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第四部
第三章・くるみ割り人形(その6)
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潮音が昇と連れ立って駅から自宅への道を歩み始めたときには、夕焼けが消えかけて辺りはすっかり暗くなり、街路樹に取り付けられたイルミネーションがまたたき始めていただけでなく、通り沿いにもイルミネーションで飾りつけた家があった。そして寒さが身にしみるようになっていたので、潮音と昇は足早に家に戻ることにした。
潮音が自宅の玄関口の前で昇に手を振って別れの挨拶をし、自宅の玄関のドアを開けて家に入った途端、いきなり家の中から歓声が上がった。潮音がいったい何があったのかと戸惑う間もなく、暁子と優菜の二人が玄関口の潮音のそばにまで駆け寄ってきて、クラッカーのひもを引くと辺りに紙吹雪が舞った。そして暁子はサンタクロースの赤い帽子をかぶり、優菜はトナカイの角をかたどったカチューシャを頭につけて、二人とも楽しそうにウキウキしていた。
「メリークリスマス」
暁子と優菜から不意打ちのような歓迎を受けて、潮音はただ呆気に取られながらその場に立ちすくんでいた。暁子と優菜はそのような潮音の背中を押して、そのまま居間に連れて行った。するとテーブルにはチキンをはじめとする料理やケーキが並べられ、室内も華やかに飾りつけがなされていた。
「これはいったいどうしたんだよ」
潮音が落ち着かない様子できょろきょろと辺りを見回していると、綾乃がその場に現れた。潮音が尋ねる間もなく、綾乃がご機嫌そうに口を開いた。
「あんたが出かけてから後で、暁子ちゃんや優菜ちゃんにも来てもらってクリスマスパーティーの準備をしてたのよ。あんたには内緒でね。母さんも『子どもたちの邪魔しちゃ悪いわね。今日くらいは夫婦水入らずで過ごしたらどうかしら』と言って、父さんを連れて映画とレストランに行ったし。せっかくだから、今日はみんなで楽しいパーティーにしましょ」
しかしそれでも、潮音の表情からはためらいやわだかまりの色が消えなかった。そのような潮音の様子を見て、綾乃は言葉を継いだ。
「あんた、ちょっと前に暁子ちゃんとケンカして、それ以来ずっと仲直りもできずにいたんでしょ。でもそのことだったら気にしなくていいよ。暁子ちゃんだって全然気にしてないし、仲直りしたいけど自分から言い出せずにもどかしい思いをしてたのは、暁子ちゃんだって一緒だから」
そこで潮音がちらりと暁子に視線を向けると、先ほどまで明るく振舞っていた暁子も、どこか気まずそうな表情をして潮音と顔を合わそうとしなかった。するとそばにいた優菜が、そのような暁子の様子を見るとじれったそうに暁子を潮音に向かわせた。
「いいかげんにアッコも、しょうもない意地ばっかり張っとらへんで素直になりよ。せっかくのクリスマスパーティーなんやから、みんなで楽しい気分にならな」
そこで潮音は優菜の顔を見て言った。
「もしかしてこのパーティーをやろうと言い出したのは優菜なのかよ」
「提案したのはあたしやけど、それを潮音のお姉ちゃんに相談したらすっかり乗り気になったからね。そうやって潮音が今日彼氏と一緒に出かけてから後に秘密で準備しとったわけ」
優菜の「彼氏」という言葉に潮音は少しむっとしたが、ここまできたら潮音と暁子もお互いの顔をしっかり見つめ直すしかなかった。先に口を開いたのは潮音の方だった。
「ごめん暁子…あのときはちょっと言いすぎたよ。オレだって暁子の気持ちをもっと考えたら良かったのに」
すると暁子は、首を横に振った。
