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【番外編】 アルファは陽だまりを求めて。
アルファは陽だまりを求めて。【番外編】
昼下がりの街中、ロケ中の撮影班を囲むように集まるファンや見物人。
「うわー。瀬戸春樹だよ。やっぱアルファはオーラが違うなぁ。生で見てもイケメンじゃん」
「そうだなー。満足したかー?もう行くぞー」
「おい、待てよー。もう少し見てこーぜ?」
2人の男が押し問答する中、瀬戸春樹のマネージャーである御伽はその話を盗み聞きしていた。担当しているタレントの世間の評判は、多少なりとも気になるようだ。
「はぁぁあ……神様ー!来世は瀬戸春樹としてこの世に生まれたいでーす!」
そう1人の男が、天を仰ぐように言った。その話を聞いたもう1人の男は呆れて、ものを言う気も失せてしまったようだった。しかし、御伽はその気持ちを尊重した。
アルファと言う勝ち組に生まれ、芸能界でオメガへのカミングアウトのキッカケを作った人物と結婚して、子供まで出来て仕事も上手くいっているなんて、よくよく考えてみれば新人時代から比べれば自分も出世したものだと御伽は心の内で褒め讃えた。
「御伽さーん。瀬戸くん、お時間大丈夫ですか?」
御伽が頭の中で色々と考えを巡らせていたら、スタッフに呼ばれてしまった。ハッとして腕時計を確認する。
「はい、すみません。そろそろ時間ですね……!瀬戸はここで失礼しますっ」
御伽は瀬戸に声を掛けて、車を回すために近くにある駐車場に向かった。
そんな瀬戸はというと、妻である明日夏にロケが終わった事を、メッセージで報告していた。帰ってきた返事はお疲れ様のメッセージと共に、息子である光陽の様子も教えてくれる。
瀬戸は、そのやり取りに頬が緩むのを我慢し、顔を上げた先にいるファンからの、ファンサービスの要求に微笑んで軽く頭を下げる。
そんな事をしていると、御伽が車を駐車場から回してきた。瀬戸は車に乗り込むと、ファンサービスを見ていた御伽に釘を刺される。
「瀬戸くん。気持ちは分かるけど、うちの事務所はイベント等の交流の場以外でのサインや写真、ファンサービスは禁止なんだよ。トラブルを防ぐためにも守ってねー」
御伽自身はあまり気にしていない様子だが、仕事の規定違反には一応注意するマネージャーだ。瀬戸もそれがわかっているからか、「分かりました」と適当に受け流す。
「そういえば瀬戸くん。話は変わっちゃうんだけど。最近、バラエティ番組のオファーを多く貰うんだけど、そっち系の仕事も増やしてもよさそう?」
御伽はそう言って、バックミラーで瀬戸の顔をちらりと確認してから、車を発進させた。
「出演する事自体は構わないですが、帰宅時間があまりにも遅くなるとかなら、少し考えさせてください」
瀬戸は窓越しに、過ぎ去っていく風景を見ながら御伽に話した。そんな、瀬戸を見た御伽からクスリと笑いが零れた。
「光陽君ですか?」
「はい……。早く帰宅しても、俺が帰った頃には大体寝てるんですけどね……」
瀬戸は少し残念そうに苦笑いをした。そんな瀬戸すらも面白いのか、御伽はずっと下がらない口角を手で隠していた。昔の瀬戸なら、体力のもつ限り仕事を詰め込んでいただろう。
だが今は、早く家族に会いたいが為に仕事を終わらせる、子を持つ父親となった。
勿論、早く帰りたいからといっても、仕事の手は決して抜かない。それは、妻であり芸能界の先輩の明日夏が、日々成長していく瀬戸が好きだからと、仕事の手を抜くことを許してはくれないからだ。
「ところで、光陽君は元気?」
「はい、最近は車のおもちゃに興味があるみたいでずっと遊んでますね」
先程までの、ガッカリした顔は何処に行ったのかと疑問をもつほどの笑顔で瀬戸は言った。
「車のオモチャかー。懐かしい、みんなその時期を通るんだなぁ。僕も小さい頃持って離さなかったって、両親が言ってたな」
しみじみとしている御伽をよそに、瀬戸は絶え間なく明日夏と光陽の事を話した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
