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Bitter&Sweet
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その日は比較的に暇だった。
珍しく雪子さんはいつもより早めの21時くらいに来て、いつも通り30分ほどで帰って行った。
時間が余ったのでその日は後半にお料理教室。出来はこの前よりよく、この前よりもあっさり出来た。
帰り、珍しく車の中でぐっすり寝てしまった。然り気無く気を利かせてくれたのか、小夜が助手席に乗り、俺が後部座に乗った。よほど疲れて見えたのだろうか。実際に疲れていた。
途中まで小夜が、サボテン私も欲しいなぁなんて話をしていたのだが。真里の、「光也さん、着いたよ」という声で起きた。
「んー…」
どうやらドアに寄りかっていたらしい。右側のドアを開け真里が覗いてる。起きたのを確認すると閉め、こっちのドアも開けてくれた。
小夜はどうやら先に家に入ったようだ。
「大丈夫?」
「うん…」
最近行った健康診断で俺が低血圧なのを確認したせいか真里は、寝起きに関してもの凄く気を遣ってくれる。今だってわざわざ手なんか貸してくれている。
その手を借りて車を降りた。確かに寝起きは眩暈がする。
手を借りたときに少しよろけた。力が強くてその時は気付かなかったがすぐに抱きつかれたとわかった。
「え?大丈夫?」
「ん?」
「いや、なんか胸に飛び込まれてビックリしてるんだけど…」
マジか、俺から行ったのか。
「おぉ、ごめん」
だがわりと腕の力が強い。
「ちょっとよろけた」
「うん…」
うわ、このパターンまたか。
「真里さん?」
「うんごめん、勃っ」
取り敢えず殴る。
「二人ともどうし…」
「あっ」
呼びに来た小夜が唖然としてるのがなんとなくわかる。
「子供は早く帰りなさい」
「いや真里離しなさい!」
本気で背中をぶん殴って離れ、逃げるように小夜の元に行くが、小夜はなんか俯いてしまった。
「バレちゃったね」
「うるさい真里」
「ごめんねなんか邪魔しちゃった」
「違うからね」
でもなんか小夜にやけてる。これはおふざけだろうな。
おかげで覚醒した。小夜はそのまま風呂場へ、俺はリビングで冷蔵庫を開けて何を飲もうか吟味しているところでようやく真里は帰ってきた。
「そんな毎日飲んでるとアル中になっちゃうよ」
「わりともうアル中だよ」
「あー、結婚する女が泣くねぇ」
「了承してもらうしかないな」
そう言ってみたはいいがやはりちょっと気に掛かり、いつもより日本酒を気持ち薄めにしてみた。
だがこれはタバコと同じ原理、薄くすると物足りなくて余計飲みたくなるようだ。
もう一杯飲もうか迷ったが、やっぱりやめた。
「偉いじゃん」
「うるさいなぁ…」
「小夜が風呂空いたってよ」
「うん、わかった」
なんだか今日の真里はやはり機嫌がいい。なんだろう、良いことあったのかな。
「なぁ真里」
「ん?」
「なんか良いことあったん?」
「え?」
「いや、やけに機嫌良い気がするから」
「んー?」
やっぱにこにこ、いや、にやにやしやがって。
「なんだよ」
取り敢えず気持ち悪いから頬をつねると、「痛いから!」と言いつつやっぱりどこか嬉しそうで。
「あんたの方が嬉しそうじゃねぇか」
「え?」
「ま、理由はわかってますよーだ。次のデートくらいまさか入れたんだろうね?」
あー、それか!
