皇子は異世界で重宝される

佐々木 おかもと

文字の大きさ
11 / 15

11.皇子は治癒魔法を使う


シルバの熱い想いにエルヴィスは、嬉しそうに笑った。
その想いは、いつも仏頂面を崩さないジルベールの表情を、軟化させるほどの願いだった。

「その気持ちを忘れないでくれ。私は誠実な者が1番、信用するに値すると思っているからね」

エルヴィスはそう言い、シルバに近づくと左肩を胸の位置まで上げさせた。
シルバは何がしたいのだろうと思いながらも、エルヴィスの言われるままに従う。そんな2人を見て、ジルベールも疑問の表情を浮かべている。2人の周りにいる他の騎士達も、エルヴィスがしようとしている事に釘付けだ。
そんな人々知ってか知らずか、エルヴィスは意味ありげに口角を上げる。

「今から焼ける様に左腕が熱くなるが、痛みはないから安心して欲しい。熱いのに痛くないから驚くだろうが、動かないでくれるか?」

エルヴィスの説明にシルバが、分かりやすくうろたえる。あたりまえだろう、熱い=痛いは普通なのだ。口頭の説明だけで、エルヴィスの言っている事を理解するには無理がある。
しかし、シルバは豪勇だった。エルヴィスの言葉に、意を決したよう頷くと、体の力を抜いてエルヴィスに委ねる。
そんなシルバに、機嫌よさげにエルヴィスは頷く。

「イーフィー」

エルヴィスの呪文と共に、熱がシルバの欠損部分である左の二の腕に集まってくる。その熱は、エルヴィスの魔法によって治癒される際に現れる現象だ。温かな色の光は、欠損して無くなった血管や骨、そして筋肉などが新たに補われるために酷く熱いのだが全く痛くなく、とても不思議な感覚なのだ。

そんな感覚にシルバは冷や汗を流しながら、驚いている。なぜなら先程まで無かった左腕が、損失する前と変わらず元に戻っていっているのだから。骨が出来て肉が付き、獣人の逞しい左腕が戻ってくる。
その場にいる誰もが、その光景を見ていた。温かい光はまるで不死鳥の如く、その苦難の印を消し去っていく。

「…………こ、これは……」
「ふぅ……どうかな? 手を握ったり、手首を回してみてくれる?」

エルヴィスは物凄い集中力と魔力を使い、少し顔に疲労を滲ませながらシルバに問うた。驚きで固まってしまったシルバは、ハッとしたように言われた通りに動かしてみる。

「動きます……腕が、動きます!ああ、神よ……ありがとうございますっ」

問題なく動くその腕に、シルバは涙を流した。よほど、嬉しかったのだろう、シルバは堰を切ったように声をあげて泣き始めてしまった。エルヴィスはそんなシルバに困ったように笑い、助けてくれとジルベールを見るだけで、ジルベールも驚きで固まってしまっている。
今この空間にいる全ての騎士達が、エルヴィスとシルバの腕に注目していた。
シルバが神だなんて持て囃すから、周りにいる騎士達が圧倒されてしまっている。
そんな状況を少しだけ変えるために、エルヴィスは仕方なく話を逸らしてみる。

「ジルベール殿下、勝手ながらお願いがあります」
「な、なんだろうか……?」
「今、治したシルバさえ良ければ、私の護衛に加えてください。そして――」

エルヴィスは一拍間を置くと、周りの騎士達に聞こえるように言う。

「今後の騎士の怪我は、私が治療します。
今まで獣人だから、平民出身だからと嫌がらせを受けた者達は私の元へ来なさい。もちろん、その他の者も遠慮なく来て構わない。
私はどんな病でも、怪我でも治す事が出来る自信・・がある。手遅れになっていても構わない、1度私の元へ来てみて欲しい。
ルーカス王には私から言っておく、怖気づかなくていい」

エルヴィスがそう高らかに言うと、パラパラと拍手がなり始めた。小雨のような拍手はやがて、大雨のような拍手へと変化していく。
その様子を見ていたジルベールは、思わず息を吞む。こんなにも人を惹きつけるこの男エルヴィスが、怖いと思ってしまったのだ。兄アイザックは、自分とエルヴィスの考え方が似ていると言っていたが、本当にそうだろうか?
確かに、獣人や平民出身といった差別を少しでも無くす事が出来たら――そう思ってはいた。しかしこんなにも、他人の負の感情を上手く切り替えさせながら、周りの者の同情を引き出し最終的にはすべての視線をさらってしまう。

まるで、何かの演劇を見ている気分だった。
ジルベールの困惑に気付かないまま、エルヴィスは拍手の中にいる。恐ろしくも、なんとも庇護欲のそそられる容姿で小さいその背中には、ジルベールよりも更に大きなものを背負っている気がした。
そして人々を虜にしていくその様に、魔性の男だなとジルベールは自嘲気に笑った。



☆ ☆ ☆



エルヴィスは騎士団の訓練場を後にして、ジルベールに部屋へ送られていた。
いつもなら気配を完全に消しているニコルが一緒なのだが、ジルベール殿下が送ってくれるという事で早々に下がってしまった。
なんとも気まずい状況である。共通の話題が見つからず、エルヴィスは視線をさまよわせながら、ジルベールと肩を並べて歩く。エルヴィスよりも身長が高いからか、歩幅は全く合わない。ゆったりと美しく歩くジルベールに対して、エルヴィスは少しばかり駆け足になってしまう。
横に並んで歩いているが、普通なら王子の隣を歩けるのはその婚約者と王族のみだ。しかしエルヴィスが、王と同等の扱いだと言われても、ルーカスと血のつながっているジルベールやアイザックとは上下関係が曖昧なのだ。実際、王族の血筋ではないため王子も、完全にエルヴィスにへりくだる事は出来ない。それ程、エルヴィスの立場は歪だった。

