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第三部
第六章・ロミオとジュリエット(その10)
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文化祭から一夜明けた翌日は、午前中に生徒たちが校内の後片付けを済ませた後で、午後になってイベントを行った部活やクラスごとに分かれて打ち上げを行うのが習わしである。劇を行った一年桜組のメンバーも、当然打ち上げを行うことになった。
俳優として劇に参加したメンバーだけでなく、音響や照明、衣裳や道具作りを担当した生徒たちも打ち上げの輪の中に加わってジュースで乾杯したが、その中にはクラス担任の美咲も姿を見せていた。美咲は生徒たちが協力して劇をやりとげたことに対して、満足そうな表情をしていた。
「今度の劇ではみんなよくがんばったわね。寺島さんは脚本だけでなく、劇全体のプロデューサーとして演技の細かいところにまで目を配ってくれたし、峰山さんはチーム全体のまとめ役としてみんなを引っ張ってくれたわ。そうやってみんなが協力し合ったからこそ、舞台の上でみんなが持てる力を出せたんじゃないかしら」
しかしこの打ち上げの場にいた生徒たちの中でも、ロミオ役の光瑠が皆の一番の注目を集めていたことは言う間でもない。光瑠もそのような生徒みんなの視線を感じたのか、どこか落着きのない、気まずそうな表情をしていた。潮音もちらちらとそのような光瑠の表情を横目で見ると、どこかもやもやした気分になった。
打ち上げの間、ずっと盛り上げ役になっていたのは、自らもティボルトの役で劇に出演していた天野美鈴だった。美鈴はジュースの入った紙コップを手にしながら、すっかりご機嫌な表情をしていた。
「うちも劇で男役やるのなんか初めてやったし、練習はちょっとしんどいと思ったこともあったけど、やってみて楽しかったわ。ステージでお笑いをやっとったグループもあって、それもけっこう面白そうやったけどな」
「来年の文化祭は美鈴がお笑いをやってみたらどうだよ」
潮音の言葉に、美鈴は笑顔で応えた。
「それもええな。でもそのときは潮音も一緒に出てコンビを組まへん?」
潮音は自分が美鈴と一緒に舞台の上でお笑いをやっているところを想像して、少し顔を赤らめてしまった。そこで潮音と美鈴の会話をはたで聞いていた長束恭子も身を乗り出してきた。
「潮音と美鈴のお笑い、私も楽しみやわあ。来年の文化祭はこれでやればええやん」
恭子までもがニコニコしながら話すのを聞いて、潮音はますますいやそうな顔をした。
その間にも劇に出演したり、様々な役職で劇に参加したりした生徒たちが順番にコメントを行っていたが、それもいよいよ順番が一巡りして、ジュリエット役の潮音の番が回ってきた。潮音がみんなの前に立つのをためらっていると、美鈴と恭子が元気よく潮音の肩を叩いてやった。
「ほら、主役が出えへんと始まらへんで」
そこでようやく潮音が生徒たちの前に立つと、割れるような拍手が潮音を包んだ。潮音は口を開いたときも、顔色や身振りから気恥ずかしさが抜けないようだった。
「あ、あの…私が主役のジュリエットをやるなんて不安だったけど、みんなが協力してくれたおかげでなんとかやりとげることができました。どうもありがとうございます」
潮音がもじもじしながらお礼を述べると、担任の美咲がじれったそうに声をあげた。
「藤坂さん、あなたは自分からジュリエットの役に名乗り出て、ちゃんとその役をやり遂げたのでしょ。みんな藤坂さんの演技に見入っていたわよ。もっと自信を持ってしっかりしなさい」
そこで潮音は、あらためて周囲の生徒たちの顔を見返した。彼女たちは皆、美咲の言うことに同感だとでも言いたげな表情で、潮音の顔を見ていた。そこで潮音ももはや後には退けないと思って、姿勢を正すとあらためて口を開いた。
「私はこれまで引っ込み思案で、自分に自信が持てないでいました。そんな自分を変えたいと思ってジュリエットの役に立候補したけれども、練習は苦労の連続でした。でもこのようにしてみんなが自分を受け入れてくれてこんなに拍手までくれて、この役をやって本当に良かったと思います」