「潮音…謝らなきゃいけないのはあたしの方だよ。あんただって自分の考えややりたいことがあるんだから、いつまでもあたしの知っている潮音のままでいてほしいなんて、ただのあたしのわがままだってことなんか十分わかってるよ。でもあたしは、あんたが迷ったり悩んだりしたときには、その悩みを解決してあげることはできなくても、せめてあんたのそばにいて見守ってあげたいと思うんだ」
その暁子の言葉を聞いて、潮音は軽くため息をついた。
「暁子ってほんとにバカだな。そうやって人のことばかり気にかけるより先に、もっと自分のこと気にかけた方がいいのに。そのときはオレがそばについていてやるから」
「あんたは変にお世辞言ったりするより、そうやってストレートに『バカ』と言ってくれる方がずっと気持ちが伝わるような気がするよ。これからもケンカしたくなったら、いつでもあたしのところに来な」
そう言ったときの暁子の顔は、どこかふっ切れたようだった。その二人の様子を見て、優菜がニコニコしながら言った。
「ともかく潮音とアッコのケンカのことは、これで一件落着みたいやな。ケンカするのはむしろ仲ええ証拠やで。でも潮音、今日のパーティーにはもう一人大切なお客様がおるやろ」
潮音は一瞬、その「大切なお客様」というのが誰のことかわからなかったが、すぐに優菜の言葉の意味を飲み込むと途端に顔を赤らめた。
「ほんとに呼んでいいのかよ」
「もちろんよ。あんたもさっきまで湯川君と一緒にいたのに、家の前でお別れするなんてあんたも気かきかないじゃない。湯川君が用事があるとかいうなら、無理に誘わなくてもいいけど」
綾乃にまでそう言われると、潮音ももはや引き返すことはできなかった。潮音はためらい気味な顔をしながらも自宅を後にして、隣の昇の家に向かった。
潮音が昇の家のインターホンを押すと、玄関口で先ほど家に戻ったばかりの昇が潮音を出迎えた。昇は潮音がどのような用事で家に来たのかいぶかしむようなそぶりをしていたが、潮音はそのような昇の顔を見るとうまく言葉を伝えることができなかった。潮音はもじもじしながら、控え目な口調で昇に話しかけた。
「あの…今隣の私の家でクリスマスパーティーをやってるから、ぜひ湯川君にも来てほしいんだけど…」
しかし昇は、その潮音の誘いを笑顔で快諾した。
「いいよ。みんなでクリスマスパーティーをやるなんて楽しそうだね」
潮音は昇の屈託のない様子に、かえって複雑な気持ちにさせられた。
そして潮音が昇を自宅まで連れてくると、昇が居間に入った途端に暁子と優菜がクラッカーと歓声で昇を出迎えたことは言う間でもない。昇も一瞬驚いた後に気まずそうな顔をしていたが、綾乃はためらっている昇をテーブルへと向かわせた。
「今日は遠慮しなくていいのよ。せっかくのクリスマスイブなんだから、盛り上がっていかなくちゃね」
昇が気恥ずかしそうな顔をして席につくと、一同がシャンパンを模したジュースで乾杯し、クリスマスパーティーが始まった。
みんなで料理に手をつけると、話題はさっそく潮音と昇が鑑賞したバレエの話になった。暁子や優菜も昇が華やかな舞台や紫の演技に感動した様子を興味深げに聞いていたが、潮音はその話を聞きながら、自分もいつかきらびやかな衣裳を身にまとって紫と一緒に舞台に立ちたいと思っていた。
やがて料理を食べ終ると、昇は綾乃と暁子が作ったクリスマスケーキに目を向けた。
「このケーキおいしいね。お姉さんが自分で焼いたんだ」
昇が満足そうな様子をしているのを見て、綾乃もご機嫌そうな表情をしていた。
「湯川君って今までこうやってクリスマスパーティーとかやったことなかったの?」
綾乃に尋ねられて、昇は照れくさそうにしていた。
「はい。うちは一人っ子で、クリスマスも家族でチキンやケーキを食べたりするくらいだったから…。こんなにぎやかで楽しいクリスマスは初めてです」
