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Bitter&Sweet
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ランチ終わりの昼休み、俺は『林檎の木』に一人で行く。おっさんにも行くか聞いたが、「俺はいいや」とか言ってパソコンに向かっていた。
自分のことなのになんなんだまったく。
店の前まで行くとちょうど店先の花に水をあげていたところで、すぐに気付いてくれた。店を閉めるところだったのだろうか。
「あら、いらっしゃい…」
「急にすみません。もしかして、閉めるところでした?」
「まぁ、そろそろお昼にしようかなーって」
「丁度いいや。どっか行きません?俺もまだなんです」
「え…?」
「あ、いや、花買いに来たんですけどうん、順番間違えました」
なんだ俺は童貞男子か。
雪子さんは楽しそうに笑って、「うん、喜んで」と言ってくれた。恥ずかしいけど嬉しい。
「花は、どんな?」
「あー、おっさんがね、一人暮らしなんですよ。寂しがってるから、何か育てたいって」
「観葉植物みたいな?」
「そうですね。あの人あんま家にいないからなんか強そうなやつ」
「日当たりとかもあるけど…」
「あー…日当たりは良い方ですね。10階に住んでます」
「どこに置くとか言ってた?」
「それが全然。テキトーに買ってきてって…」
「まぁ…まずはご飯に行きましょっか」
確かにそれがいいかも。
「どこか、おすすめある?」
「うーん…雪子さんは?」
「そうねぇ…今日はすぐそこのカレーの気分かも」
「いいですね」
「じゃぁ決まり。ちょっと待っててね」
そう言って看板を下げ始めたので俺はプランターを片付けるのを手伝った。
「あら、いいのよ!」
「大丈夫、これくらい」
苗がたくさん置かれたプラスチックのトレンチみたいなヤツも店の中にしまった。
店の奥は暖簾があって、どうなっているのかわからなかった。
電気を消して店を出て鍵を閉める。カレー屋はすぐ近くにあった。外見がレンガの、レトロでおしゃれなところだった。
ランチピーク過ぎだからかお客さんは一人、新聞を広げた中年の男性しかいない。雰囲気は喫茶店に近い店だ。
「いらっしゃいませ」
特に愛想があるわけでもないおばさんが素っ気なく言った。雪子さんは、窓際のテーブル席に座る。
カウンターの席も空いているがここには座らないのか。
俺たちが席につくと、黙っておばさんは水を置いた。
なんとなくこの素っ気ない感じ、嫌いじゃないぞ。
けして愛想が良い訳じゃない、なんというか古き名店にありがちな緩さ。
雪子さんは俺にメニューを渡してくれた。見てみると、うどんかそばかライス、あと付け合わせくらいしか乗っていない。
「ここね、少し変わってるって言うか…まぁ食べてみたら分かるんだけど、なんて言うのかな、スープカレーに近いの」
「へぇ…」
「その日によって入っている野菜も違うみたい。自家栽培してるみたいでね。野菜によって味付けも違うの」
それはおもしろい。
「私ライスにするんだけど、光也くんは?」
「俺もそれでいいです」
雪子さんがおばさんを呼んで注文してくれた。
「でさ、観葉植物なんだけどさ」
「あぁ、はい」
「サボテンとかどうかな?あまり水もあげなくて済むし」
「あれってどれくらい水あげるんですか?」
「春と秋は成長期だから一日一回、水受けに水が溜まるくらいあげて、夏は直射日光を避けて月一回くらい水をあげる。冬も水は月に一回。
そうすると花が咲いたりするのよ」
「へぇ~!なにそれ面白い」
真里とかには育てられなそうだ。「これホントに大丈夫?」とか言って水あげまくりそうだな。小夜も世話好きだから向かなそうだ。
「光也くんには退屈そうね」
「うーん、確かに、あげない時期のあとずーっと忘れちゃいそうな気もする」
「オーナーさんなんかマメそうだし、よくない?」
「うん、いいかも。然り気無く部屋にある感じとか多分気に入る。
そう言えばチューリップなんですけど…」
雪子さんに小夜とチューリップのツーショットを見せた。
「あら、可愛い!上手に育てたね」