そのように語る潮音の目には、うっすらと涙が浮んでいた。生徒たちは皆潮音のコメントを聞いて一斉に歓声を上げたが、その中で紫や光瑠は、潮音の顔を感慨深げな表情で見つめていた。潮音はこのとき、自分の演技をクラスのみんなも受け入れてくれたという確かな手ごたえを内心で感じていたが、その一方で今手芸部の打ち上げに参加している暁子が今この場にいたら、いったいどんな顔をしているだろうかとも思っていた。
そして劇の参加者たちのコメントも、ロミオ役の光瑠の番で最後となった。光瑠が生徒たちの前に立つと、生徒たちは皆静まり返って息を飲んだ。
それでもはじめは生徒たちの熱い視線に当惑しているかのように見えた光瑠も、いざ生徒たちの前に立つと、クラスの皆が劇を支え応援してくれたことへの感謝の意をはっきりとした口調で伝えていた。潮音は光瑠の落ち着いて堂々とした態度を見て、自分などはまだまだだと気後れを感じずにはいられなかった。
しかしそこで、光瑠と潮音にもう一度劇の場面をこの場でやってほしいという声が生徒の間から上がった。潮音は気恥ずかしさを覚える間もなく、光瑠と二人で人だかりの前に立たされていた。そこで潮音は覚悟を決めると、その場でジュリエットのセリフを言ってみせた。
「ああ、ロミオ様、ロミオ様! なぜロミオ様でいらっしゃいますの、あなたは?」
それに対して光瑠も、まじまじと潮音を見つめながら応えてみせた。
「ただ一言、僕を恋人と呼んで下さい。すれば新しく洗礼を受けたも同様、今日からはもう、たえてロミオではなくなります」
潮音は今このセリフを口にしている光瑠が、劇の衣裳ではなく制服姿なのに、かえってどぎまぎさせられた。その場に居合わせた生徒たちの多くは、潮音のジュリエットよりもむしろ、落ち着いたよく通る声でロミオのセリフを言う光瑠に熱い視線を向けているようで、光瑠がセリフを口にした途端に歓声と拍手が上がった。担任の美咲までもが、盛り上がっている生徒たちの様子をどこか感慨深そうな顔でじっと眺めていた。
ちょうどそこに、愛里紗たち楓組の生徒たちがあいさつをしに現れた。紫や光瑠は、楓組の演じた「嵐が丘」の劇、特に主演のヒースクリフを演じた愛里紗の演技をほめそやしたが、愛里紗は光瑠のロミオに比べたら自分などまだまだだと手を振った。
しかしそこでも、生徒たちの間からもう一度劇の見せ場をやってほしいという声が上がったので、愛里紗は一呼吸おいてヒースクリフのセリフの一節を腹の底から読み上げた。
「おまえの姿の見えないこんなどん底にだけは残していかないでくれ! ちくしょう! どう言えばいいんだ! 自分の命なしには生きていけない! 自分の魂なしに生きていけるわけがないんだ!」
その愛里紗の迫真の演技には、桜組の生徒たちもみな見入っていた。潮音はこの愛里紗の、ストレートに感情をぶつける演技を見ながら、愛里紗はそのまま紫のライバルとして切磋琢磨し合ってほしいと思うと同時に、自分も愛里紗には負けていられないと意を新たにしていた。
やがて打ち上げが一段落し、後片付けを済ませると、潮音はどこか精神的に疲れを覚えていた。紫はそのような潮音の様子を、敏感に感じ取っていた。
「お疲れ様。潮音にとって、劇の主役はあまり経験したことがなかったので、やはりちょっと疲れたみたいね」
「ああ、演技そのものもそうだけど、それよりもみんなの視線の方が気になったよ…。でも紫も、バレエの発表会とかの後はいつもこんな、演技が終ってほっとするのと同時に、今まで取り組んできた目標がなくなって何か寂しいものを感じるような、そんな気持ちになるのかな」
「確かにそれはあるかもね。でも私の場合は、そうなったらすぐ次の目標があるからね」
「やはり紫はすごいよ…。私なんか全然かなわないよ」
「潮音は無理をしないで、少しゆっくり休んだ方がいいわ。そうだ、明日は振替で休みだから、私の家でお泊り会しない? いっぺん家に帰って、着替え持って私の家に来てよ」