瀬戸は仕事が終わり、いつも通り家に帰宅する。今夜は起きている息子の顔が見れるだろうかと、少しの期待を胸に玄関のドアを開けた。
「ただいま」
「おかえり~」
疲れた様子で帰ってきた瀬戸を迎えるのは、息子である光陽を寝かし付けたばかりの妻。明日夏だった。
「お疲れ様。お風呂沸いてるよ、先に入っておいで?」
「あぁ、そうする。光陽は?」
瀬戸は、リビングの光陽の散らかした玩具を軽く片付けながら、明日夏に聞いた。そんな瀬戸を明日夏は、微笑ましそうに瀬戸に光陽の話を聞かせた。
「光陽、今日は会えるかなって楽しみにしてたんだよ。さっきまで、頑張って起きてたけど疲れてたみたいで、もう寝ちゃった」
明日夏の話を聞いて瀬戸はそっか、と込み上げてくるものを飲み込んだ。
「光陽も春樹に会えないのが寂しいみたいだから、時間が空いたら一緒に過ごしてあげてよ?」
「そうだよな。時間を作りたいのは山々なんだけど、どうしても仕事に穴が出来ないんだ」
そう残念そうにする瀬戸に明日夏は少し同情した。それでも、今自分に出来る事は無いと思い、キッチンへ瀬戸の夕食を温めに戻る。瀬戸は、さっさと風呂に入ってしまおうと服を持って脱衣所に向かった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「あ。そういえば、光陽が家族で遊園地に行きたいらしいよ?」
瀬戸が食卓に座り、食事を食べ始めると明日夏がそういった。瀬戸は光陽は幼稚園で何か、触発されたのかと思考する。
「なんか、幼稚園のお友達が遊園地に行って楽しかったって聞いて「どんな所か行ってみたい!」って言い始めたんだよね。お父さんがお仕事ない時に行こうねって言っておいた。まぁでも、春樹も忙しいから難しいだろうけど」
明日夏はココアを飲み、明日夏が立ち上げた演劇団のシフトを確認しながら言った。自分のシフトを確認しているようだった。
「時間が合うように少しマネージャーと相談してみるよ」
「そっか、分かった。無理だけはしないようにね」
明日夏の心配の声に瀬戸はああ、と短く返事をした。
◇◆◇◆◇◆◇
早速、雑誌の撮影の休憩時間に瀬戸は御伽に休日が作れないかと聞いてみた。
「うーん。作れない事も無いけど、一日空けるなら1週間は詰め込まないといけなくなるよ?」
ノートパソコンでスケジュールを確認しながら御伽は言った。瀬戸は考える事もなく「それでも大丈夫です。」と即答する。
「わかった。じゃあ、予定組み直しておくから。瀬戸くん明日からハードになるよ~?」
悪い笑みを浮かべ瀬戸をからかい、御伽はスマホを取り出しながら、先方へ連絡をしに部屋の外へ向かった。瀬戸は少し、周りを振り回しすぎているだろうかと心配になったが、明日夏からのメールが来て、その考えも打ち消される。
瀬戸からの相談を受けて、御伽は各局に連絡をして回った。
「はい。宜しくお願い致します。では、失礼します」
最後の電話を切ると、御伽はふぅっと息を吐き出した。
瀬戸のやる気につられて、自分の仕事も増やしてしまった。それでも、楽しく感じていることは確かだ。自分はあまり仕事熱心ではない為、同じ所属事務所であるマネージメントを行う同期達に比べて担当する俳優に、水を掴んで渡すような選ばれる事すら不可能に近い仕事を取ってくることなどなかった。ある意味新人に取っての取捨選択をしていた。しかし御伽はその判断こそが、担当する俳優の可能性を狭めていたのだ。それを自覚し、少し態度を改める事にしたのだった。
御伽が連絡を終え、撮影スタジオに戻る。そこには、シャッター音と共に次々とポーズを決めていく瀬戸がいた。御伽はそんな瀬戸の姿を見て、暗い気持ちになった。
瀬戸が大きくなるに連れて、街で撮影していると寄ってきたあの2人組の野次馬の様に、瀬戸に対して良い言葉をくれる人がいる。その反面、男のオメガと結婚した瀬戸を差別する声も上がっている。勿論、差別だけでは無い。そのマイナスの言葉の面には、妬みや嫉みが込められていることもある。
