皇子は異世界で重宝される

佐々木 おかもと

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3.皇子は異世界で魔法を使ってみる

ホールから一転して、エルヴィスは稀人様専用と通された部屋に居た。
真っ白な壁に、ほのぼのとした風景画が飾られてある。何処にでもありそうな田舎町だが、王宮の客室に使われる程の有名画家が描いたのだろう。
エルヴィスはぼんやりとそう思った。
白く肌触りのよさそうなシーツのベッドは、元の世界のベッドよりも豪華であった。寝室は豪華なものがない方がいい、だからエルヴィスの自室は他の皇子達と比べて質素な方だった。
そんな些細な違いが、エルヴィスを孤独にする。

「稀人様、お初にお目にかかります。稀人様の身の回りのお世話をさせて頂きます、ニコルと申します」
「ああ、よろしく頼む。私は――」

エルヴィスは自己紹介を返そうとして言葉に詰まった。
今は帝国の皇子だということは、あまり重要ではない気がしたからだ。
世界が違うと身分も変わる。
帝国の皇子という立場でなくなったエルヴィスは、自分が酷く無防備に感じた。そして一度そう思ってしまうと、自分に対する他者の視線が怖くなる。
目の前にいる侍従も、敵ではないかと改めて警戒してしまうのだ。

「稀人様……?」
「あ、いや……何でもない、私の事はエルヴィスと呼んでくれ。稀人なんて呼び方は、ここの世界の者ではないと改めて言われているような気がして、良い気分ではない」
「エルヴィス様ですね。承知致しました、今後はそうお呼びさせていただきます」

エルヴィスは窓際にある3人掛けのソファーに座り、ため息交じりに返事を返した。ニコルは部屋の隅へ移動して気配を消す。
エルヴィスはそんなニコルの様子を横目に、この世界のことを頭で纏めていた。

(この世界にも魔法はあるようだ。しかし、魔法道具などは見当たらない。

部屋の明かりもロウソクに火を付けて、ガラスで反射させているだけだ。
これでは陽が落ちてしまえば、薄暗くなって不便だろう)
エルヴィスは魔法の研究者だったため、こういった疑問は調べたくなってしまう。思い立ったら、行動に移したくなる。それがエルヴィスだ。
王は詳しい事は後日、教えてくれると言ったがその情報が偽りだったとしても、誠だったとしてもエルヴィスにはその判断が付かない。
これでも少しながら公務はやってきた。判断材料は己の勘を信じることしかないが、ルーカス王が何か企んでいたとしても、とりあえずは静観を決め込もう。
下手に動かない方がいい、それにこの世界の魔法に関しても知りたいことはたくさんある。
そこでエルヴィスはふと、この世界で自分の魔法が使えるのか気になった。
前の世界では使えたが、もしかしたらこの世界の理の中では使えない可能性があるからだ。
そう思ったら研究者魂が湧きたってきた、しかし敵の本拠地で自らの手の内を晒すのはまずいのではないか……。
エルヴィスは迷いに迷った。
そして迷いに迷った結果、魔法を使うことにした。

(これは決して、知識欲や好奇心に負けた訳ではない……!)

「イーフィー」

エルヴィスは、誰に向けたのか分からない言い訳を心の中ですると、呪文を唱えた。薄暗くなってきた部屋を、少しばかり照らそうと魔法を使った。
しかし光は部屋を軽く照らすだけでなく、目を開けるのが困難になるほどに光った。
驚いたエルヴィスは、慌てて魔法を鎮める。

(な、なんだ今のは!?魔力操作を違えたか……?)

「いや、これは……」

魔力自体の消費が少なくなっている。
魔法を使えなくなることさえ覚悟したというのに、逆に効率が良くなったとは。面白い結果に、エルヴィスは頬を緩めた。

「エ、エルヴィス様っ、ご無事ですか!?!?」

頬を緩めるエルヴィスに対して、ニコルは酷く驚いたように辺りを警戒していた。
その反応にエルヴィスは呆気に取られる。前の世界では魔力操作を違えたくらいでは、まだまだ未熟だなと笑われて終わるだけだ。
それが、この侍従は驚いたのだ。

(……魔力操作の概念がない?いや、そう結論付けるのは時期尚早か)

「ニコル、安心してくれ。

今の光は、私が魔力操作を失敗した為に起こったこと。敵襲などではないよ」

エルヴィスは努めて優し気な笑顔で言った。ニコルはそんなエルヴィスの顔を見て、眩しそうに目を細めると安心したように警戒を解いた。
そして部屋主の緊急事態に応戦する為、いつの間にか部屋に入って来ていた騎士たちに目配せした。
気配を感じさせず入ってくるなど、よく訓練している騎士だ。
エルヴィスは、のほほんとそんな事を思った。

「……エルヴィス様、不躾な事をお伺いしますが。もしや、エルヴィス様は魔法をお使いになる事が出来るのでしょうか……?」
「ああ、そうだが?」
「なんと……!さようでございますか!私わたくし不肖のニコル、貴方様にお仕え出来て光栄でございます!!!」
「はぁ……?」

突然、膝を付きへりくだったニコルにエルヴィスは訳が分からず、間抜けな声を漏らした。
とはいえ、味方が増えたとでも思えばいいだろうとエルヴィスは考えることを辞めて、苦笑いを浮かべる。

(今日は色々と、非現実的な事がありすぎで疲れた。それでも――)

「ニコル。突然で悪いが私はこの世界について知り、学ぶ必要がある。

書物や地図……何でもいい。この国、この世界、住まう民。それらについて、知識を得られるものを用意してくれないだろうか?それからニコル、君は私の師として私の知り得ぬことを教授してくれないだろうか……?」

「もちろんでございます!私なぞが、お教え出来る事ならなんなりと!」

「感謝するよ……俺は何も知らずに飼い殺されるのは、嫌だからね」

「申し訳ございません。最後はなんと仰られたのでしょうか……」

「いや、なんでもない」

さようでございますか、と思案気に頷いたニコルは再び隅で気配を消す。
こんなにも何かに、反抗したいと思ったのは初めてかもしれない。
理不尽だと心から思ったことも、所詮は温室育ちの子供だったのだろう。
エルヴィスは少し自重の笑みを浮かべながら、窓の外を見上げた。

こちらの世界も良い空模様だった。

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