悶々とするエルヴィスをよそに、ジルベールの歩幅は広くて直ぐに部屋についてしまいそうだった。

(結局、なにも話しかける事が出来なかった……。
アイザック殿下とは意外にも話が合う、だからたまにお茶に誘われるのだが。ジルベール殿下とはなにも接点がない、この機に何か話せたらと思っていたが。
やはり俺の事は嫌いらしい。流石にここまであからさまなら、少し歩み寄ろうとしている自分が虚しく感じるのだが……)

少しムスッとしたエルヴィスに気づかず、ジルベールはエルヴィスの部屋につく1つ前の曲がり角で、いきなり振り返った。突然の事にエルヴィスは、ジルベールのその逞しい胸に飛び込んでしまう形になる。

「わっ」

羨ましくも、背の高いジルベールとの身長差が救いだった。王子の整った綺麗な顔に痣なんてつけてしまったら、治せるとて罪悪感で死んでしまう。
と、エルヴィスは以外にも吞気で逞しい感想を、ジルベールの胸の中で思った。
その間僅か、0.5秒。

「し、失礼しました、ジルベール殿下」
「いや、こちらこそ。突然、振り返ってしまった。すまない」
「いえ、気になさらず。あはは……」

会話が続かない。
エルヴィスは乱れた身だしなみを整えて、部屋に戻ってしまおうと歩み始めた。

「エルヴィス様、今日はありがとうございました」

帰ろうとするエルヴィスに突然、ジルベールが頭を下げた。
エルヴィスは驚きつつ、頭を上げさせる。ここが部屋の前でなくて良かった。第二王子に頭を下げさせていた、なんて噂が流れてしまうところだ。誰もいないと云うのに、周囲を見回したエルヴィスはジルベールと再び向き合う。

「シルバの事でしたら、殿下が頭を下げる程の事はしておりませんので」
「いや、それだけではない。騎士達の治療についてのことです、宮廷治癒師は身分が高いだけの使えぬ者の集まりだったのが事実。
そして彼らが扱える僅かな医療行為ですら、差別思考で受けられない者がいる。皆、治癒師が複雑な身分故に、対応しかねていた。だから、貴方が声を上げてくれて助かった」

ジルベールは見たこともない穏やかな表情で、エルヴィスを見据えた。ジルベールは本当に思っているのだろう。略式的な賛辞や感謝ではなく、本心からエルヴィスに感謝している。エルヴィスは突然の事に、思考が止まっていた。

「そして、どうか今までの無礼を許して欲しい……」
「あ、え……??」

自分の思い通りにならない急な展開に、焦って意味をなさない言葉が口から出てしまう。
皇子の時に、兄サドリューから注意された記憶が蘇る。自分の予想している会話から外れても焦るなと、そんな助言が手遅れの状態で思いだされる。顔が引きつる感覚に、意識して笑顔を張り付けた。

「許してくれるだろうか……?」
「あ、あぁ……はい」

何とか取り繕ったエルヴィスを察して、ジルベールはスッといつもの仏頂面に戻る。
凄く簡単に今のジルベールの心情を言うならば、ジルベールはエルヴィスに対しての好感度が親戚のちょっとおませな子を見る感覚に近い。そう、何を根拠としてかは分からないが可愛らしい。そんな感覚に近い。

(少しでも話を出来る仲になりたいと思っていたがこれではだめだろうな。顔が一瞬にして真顔になってしまった……)

そんな事とはつゆ知らず、勝手に気まずくなるエルヴィスだった。
感想 1

あなたにおすすめの小説

処刑される悪役令息に転生したらなぜか推しの騎士団長がグイグイ近づいてくる

猫に小判
BL
交通事故で死んだはずの会社員・田中悠人は、気がつくとBL小説『恋と陰謀~はじまりは夜に~』の世界に転生していた。 しかも転生先は、原作で処刑される悪役令息エリオット。 当然そんな未来は回避したい。 原作知識を頼りに慎重に立ち回るつもりだったのに、気づけば王宮を揺るがす事件に巻き込まれていき――。 さらに困ったことに、原作で一番の推しだった騎士団長ガイウスがやたらと距離を詰めてきて……? 平穏に生きたい元悪役令息と、過保護な騎士団長がじれじれ距離を縮める話。 ガイウス(騎士団長)×エリオット(元悪役令息)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
世間に秘された名門男子校・平坂学園体育科 空手の名選手であった高尾雄一は、新任教師として赴任する 高潔な人格と鋼のように鍛えられた肉体 それは、学園にとって最高の生贄の候補に他ならなかった 至高の筋肉を持つ、精神を削られ意志をなくした青年を太古の神に捧げるため、“水”、“風”、“土”の信奉者達が暗躍する 意志をなくし筋肉の操り人形と化した“デク” 消える教師 山奥の男子校で繰り広げられるダークファンタジー

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

「お前を愛する事はない」を信じたので

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」 お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

【完結】逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。抱かれたら身代わりがばれてしまうので初夜は断固拒否します!

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
隣国の国王キリアン(アルファ)に嫁がされたオメガの王子リュカ。 しかし実は、結婚から逃げ出した双子の弟セラの身代わりなのです… 本当の花嫁じゃないとばれたら大変! だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだんキリアンに惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>