御伽はそんな事を思いながら、キラキラとした笑顔をカメラに向けている瀬戸を見つめていた。
「そのカメラの向こう側の人は、君にどんな言葉も言える……良くも悪くもね」
少し疲れているのかも、と御伽はコーヒーを買いに撮影スタジオを少しの間、離れる事にした。
◇◆◇◆◇◆◇
怒涛の1週間を瀬戸はやり遂げた。帰りが深夜になったり、朝になったりとハードなスケジュールの中しっかりとやり遂げる事が出来たようだ。
「光陽、お父さんが遊園地に連れていってくれるって!良かったね~」
瀬戸の運転する車に乗り、後部座席で明日夏と光陽が窓の景色を目に、楽しそうに話していた。
そんな会話を時々、バックミラー越しに盗み見ている瀬戸に明日夏が話を振った。
「春樹、昨日も遅くまで仕事だったから眠れてないだろうし、次のパーキングで運転変わるよ」
瀬戸は明日夏の提案を素直に受け入れ、次のパーキングで止まった。光陽の隣に瀬戸が座り、明日夏が運転する。瀬戸は息子との接し方が少し、ぎこちなかった。そんな瀬戸を今度は、明日夏が微笑ましく盗み見た。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
瀬戸達は入場を済ませ、園内に入る。園内は休日の為か、家族連れの客が多かった。そんな、楽しい雰囲気に満ち溢れた場所に、光陽は声を上げてはしゃいでいた。
「光陽、どれに乗る?」
明日夏が、園内地図を広げて光陽に見せた。瀬戸に抱かれたままの光陽は身を乗り出して、読めない文字とアトラクションの写真を見る。小学生以下である光陽にとって、乗る事ができるものは少ない。それでも、明日夏は保護者が付いていれば乗る事の出来るアトラクションを選んで、光陽に見せた。
明日夏の開いた地図を見ながら、光陽はキャッキャと楽しそうにアトラクションを選ぶ。そんな光景を瀬戸や明日夏は、楽しそうに見守っていた。
◆◇◆◇◆◇◆
空が暗くなり、ライトアップされた木やアトラクション。そんな光景を見ながら、疲れて寝てしまった光陽を明日夏が抱いている。綺麗な光の踊りに、瀬戸と明日夏は静かに風景を眺めた。
「実は俺、修学旅行とか仕事以外でこういう場所に来るの初めてだったんだよな」
「そうなのか?」
「うん、こんなに満喫したの初めて」
明日夏の意外な告白に瀬戸は、光に照らされた明日夏の横顔を眺める。綺麗な顔立ちは、明日夏の役者時代を感じさせる。中性的な顔つきだが、身体の線が特別細い訳では無い。確かにアルファの役者に比べて少しは細いが、それだけで明日夏の演技を否定することは出来ないだろう。
「ずっと、あの人の1番である為に生きてたから。家族と過ごした時間なんて、ひと握りしかないからさ。光陽には、無償の愛をこれでもかってほどに、注いであげたい」
そう優しい笑顔で言う明日夏に、瀬戸は胸を締め付けられる様な感覚がした。愛しい想いが溢れてしまう様な、切ない様なそんな感覚。
瀬戸は光陽を抱いている明日夏の肩を、自分の元へ引き寄せた。明日夏も素直に瀬戸に寄りかかり、体重を預ける。
「俺達、付き合って結婚するまでが短かったから、こんなデートなんてしなかったよね。周りの目も、今よりずっと厳しかったし」
「確かにな。お前も芸能活動の引退前だったりして、お互い自由が無かったから」
「まぁ、そうだけど。今度は光陽を涼実夏に預かって貰って、2人で何処か遊びに行かない?たまには2人でいる時間も作ろうよ」
「そうだな。また、時間を作るよ」
そんな会話をしていると、ドンッと大きな花火が打ち上がった。今日はテーマパークの創立記念日らしく。その為、花火が上がったそうだ赤や青、黄色と様々な色の花火が大きく舞い上がる。
すると、いつの間にか目を覚ました光陽がその光景を見て、「きれいだね!」と笑った。
光陽は大きく打ち上がる花火を自分の目線で見たいらしく、明日夏からねじれる様に降ろして貰う。
幼い我が子の記憶に今日の事が少しでも、刻まれていたらいい。そう明日夏と瀬戸は思った。
