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アダージョ
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薬の切れが早すぎて4時くらいに目が覚めた。まだ薄暗い。することもないし、取り敢えず朝飯を作って早めにバイト先に向かった。4時間くらい、寝てようかな。
店の鍵を明け、仮眠室(仮)のベット寝転んで気が楽になった。
やはり雪子さんの旦那の部屋というのは少し居心地が悪かった。
目を閉じて見る。
暗いけれど薄らと目蓋の赤い線が見えて。
日が登ってきたのかな。
眠れない。眠れない。
いくら待ったって眠気なんて訪れなくて、ただただ目を閉じて考えるだけだ。頭の中をぐるぐるする思いはいつしか膨らんで、胸がじんわりと、確実に広がるように痛くなっていった。
息が詰まるような痛さ。痺れは取れない。
浅く呼吸をして誤魔化す。
ふと思い出して今度は抗不安薬を服用。30分くらいで少し眠くなってきて、気が付いたら、「光也?」という声で起きた。
おっさんが不安そうな顔をして俺の顔を覗き込んでいた。
あれ?
「光也、どーしたの一体」
「ん?…今何時?」
起き上がってみてなんとなく頭の血液が下に下がっていくような、妙な感覚がして、もう一度寝転んだ。最近よくある低血圧の症状だろう。
「7時半…真里と小夜ちゃんは?」
「まだ…来ないんじゃない?」
「え?お前何があったの?」
「何もないよ…」
喉乾いたけど取りに行くのダルいな。
「…水でも飲んだら?置いとくよ」
おっさんが気を利かせて水を棚に置いといてくれた。少しだけ起き上がって一口飲んで少ししてから漸く起き上がる。
丁度そんな時、真里と小夜が出勤してきた。
普通にしていよう。
そう思うのだが状況があまり普通じゃない。
「みっちゃん…」
「おぅ、おはよう」
「雪子さん家にいたの?」
「うん」
「…いつ帰ってくるの?」
「…なんで?」
状況を知らないおっさんは事の成り行きを見守るように腕を組んで壁に凭れている。
「なんでって、こっちが聞きたいんだけど」
「小夜ごめん、俺が悪いんだよ」
真里が小夜を宥めようと肩に手を置くがそれを振り払う。
相当怒ってるな、これ。
「何が?なんでこうなってるか私全然わかってないんだけど」
「いや、俺がね、」
「小夜、ごめんな。勝手な話だが俺は出て行くよ」
「え?」
「…なんで?」
ちょっと無理して起き上がってみたが頭痛がする。遠くで耳鳴りがするような感覚だ。
「ちょっ、あんた大丈夫?」
「単純な話だろ?一緒にいてあんま良いことねぇなって思ったから出て行くだけの話なんだよ」
「だからなんでそうなったの?」
「…わかんない?」
「え…?」
「…邪魔になったの、お前も、真里も。空気読めよ」
「光也、お前ね、」
「わっかんないね!全然わかんないよ!
そんなんさ、なんでそんな辛そうに言うの?ホントわかんない。こっちの身にもなってよ、こっちなんて未成年なんですけど!」
最大の武器出して来やがったな。
「じゃぁいいさ、すんませんでしたって、大人の都合で申し訳ありませんって俺が水野さんに頭下げるわ。今から電話してやる。それで文句ない?」
「はぁ?そんなのなんの解決にもならないでしょ、私が言いたいのそれじゃないの!」
「めんどくせぇな。じゃぁなんだよ。何が言いたい?」
「私は、ただ…なんでそうやってひとりで全部決めつけて抱え込んで…捨てちゃうのかって言いたいの!」
泣き始めた。バツが悪い。
でもこれで揺らいでいてはまた繰り返す。
「今回のはお前が思ってるのと多分違うよ」
「だとしたら、」
「ただそれは聞かなくていい。泣くくらいの度胸なら聞くな」
「へぇ…。
お前ら今回珍しくガチだな」
笑ってるようでいて何を考えてるかわからない調子でおっさんはそう言った。
息が上がってる。水飲もう。そう思って座ろうとしたらふらついたけどそれも人知れずだった。
結構自分でも動揺してる。
「何があったか知らんが取り敢えず準備してくれ。まぁ昼のオープンに間に合えばいいから、急ピッチであとからやるってーならまだ別にこのままでもいいけどな」
意外と干渉してこないな。これは無駄だと感じたんだろうか。
「てめぇらにひとつだけ言うならな。
誰も受け入れようとしないんじゃ誰も入っていかねぇよ。小夜ちゃん、無駄な気苦労だよ。こいつら昔から学べねぇんだよ、バカだから」
「余計なお世話だ」
「あ?てめぇ誰に向かって口利いてんだ」
「柏原さん落ち着いてください。いや、ごめんなさい。
光也さん、いくらあんたでも柏原さんにその態度は許さねぇけど」
「何を持って言ってんだよお前」
「あんた人の気も知らないでよく言えんな」
あぁ、そうだ。
「まぁな。わがままなんでね」
そう言った瞬間みんな黙り込んだ。呆れたんだろうか。
それでいい。それがいい。
ただ、居心地は悪いな、自分が悪いんだけど。取り敢えず着替えようかな。
立ち上がったら物凄い目眩がして。
多分飲み合わせ悪すぎたな。ふと真里に肩を掴まれたらそっちによろけた。それを見た真里は相当驚いた顔をしていた。
手を下げたのはおっさんで。俺は何事もなかったかのように更衣室に入った。
気遣いなんてしてくれなくていい。殴るなら今だったのに。真里もおっさんも。
店の鍵を明け、仮眠室(仮)のベット寝転んで気が楽になった。
やはり雪子さんの旦那の部屋というのは少し居心地が悪かった。
目を閉じて見る。
暗いけれど薄らと目蓋の赤い線が見えて。
日が登ってきたのかな。
眠れない。眠れない。
いくら待ったって眠気なんて訪れなくて、ただただ目を閉じて考えるだけだ。頭の中をぐるぐるする思いはいつしか膨らんで、胸がじんわりと、確実に広がるように痛くなっていった。
息が詰まるような痛さ。痺れは取れない。
浅く呼吸をして誤魔化す。
ふと思い出して今度は抗不安薬を服用。30分くらいで少し眠くなってきて、気が付いたら、「光也?」という声で起きた。
おっさんが不安そうな顔をして俺の顔を覗き込んでいた。
あれ?
