皇子は異世界で重宝される

佐々木 おかもと

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4.侍従は神の現身に出会う

藍色の瞳に黒曜の髪の姿の稀人への第一印象は、”小さい”だった。
ニコル達の身長より、20㎝以上も差のある身長だったエルヴィスにニコルはそう思った。そしてエルヴィスは夜を溶かしたような瞳を、悲しげにベッドへ向けている。

(なにか気に障るような装飾だっただろうか……?)

この国では白と黒は神聖な色とされており、教皇や50年以上修行を積んだ神官が身に着けることが出来る色だ。
ベッドシーツや壁が純白な事は、稀人であるエルヴィスを心から歓迎していることを表している意図がある。王が自ら部屋を用意させた事もあり、その想いは最上級になっているだろう。

(稀人様は気付いておられるだろうか。もしかしたら、稀人様の住まわれていた世界では、そういった色の特別性は無かったのかもしれない)

悲しげに伏せられた瞳に、何故かニコルの心が陰った。
その陰りを払拭する為、ニコルは努めて冷静に話しかける。ニコルの自己紹介に稀人――エルヴィスは丁寧に挨拶を返してくれた。それからニコルは思案気に窓の外を見つめるエルヴィスを観察していると突然、眩い光が部屋を包み込まれた。
そんな目が眩む程の光は、驚くことにエルヴィスがやった事だった。
そして、ニコルはエルヴィスが魔法を使える事を知る。
あれ程の光を出すことが出来る魔法使い様は、国中を探してもそうそう居ない。
エルヴィスは軽い試しでやったつもりだったが、ニコルには神にでも見えたのだろう。
最初の印象が掻き消えるほどに、ニコルには衝撃だった。
ニコルは改めて、エルヴィスへ忠誠を誓った。執事長に指示されたからではなく、心からこの神の現身に仕える事が出来るのが喜びだった。
それからニコルはエルヴィスの指示をこなす為、国が経営しているナレッジ図書館へ足を運んでいた。
この図書館は身分関係なく、知識を得られる場所である。
もちろん、本の貸出しは制限があるがこの図書館内なら自由に本を読んでいいとされている。ちなみに、本を借りられるのは王家に仕える侍女や侍従・執事など上級使用人が、主人に頼まれた場合でないと本は貸し出されない。
例えば公爵家と云う身分があろうとも、王家が客人として扱っていない場合、本は借りられないということになる。
ならば何故エルヴィスについてお咎めなしなのかは、前に述べた通り王国の最上級の客人だからだ。
その為、侍従であるニコル自らナレッジ図書館へ来たのだった。

(エルヴィス様の望まれるような書物を、私自らが吟味したいから……と云ったら笑われてしまうでしょうか)

ニコルは図書館のひょろりとした男の司書に場所を聞き、ウォルトン王国の歴史やこの国で信仰されている宗教などが載った書物をかき集める。
ただの歴史書から、文字の読み書きを覚えたばかりの子供が読むような絵本までを集めた。
ニコルは満足気に頷くと司書に対して、そこそこの値段の金貨が入った巾着を持たせた。
ゆったりとして優しそうな目元の司書は、その目元を驚愕に染めて弾かれるようにニコルを見た。

「私からの褒美だ……好きに使いなさい」
「あ、ありがとうございますっ」

恐らく、平民出身の司書だったのだろう。
ニコルの渡した施しの値段は、司書の男が二年間働いて得られる金貨だった。



☆ ☆ ☆



エルヴィスはニコルの働きを大いに喜んだ。望んだ要望をしっかり叶えてくれる、使用人への主人の最大の恩返しは感謝と惜しみない称賛である。

(笑われたお顔がまだ幼い……エルヴィス様は、いったいおいくつなのだろうか)

ニコルは心の中では、エルヴィスに聞きたいことが沢山あった。
しかし、召使いである侍従如きに聞けるはずもなく、今日も部屋の隅で気配を消しながらエルヴィスを観察する。
美しい瞳をゆったりと瞬きで潤す。
その優雅で繊細な姿は同じ人間だというのに、超越して見えるのが不思議だった。
最初、エルヴィスにこの世界の文字が読めないと言われたニコルは、文字を教えた。エルヴィスはその教えを忠実に受け入れ、直ぐに読み書きが出来るようになった。ルーカス王はエルヴィスに後日、詳細を教えると言ったそうだがここ数日間、大臣や宰相などは動きを見せていない。

(ルーカス王は、エルヴィス様とお話する気はあるのだろうか……?エルヴィス様はこの世界にいち早く慣れる為に、努力を惜しまれていないと云うのに)

ニコルは上の動きを常に王付きのメイドや侍女・侍従から得ていたが、ぼんやりとした噂話程度の情報しか分かっていなかった。

(第一王子であるアイザック様はエルヴィス様に興味があるのか、何度かルーカス王へ会わせろと迫っているらしいが……)

もちろん、ニコルが王達の話を聞くにはエルヴィスの話も聞かれることになる。
しかしニコルは賢くも、エルヴィスの事について侍従仲間にはエルヴィスの人柄のみを伝えてある。

(聡明で慈悲深くて、優しく美しいと……間違ってはいないので、侮辱罪にはならないはずです。多分、恐らく。きっと!)

ニコルがそうするのはエルヴィスがこの王国、世界のことを学んでいると云う行動を、王の私用の間諜に知られるのを少しでも遅らせるためだ。
エルヴィスが自由に動き回れる時間を引き伸ばしている。万が一にエルヴィスが高位の魔法が使えるとバレたのなら、国家間の問題や帝国の国家問題に、無理やり巻き込まれる事が予想できていた。

(エルヴィス様のお力がバレるのも時間の問題か。あの時、部屋の前の見張りをしていた騎士達の口止めはしたが、人の口に戸は立てられない。強い力を持つ者は、どの時代も生きずらい)

ニコルはここ数日間、エルヴィスの事を観察していてそう思った。
ニコルはエルヴィスの事を観察していて、気付いたことがあった。
1つは所作から伺える気品。
食事をする際も読書をしている際も、立ち姿1つですら常に誰かに見られている事を想定した動きなのだ。

そして、もう1つは着眼点の鋭さだ。

歴史の文献を読みながら質問される内容は、その時代の王の享年数などに着眼されている。反乱に繋がりそうな出来事を紙に書き写しては、歴史書を読み進める。
そして、実際に反乱が起こったり国家問題になったと記されていると、満足気に頷きながら答え合わせをしている。
また、当てが外れると再び歴史書を見直し、自身が納得するまで読み込む。
それでも分からない場合には、本に紙切れを挟み他の歴史書を調べると云った流れだ。
まるで、ウォルトン国の粗探しをしているようで、ニコルは苦笑いをせざるを得ない。それだけこの国の事を、いつでも崩せると言われている気がしたからだ。
けれど、分からない事が分かっていくのが純粋に楽しいのか、エルヴィスは初めて出会った時よりも生き生きとしていた。

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