光陽や辺りの家族連れ、カップルが夜空に咲く花火に夢中の中。
花火に照らされた二つの影は、人目を盗む様に重なっていた。
昼下がりの街中、ロケ中の撮影班を囲むように集まるファンや見物人。
「うわー。瀬戸春樹だよ。やっぱアルファはオーラが違うなぁ。生で見てもイケメンじゃん」
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そう1人の男が、天を仰ぐように言った。その話を聞いたもう1人の男は呆れて、ものを言う気も失せてしまったようだった。しかし、御伽はその気持ちを尊重した。
アルファと言う勝ち組に生まれ、芸能界でオメガへのカミングアウトのキッカケを作った人物と結婚して、子供まで出来て仕事も上手くいっているなんて、よくよく考えてみれば新人時代から比べれば自分も出世したものだと御伽は心の内で褒め讃えた。
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御伽が頭の中で色々と考えを巡らせていたら、スタッフに呼ばれてしまった。ハッとして腕時計を確認する。
「はい、すみません。そろそろ時間ですね……!瀬戸はここで失礼しますっ」
御伽は瀬戸に声を掛けて、車を回すために近くにある駐車場に向かった。
そんな瀬戸はというと、妻である明日夏にロケが終わった事を、メッセージで報告していた。帰ってきた返事はお疲れ様のメッセージと共に、息子である光陽の様子も教えてくれる。
瀬戸は、そのやり取りに頬が緩むのを我慢し、顔を上げた先にいるファンからの、ファンサービスの要求に微笑んで軽く頭を下げる。
そんな事をしていると、御伽が車を駐車場から回してきた。瀬戸は車に乗り込むと、ファンサービスを見ていた御伽に釘を刺される。
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御伽自身はあまり気にしていない様子だが、仕事の規定違反には一応注意するマネージャーだ。瀬戸もそれがわかっているからか、「分かりました」と適当に受け流す。
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御伽はそう言って、バックミラーで瀬戸の顔をちらりと確認してから、車を発進させた。
「出演する事自体は構わないですが、帰宅時間があまりにも遅くなるとかなら、少し考えさせてください」
瀬戸は窓越しに、過ぎ去っていく風景を見ながら御伽に話した。そんな、瀬戸を見た御伽からクスリと笑いが零れた。
「光陽君ですか?」
「はい……。早く帰宅しても、俺が帰った頃には大体寝てるんですけどね……」
瀬戸は少し残念そうに苦笑いをした。そんな瀬戸すらも面白いのか、御伽はずっと下がらない口角を手で隠していた。昔の瀬戸なら、体力のもつ限り仕事を詰め込んでいただろう。
だが今は、早く家族に会いたいが為に仕事を終わらせる、子を持つ父親となった。
勿論、早く帰りたいからといっても、仕事の手は決して抜かない。それは、妻であり芸能界の先輩の明日夏が、日々成長していく瀬戸が好きだからと、仕事の手を抜くことを許してはくれないからだ。
「ところで、光陽君は元気?」
「はい、最近は車のおもちゃに興味があるみたいでずっと遊んでますね」
先程までの、ガッカリした顔は何処に行ったのかと疑問をもつほどの笑顔で瀬戸は言った。
「車のオモチャかー。懐かしい、みんなその時期を通るんだなぁ。僕も小さい頃持って離さなかったって、両親が言ってたな」
しみじみとしている御伽をよそに、瀬戸は絶え間なく明日夏と光陽の事を話した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
瀬戸は仕事が終わり、いつも通り家に帰宅する。今夜は起きている息子の顔が見れるだろうかと、少しの期待を胸に玄関のドアを開けた。
「ただいま」
「おかえり~」
疲れた様子で帰ってきた瀬戸を迎えるのは、息子である光陽を寝かし付けたばかりの妻。明日夏だった。