「これが入れてないんだな」
「はぁ!?」
「まぁまぁ、俺にだって考えくらいあるんだよ」
「…そか」
「でもさぁ…」
「ん?」
「もしもさー、うまくいったら俺らどうする?」
「そんとき一番ベストな方法でやってこうよ」
「うん…。
もしうまくいかなかったらさ」
「うん」
「そんときは慰めてくれんの?」
「うん。てか付き合ってあげるよ」
とかふざけて言いやがるから一発叩こうと思ったけど、珍しく真里は何を考えてるかわからないような微妙な笑みを浮かべているからやめておいた。
「そんなときが一番あんたを落とすにいいもんね。
いろんな意味で慰めてあげるよ」
それは流石に叩いた。
「調子に乗りすぎ」
「なんだよー。
でも大丈夫。一人にはしないから」
何故だ。
こんなふざけてて下ネタぶち込んできたりしてるくせに、妙に安心するんだよなぁ。
多分真里は、いつでもブレないからだろうな。俺らもし同性じゃなかったら多分今ごろ、二人で老後の積立てを始めてるんだろう。
「まだ日は浅いけど、俺多分…」
「何?」
多分この、雪子さんに対するもどかしさは、真里が普段俺に感じてるもどかしさと同じなんじゃないかな。
「いや、なんでもない」
それを口にする度胸はない。
「…ほら、早く風呂入ってきなよ」
「はぁい」
永遠。
そんな漠然とした言葉を作った人間という生き物は質が悪い。なんなんだ永遠って。
こんなに解放感のない言葉にあの人は縛られてる。永遠の恋。だけど、今は亡き想い人がした恋なんて一生の恋なんだ。一生と永遠なんて、虚無感の方が大きいに決まってるじゃないか。
でも…。
俺は穴埋めなんて出来ない。永遠マイナス一生イコールの数式になんて足りるわけがない。
一番になりたくないと言えばそれは嘘でしかないけれど。
鏡に写った自分の顔は思ったより思い詰めていない気がする。てゆーか最近目が悪くなった気がする。
「…老眼?」
流石にまだ早いよな。なんだろ。
まぁいいや。
身体と髪を洗って流したらわりとスッキリした。リビングに行くと真里がソファに寝転がってる。
「お先に失礼しました」
「はい。今日も色っぽいね」
「ん?」
「いや、なんでもなーい」
俺がテーブルに座ると真里は飛び起きて俺の髪を、肩に掛かっていたタオルで拭き始めた。妙に心地いい。タバコに火をつけてくわえた。
「少し切る?」
「そうだなー、そろそろ」
こんな日常も全て。
「お前ってやっぱすげぇよな」
「なにが?」
「主にメンタル」
「まぁあんたよりは強いよね」
遥かに強いよ。
「でもね、光也さんも自分が思ってるよりは強いよ」
「え?」
「光也さんは良い意味でマイペースだからね。てか天然?」
「失礼な」
「褒めてるからね?
優しいしね。馬鹿正直だし素直だし。でも自虐的なのがダメなとこだね」
「上げて下げやがったな」
「でも全部ね…」
そこから何も言わない。しまいには「風呂入ってくるね」とか言って出てってしまった。
俺は雪子さんの何が好きだろう。多分全部は知らない。だから、飛び出して好きなところがあるんだ。
珍しく雪子さんはいつもより早めの21時くらいに来て、いつも通り30分ほどで帰って行った。
時間が余ったのでその日は後半にお料理教室。出来はこの前よりよく、この前よりもあっさり出来た。
帰り、珍しく車の中でぐっすり寝てしまった。然り気無く気を利かせてくれたのか、小夜が助手席に乗り、俺が後部座に乗った。よほど疲れて見えたのだろうか。実際に疲れていた。
途中まで小夜が、サボテン私も欲しいなぁなんて話をしていたのだが。真里の、「光也さん、着いたよ」という声で起きた。
「んー…」
どうやらドアに寄りかっていたらしい。右側のドアを開け真里が覗いてる。起きたのを確認すると閉め、こっちのドアも開けてくれた。
小夜はどうやら先に家に入ったようだ。
「大丈夫?」
「うん…」
最近行った健康診断で俺が低血圧なのを確認したせいか真里は、寝起きに関してもの凄く気を遣ってくれる。今だってわざわざ手なんか貸してくれている。
その手を借りて車を降りた。確かに寝起きは眩暈がする。
手を借りたときに少しよろけた。力が強くてその時は気付かなかったがすぐに抱きつかれたとわかった。
「え?大丈夫?」
「ん?」
「いや、なんか胸に飛び込まれてビックリしてるんだけど…」
マジか、俺から行ったのか。
「おぉ、ごめん」
だがわりと腕の力が強い。
「ちょっとよろけた」
「うん…」
うわ、このパターンまたか。
「真里さん?」
「うんごめん、勃っ」
取り敢えず殴る。
「二人ともどうし…」
「あっ」
呼びに来た小夜が唖然としてるのがなんとなくわかる。
「子供は早く帰りなさい」
「いや真里離しなさい!」
本気で背中をぶん殴って離れ、逃げるように小夜の元に行くが、小夜はなんか俯いてしまった。
「バレちゃったね」
「うるさい真里」
「ごめんねなんか邪魔しちゃった」
「違うからね」
でもなんか小夜にやけてる。これはおふざけだろうな。
おかげで覚醒した。小夜はそのまま風呂場へ、俺はリビングで冷蔵庫を開けて何を飲もうか吟味しているところでようやく真里は帰ってきた。
「そんな毎日飲んでるとアル中になっちゃうよ」
「わりともうアル中だよ」
「あー、結婚する女が泣くねぇ」
「了承してもらうしかないな」
そう言ってみたはいいがやはりちょっと気に掛かり、いつもより日本酒を気持ち薄めにしてみた。
だがこれはタバコと同じ原理、薄くすると物足りなくて余計飲みたくなるようだ。
もう一杯飲もうか迷ったが、やっぱりやめた。
「偉いじゃん」
「うるさいなぁ…」
「小夜が風呂空いたってよ」
「うん、わかった」
なんだか今日の真里はやはり機嫌がいい。なんだろう、良いことあったのかな。
「なぁ真里」
「ん?」
「なんか良いことあったん?」
「え?」
「いや、やけに機嫌良い気がするから」
「んー?」
やっぱにこにこ、いや、にやにやしやがって。
「なんだよ」
取り敢えず気持ち悪いから頬をつねると、「痛いから!」と言いつつやっぱりどこか嬉しそうで。
「あんたの方が嬉しそうじゃねぇか」
「え?」
「ま、理由はわかってますよーだ。次のデートくらいまさか入れたんだろうね?」
あー、それか!
