皇子は異世界で重宝される

佐々木 おかもと

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6.皇子は取引を持ちかけてみる

ルーカスとアイザックその両方からの質問攻めを受けながら、エルヴィスは本題に入る機会を伺っていた。
もちろん謁見の間に呼び出されたとは言え、訪問した側からの話の提起はあまり好まれない。
普通なら、王から切り出される筈だ。
しかし、中々ルーカス王は本題を話始める事はなかった。
エルヴィスと同じく、核心的な事にはのらりくらりと答えをはぐらかす。
しびれを切らしたエルヴィスは、直接的に本題を聞いてみる事にした。

「ルーカス王よ。私はなぜ元の世界を超えてまで、此方の世界に呼ばれたのでしょうか?」

ずっとはぐらかして交わしていた質問に、ルーカス王が息をのむのが分かった。
それでもエルヴィスは鋭い視線をルーカス王へぶつける。もうはぐらかして答えられないように、ここに来て微笑みの仮面を外したエルヴィスにアイザックは固まってしまっていた。
その様子にエルヴィスは改めて、未熟だなぁと目を細めた。
思った事は顔には出さない、貴族ですら子にはじめに教える事だ。
そんな侮蔑に似た視線をアイザックに送っていると、横に控えるジルベールはエルヴィスの事をはじめの頃よりも更に警戒していた。
エルヴィスはそんなジルベールに好感を覚える。温室育ちではなく上に立つ者の責任を、アイザックよりも持っている気がしたからだ。
でも、どうにもエルヴィスを下に見ているようで、気に入らないのは事実だ。

「本題はそうだったな……エルヴィス殿よ。どうか、貴殿を呼んだ理由については笑わないで欲しい。
一人の愚かな男が、愛する者を失いたないが為に貴殿を呼んだのだ」
「…………」

エルヴィスは無言で話の続きを促す。
ルーカスはエルヴィスに視線をやると、続きを話し始めた。その様子にアイザックとジルベールは背筋を伸ばして、話を聞く体制に入る。
ルーカスはとても言いにくそうに、顔をゆがませている。

「約25日ほど前に、妃が不明な病によって倒れた。もちろん、国中の一廉の医者を呼んで調べさせた。
そして発覚した原因は、長年の微量な毒によるものだった。
妃は長年、私が招き入れた側室の女に毒を盛られ続けていたのだ。
実際の犯行は側室の女に侍る侍女がやった為、その女は罪には問われなかった。確実な証拠がないからだ。
側室が妃に近づく事は出来ないと、高を括り妃の安全確保を怠った私の落ち度なのは承知している。
妃は今も熱と全身の痛みにうなされている、命が尽きるのも時間の問題であろう」

ルーカスは少しでも妃を楽にしてやろうと、教会に保護されている魔法使いに頼ったと云う。
その魔法使いは怪我や病気を聖なる光で、直すことが出来ると言った。
しかし、教会はそんな神の現身とも言われる魔法使いを派遣してはくれなかったと、ルーカスは悔しそうに云う。
そこで諦め切れなかったルーカスは、古書を読み漁って強力な力を持つ者を、此方の世界に呼ぶ異世界召喚と言われる呪術を見つけたそうだ。

(魔法ではなく、呪術だったか。
呪いの力で俺を呼んだと云うことか……なんて野蛮なんだ)

ルーカスは居ても立っても居られず、野良で活動している魔法使いジンドに協力を頼んだそうだ。
ここまで聞けば、もう大体分かった。
エルヴィスにはその妃の命を救ってもらう為に、呼んだという事だろう。
しかし事の重大さに今更気付き、怖気づいている……自分の行動の愚かさにすら、気付く事の出来ない程に妃を愛する王。そんな王にエルヴィスはため息交じりに、笑って見せた。
宰相とジルベールが殺気立ったが、気にせずに微笑んで見せる。
確かにエルヴィスはこの世界に来て、力が増加するくらいには力を持っている。元の世界にいた時も若き天才魔法使いなんて、恥ずかしい名前で呼ばれていたくらいだ。
しかし、力を持っているとしても忠誠を誓ってもいない相手に、ただで魔法を使ってやることはしない。
魔法とは私利私欲の為に使えば、必ず効果が無くなりいずれ消滅する。
だから、魔法騎士団の活動は戦争には使われなかった。
自然災害が起こった際の人命救助や、避難誘導が魔法騎士団の優先活動だった。

「ルーカス殿、1つ聞きたい。
妃を見殺しにする事で、助かる大勢の民がいるとする。そんな状況になったら、貴殿はどうする? 」

殺気を隠す事もせずに向けてくる、ジルベールと宰相を完全に無視しながら問うた。
ルーカスは苦い顔をしながら、考え込む。恐らくエルヴィスの言いたい事に、気付いたのだろう。