「お疲れ様。お風呂沸いてるよ、先に入っておいで?」
「あぁ、そうする。光陽は?」
瀬戸は、リビングの光陽の散らかした玩具を軽く片付けながら、明日夏に聞いた。そんな瀬戸を明日夏は、微笑ましそうに瀬戸に光陽の話を聞かせた。
「光陽、今日は会えるかなって楽しみにしてたんだよ。さっきまで、頑張って起きてたけど疲れてたみたいで、もう寝ちゃった」
明日夏の話を聞いて瀬戸はそっか、と込み上げてくるものを飲み込んだ。
「光陽も春樹に会えないのが寂しいみたいだから、時間が空いたら一緒に過ごしてあげてよ?」
「そうだよな。時間を作りたいのは山々なんだけど、どうしても仕事に穴が出来ないんだ」
そう残念そうにする瀬戸に明日夏は少し同情した。それでも、今自分に出来る事は無いと思い、キッチンへ瀬戸の夕食を温めに戻る。瀬戸は、さっさと風呂に入ってしまおうと服を持って脱衣所に向かった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「あ。そういえば、光陽が家族で遊園地に行きたいらしいよ?」
瀬戸が食卓に座り、食事を食べ始めると明日夏がそういった。瀬戸は光陽は幼稚園で何か、触発されたのかと思考する。
「なんか、幼稚園のお友達が遊園地に行って楽しかったって聞いて「どんな所か行ってみたい!」って言い始めたんだよね。お父さんがお仕事ない時に行こうねって言っておいた。まぁでも、春樹も忙しいから難しいだろうけど」
明日夏はココアを飲み、明日夏が立ち上げた演劇団のシフトを確認しながら言った。自分のシフトを確認しているようだった。
「時間が合うように少しマネージャーと相談してみるよ」
「そっか、分かった。無理だけはしないようにね」
明日夏の心配の声に瀬戸はああ、と短く返事をした。
◇◆◇◆◇◆◇
早速、雑誌の撮影の休憩時間に瀬戸は御伽に休日が作れないかと聞いてみた。
「うーん。作れない事も無いけど、一日空けるなら1週間は詰め込まないといけなくなるよ?」
ノートパソコンでスケジュールを確認しながら御伽は言った。瀬戸は考える事もなく「それでも大丈夫です。」と即答する。
「わかった。じゃあ、予定組み直しておくから。瀬戸くん明日からハードになるよ~?」
悪い笑みを浮かべ瀬戸をからかい、御伽はスマホを取り出しながら、先方へ連絡をしに部屋の外へ向かった。瀬戸は少し、周りを振り回しすぎているだろうかと心配になったが、明日夏からのメールが来て、その考えも打ち消される。
瀬戸からの相談を受けて、御伽は各局に連絡をして回った。
「はい。宜しくお願い致します。では、失礼します」
最後の電話を切ると、御伽はふぅっと息を吐き出した。
瀬戸のやる気につられて、自分の仕事も増やしてしまった。それでも、楽しく感じていることは確かだ。自分はあまり仕事熱心ではない為、同じ所属事務所であるマネージメントを行う同期達に比べて担当する俳優に、水を掴んで渡すような選ばれる事すら不可能に近い仕事を取ってくることなどなかった。ある意味新人に取っての取捨選択をしていた。しかし御伽はその判断こそが、担当する俳優の可能性を狭めていたのだ。それを自覚し、少し態度を改める事にしたのだった。
御伽が連絡を終え、撮影スタジオに戻る。そこには、シャッター音と共に次々とポーズを決めていく瀬戸がいた。御伽はそんな瀬戸の姿を見て、暗い気持ちになった。
瀬戸が大きくなるに連れて、街で撮影していると寄ってきたあの2人組の野次馬の様に、瀬戸に対して良い言葉をくれる人がいる。その反面、男のオメガと結婚した瀬戸を差別する声も上がっている。勿論、差別だけでは無い。そのマイナスの言葉の面には、妬みや嫉みが込められていることもある。
御伽はそんな事を思いながら、キラキラとした笑顔をカメラに向けている瀬戸を見つめていた。
「そのカメラの向こう側の人は、君にどんな言葉も言える……良くも悪くもね」
少し疲れているのかも、と御伽はコーヒーを買いに撮影スタジオを少しの間、離れる事にした。
◇◆◇◆◇◆◇
