紫陽花

二色燕𠀋

文字の大きさ
55 / 90
Bitter&Sweet

4

しおりを挟む
「光也ホントにお前はなんなのさ」

 先程とは打って変わり、おっさんがおどけてそう言い、レシートらしきものを渡してきた。見たらレシート、裏には電話番号とメアドと名前が書かれていた。

「みっちゃん、ホント大変だね」
「これ、あの人?」
「それ以外にいないだろ」
「マジか、すげぇな」

 迷惑極まりない。

「お前気を付けろよマジ。こいつかなりくせ者だよ」

 やり場がなくなったその紙切れをポケットに入れた。後で処分しよう。

「逆ナンですか?」
「そーなの。こいつモテるからねぇ…困っちゃうね」

 居心地悪いな。
 しかしこれはおっさん、何かを企んでいそうだ。

「光也くん優しいから。けど大変ね」

 心配そうに雪子さんは言ってくれた。

「変な人だったね」
「お客さんにそんなこと言っちゃダメだよ、小夜」
「でもさぁ~心配になるよ?」
「大丈夫だって」
「こーやって自覚ないんですよ!ちょっと説教してくださいよ!」
「小夜ちゃん、優しいわね」
「小夜ちゃん、こいつはね、説教しても腹ぶっ刺されたりするから」

 うぉぉ、それは痛い過去話じゃないか。

「え!?」

 「あのですね…」と二人して話そうとしているのでそれを制した。それは黒歴史だ。てか女の人にして良い話じゃない。

 おっさんの足を踏みつける。「痛いから!」とか言ってる。もう知らん。ちょっとムカついたのでその場を去り、キッチンへ。 

「あ、いじけてるね」

 真里がにっこり笑い、ちょっと冷めた焼き鳥の皮をつまんで口に入れてきた。美味い。

「だってさ」
「雪子さん来た?」
「え?うん。あそうだ。もつ煮」
「はいよ」

 真里はすでに煮てあったもつ煮に火を掛け、少し煮立ってきたところで器に盛った。
 ついでに俺にも少し盛ってくれて、食べる。

 やっぱ真里の味付け美味いな。

「美味い」
「どうも」

 さっそくもつ煮を持っていく。雪子さんは一口食べて、「美味しい」と言ってから七味を掛けていた。

「あ、七味わかるわ」
「でしょ~」
「俺実はさ、もつ煮食えないんだよね」
「えっ」
「え、なんでメニューに入れたん?」
「真里のが美味いって前のバイト連中に聞いて味見したらさ、真里のは食えるんだよー」
「私食べたことない!」
「あー、ちょい待ってな」

 俺はキッチンに行き、小皿にもつ煮を盛った。「どしたの?」とか言われたので、「小夜が真里のもつ煮食いたいってさ」と答え、小夜にも出してやった。

 一口大根から食べて、「んんっ!」とか言って食べていた。

「美味しい!さすがマリちゃん!」
「なー。真里やっぱ料理美味いよな」
「嫌いな人も食えるってのが良いよな」
「これ家でも食べたい!」
「休みの日にでも作らせるか」

 何気ない会話をしていると、「あら?」と雪子さんは疑問顔。そうか、雪子さんは知らないか。

「俺ら三人同居してるんですよ」
「あら、だから仲良しなのね」

 だからというわけではないけど。まぁ仲は良いだろうな。

「良いわね、そういうの」
「まぁ…楽しいですよ。たまにスッゲー喧嘩するけど」
「喧嘩するほど仲が良いて言うじゃない」
「そうですね」

 喧嘩するとわりと洒落にならないこともあるが。この関係、俺もわりと好きだ。

 ただふと思う。いつまでこれは続くんだろうかと。いつかはきっと、みんなそれぞれの道を行くんだろう。近い未来で可能性があるのは小夜の卒業。それまでに俺は少しは今より…。

「みっちゃん?」
「ん?」

 考え事した。

「何か考え事した?」
「いや、別に」

 お前にも良い人ができてさ、真里にも…。
 どうなんだろうな。
 少し先の未来を考えて、ちょっと寂しくなったり新鮮な気持ちになったりした。

 それから閉店時間まで雪子さんはいた。

 いつも通り、雪子さんを家まで送って行くことにした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

処理中です...