潮音は紫の家で夜中まで遊ぶことになるのかと思うと、楽しみに思う反面、これからどんなことになるのか不安になる気持ちも同時に芽生えていた。しかし紫はそのような潮音の気持ちを知ってか知らずか、光瑠や琴絵にも声をかけていた。そして光瑠と琴絵もその紫の提案を承諾し、紫の家に潮音たち三人が泊まることになった。潮音はますます、紫たちの前でどのように接すればいいのか戸惑わずにはいられなかった。
そして潮音が帰宅しようとした時、美咲が潮音を呼びとめた。
「藤坂さんもジュリエットの役をよくやったじゃない。それにしても四月に藤坂さんが入学したときには、正直に言って不安もあったわ。でもあなたはこの学校で、みんなと十分うまくやってるじゃない」
潮音は美咲にまでこのように言われると、照れくさい思いがしてならなかった。
「そんな…自分はただ、目の前にあることをちゃんとやろう、みんなから遅れを取らないようにしようと頑張ってきただけです。テストの点なんかさっぱりだし…」
「そりゃ藤坂さんは、テストの点を見ていると勉強ももっと頑張ってほしいけど…でもそのような姿勢で頑張ってきたからこそ、みんなも藤坂さんのことを認めてくれたということじゃないかしら。ともかく藤坂さんは、もっと自分に自信を持ちなさい。先生も劇の練習を時々見てたけど、藤坂さんの演技は最初こそ全然慣れていなかったけれども、練習を重ねるにつれてうまくなっていくのが見ててもわかったわよ」
潮音が美咲と別れて靴箱に向かうと、手芸部の打ち上げを終えた暁子とばったり出会った。そこで潮音が、自分が紫からお泊り会に誘われたことを話すと、暁子は複雑そうな顔をした。
そこで潮音は、思い切って暁子もお泊り会に誘うことにした。潮音は紫の家のスペースだったらもう一人くらいは泊れそうだし、紫だっていやな顔はしないだろうという確信があった。実際に潮音がスマホを取り出して、SNSで紫に暁子もお泊り会に参加してもいいか尋ねてみると、紫もそれを快諾した。
「あたしが峰山さんの家に行くのは、五月にパーティーに誘われて以来だよね」
暁子は紫の家でのお泊り会に行くのを楽しみにしているようだった。しかし潮音はたしかに自分自身、暁子の祖父の家に優菜と泊りに行ったりもしたものの、これから暁子が紫の家に泊りにいったらどうなるかという一抹の不安も、内心から抜けなかった。
俳優として劇に参加したメンバーだけでなく、音響や照明、衣裳や道具作りを担当した生徒たちも打ち上げの輪の中に加わってジュースで乾杯したが、その中にはクラス担任の美咲も姿を見せていた。美咲は生徒たちが協力して劇をやりとげたことに対して、満足そうな表情をしていた。
「今度の劇ではみんなよくがんばったわね。寺島さんは脚本だけでなく、劇全体のプロデューサーとして演技の細かいところにまで目を配ってくれたし、峰山さんはチーム全体のまとめ役としてみんなを引っ張ってくれたわ。そうやってみんなが協力し合ったからこそ、舞台の上でみんなが持てる力を出せたんじゃないかしら」
しかしこの打ち上げの場にいた生徒たちの中でも、ロミオ役の光瑠が皆の一番の注目を集めていたことは言う間でもない。光瑠もそのような生徒みんなの視線を感じたのか、どこか落着きのない、気まずそうな表情をしていた。潮音もちらちらとそのような光瑠の表情を横目で見ると、どこかもやもやした気分になった。
打ち上げの間、ずっと盛り上げ役になっていたのは、自らもティボルトの役で劇に出演していた天野美鈴だった。美鈴はジュースの入った紙コップを手にしながら、すっかりご機嫌な表情をしていた。
「うちも劇で男役やるのなんか初めてやったし、練習はちょっとしんどいと思ったこともあったけど、やってみて楽しかったわ。ステージでお笑いをやっとったグループもあって、それもけっこう面白そうやったけどな」
「来年の文化祭は美鈴がお笑いをやってみたらどうだよ」
潮音の言葉に、美鈴は笑顔で応えた。
「それもええな。でもそのときは潮音も一緒に出てコンビを組まへん?」
潮音は自分が美鈴と一緒に舞台の上でお笑いをやっているところを想像して、少し顔を赤らめてしまった。そこで潮音と美鈴の会話をはたで聞いていた長束恭子も身を乗り出してきた。