怒涛の1週間を瀬戸はやり遂げた。帰りが深夜になったり、朝になったりとハードなスケジュールの中しっかりとやり遂げる事が出来たようだ。
「光陽、お父さんが遊園地に連れていってくれるって!良かったね~」
瀬戸の運転する車に乗り、後部座席で明日夏と光陽が窓の景色を目に、楽しそうに話していた。
そんな会話を時々、バックミラー越しに盗み見ている瀬戸に明日夏が話を振った。
「春樹、昨日も遅くまで仕事だったから眠れてないだろうし、次のパーキングで運転変わるよ」
瀬戸は明日夏の提案を素直に受け入れ、次のパーキングで止まった。光陽の隣に瀬戸が座り、明日夏が運転する。瀬戸は息子との接し方が少し、ぎこちなかった。そんな瀬戸を今度は、明日夏が微笑ましく盗み見た。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
瀬戸達は入場を済ませ、園内に入る。園内は休日の為か、家族連れの客が多かった。そんな、楽しい雰囲気に満ち溢れた場所に、光陽は声を上げてはしゃいでいた。
「光陽、どれに乗る?」
明日夏が、園内地図を広げて光陽に見せた。瀬戸に抱かれたままの光陽は身を乗り出して、読めない文字とアトラクションの写真を見る。小学生以下である光陽にとって、乗る事ができるものは少ない。それでも、明日夏は保護者が付いていれば乗る事の出来るアトラクションを選んで、光陽に見せた。
明日夏の開いた地図を見ながら、光陽はキャッキャと楽しそうにアトラクションを選ぶ。そんな光景を瀬戸や明日夏は、楽しそうに見守っていた。
◆◇◆◇◆◇◆
空が暗くなり、ライトアップされた木やアトラクション。そんな光景を見ながら、疲れて寝てしまった光陽を明日夏が抱いている。綺麗な光の踊りに、瀬戸と明日夏は静かに風景を眺めた。
「実は俺、修学旅行とか仕事以外でこういう場所に来るの初めてだったんだよな」
「そうなのか?」
「うん、こんなに満喫したの初めて」
明日夏の意外な告白に瀬戸は、光に照らされた明日夏の横顔を眺める。綺麗な顔立ちは、明日夏の役者時代を感じさせる。中性的な顔つきだが、身体の線が特別細い訳では無い。確かにアルファの役者に比べて少しは細いが、それだけで明日夏の演技を否定することは出来ないだろう。
「ずっと、あの人の1番である為に生きてたから。家族と過ごした時間なんて、ひと握りしかないからさ。光陽には、無償の愛をこれでもかってほどに、注いであげたい」
そう優しい笑顔で言う明日夏に、瀬戸は胸を締め付けられる様な感覚がした。愛しい想いが溢れてしまう様な、切ない様なそんな感覚。
瀬戸は光陽を抱いている明日夏の肩を、自分の元へ引き寄せた。明日夏も素直に瀬戸に寄りかかり、体重を預ける。
「俺達、付き合って結婚するまでが短かったから、こんなデートなんてしなかったよね。周りの目も、今よりずっと厳しかったし」
「確かにな。お前も芸能活動の引退前だったりして、お互い自由が無かったから」
「まぁ、そうだけど。今度は光陽を涼実夏に預かって貰って、2人で何処か遊びに行かない?たまには2人でいる時間も作ろうよ」
「そうだな。また、時間を作るよ」
そんな会話をしていると、ドンッと大きな花火が打ち上がった。今日はテーマパークの創立記念日らしく。その為、花火が上がったそうだ赤や青、黄色と様々な色の花火が大きく舞い上がる。
すると、いつの間にか目を覚ました光陽がその光景を見て、「きれいだね!」と笑った。
光陽は大きく打ち上がる花火を自分の目線で見たいらしく、明日夏からねじれる様に降ろして貰う。
幼い我が子の記憶に今日の事が少しでも、刻まれていたらいい。そう明日夏と瀬戸は思った。
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※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。
三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。