「良かったじゃない。パーティー開いた甲斐があったわ。潮音も暁子ちゃんも、遠慮することなんかないのよ」
ケーキを食べ終って、しばらくみんなでゲームを楽しんでいると、昇の表情も自然とほころんでいた。夜の九時を過ぎた頃になって雄一と則子が家に帰ってくると、則子もパーティーの席に昇がいるのに目を丸くした。
「湯川君、この前は潮音の勉強見てもらってすまなかったね。これからもこの子のことはどうかよろしくね」
「いやこっちこそ…今日もこうやってパーティーまで開いてくれて」
則子の言葉には、昇も気恥ずかしそうにしていた。
それからしばらくして昇が帰宅すると、優菜は潮音に言った。
「あの尚洋行っとる彼氏、なかなかイケメンで行儀もええやん。いつの間にかこんなかっこいい彼氏と仲良うなるなんて、潮音もほんま隅に置けへんな」
潮音はいやそうな顔で、優菜の言葉を打消そうとした。
「だから湯川君との関係はそんなんじゃないってば。変な誤解しないでよ。ところで暁子、今日栄介はいないの?」
「栄介はどうも、女の子ばかりいるところに出るのが照れくさいみたいね。今日焼いたケーキの切れ端を栄介のために持って帰ってあげようと思うんだけど」
「オレたちがちっちゃな頃は、栄介も一緒になってクリスマスパーティーをやってたのにな。…やはり栄介は、オレが女になったことをなかなか受け入れられないんだろうか」
潮音が少し顔を曇らせると、暁子は潮音をなだめるように言った。
「気にすることないよ。あんたはあんたのやりたいようにやればいいじゃない。そしたら栄介だってきっとわかってくれると思うよ」
「その『あんたのやりたいように』っていうのがわかんないから、オレは困ってるんだけどな。…今日だって紫のバレエの演技を見て、本当にすごいと思った。でもオレはどうしてもそこには追いつけないよ」
「だからあんたが無理して峰山さんみたいになる必要なんかないじゃない。あんたはあんたなんだから」
「ほんまやで。今日くらいそんなことでクヨクヨ悩んどらへんで、もっと楽しいこと考えたらええやん」
優菜にまで言われて、潮音は少し気持ちを落ち着けた。
「…そうだよね。暁子も優菜も、今日はオレのためにこんな素敵なパーティーを開いてくれてありがとう。…オレが暁子や優菜と、こうやっていつまでも友達でいられたらいいのにな」
その潮音の言葉に、暁子と優菜も一気に顔をほころばせた。夜の十時を過ぎた頃になって暁子と優菜も帰宅の途についたが、潮音が二人を玄関口で見送ると、冷気で澄みわたった夜空には月がぽっかりと浮かんでいた。その月を見上げながら、潮音は先ほど昇と一緒に観覧車に乗ったときに心の中に浮んだことを、あらためて思い返していた。
――せめて今日は、みんなが楽しいクリスマスイブを過ごせたらいいのに。
潮音が自宅の玄関口の前で昇に手を振って別れの挨拶をし、自宅の玄関のドアを開けて家に入った途端、いきなり家の中から歓声が上がった。潮音がいったい何があったのかと戸惑う間もなく、暁子と優菜の二人が玄関口の潮音のそばにまで駆け寄ってきて、クラッカーのひもを引くと辺りに紙吹雪が舞った。そして暁子はサンタクロースの赤い帽子をかぶり、優菜はトナカイの角をかたどったカチューシャを頭につけて、二人とも楽しそうにウキウキしていた。
「メリークリスマス」
暁子と優菜から不意打ちのような歓迎を受けて、潮音はただ呆気に取られながらその場に立ちすくんでいた。暁子と優菜はそのような潮音の背中を押して、そのまま居間に連れて行った。するとテーブルにはチキンをはじめとする料理やケーキが並べられ、室内も華やかに飾りつけがなされていた。
「これはいったいどうしたんだよ」
