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空想が現実に歪むとき
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丸ビル、地下2階の24番は一番端の列の一番隅で、最早周辺ですら誰も車を停めないような、そんな場所だった。
明らかなる嫌がらせに「はぁ…どーするこれ」と上里は溜め息を吐いた。
「二列前の…二つくらいズレた場所で…ほら、丁度柱もあるし」
「嫌がらせでしかねぇよなこれ、女も女だし男も男だっ、んなわかりやすい場所でよくもまぁ…」
「世の中わかんねぇな、もうなんでもいいんだよきっと」
ホントに来るかなこれ、とぶつぶつ上里が言い出す頃にはジャストで15時だった。あと三時間俺達はどんだけ退屈を強いられるのか。
しかしまぁ慣れたことだしと、俺は俺で先ほど社長から拾ったネットニュースのURLやら、それに関してざっと仕事用ケータイで調べた。
そういえばと気付き、仕事用ケータイから自分のケータイに瑠璃のアドレスを移そうかと迷ったときに「あーそれね」と、暇を持て余し覗き込んだ上里が呟く。
「確かに仕事上は終わったもんね」
「…まぁ」
まだ使うけども。
と思い出して自動録音された音声データを整理しよう、と、イヤホンをすれば「いやそんな嫌がる?」と、やはり上里がうるさい。
「確かにイジりすぎたってごめんってば」
「…いや、全く関係ないけど、仕事…だよ多分」
それでもケータイを覗いてくるので最早仕方ないと、イヤホンを外し、俺は昨日の瑠璃との会話を上里に聞かせた。
「うわっ、」
上里がわざとらしく身震いしたように体をさするので「どうすべきか…」と問題を提示すれば「なんちゅーもんを……!」と逆ギレされてしまった。
「なんだよ聞きたかったんだろ」
「いや…、」
「どう突きつけてやろうかと…」
「早まるな早まるな!こ、…これは不味いでしょうよ…!」
「いざというときの保険だ。俺にはいまこれしかツキがないんだよ。ついでにそのあとの会話が…」
「いや、いいって、」
問答無用で『もしもし』と言おうとしていた瑠璃の、二回目の着信を再生してやった。
「まぁここは本当の保険なんだけど、それと同時に」
「…確かに、誘拐成立だね」
「だよなぁ。こういうのは警察か児相かと迷う案件でな…」
「マジレスすると、どちらかと言えば児相の方が…警察介入もパスできるしと思うけど、あそこは闇だって散々見てきたもんな俺達…」
「だよな」
再び何回か聞いていると「俺らなんでここにいるんだっけマジで…」と上里は脱力した。
「仕事だろ」
「いや、そうだけどさ…西浦ちゃん本当に深入りはよした方がいいよぅ…マジで」
「そうだな」
正直上の空だった、何事に対しても。
更に何回か流していれば「いや流石にもうやめてよ、頭おかしくなるわ」とクレームが入る。まぁ、気分がよくないのは重々わかる。
「まぁ言っても仕方ないとは思うけどさ、だからどうするってのは決められないんじゃないの?」
「そうだな、考え中だよ」
どうしてかなぁ。
『貴方はいまも、「ここにいる」と言ったのだし、私に気付いた、から』
そういや、学校でも凄惨だったんだっけか、あいつ。
「…好きだからすることなんだってさ」
「…はぁ?何が?」
俺が答えなければ「それがぁ?」と上里が言う。そのタイミングで15時半だった。
ぴったりに掛けても非常に不自然だし、ここは10分ほど置くのが良いんだろう。
「じゃぁ好きってなんだっつー話だよな。そんなもん、大して意味ねぇじゃんな?これじゃ」
「え、何西浦ちゃん、もしかしてプレミアムフライデーの憂鬱?」
「プレミアムフライデーが複雑」
「上手いこと言えなんて言ってねぇけど」
「別に上手くねぇけど。愛ってなんだろなっつー話だよ」
「…ヤバいよ、詩を詠むようになったら人間大体病んでるんだよ、西浦ちゃん。ちょっとどうしたの一体。西浦ちゃん陰キャタイプだよね」
「なんだよその日本語。聞いたことねぇよ」
陰気なキャラクターだよ、と言う上里になるほどなと思った時点で残り8分。面倒だなと取り敢えずタバコに火を着けた。
──恋愛は、チャンスではないと思う。私はそれを意志だと思う。──
女4人も殺しておいて自分だけ生き残ったくせになんだっつーんだかあの陰気作家。
思い出したあれは詩人なんかじゃねぇ、太宰じゃねぇか。
だが大差ないな俺も。いつでもそんなものは仕方がない、何があっても手離すときは手離すもんだ、更新、俺。詩を詠むようになったら本当に人間大体病んでいるのかもしれないと、薄煙に自然と、昔の女の歪んだ顔すら浮かんできた。
この子は貴方の子じゃないと思うの。だって貴方はその頃……。
言いにくそうに言われたそれに、そんな綺麗事なんてと、引き留めることをしなかった。
その前に、いや、その瞬間に全部、劣等感でプツンと切れてしまっただなんて、互いに勝手すぎるじゃないか。俺がその頃ぶっ潰れていたからだなんて、のしつけなのかなんなのか、そのくせ『ごめんな』だなんて、俺も頭は大分おかしかった、なんせ病んでいた。
