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第20話
涼実夏の励ましも虚しく、瀬戸は中々明日夏に会いに来てはくれなかった。
明日夏は思い切って、瀬戸に連絡を取ってみることにした。メールのやり取りは、手術後にしたきり取り合っていない。
明日夏は緊張して何度も打ち間違えた文章をやっと瀬戸に送った。
数分後に既読が付き、返信がきた。
【すまない。暫く見舞いには行けそうにない。でも必ず行く。それまで待っていてくれ。】
そう、書いていた。明日夏は何も教えてくれない瀬戸にまた不安感を覚えた。でも、明日夏にはそれ以上聞くことも出来ずに「分かった」とだけ返す事になった。
それを見て、落ち込んでいる様子の明日夏に気付いていた涼実夏は、それとなく明日夏に事情を聴いてみた。明日夏も涼実夏にこの寂しさをどうにかしてほしくて、すがるようにメールのやり取りを見せた。
そのやり取りを見た涼実夏は、一言「健気だねぇ。兄貴。」と言った。
明日夏は訳も分からずただその言葉を流したが、涼実夏にとっては瀬戸に向けた皮肉の言葉だったようだ。
「よし。ちょっと、出かけてくる!兄貴は俺が帰ってくるまでにその暗い顔どうにかしておいて!」
思い立った様に涼実夏は出かけてしまった。
◆◇◆◇◆
大手テレビ局の前に涼実夏は人を待っていた。待っているのは兄の思い人である、瀬戸春樹だ。涼実夏は瀬戸に明日夏の状態だけでも伝えようと、ここで待っているのだ。
まだ暑いが、夕方には冷え始めるこの季節。涼実夏は明日夏のためでなければこんな事はしないと心の中で悪態をついた。
そんな事をしているとマネージャーと一緒に瀬戸がテレビ局から出てきた。
涼実夏はすかさず車に乗り込もうとする瀬戸に声を掛けた。
「ねぇ。瀬戸春樹さん。本松明日夏の事でお話しましょーよ。」
驚いたようにこっち向いた瀬戸は、車に乗りかけたのをやめて涼実夏に近づいてきた。
「アンタがあの人の弟…?」
思ったよりも理解力のある瀬戸に涼実夏は笑ってうなずいた。
「そーだよ!ねぇ。ちょっとはなそ。兄貴が悲しんでるからさ。」
涼実夏が皮肉る様にそう言ってやると、「場所をかえるぞ」とだけ言い涼実夏を引きずり。車に放り投げた。
車での会話は一切なく、そのままついた場所は以前明日夏と言い合いになったカフェだった。
そんな偶然あるのかと、涼実夏は苦笑いを零しおとなしく来店した。
相変わらず店内は客のいないゆったりした空間が流れていた。
涼実夏と瀬戸は店内でなくテラス席に座り話をする体制をとった。
「単刀直入に聞くと、どうして兄貴に会いに行かないの?」
涼実夏は重くも軽くもない口調でそう聞いた。
すると瀬戸は難しい顔をして何かを迷っていた。そして答えを絞り出した。
「大事な仕事があるからだ…。」
「…それって兄貴よりも大事?」
間髪入れずに涼実夏は瀬戸に聞いた。瀬戸もそう聞かれるのを分かっていたかのように、次の言葉を話始めた。
「俺の受ける次のオーディションの作品が、アイツの人生を表している様な物なんだよ。だから、他の奴に中途半端に演じられるよりも。俺が魂込めて演じてやりたいと思っている。…正直まだ未解禁情報だからこの事は言いたくなかった。」
「…だから、その仕事は今病院で頑張ってる兄貴よりも大事な事…?」
涼実夏は少し瀬戸に怒っていた。今の話だと明日夏よりも、仕事の方が大事だと言っているように聞こえるからだ。
「─── ─オメガは母親によって苦しめられていた。母親の1番でいることに疲れたオメガはいつしか死ぬ事ばかり考えるようになっていた。
これが、俺が受けようとしているオーディションの作品の始まりの文だ。」
その瀬戸の言葉に涼実夏は瀬戸の言っていることが何となく気付いた。
今の瀬戸は明日夏に会いたくて堪らないのを我慢して、明日夏の分の芸能人生を歩んでいるのだと。
でないと、陽だまりの時のようにアルファがオメガの役を演じるなんて無茶なオーディションに参加しようと思わないだろう。
仕事と明日夏どっちが大切かなんて分かりきっていることを口に出さないのは、明日夏を大事にする為に仕事を本気で取り組んでいるのだと。涼実夏は思った。
「…瀬戸さん。」
「…?」
涼実夏は全てを察して瀬戸に願い事を言った。
◆◇◆◇◆
涼実夏が出かけて大分経つが中々帰ってこない。もうそのまま家に帰ってしまったのだろうか…。そう思いながら明日夏は病院食を食べていた。最初はなれなかったこの味も今となれば、美味しい。
そんな事を思っていると携帯がなった。
瀬戸からだった。明日夏は嬉しくて急いで既読を付ける。
【さっきは言葉が少なくてすまなかった。
暫く、大事なオーディションで見舞いには行けない。だけどアンタの退院日には必ず、絶対に迎えに行くから。その日までお互いに頑張ろう。】
その文章は瀬戸からのぎこちない気遣いと、次の絶対会える日の約束がされていた。それに気付いた明日夏は嬉しくて泣きそうになるのをグッと堪えて、涼実夏が言っていた事を思い出した。
── ─兄貴は俺が帰ってくるまでにその暗い顔どうにかしておいて!
