ」
「いやお前なぁ、」
「奥さんは?」
「はい?」
またふいに私に話題がやってきて。アヤトくんは純粋なような、役柄のせいか反抗期のような目で私を見て意見を求めました。
夫は少し居心地が悪そうに私をチラ見しています。
「奥さん的にはどっちがよかったですか?」
「え、はぁ…」
思いを巡らせてみて。
行き着いたのは、那由多くんが出て行った日の、夫の背中で。拳を握りしめ立ち尽くした、あの情景が浮かびました。
「多分…、最後のが、一番、」
貴方の気持ちを再現できる。
貴方は実際は、あの子になんて掴み掛かれないような人でしょう。
それを聞いたアヤトくんは、少し優しい目をして、「ですよね」と笑った。
「見る目がある奥さんですね」
そう言って夫を見るアヤトくんから、夫は目を反らし、「好きにしろ、わかったよ」と言うのが、なんだか切なそうで。
そうだったんですね。
貴方、あまり。
「あのぅ…」
私の声にみんなは一斉に私を見つめました。
「台本、よかったら読ませて頂きませんか」
「えっ、」
驚きがどこかから聞こえた。恐らくはトキくんで。
「あの、ほら。
私、皆さんの舞台はよく見るんですが、台本とかって」
「ダメだ」
一言夫が冷たく言いました。
それには一瞬間が生まれ、それからユメちゃんが、「なんで?」と夫に尋ねました。
「稽古観に来てくれたんだからいいんじゃない?雨祢」
「妻にはチケットを渡してある。まだ公演前だし」
「あのさぁ」
「御波ちゃーん」
ふと、高崎さんの声がして。
入り口の方では二人と、打ち合わせをしていた団員が立っていました。
「俺ら打合せ済んだから帰るわ。皆さん、また来ますね。
あ、台本貰ってくわ。やっぱイメージ作りたい。ね、荒井さん」
軽井沢さんが団員に話しかければその人は、「はい、お願いします」と笑顔で言いました。
「いや、ちょっ、」
「百合枝ちゃんも帰ろうか、多分こっからはみんなの仕事だよ」
「あ、はい」
軽井沢さんの粋な計らいに、私は着いていくことにして、「みなさん、楽しみにしてます。ありがとうございました」と、挨拶をしてから高崎さんと軽井沢さんに着いていき、劇団を出ました。
「なんかさぁ。
御波ちゃん、大丈夫かなぁ」
階段を降りる音と高崎さんの声が少し響いて。
「大丈夫だろ」
「どっか度胸がないよねぇ。百合枝ちゃんには悪いけど」
「いえ…」
「気付いたよね百合枝ちゃん。あれ、多分」
「あぁ、はい」
「どんな気分?」
「え、」
どんな気分、かぁ。
「なんでしょう」
「そう。
まぁ、多分誰にも届かないよなぁ、あれ。いや、内容はきっと、届くけど。みんな届いたからああしてるんだし。ただ、一番届かなきゃならないやつが、蓋をしているからね」
「あぁ…」
それは暗に。
「私に言っていますか?」
純粋に聞いてみた。
しかし二人は黙り、それから灰皿までは黙っていましたが、火をつけ、ふと一息吐いてから、「あんたらに言ってる、かなぁ」と、軽井沢さんはぼんやりと言いました。
「あんたじゃ多分、なかなか難しいんだよ。俺にも、高崎にも」
「軽井沢さん、ちょっと言葉が過ぎてますよ」
「いやこれは百合枝ちゃんのせいじゃないでしょ。あいつが悪いんだよ」
「いやぁ、まぁ」
「やはり私は夫の」
「うん。迷走したんだね百合枝ちゃん。
しかし難しいの。愛とか、人類愛とか人生観って。気に病まないように言うけど、あんたにもあるやつで、だからお互いに押し付けになってるんだよ」
「それは」
「無理したら良いことないよ。それだけ。
あんた、多分昔から自分が見えてなくて、あいつもそうなんだよ。いいテーマだと思うが、入り込まない方がいいかもね、あんたじゃ」
「えっ…」
火を消して軽井沢さんは、先に帰路を歩き始めてしまいました。それに高崎さんは、「ちょっと待ってくださいよー」と言いつつ振り返り、
「でも、俺もそう思います。
誰にでも闇ってあって、踏み入るのは、侵食に近いんだなって、那由多ちゃんの台本見て感じました。
気をつけてお帰りください、百合枝ちゃん」
それにはやっぱり、「はぁ…」と返すしかなくて。
夫はアヤトくんに、
最早掴み掛かってしまい圧巻。そして。
「だからここに来たんだよ」静かな低い声で、あまりトーンを変えずに夫は言って、ふらっとアヤトくんの胸ぐらを離す。
挑戦的に見つめ返してアヤトくんは言った。
「そんなのは押し付けだわ、死ねいっぺん、」
なんという迫力。
そしてやはり浮かんだのは、那由多くんと、夫の、こんなやり取り、ありそうだなと感じました。
「セリフ違くね…」とトキくんは呟きました。しかし二人は続けます。
「構わないでやりたいけど、なら」
「それがうぜぇって言ってんだよ」
「そうか、結構です」
間があって。
「ぷはっ、」とアヤトくんはまた笑いだし、なんなら泣いてしまい、その場は「おぉ、」だの「そんな?」だの、また雰囲気は劇団に戻りました。