タバコが灰になり、調べた学校に電話を掛ける。
明らかなる嫌がらせに「はぁ…どーするこれ」と上里は溜め息を吐いた。
「二列前の…二つくらいズレた場所で…ほら、丁度柱もあるし」
「嫌がらせでしかねぇよなこれ、女も女だし男も男だっ、んなわかりやすい場所でよくもまぁ…」
「世の中わかんねぇな、もうなんでもいいんだよきっと」
ホントに来るかなこれ、とぶつぶつ上里が言い出す頃にはジャストで15時だった。あと三時間俺達はどんだけ退屈を強いられるのか。
しかしまぁ慣れたことだしと、俺は俺で先ほど社長から拾ったネットニュースのURLやら、それに関してざっと仕事用ケータイで調べた。
そういえばと気付き、仕事用ケータイから自分のケータイに瑠璃のアドレスを移そうかと迷ったときに「あーそれね」と、暇を持て余し覗き込んだ上里が呟く。
「確かに仕事上は終わったもんね」
「…まぁ」
まだ使うけども。
と思い出して自動録音された音声データを整理しよう、と、イヤホンをすれば「いやそんな嫌がる?」と、やはり上里がうるさい。
「確かにイジりすぎたってごめんってば」
「…いや、全く関係ないけど、仕事…だよ多分」
それでもケータイを覗いてくるので最早仕方ないと、イヤホンを外し、俺は昨日の瑠璃との会話を上里に聞かせた。
「うわっ、」
上里がわざとらしく身震いしたように体をさするので「どうすべきか…」と問題を提示すれば「なんちゅーもんを……!」と逆ギレされてしまった。
「なんだよ聞きたかったんだろ」
「いや…、」
「どう突きつけてやろうかと…」
「早まるな早まるな!こ、…これは不味いでしょうよ…!」
「いざというときの保険だ。俺にはいまこれしかツキがないんだよ。ついでにそのあとの会話が…」
「いや、いいって、」
問答無用で『もしもし』と言おうとしていた瑠璃の、二回目の着信を再生してやった。
「まぁここは本当の保険なんだけど、それと同時に」
「…確かに、誘拐成立だね」
「だよなぁ。こういうのは警察か児相かと迷う案件でな…」
「マジレスすると、どちらかと言えば児相の方が…警察介入もパスできるしと思うけど、あそこは闇だって散々見てきたもんな俺達…」
「だよな」
再び何回か聞いていると「俺らなんでここにいるんだっけマジで…」と上里は脱力した。
「仕事だろ」
「いや、そうだけどさ…西浦ちゃん本当に深入りはよした方がいいよぅ…マジで」
「そうだな」
正直上の空だった、何事に対しても。
更に何回か流していれば「いや流石にもうやめてよ、頭おかしくなるわ」とクレームが入る。まぁ、気分がよくないのは重々わかる。
「まぁ言っても仕方ないとは思うけどさ、だからどうするってのは決められないんじゃないの?」
「そうだな、考え中だよ」
どうしてかなぁ。
『貴方はいまも、「ここにいる」と言ったのだし、私に気付いた、から』
そういや、学校でも凄惨だったんだっけか、あいつ。
「…好きだからすることなんだってさ」
「…はぁ?何が?」
俺が答えなければ「それがぁ?」と上里が言う。そのタイミングで15時半だった。
ぴったりに掛けても非常に不自然だし、ここは10分ほど置くのが良いんだろう。
「じゃぁ好きってなんだっつー話だよな。そんなもん、大して意味ねぇじゃんな?これじゃ」
「え、何西浦ちゃん、もしかしてプレミアムフライデーの憂鬱?」
「プレミアムフライデーが複雑」
「上手いこと言えなんて言ってねぇけど」
「別に上手くねぇけど。愛ってなんだろなっつー話だよ」
「…ヤバいよ、詩を詠むようになったら人間大体病んでるんだよ、西浦ちゃん。ちょっとどうしたの一体。西浦ちゃん陰キャタイプだよね」
「なんだよその日本語。聞いたことねぇよ」
陰気なキャラクターだよ、と言う上里になるほどなと思った時点で残り8分。面倒だなと取り敢えずタバコに火を着けた。
──恋愛は、チャンスではないと思う。私はそれを意志だと思う。──
女4人も殺しておいて自分だけ生き残ったくせになんだっつーんだかあの陰気作家。
思い出したあれは詩人なんかじゃねぇ、太宰じゃねぇか。
だが大差ないな俺も。いつでもそんなものは仕方がない、何があっても手離すときは手離すもんだ、更新、俺。詩を詠むようになったら本当に人間大体病んでいるのかもしれないと、薄煙に自然と、昔の女の歪んだ顔すら浮かんできた。
この子は貴方の子じゃないと思うの。だって貴方はその頃……。
言いにくそうに言われたそれに、そんな綺麗事なんてと、引き留めることをしなかった。
その前に、いや、その瞬間に全部、劣等感でプツンと切れてしまっただなんて、互いに勝手すぎるじゃないか。俺がその頃ぶっ潰れていたからだなんて、のしつけなのかなんなのか、そのくせ『ごめんな』だなんて、俺も頭は大分おかしかった、なんせ病んでいた。
タバコが灰になり、調べた学校に電話を掛ける。
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