「潮音と美鈴のお笑い、私も楽しみやわあ。来年の文化祭はこれでやればええやん」
恭子までもがニコニコしながら話すのを聞いて、潮音はますますいやそうな顔をした。
その間にも劇に出演したり、様々な役職で劇に参加したりした生徒たちが順番にコメントを行っていたが、それもいよいよ順番が一巡りして、ジュリエット役の潮音の番が回ってきた。潮音がみんなの前に立つのをためらっていると、美鈴と恭子が元気よく潮音の肩を叩いてやった。
「ほら、主役が出えへんと始まらへんで」
そこでようやく潮音が生徒たちの前に立つと、割れるような拍手が潮音を包んだ。潮音は口を開いたときも、顔色や身振りから気恥ずかしさが抜けないようだった。
「あ、あの…私が主役のジュリエットをやるなんて不安だったけど、みんなが協力してくれたおかげでなんとかやりとげることができました。どうもありがとうございます」
潮音がもじもじしながらお礼を述べると、担任の美咲がじれったそうに声をあげた。
「藤坂さん、あなたは自分からジュリエットの役に名乗り出て、ちゃんとその役をやり遂げたのでしょ。みんな藤坂さんの演技に見入っていたわよ。もっと自信を持ってしっかりしなさい」
そこで潮音は、あらためて周囲の生徒たちの顔を見返した。彼女たちは皆、美咲の言うことに同感だとでも言いたげな表情で、潮音の顔を見ていた。そこで潮音ももはや後には退けないと思って、姿勢を正すとあらためて口を開いた。
「私はこれまで引っ込み思案で、自分に自信が持てないでいました。そんな自分を変えたいと思ってジュリエットの役に立候補したけれども、練習は苦労の連続でした。でもこのようにしてみんなが自分を受け入れてくれてこんなに拍手までくれて、この役をやって本当に良かったと思います」
そのように語る潮音の目には、うっすらと涙が浮んでいた。生徒たちは皆潮音のコメントを聞いて一斉に歓声を上げたが、その中で紫や光瑠は、潮音の顔を感慨深げな表情で見つめていた。潮音はこのとき、自分の演技をクラスのみんなも受け入れてくれたという確かな手ごたえを内心で感じていたが、その一方で今手芸部の打ち上げに参加している暁子が今この場にいたら、いったいどんな顔をしているだろうかとも思っていた。
そして劇の参加者たちのコメントも、ロミオ役の光瑠の番で最後となった。光瑠が生徒たちの前に立つと、生徒たちは皆静まり返って息を飲んだ。
それでもはじめは生徒たちの熱い視線に当惑しているかのように見えた光瑠も、いざ生徒たちの前に立つと、クラスの皆が劇を支え応援してくれたことへの感謝の意をはっきりとした口調で伝えていた。潮音は光瑠の落ち着いて堂々とした態度を見て、自分などはまだまだだと気後れを感じずにはいられなかった。
しかしそこで、光瑠と潮音にもう一度劇の場面をこの場でやってほしいという声が生徒の間から上がった。潮音は気恥ずかしさを覚える間もなく、光瑠と二人で人だかりの前に立たされていた。そこで潮音は覚悟を決めると、その場でジュリエットのセリフを言ってみせた。
「ああ、ロミオ様、ロミオ様! なぜロミオ様でいらっしゃいますの、あなたは?」
それに対して光瑠も、まじまじと潮音を見つめながら応えてみせた。
「ただ一言、僕を恋人と呼んで下さい。すれば新しく洗礼を受けたも同様、今日からはもう、たえてロミオではなくなります」
潮音は今このセリフを口にしている光瑠が、劇の衣裳ではなく制服姿なのに、かえってどぎまぎさせられた。その場に居合わせた生徒たちの多くは、潮音のジュリエットよりもむしろ、落ち着いたよく通る声でロミオのセリフを言う光瑠に熱い視線を向けているようで、光瑠がセリフを口にした途端に歓声と拍手が上がった。担任の美咲までもが、盛り上がっている生徒たちの様子をどこか感慨深そうな顔でじっと眺めていた。
ちょうどそこに、愛里紗たち楓組の生徒たちがあいさつをしに現れた。紫や光瑠は、楓組の演じた「嵐が丘」の劇、特に主演のヒースクリフを演じた愛里紗の演技をほめそやしたが、愛里紗は光瑠のロミオに比べたら自分などまだまだだと手を振った。
