紫陽花

二色燕𠀋

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ホワイトチョコレート

7

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 ふと扉が空いた音がして振り向くと、寝起き顔の小夜がいた。

「うわぁ、みっちゃん」
「おぅ、おはよう?」
「どうしたの一人で」
「ちょっと考え事」
「そっか…」

 そう言って小夜は冷蔵庫からリンゴジュースを取り出してコップに注いだ。コップ二つを持って一つは俺に渡してくれた。

「喉乾いちゃった。お風呂、マリちゃん?」
「うん」
「マリちゃんのあとお風呂使ってもいい?」
「ええよ」

 リンゴジュースを飲み干して流し台に置く。また飲むんだろう。
 小夜は俺の横に来て座り顔をじっと見てくる。居心地が悪いなぁ。

「喧嘩でもしたの?」
「まぁそんなとこ」
「みっちゃん」
「ん?」

 ふいに頭に手をぽんぽんと置かれた。
 これ、俺の真似だよな。

「元気出せ!おやすみなさい」

 そう言って立ち上がり、ドアに手を掛けた。そんな背中に「おやすみ」と返せば、一瞬振り返って微笑み、ドアが閉められた。

 俺はいつの間にか一人じゃない。

 だけどこうやってると向き合うのは一人だ。自分で悩んで自分で考える。当たり前のことだけどみんなそれをやっている。モヤモヤする内容は何故か人のことだったりすることもあって。

 考えても考えても、諸悪の根元に辿り着かない。何がこんなにモヤモヤするんだろう。

 人と関わるって面倒だけど、こんなこと、一人じゃないと考えられない。人といないと見えてこない。

 日本酒を一口飲んでふと、この日本酒なんだっけなと思うが、それも一瞬。取り敢えずスポドリなかったっけなと冷蔵庫を開けたとき、「何してんの?」と真里の声がして焦って振り返った。何故かパンツ一丁。寒くないのかな。

「寒くねぇの?」
「熱いくらいだよ」
「あっそう…」

 スポドリを渡してやると、「さんきゅ」と言って受け取った。美味そうにごくごく飲みやがる。それ、ホントは俺が飲もうと思ったんだけど…。
 まぁいいやとあきらめて入ってた日本酒一本を手に再び座る。少し注いで一気に飲み干す。体の芯が熱くなった。

「酔って寝ないでね」
「ん。風呂は入る」
「それ、入っていいもんなの?」
「いーの」

 でもちょっと眠くなってきたな。リンゴジュース飲もう。

「まったく。俺が悪いヤツなら今のあんたに貞操はないよ?」
「真里は偉い子やから」
「煽ってんの?俺の身にもなれよ?」

 ありゃ、言葉が雑になってきてるな、真里。

「俺の身にもなって欲しい…」
「やだよ。何回胃に穴開くと思ってんの」
「お前こそなぁ!」

 あれ、止まんないぞ言葉達。

「お前こそ…」

 なんでそんなに我慢強いんだよ。なんて俺には言えない。

「あーあ、めんどくせぇな歳上。
 悪かったよ。今日は俺が悪い。ごめんね」

 こっちだってめんどくせぇんだよ。
 だけどお前にそれを言ったらどうなるかわかってんだよ。

「お互いさ」

 なのにそんな気持ちは無視してさ。

「長く居すぎたのかな」

 そんなこと言われたら…。

「こんな喧嘩前もしたね。小夜が帰ってくる前。あれからあんま変わってないね」
「いいよ…」

 俺は変わることなんて望んでないんだよ。
 でもいつか。

「ぶっ壊れんのかな…」
「…かもしれないね」
「俺の器は変わってねぇな」

 昔からずっと。

「…今日は…良い夢見れるといいね」

 なんだか居たたまれなくなって取り敢えずベランダでタバコを吸うことにした。一本取り出して吸ってみたが、重くて噎せた。

 あの音は雨だったんだ。けどいいや。ちょっと濡れてもいいから雨に当たってよう。

 一人の方が気楽なのに。
 俺はどうして何も手放せなくて何かを得ようとするんだろう。わがままで傲慢で、それになんでまわりを巻き込もうとするんだろう。

 何かを得ようと?
 俺は今何を得ようとしてるんだろう、けど何か欲しい。何だか分かってるような気がする。

 もう止めよう、今日の思考はまともじゃない。

 二本目に火を点けたとき、右手が震えていて。
 多分寒い。
 そう言えば結婚指輪って、何で左手の薬指なんだろう。

 大粒の雨に当たってタバコの火が消えてしまった。まぁいいや、戻ろう。

 窓を開けると真里が換気扇の下でタバコを吸っていた。
 真里は驚いたように俺を見て、目を反らした。なんだろう。

「また…風邪引くよ?小夜が風呂終わったってさ。早く入って寝なさい!」
「はーい」

 そんなに濡れてるかな。そう思って髪を触れば確かに濡れていた。さっさと風呂入って寝よう。

「真里、」
「はいっ。なんでしょう?」

 ん?
 なんでそんなたどたどしいんだろう。

「…おやすみ」
「…あ、うん。おやすみ」

 リビングのドアを閉めて風呂場に向かった。

 今日は疲れた。明日休みでよかったな。
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