「光也、どーしたの一体」
「ん?…今何時?」
起き上がってみてなんとなく頭の血液が下に下がっていくような、妙な感覚がして、もう一度寝転んだ。最近よくある低血圧の症状だろう。
「7時半…真里と小夜ちゃんは?」
「まだ…来ないんじゃない?」
「え?お前何があったの?」
「何もないよ…」
喉乾いたけど取りに行くのダルいな。
「…水でも飲んだら?置いとくよ」
おっさんが気を利かせて水を棚に置いといてくれた。少しだけ起き上がって一口飲んで少ししてから漸く起き上がる。
丁度そんな時、真里と小夜が出勤してきた。
普通にしていよう。
そう思うのだが状況があまり普通じゃない。
「みっちゃん…」
「おぅ、おはよう」
「雪子さん家にいたの?」
「うん」
「…いつ帰ってくるの?」
「…なんで?」
状況を知らないおっさんは事の成り行きを見守るように腕を組んで壁に凭れている。
「なんでって、こっちが聞きたいんだけど」
「小夜ごめん、俺が悪いんだよ」
真里が小夜を宥めようと肩に手を置くがそれを振り払う。
相当怒ってるな、これ。
「何が?なんでこうなってるか私全然わかってないんだけど」
「いや、俺がね、」
「小夜、ごめんな。勝手な話だが俺は出て行くよ」
「え?」
「…なんで?」
ちょっと無理して起き上がってみたが頭痛がする。遠くで耳鳴りがするような感覚だ。
「ちょっ、あんた大丈夫?」
「単純な話だろ?一緒にいてあんま良いことねぇなって思ったから出て行くだけの話なんだよ」
「だからなんでそうなったの?」
「…わかんない?」
「え…?」
「…邪魔になったの、お前も、真里も。空気読めよ」
「光也、お前ね、」
「わっかんないね!全然わかんないよ!
そんなんさ、なんでそんな辛そうに言うの?ホントわかんない。こっちの身にもなってよ、こっちなんて未成年なんですけど!」
最大の武器出して来やがったな。
「じゃぁいいさ、すんませんでしたって、大人の都合で申し訳ありませんって俺が水野さんに頭下げるわ。今から電話してやる。それで文句ない?」
「はぁ?そんなのなんの解決にもならないでしょ、私が言いたいのそれじゃないの!」
「めんどくせぇな。じゃぁなんだよ。何が言いたい?」
「私は、ただ…なんでそうやってひとりで全部決めつけて抱え込んで…捨てちゃうのかって言いたいの!」
泣き始めた。バツが悪い。
でもこれで揺らいでいてはまた繰り返す。
「今回のはお前が思ってるのと多分違うよ」
「だとしたら、」
「ただそれは聞かなくていい。泣くくらいの度胸なら聞くな」
「へぇ…。
お前ら今回珍しくガチだな」
笑ってるようでいて何を考えてるかわからない調子でおっさんはそう言った。
息が上がってる。水飲もう。そう思って座ろうとしたらふらついたけどそれも人知れずだった。
結構自分でも動揺してる。
「何があったか知らんが取り敢えず準備してくれ。まぁ昼のオープンに間に合えばいいから、急ピッチであとからやるってーならまだ別にこのままでもいいけどな」
意外と干渉してこないな。これは無駄だと感じたんだろうか。
「てめぇらにひとつだけ言うならな。
誰も受け入れようとしないんじゃ誰も入っていかねぇよ。小夜ちゃん、無駄な気苦労だよ。こいつら昔から学べねぇんだよ、バカだから」
「余計なお世話だ」
「あ?てめぇ誰に向かって口利いてんだ」
「柏原さん落ち着いてください。いや、ごめんなさい。
光也さん、いくらあんたでも柏原さんにその態度は許さねぇけど」
「何を持って言ってんだよお前」
「あんた人の気も知らないでよく言えんな」
あぁ、そうだ。
「まぁな。わがままなんでね」
そう言った瞬間みんな黙り込んだ。呆れたんだろうか。
それでいい。それがいい。
ただ、居心地は悪いな、自分が悪いんだけど。取り敢えず着替えようかな。
立ち上がったら物凄い目眩がして。
多分飲み合わせ悪すぎたな。ふと真里に肩を掴まれたらそっちによろけた。それを見た真里は相当驚いた顔をしていた。
手を下げたのはおっさんで。俺は何事もなかったかのように更衣室に入った。
気遣いなんてしてくれなくていい。殴るなら今だったのに。真里もおっさんも。
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