しかしそこでも、生徒たちの間からもう一度劇の見せ場をやってほしいという声が上がったので、愛里紗は一呼吸おいてヒースクリフのセリフの一節を腹の底から読み上げた。
「おまえの姿の見えないこんなどん底にだけは残していかないでくれ! ちくしょう! どう言えばいいんだ! 自分の命なしには生きていけない! 自分の魂なしに生きていけるわけがないんだ!」
その愛里紗の迫真の演技には、桜組の生徒たちもみな見入っていた。潮音はこの愛里紗の、ストレートに感情をぶつける演技を見ながら、愛里紗はそのまま紫のライバルとして切磋琢磨し合ってほしいと思うと同時に、自分も愛里紗には負けていられないと意を新たにしていた。
やがて打ち上げが一段落し、後片付けを済ませると、潮音はどこか精神的に疲れを覚えていた。紫はそのような潮音の様子を、敏感に感じ取っていた。
「お疲れ様。潮音にとって、劇の主役はあまり経験したことがなかったので、やはりちょっと疲れたみたいね」
「ああ、演技そのものもそうだけど、それよりもみんなの視線の方が気になったよ…。でも紫も、バレエの発表会とかの後はいつもこんな、演技が終ってほっとするのと同時に、今まで取り組んできた目標がなくなって何か寂しいものを感じるような、そんな気持ちになるのかな」
「確かにそれはあるかもね。でも私の場合は、そうなったらすぐ次の目標があるからね」
「やはり紫はすごいよ…。私なんか全然かなわないよ」
「潮音は無理をしないで、少しゆっくり休んだ方がいいわ。そうだ、明日は振替で休みだから、私の家でお泊り会しない? いっぺん家に帰って、着替え持って私の家に来てよ」
潮音は紫の家で夜中まで遊ぶことになるのかと思うと、楽しみに思う反面、これからどんなことになるのか不安になる気持ちも同時に芽生えていた。しかし紫はそのような潮音の気持ちを知ってか知らずか、光瑠や琴絵にも声をかけていた。そして光瑠と琴絵もその紫の提案を承諾し、紫の家に潮音たち三人が泊まることになった。潮音はますます、紫たちの前でどのように接すればいいのか戸惑わずにはいられなかった。
そして潮音が帰宅しようとした時、美咲が潮音を呼びとめた。
「藤坂さんもジュリエットの役をよくやったじゃない。それにしても四月に藤坂さんが入学したときには、正直に言って不安もあったわ。でもあなたはこの学校で、みんなと十分うまくやってるじゃない」
潮音は美咲にまでこのように言われると、照れくさい思いがしてならなかった。
「そんな…自分はただ、目の前にあることをちゃんとやろう、みんなから遅れを取らないようにしようと頑張ってきただけです。テストの点なんかさっぱりだし…」
「そりゃ藤坂さんは、テストの点を見ていると勉強ももっと頑張ってほしいけど…でもそのような姿勢で頑張ってきたからこそ、みんなも藤坂さんのことを認めてくれたということじゃないかしら。ともかく藤坂さんは、もっと自分に自信を持ちなさい。先生も劇の練習を時々見てたけど、藤坂さんの演技は最初こそ全然慣れていなかったけれども、練習を重ねるにつれてうまくなっていくのが見ててもわかったわよ」
潮音が美咲と別れて靴箱に向かうと、手芸部の打ち上げを終えた暁子とばったり出会った。そこで潮音が、自分が紫からお泊り会に誘われたことを話すと、暁子は複雑そうな顔をした。
そこで潮音は、思い切って暁子もお泊り会に誘うことにした。潮音は紫の家のスペースだったらもう一人くらいは泊れそうだし、紫だっていやな顔はしないだろうという確信があった。実際に潮音がスマホを取り出して、SNSで紫に暁子もお泊り会に参加してもいいか尋ねてみると、紫もそれを快諾した。
「あたしが峰山さんの家に行くのは、五月にパーティーに誘われて以来だよね」
暁子は紫の家でのお泊り会に行くのを楽しみにしているようだった。しかし潮音はたしかに自分自身、暁子の祖父の家に優菜と泊りに行ったりもしたものの、これから暁子が紫の家に泊りにいったらどうなるかという一抹の不安も、内心から抜けなかった。
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