オメガは陽だまりを求めて。

佐々木 おかもと

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第27話

「ねえ。春樹。」

珍しく名前で呼んでくる明日夏に瀬戸は思わず今やっている事をやめて振り向いた。

「なんだ?」

短く返事を返すと明日夏は何かゆっくりと考えを己の中で消化しているのか、黙り込んでしまった。
それでもその言葉の先を待っていると思わぬことを言い始めた。

「俺、芸能界から身を引こうと思う。」
「は?」

思わず言葉に出たその言葉はなんの意味もなさなかったが、瀬戸の心の言葉そのものだった。意味が分からないといった顔で明日夏を見る瀬戸を明日夏は笑った。

「ははっ。そんな顔するなって。」
「いや、だって…。」
「涼実夏が新しく変わってくのを見てさ。俺も変わりたいなっておもったの。」

そう伏目がちに明日夏は言った。その顔は何処か緊張しているような、何かもどかしそうなそんな様子だった。

「でも…それだけの理由で身を引くなんて…。」

瀬戸は明日夏の思い切った行動に賛成はできない様子だった。
それでも明日夏は「理由はそれだけじゃない」と引き下がらなかった。

「何だよ。ほかの理由って?」
「……。」
「俺に言えない事?」

中々口に出そうとしない明日夏に瀬戸は困った様に問いかけた。

「……結婚したいなと。」
「へ?」

また意味のなさない言葉が瀬戸の口から出てきた。
当り前だ意味が分かっていないからだ。

「だから、結婚したいって思ってんの!」
「誰と誰が?」
「俺とお前が。」
「いつどこで?」
「だから、俺が芸能界引退したタイミングでしたいって言ってんの。」

「返事は?」と有無を言わさぬような剣幕で明日夏は瀬戸に迫った。まだ理解が追い付いていない頭で瀬戸は明日夏のプロポーズを受け入れた。

「お前なぁ…。プロポーズくらい俺から言わせろよ…。」
「いいじゃんそんなの。」
「はぁ。明日夏。」

瀬戸は明日夏の腰を抱きよせた。
軽い明日夏を膝に乗せそのまま唇をふさぐ。「んっ…」と声の漏れる愛しい番に思わず心臓が跳ねる。

「好き…。愛してる。」
「俺も…愛してる。」


◆◇◆◇◆


朝目覚めると、隣には昨日泣きはらした為目の腫れている明日夏がすやすやと寝息を穏やかにたてて寝ていた。
瀬戸はその様子を微笑ましく思い、明日夏の頭を撫でた。
すると狸寝入りをしていたのか明日夏はぱちりと目を開けた。

「ふふ。春樹君は愛しい番の頭を撫でたくなったんですね~」

明日夏は茶化すようにそう言いながら、瀬戸に擦り寄ってきた。
そんな明日夏に瀬戸は気なっていた事を聞いてみた。

「いつ芸能界引退を発表するんだ?」

すると明日夏は「今すぐにでもしてしまっても構わないけど。瀬戸の今やってる作品が終わったらにするよ」と言った。
それを聞いて瀬戸は明日夏の気遣いにプロとしてのこだわりを何となく感じた。

「分かった。婚姻届用意しないとな。」
「そっち関係は俺がやっておくよ。引退に向けて仕事をセーブしてるし。時間も作りやすくなってきた。」
「じゃあ頼むな。」

そんな会話をしていると明日夏は突然、不安気な顔をした。

「どうした?」
「お前は俺を捨てない?」

その言葉に瀬戸は明日夏の両親を恨んだ。
聞いた話では青年期を孤独に過ごしたらしい明日夏はどうにも幸せなことがあると次には、不幸な事があるのではないかと思ってしまうようだった。

「俺はお前の両親じゃねぇぞ?」

瀬戸は安心させるように胸に擦り寄ってくる明日夏を抱きしめながらそう言った。

「うん。分かってる…。でも、言ってほしい。」

そう、すがる様に言われ瀬戸は困った様に眉を寄せた。

「捨てねーよ。何があっても絶対に。」
「俺も。絶対に離れないから。俺の番。俺だけの番。」

そう言って明日夏は瀬戸な抱き着く力を強めた。

明日夏はどうしてか、瀬戸がいなくなってしまうことを恐れている。
永遠なんて無いことを明日夏自身が一番よくわかっているはずなのに、瀬戸に永遠を求めてくる。
それはまるで、温かい陽だまりを求める様に。
例えまた誰かに裏切られ、心が冷え切ったとしても愛しいアルファが隣にいる限り明日夏は前を向いていけるだろう。
そして、冷え切った心と体を温める事が出来るなら、瀬戸はいくらでもこの愛しいオメガの陽だまりになってやるだろう。





オメガは陽だまりを求めて。end.
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