ポラリスの箱舟

二色燕𠀋

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Film 6

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 雨川はそのまま喜多の研究室に向かったのだが「やぁ真冬ちゃん」と、喜多は待っていましたと言わんばかりににこにこしていた。
 こちらは非常に暇そうで、バタバタもしていない。自然と椅子を促される。

 問診のように喜多の前に雨川が座ると、

「ちゃんと来てくれたね問診」

だなんて言うのだから。

「いや、喜多さんに少しお話ししてから向かおうかと。お隣ですよね南沢さん」
「うん、そうだけど今日から僕が問診することになった。おめでとう。式とか挙げるの?」

 色々先手を打たれるのはいつものことだが若干の誤発信もありそうだ。

「は?なんで?
 式ってなんですか数式ですか」
「ははは~。恥ずかしいんだってさ南沢さん。真冬ちゃんも数式なんて挙げるという言い方しないよ恥ずかしいなぁ」
「あの変態は一体なんて言ったんですか?」
「いやぁ、「恥ずかしいとか童貞じゃないんだから、却って嫌じゃないんですか?」と僕でも流石に突っ込んだんだけどあの人ダメみたい」
「いやそうじゃないんですあの童貞は一回置いといてその…俺となんだって言ってんですか」
「えぇ?結婚を前提に同棲を始めるって」
「はあ?」
「うん、僕も「早くないですかそれ」って」
「じゃなくて!いや、まだそういう感じじゃないですよ」
「え?」

 ズレかけた眼鏡を上げた喜多は「何言ってるかよくわからないんだけど」と至極冷静に返答してきた。

「だって最早秒でしょ秒。やっと自覚してくれたかぁと僕は思ったのに」
「いやぁ、だってまだ俺はイマイチ」
「男見せたんじゃないのあの人」
「う~ん…」
「試しに今「やめてー!変態ー!」とか叫んでごらんよあの人男見せてくれるかもよ」
「えぇ~…、もうなんでみんなして人権無視なのぉ…」
「ほらほら」

 と言いながら意地悪そうな笑みで喜多は胸辺りをさらっと触ってくるので「うぉお突然っ!」と全く色気もない雄叫びを上げてしまって更に調子に乗らせたらしい。
 「ほらほら脱いで」と擽ってこられてつい、「いっやぁは、は!いやめてぇ擽ったいぃ~~!」だなんて言ってしまえば「喜多さん!」と、ホントに隣から南沢は飛んできた。

 じゃれてるようにしか見えない喜多と雨川に「なっ、」と、南沢は複雑な表情を浮かべた。

「は~い旦那さん3秒で到着~」
「は?何?」
「助けて状況スゴい死にたい」
「デジャブだねぇ~」
「…ちょっと複雑なんですけど何やってるんすか」
「旦那が男見せるかの賭けですよ南沢さん」

 年下上司に向けて南沢は「はぁ!?」と理性的でない。当て馬にされた気がする雨川は悔しいやらもうよくわからないけど人様に顔向けしたくねぇ、と顔を上げられずにいた。

「真冬ちゃんはこれから問診サボれないね。南沢さんもむさ苦しい童貞みたいなこと言ってないでちゃんとしなきゃ」
「え、いやあだって」
「こんなの鶫ちゃんに言ったらヒステリック起こすよ」
「あんた言う気満々すね流石お喋りクソ眼鏡」
「…あぁもう!俺がもう言っちゃったよ耐えきれなくてっ!」

 雨川の一言に「なにっ!?」と南沢が動揺する。あの野郎には絶対に知られたくなかった、俺が情けなく泣いちゃったとかそんなんを。

「僕より早いとかスゴいね真冬ちゃん」
「なんなら鶫さん、喜多さんから逃げたそうでしたよっ!」
「あーヒステリックだろうなぁ。近付かないでおこっと」
「真冬!待てよあの変態に何を話しちゃったの!」
「お前もな南沢ぁああ!」

 酷く混沌としているなぁとのほほんと呟いて苦笑いするのは喜多だった。

「まーまー、一歩前進ですよね全く。それは素直に同僚として喜ばしいですよ。さて真冬ちゃん、と南沢さん。ここ貸すんで手始めに問診でもどうぞ」

 キラッ。
 とでも擬音がぶち撒かれそうな程の爽やかで後味もあっさりな笑顔で喜多は当然のように研究室から出て行ってしまった。
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