また、無茶な事をしたのかと心配になったが涼実夏が言っていた通り明日夏は笑顔で可愛い弟の帰りを待つ事にした。
明日夏は思い切って、瀬戸に連絡を取ってみることにした。メールのやり取りは、手術後にしたきり取り合っていない。
明日夏は緊張して何度も打ち間違えた文章をやっと瀬戸に送った。
数分後に既読が付き、返信がきた。
【すまない。暫く見舞いには行けそうにない。でも必ず行く。それまで待っていてくれ。】
そう、書いていた。明日夏は何も教えてくれない瀬戸にまた不安感を覚えた。でも、明日夏にはそれ以上聞くことも出来ずに「分かった」とだけ返す事になった。
それを見て、落ち込んでいる様子の明日夏に気付いていた涼実夏は、それとなく明日夏に事情を聴いてみた。明日夏も涼実夏にこの寂しさをどうにかしてほしくて、すがるようにメールのやり取りを見せた。
そのやり取りを見た涼実夏は、一言「健気だねぇ。兄貴。」と言った。
明日夏は訳も分からずただその言葉を流したが、涼実夏にとっては瀬戸に向けた皮肉の言葉だったようだ。
「よし。ちょっと、出かけてくる!兄貴は俺が帰ってくるまでにその暗い顔どうにかしておいて!」
思い立った様に涼実夏は出かけてしまった。
◆◇◆◇◆
大手テレビ局の前に涼実夏は人を待っていた。待っているのは兄の思い人である、瀬戸春樹だ。涼実夏は瀬戸に明日夏の状態だけでも伝えようと、ここで待っているのだ。
まだ暑いが、夕方には冷え始めるこの季節。涼実夏は明日夏のためでなければこんな事はしないと心の中で悪態をついた。
そんな事をしているとマネージャーと一緒に瀬戸がテレビ局から出てきた。
涼実夏はすかさず車に乗り込もうとする瀬戸に声を掛けた。
「ねぇ。瀬戸春樹さん。本松明日夏の事でお話しましょーよ。」
驚いたようにこっち向いた瀬戸は、車に乗りかけたのをやめて涼実夏に近づいてきた。
「アンタがあの人の弟…?」
思ったよりも理解力のある瀬戸に涼実夏は笑ってうなずいた。
「そーだよ!ねぇ。ちょっとはなそ。兄貴が悲しんでるからさ。」
涼実夏が皮肉る様にそう言ってやると、「場所をかえるぞ」とだけ言い涼実夏を引きずり。車に放り投げた。
車での会話は一切なく、そのままついた場所は以前明日夏と言い合いになったカフェだった。
そんな偶然あるのかと、涼実夏は苦笑いを零しおとなしく来店した。
相変わらず店内は客のいないゆったりした空間が流れていた。
涼実夏と瀬戸は店内でなくテラス席に座り話をする体制をとった。
「単刀直入に聞くと、どうして兄貴に会いに行かないの?」
涼実夏は重くも軽くもない口調でそう聞いた。
すると瀬戸は難しい顔をして何かを迷っていた。そして答えを絞り出した。
「大事な仕事があるからだ…。」
「…それって兄貴よりも大事?」
間髪入れずに涼実夏は瀬戸に聞いた。瀬戸もそう聞かれるのを分かっていたかのように、次の言葉を話始めた。
「俺の受ける次のオーディションの作品が、アイツの人生を表している様な物なんだよ。だから、他の奴に中途半端に演じられるよりも。俺が魂込めて演じてやりたいと思っている。…正直まだ未解禁情報だからこの事は言いたくなかった。」
「…だから、その仕事は今病院で頑張ってる兄貴よりも大事な事…?」
涼実夏は少し瀬戸に怒っていた。今の話だと明日夏よりも、仕事の方が大事だと言っているように聞こえるからだ。
「─── ─オメガは母親によって苦しめられていた。母親の1番でいることに疲れたオメガはいつしか死ぬ事ばかり考えるようになっていた。
これが、俺が受けようとしているオーディションの作品の始まりの文だ。」
その瀬戸の言葉に涼実夏は瀬戸の言っていることが何となく気付いた。
今の瀬戸は明日夏に会いたくて堪らないのを我慢して、明日夏の分の芸能人生を歩んでいるのだと。
でないと、陽だまりの時のようにアルファがオメガの役を演じるなんて無茶なオーディションに参加しようと思わないだろう。
仕事と明日夏どっちが大切かなんて分かりきっていることを口に出さないのは、明日夏を大事にする為に仕事を本気で取り組んでいるのだと。涼実夏は思った。
「…瀬戸さん。」
「…?」
涼実夏は全てを察して瀬戸に願い事を言った。
◆◇◆◇◆
涼実夏が出かけて大分経つが中々帰ってこない。もうそのまま家に帰ってしまったのだろうか…。そう思いながら明日夏は病院食を食べていた。最初はなれなかったこの味も今となれば、美味しい。
そんな事を思っていると携帯がなった。
瀬戸からだった。明日夏は嬉しくて急いで既読を付ける。
【さっきは言葉が少なくてすまなかった。
暫く、大事なオーディションで見舞いには行けない。だけどアンタの退院日には必ず、絶対に迎えに行くから。その日までお互いに頑張ろう。】
その文章は瀬戸からのぎこちない気遣いと、次の絶対会える日の約束がされていた。それに気付いた明日夏は嬉しくて泣きそうになるのをグッと堪えて、涼実夏が言っていた事を思い出した。
── ─兄貴は俺が帰ってくるまでにその暗い顔どうにかしておいて!
また、無茶な事をしたのかと心配になったが涼実夏が言っていた通り明日夏は笑顔で可愛い弟の帰りを待つ事にした。
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