潮音が落ち着かない様子できょろきょろと辺りを見回していると、綾乃がその場に現れた。潮音が尋ねる間もなく、綾乃がご機嫌そうに口を開いた。
「あんたが出かけてから後で、暁子ちゃんや優菜ちゃんにも来てもらってクリスマスパーティーの準備をしてたのよ。あんたには内緒でね。母さんも『子どもたちの邪魔しちゃ悪いわね。今日くらいは夫婦水入らずで過ごしたらどうかしら』と言って、父さんを連れて映画とレストランに行ったし。せっかくだから、今日はみんなで楽しいパーティーにしましょ」
しかしそれでも、潮音の表情からはためらいやわだかまりの色が消えなかった。そのような潮音の様子を見て、綾乃は言葉を継いだ。
「あんた、ちょっと前に暁子ちゃんとケンカして、それ以来ずっと仲直りもできずにいたんでしょ。でもそのことだったら気にしなくていいよ。暁子ちゃんだって全然気にしてないし、仲直りしたいけど自分から言い出せずにもどかしい思いをしてたのは、暁子ちゃんだって一緒だから」
そこで潮音がちらりと暁子に視線を向けると、先ほどまで明るく振舞っていた暁子も、どこか気まずそうな表情をして潮音と顔を合わそうとしなかった。するとそばにいた優菜が、そのような暁子の様子を見るとじれったそうに暁子を潮音に向かわせた。
「いいかげんにアッコも、しょうもない意地ばっかり張っとらへんで素直になりよ。せっかくのクリスマスパーティーなんやから、みんなで楽しい気分にならな」
そこで潮音は優菜の顔を見て言った。
「もしかしてこのパーティーをやろうと言い出したのは優菜なのかよ」
「提案したのはあたしやけど、それを潮音のお姉ちゃんに相談したらすっかり乗り気になったからね。そうやって潮音が今日彼氏と一緒に出かけてから後に秘密で準備しとったわけ」
優菜の「彼氏」という言葉に潮音は少しむっとしたが、ここまできたら潮音と暁子もお互いの顔をしっかり見つめ直すしかなかった。先に口を開いたのは潮音の方だった。
「ごめん暁子…あのときはちょっと言いすぎたよ。オレだって暁子の気持ちをもっと考えたら良かったのに」
すると暁子は、首を横に振った。
「潮音…謝らなきゃいけないのはあたしの方だよ。あんただって自分の考えややりたいことがあるんだから、いつまでもあたしの知っている潮音のままでいてほしいなんて、ただのあたしのわがままだってことなんか十分わかってるよ。でもあたしは、あんたが迷ったり悩んだりしたときには、その悩みを解決してあげることはできなくても、せめてあんたのそばにいて見守ってあげたいと思うんだ」
その暁子の言葉を聞いて、潮音は軽くため息をついた。
「暁子ってほんとにバカだな。そうやって人のことばかり気にかけるより先に、もっと自分のこと気にかけた方がいいのに。そのときはオレがそばについていてやるから」
「あんたは変にお世辞言ったりするより、そうやってストレートに『バカ』と言ってくれる方がずっと気持ちが伝わるような気がするよ。これからもケンカしたくなったら、いつでもあたしのところに来な」
そう言ったときの暁子の顔は、どこかふっ切れたようだった。その二人の様子を見て、優菜がニコニコしながら言った。
「ともかく潮音とアッコのケンカのことは、これで一件落着みたいやな。ケンカするのはむしろ仲ええ証拠やで。でも潮音、今日のパーティーにはもう一人大切なお客様がおるやろ」
潮音は一瞬、その「大切なお客様」というのが誰のことかわからなかったが、すぐに優菜の言葉の意味を飲み込むと途端に顔を赤らめた。
「ほんとに呼んでいいのかよ」
「もちろんよ。あんたもさっきまで湯川君と一緒にいたのに、家の前でお別れするなんてあんたも気かきかないじゃない。湯川君が用事があるとかいうなら、無理に誘わなくてもいいけど」