「あいつこーゆーのちっちゃい頃から好きでね。毎日ちゃんと水やってますよ。店のチューリップも小夜が担当してる」
「そうなんだ。よかった」
自分のことなのになんなんだまったく。
店の前まで行くとちょうど店先の花に水をあげていたところで、すぐに気付いてくれた。店を閉めるところだったのだろうか。
「あら、いらっしゃい…」
「急にすみません。もしかして、閉めるところでした?」
「まぁ、そろそろお昼にしようかなーって」
「丁度いいや。どっか行きません?俺もまだなんです」
「え…?」
「あ、いや、花買いに来たんですけどうん、順番間違えました」
なんだ俺は童貞男子か。
雪子さんは楽しそうに笑って、「うん、喜んで」と言ってくれた。恥ずかしいけど嬉しい。
「花は、どんな?」
「あー、おっさんがね、一人暮らしなんですよ。寂しがってるから、何か育てたいって」
「観葉植物みたいな?」
「そうですね。あの人あんま家にいないからなんか強そうなやつ」
「日当たりとかもあるけど…」
「あー…日当たりは良い方ですね。10階に住んでます」
「どこに置くとか言ってた?」
「それが全然。テキトーに買ってきてって…」
「まぁ…まずはご飯に行きましょっか」
確かにそれがいいかも。
「どこか、おすすめある?」
「うーん…雪子さんは?」
「そうねぇ…今日はすぐそこのカレーの気分かも」
「いいですね」
「じゃぁ決まり。ちょっと待っててね」
そう言って看板を下げ始めたので俺はプランターを片付けるのを手伝った。
「あら、いいのよ!」
「大丈夫、これくらい」
苗がたくさん置かれたプラスチックのトレンチみたいなヤツも店の中にしまった。
店の奥は暖簾があって、どうなっているのかわからなかった。
電気を消して店を出て鍵を閉める。カレー屋はすぐ近くにあった。外見がレンガの、レトロでおしゃれなところだった。
ランチピーク過ぎだからかお客さんは一人、新聞を広げた中年の男性しかいない。雰囲気は喫茶店に近い店だ。
「いらっしゃいませ」
特に愛想があるわけでもないおばさんが素っ気なく言った。雪子さんは、窓際のテーブル席に座る。
カウンターの席も空いているがここには座らないのか。
俺たちが席につくと、黙っておばさんは水を置いた。
なんとなくこの素っ気ない感じ、嫌いじゃないぞ。
けして愛想が良い訳じゃない、なんというか古き名店にありがちな緩さ。
雪子さんは俺にメニューを渡してくれた。見てみると、うどんかそばかライス、あと付け合わせくらいしか乗っていない。
「ここね、少し変わってるって言うか…まぁ食べてみたら分かるんだけど、なんて言うのかな、スープカレーに近いの」
「へぇ…」
「その日によって入っている野菜も違うみたい。自家栽培してるみたいでね。野菜によって味付けも違うの」
それはおもしろい。
「私ライスにするんだけど、光也くんは?」
「俺もそれでいいです」
雪子さんがおばさんを呼んで注文してくれた。
「でさ、観葉植物なんだけどさ」
「あぁ、はい」
「サボテンとかどうかな?あまり水もあげなくて済むし」
「あれってどれくらい水あげるんですか?」
「春と秋は成長期だから一日一回、水受けに水が溜まるくらいあげて、夏は直射日光を避けて月一回くらい水をあげる。冬も水は月に一回。
そうすると花が咲いたりするのよ」
「へぇ~!なにそれ面白い」
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「光也くんには退屈そうね」
「うーん、確かに、あげない時期のあとずーっと忘れちゃいそうな気もする」
「オーナーさんなんかマメそうだし、よくない?」
「うん、いいかも。然り気無く部屋にある感じとか多分気に入る。
そう言えばチューリップなんですけど…」
雪子さんに小夜とチューリップのツーショットを見せた。
「あら、可愛い!上手に育てたね」
「あいつこーゆーのちっちゃい頃から好きでね。毎日ちゃんと水やってますよ。店のチューリップも小夜が担当してる」
「そうなんだ。よかった」
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