「すっげ、ま、マジで背筋凍ったよ団長!」
「お前なぁ、セリフ変えんなよ。軽く焦ったんですけど」
「いや雨祢、掴み掛かるのもどーなの?」
「いやそれあんたが言うのトキ。あんたもセリフ変えてたよね」
「え、うん。感情移入」
「じゃ俺のもよくない!?トキさん」
「うーん。
つうか雨祢意外。お前そんななんか男優感出るの?いつもやってよ」
「いや全然出てないから」
なるほど。
貴方の本心、少し見えた気がしました。
「でもアヤト、俺らそれでやろっか」
「うん!そうする!」
「待ってダメだって。なんでそんな反抗的なの君たち」
「え団長ーマジ台本読んでくれませんん?その方がぽいでしょ」
「いやお前なぁ、」
「奥さんは?」
「はい?」
またふいに私に話題がやってきて。アヤトくんは純粋なような、役柄のせいか反抗期のような目で私を見て意見を求めました。
夫は少し居心地が悪そうに私をチラ見しています。
「奥さん的にはどっちがよかったですか?」
「え、はぁ…」
思いを巡らせてみて。
行き着いたのは、那由多くんが出て行った日の、夫の背中で。拳を握りしめ立ち尽くした、あの情景が浮かびました。
「多分…、最後のが、一番、」
貴方の気持ちを再現できる。
貴方は実際は、あの子になんて掴み掛かれないような人でしょう。
それを聞いたアヤトくんは、少し優しい目をして、「ですよね」と笑った。
「見る目がある奥さんですね」
そう言って夫を見るアヤトくんから、夫は目を反らし、「好きにしろ、わかったよ」と言うのが、なんだか切なそうで。
そうだったんですね。
貴方、あまり。
「あのぅ…」
私の声にみんなは一斉に私を見つめました。
「台本、よかったら読ませて頂きませんか」
「えっ、」
驚きがどこかから聞こえた。恐らくはトキくんで。
「あの、ほら。
私、皆さんの舞台はよく見るんですが、台本とかって」
「ダメだ」
一言夫が冷たく言いました。
それには一瞬間が生まれ、それからユメちゃんが、「なんで?」と夫に尋ねました。
「稽古観に来てくれたんだからいいんじゃない?雨祢」
「妻にはチケットを渡してある。まだ公演前だし」
「あのさぁ」
「御波ちゃーん」
ふと、高崎さんの声がして。
入り口の方では二人と、打ち合わせをしていた団員が立っていました。
「俺ら打合せ済んだから帰るわ。皆さん、また来ますね。
あ、台本貰ってくわ。やっぱイメージ作りたい。ね、荒井さん」
軽井沢さんが団員に話しかければその人は、「はい、お願いします」と笑顔で言いました。
「いや、ちょっ、」
「百合枝ちゃんも帰ろうか、多分こっからはみんなの仕事だよ」
「あ、はい」
軽井沢さんの粋な計らいに、私は着いていくことにして、「みなさん、楽しみにしてます。ありがとうございました」と、挨拶をしてから高崎さんと軽井沢さんに着いていき、劇団を出ました。
「なんかさぁ。
御波ちゃん、大丈夫かなぁ」
階段を降りる音と高崎さんの声が少し響いて。
「大丈夫だろ」
「どっか度胸がないよねぇ。百合枝ちゃんには悪いけど」
「いえ…」
「気付いたよね百合枝ちゃん。あれ、多分」
「あぁ、はい」
「どんな気分?」
「え、」
どんな気分、かぁ。
「なんでしょう」
「そう。
まぁ、多分誰にも届かないよなぁ、あれ。いや、内容はきっと、届くけど。みんな届いたからああしてるんだし。ただ、一番届かなきゃならないやつが、蓋をしているからね」
「あぁ…」
それは暗に。
「私に言っていますか?」
純粋に聞いてみた。
しかし二人は黙り、それから灰皿までは黙っていましたが、火をつけ、ふと一息吐いてから、「あんたらに言ってる、かなぁ」と、軽井沢さんはぼんやりと言いました。
「あんたじゃ多分、なかなか難しいんだよ。俺にも、高崎にも」
「軽井沢さん、ちょっと言葉が過ぎてますよ」
「いやこれは百合枝ちゃんのせいじゃないでしょ。あいつが悪いんだよ」
「いやぁ、まぁ」
「やはり私は夫の」
「うん。迷走したんだね百合枝ちゃん。
しかし難しいの。愛とか、人類愛とか人生観って。気に病まないように言うけど、あんたにもあるやつで、だからお互いに押し付けになってるんだよ」
「それは」
「無理したら良いことないよ。それだけ。
あんた、多分昔から自分が見えてなくて、あいつもそうなんだよ。いいテーマだと思うが、入り込まない方がいいかもね、あんたじゃ」
「えっ…」
火を消して軽井沢さんは、先に帰路を歩き始めてしまいました。それに高崎さんは、「ちょっと待ってくださいよー」と言いつつ振り返り、
「でも、俺もそう思います。
誰にでも闇ってあって、踏み入るのは、侵食に近いんだなって、那由多ちゃんの台本見て感じました。
気をつけてお帰りください、百合枝ちゃん」
それにはやっぱり、「はぁ…」と返すしかなくて。
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