―――エルヴィスが気に入る言葉でなければ、容赦なくこの国を出ていく。

そのことに気付いて、ルーカスは考え込んでしまった。
エルヴィスはその様子を見て、射殺さんとする視線をアイザックに移した。お前も他人事ではないと。

「……この国は、妃と王は同列の存在。
妃を失い助かる民がいるのなら、同列の存在である私が先ず、命を民へ差し出そう」

そう言い切ったルーカスに、エルヴィスは満足気に頷いた。
それを見て安心したのか、ルーカスは力なく椅子の背もたれに身を預けた。

「ルーカス殿、私は貴殿の行動は賢い判断だと思う。王の鏡だ」
「いや……そうでもないさ」

微妙な顔をしたルーカスにエルヴィスは、自分のしたかった話へ再び方向変換する。意地の悪い顔をしたエルヴィスに、ルーカスが眉間に皺を寄せた。

「ルーカス殿、私は貴殿が言う強力な力を持っている」

エルヴィスはそう言うと、呪文を唱える。
すると王達の前には光で出来た、蝶や炎で出来た龍に水で出来たペガサスが現れた。
エルヴィスが良く貴族や皇帝陛下の余興としてやっていた、幻想的な魔方だ。
あの頃は魔法の素晴らしいところは、攻撃や防御だけでは無いと、貴族や他国の王に伝える意図もあったのだが。

「こ、これは……」
「おお!」
「…………」

ジルベール以外は皆、エルヴィスが作り出した魔法に圧倒されているようだった。
ジルベールに関しては、炎で出来た龍やペガサスを睨み付けて腰元の剣に手をかけている。
魔法の警戒というよりは、完全にエルヴィス自体の警戒のようだ。
エルヴィスもその様子に心の中で、苦笑いを浮かべるしかなかった。
完全に嫌われているようだが、エルヴィスも嫌われることをした覚えはない。

「だから、ルーカス殿。
私と取引しましょう、私がこの国の王である貴方の命令を何度も何時でも実行するきく代わりに。 
私には魔法の研究を許可することと、この国での役職又は階級をください」

エルヴィスの提案にルーカスは、また顔を歪めて考える。
エルヴィスは交渉事が昔から好きだった。得意や負けなしと云う訳ではないが、ただ他人の悔しそうな顔を見ると役目が果たせた気がして嬉しかったのだ。エルヴィスは我ながら悪趣味だと思っているが、幼い頃に皇帝陛下に褒められたことが嬉しかったのを覚えている為、中々やめられない。

「……約束はできないが、出来るだけ譲歩しよう」
「それでは力を貸すことは出来ない。
お言葉ですがルーカス殿、この国の東の領地は20年に1度大きな干ばつが起こっている」
「…………」
「東の領地の民は殆どが、農業によって家計を支えている。
そして20年に一度の干ばつにも、食料など備蓄して備えている筈ですね?
いつもの干ばつは半年ほど耐えれば、やり過ごせるが今年はどうだろうか?」
「稀人様、何が言いたい」

口を挟んできたのは、ルーカスではなくジルベールだった。
ルーカスが、エルヴィスの空気に吞まれているのを察したのだろう。 エルヴィスを見据える瞳は、小動物なら怯えて逃げるだろう。
それ程に冷たく、拒絶以外の感情が伝わってこない。

「ジルベール殿下、簡単なことです。
東の領地の土は栄養が豊富で作物の品質がとても高い、つまりこの国にとっても作物は財産だ」

エルヴィスは歴史書から学んだ事を思い出しながら、話し始めた。
この時の為にウォルトン王国の事を学んだと言っても、過言ではない。
敵を知るには、充分な時間があった。
気候から見たウォルトン国、貴族から見たウォルトン国。
そして、農民出身の文官が書いたウォルトン国。全ての知識がエルヴィスの頭の中に入っている。
もう少しだけ時間があれば、メイドや騎士達の日常会話から、妃の事も先に知れたかもしれない。

「しかし、その財産が長く続く干ばつにより無くなったら?」
「……この国の輸出による収入が落ちる」
「そうです。今は他の領地の作物によって、賄えている部分はあるでしょうが。この干ばつが終わるのは、何時になるのか分からない。それに、いつもなら今頃には干ばつは終わり、逆に長い雨が降り注いでいるはずでしょう?」

エルヴィスは儚げな顔をしながら、ジルベールに向き合った。
この時点で標的はルーカスではなく、ジルベールに変わっていた。
いかにも、東の領地に住まう民が心配ですよ、と云う顔をして出来たら同情をさそう。

長くなりそうな交渉に、エルヴィスは胸がドキドキと逸るのを落ち着かせて、不機嫌な様子のジルベールに向き合った。

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