「これが入れてないんだな」
「はぁ!?」
「まぁまぁ、俺にだって考えくらいあるんだよ」
「…そか」
「でもさぁ…」
「ん?」
「もしもさー、うまくいったら俺らどうする?」
「そんとき一番ベストな方法でやってこうよ」
「うん…。
もしうまくいかなかったらさ」
「うん」
「そんときは慰めてくれんの?」
「うん。てか付き合ってあげるよ」
とかふざけて言いやがるから一発叩こうと思ったけど、珍しく真里は何を考えてるかわからないような微妙な笑みを浮かべているからやめておいた。
「そんなときが一番あんたを落とすにいいもんね。
いろんな意味で慰めてあげるよ」
それは流石に叩いた。
「調子に乗りすぎ」
「なんだよー。
でも大丈夫。一人にはしないから」
何故だ。
こんなふざけてて下ネタぶち込んできたりしてるくせに、妙に安心するんだよなぁ。
多分真里は、いつでもブレないからだろうな。俺らもし同性じゃなかったら多分今ごろ、二人で老後の積立てを始めてるんだろう。
「まだ日は浅いけど、俺多分…」
「何?」
多分この、雪子さんに対するもどかしさは、真里が普段俺に感じてるもどかしさと同じなんじゃないかな。
「いや、なんでもない」
それを口にする度胸はない。
「…ほら、早く風呂入ってきなよ」
「はぁい」
永遠。
そんな漠然とした言葉を作った人間という生き物は質が悪い。なんなんだ永遠って。
こんなに解放感のない言葉にあの人は縛られてる。永遠の恋。だけど、今は亡き想い人がした恋なんて一生の恋なんだ。一生と永遠なんて、虚無感の方が大きいに決まってるじゃないか。
でも…。
俺は穴埋めなんて出来ない。永遠マイナス一生イコールの数式になんて足りるわけがない。
一番になりたくないと言えばそれは嘘でしかないけれど。
鏡に写った自分の顔は思ったより思い詰めていない気がする。てゆーか最近目が悪くなった気がする。
「…老眼?」
流石にまだ早いよな。なんだろ。
まぁいいや。
身体と髪を洗って流したらわりとスッキリした。リビングに行くと真里がソファに寝転がってる。
「お先に失礼しました」
「はい。今日も色っぽいね」
「ん?」
「いや、なんでもなーい」
俺がテーブルに座ると真里は飛び起きて俺の髪を、肩に掛かっていたタオルで拭き始めた。妙に心地いい。タバコに火をつけてくわえた。
「少し切る?」
「そうだなー、そろそろ」
こんな日常も全て。
「お前ってやっぱすげぇよな」
「なにが?」
「主にメンタル」
「まぁあんたよりは強いよね」
遥かに強いよ。
「でもね、光也さんも自分が思ってるよりは強いよ」
「え?」
「光也さんは良い意味でマイペースだからね。てか天然?」
「失礼な」
「褒めてるからね?
優しいしね。馬鹿正直だし素直だし。でも自虐的なのがダメなとこだね」
「上げて下げやがったな」
「でも全部ね…」
そこから何も言わない。しまいには「風呂入ってくるね」とか言って出てってしまった。
俺は雪子さんの何が好きだろう。多分全部は知らない。だから、飛び出して好きなところがあるんだ。
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