艷夜

二色燕𠀋

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「何しに来たんやあんさん」

 出向いた先でえらく、ひきつった顔をされた。

「美鶴兄さんに、ちょいと聞きたいことがあったんです」
「ウチに聞きたいことなんて覚えがないんやけど」
「あの、ちょっとした鬱憤なんです」

 「ははぁ、鬱憤ねぇ…」と美鶴が言うのも聞かず「何でもしますから」と返すのだから堪ったものではない、半ば苦笑で「いやええわ」と美鶴は翡翠をはね除ける。

「あんさん何を搾り取りに来た」
「いや、藤嶋には言わない…言えないことで」
「何を搾り取りに来たんやホンマに」
「教えて下さい」
「何をや」
「うーんと…」

 焦れったい。
 「早うしてぇな、何、」と美鶴が言えば「あい、」と、美鶴の股に潜ろうとする翡翠に「待て待て待てお前、」と美鶴は顔をガシッと掴み避けるのだが、本当に純粋そうな顔で翡翠が「え?」と言うのだから流石傾城、不便なもんだと、

「溜まってないから、ホンマに溜まってないから、」

 金も種もな。
 そう言うのだけれど「お金なら言いませんから」と言う的外れな少年に「待てぇ、違うねん、いやそうやけどこのドアホ!」と叱りつける。

「純粋かお前は!いやもう不純やわ全くこん、アホタレ!」
「あぁ、それくらいのどつきがええわぁ、」
「なんやお前変態なん」
「兄さんは藤嶋と寝たことあります?」
「はぁ!?」

 見上げる少年の顔は確かに困っている。
 これは確かに毒されそうだと「なんや…まずは茶でも淹れろて…」と、犯されはぐった美鶴はその場に座り、「あい、」と返事をした少年は茶の準備をする。

「…しょうもないなぁ、お前」
「…はぁ、そうですよね」
「なんやねんお前は。少々軽くないか?せやからアレが血迷うねん」
「ええっと…」

 どうやら余程出回っている話らしい。

 「ほうじ茶ですか?」と聞いてくる翡翠に「何でもええわ、すぐやすぐ」と命じると、翡翠は緑茶をそのまま二杯ほど茶漉しに入れ囲炉裏に火を掛けた。

 どのようなお手前かと、少し、この少年に茶を仕込んだ今は亡き男娼を、美鶴は思い出す。あの男娼も人気絶頂だったな、節操には煩かったはずだけどと、「で?」と話を振ってみた。

 「いやぁ、」とやんわり言うのが京者臭く品もあり確かに面も良いのだが、やはり少しは幼さがある。

「忘八となんかあったんか」
「いや、忘八が血迷っとる聞きまして」
「…まぁ最近持ちきりやね、あの一件から」
「先ほど青鵐兄さんから聞きまして…」

 しかし何か思案顔で少年は急須を回している。どうにも、何を聞いたら良いかわからないといった態度で、「どうぞ」と少年は茶を出してくる。
 所作も綺麗だがお前が一番血迷ってないかと言うのは呑み込んでやった。

 香りも立つし流石仕込んだ者が違う。何より茶にうるさい店主が手放さないわけだと、「結構なお手前で」と美鶴は返す。

「茶は上等らしいな、翡翠」
「…まぁ、はい」
「藤嶋とウチが寝たかどうかに関係あるんか」
「いや、」
「茶も顔も上等らしいな。それがなんや」
「うーんと、」
「あんさんは一体何が知りたいん?」
「それは…」

 茶を濁す少年の物言い。
 どうしてこうも濁り茶でもないのにはっきりしないものかと、だが明白なように感じて、「寝たで」と返して茶を啜れば、少年は不安そうな顔で眺めてくる。
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