綾乃にまでそう言われると、潮音ももはや引き返すことはできなかった。潮音はためらい気味な顔をしながらも自宅を後にして、隣の昇の家に向かった。
潮音が昇の家のインターホンを押すと、玄関口で先ほど家に戻ったばかりの昇が潮音を出迎えた。昇は潮音がどのような用事で家に来たのかいぶかしむようなそぶりをしていたが、潮音はそのような昇の顔を見るとうまく言葉を伝えることができなかった。潮音はもじもじしながら、控え目な口調で昇に話しかけた。
「あの…今隣の私の家でクリスマスパーティーをやってるから、ぜひ湯川君にも来てほしいんだけど…」
しかし昇は、その潮音の誘いを笑顔で快諾した。
「いいよ。みんなでクリスマスパーティーをやるなんて楽しそうだね」
潮音は昇の屈託のない様子に、かえって複雑な気持ちにさせられた。
そして潮音が昇を自宅まで連れてくると、昇が居間に入った途端に暁子と優菜がクラッカーと歓声で昇を出迎えたことは言う間でもない。昇も一瞬驚いた後に気まずそうな顔をしていたが、綾乃はためらっている昇をテーブルへと向かわせた。
「今日は遠慮しなくていいのよ。せっかくのクリスマスイブなんだから、盛り上がっていかなくちゃね」
昇が気恥ずかしそうな顔をして席につくと、一同がシャンパンを模したジュースで乾杯し、クリスマスパーティーが始まった。
みんなで料理に手をつけると、話題はさっそく潮音と昇が鑑賞したバレエの話になった。暁子や優菜も昇が華やかな舞台や紫の演技に感動した様子を興味深げに聞いていたが、潮音はその話を聞きながら、自分もいつかきらびやかな衣裳を身にまとって紫と一緒に舞台に立ちたいと思っていた。
やがて料理を食べ終ると、昇は綾乃と暁子が作ったクリスマスケーキに目を向けた。
「このケーキおいしいね。お姉さんが自分で焼いたんだ」
昇が満足そうな様子をしているのを見て、綾乃もご機嫌そうな表情をしていた。
「湯川君って今までこうやってクリスマスパーティーとかやったことなかったの?」
綾乃に尋ねられて、昇は照れくさそうにしていた。
「はい。うちは一人っ子で、クリスマスも家族でチキンやケーキを食べたりするくらいだったから…。こんなにぎやかで楽しいクリスマスは初めてです」
「良かったじゃない。パーティー開いた甲斐があったわ。潮音も暁子ちゃんも、遠慮することなんかないのよ」
ケーキを食べ終って、しばらくみんなでゲームを楽しんでいると、昇の表情も自然とほころんでいた。夜の九時を過ぎた頃になって雄一と則子が家に帰ってくると、則子もパーティーの席に昇がいるのに目を丸くした。
「湯川君、この前は潮音の勉強見てもらってすまなかったね。これからもこの子のことはどうかよろしくね」
「いやこっちこそ…今日もこうやってパーティーまで開いてくれて」
則子の言葉には、昇も気恥ずかしそうにしていた。
それからしばらくして昇が帰宅すると、優菜は潮音に言った。
「あの尚洋行っとる彼氏、なかなかイケメンで行儀もええやん。いつの間にかこんなかっこいい彼氏と仲良うなるなんて、潮音もほんま隅に置けへんな」
潮音はいやそうな顔で、優菜の言葉を打消そうとした。
「だから湯川君との関係はそんなんじゃないってば。変な誤解しないでよ。ところで暁子、今日栄介はいないの?」
「栄介はどうも、女の子ばかりいるところに出るのが照れくさいみたいね。今日焼いたケーキの切れ端を栄介のために持って帰ってあげようと思うんだけど」
「オレたちがちっちゃな頃は、栄介も一緒になってクリスマスパーティーをやってたのにな。…やはり栄介は、オレが女になったことをなかなか受け入れられないんだろうか」
潮音が少し顔を曇らせると、暁子は潮音をなだめるように言った。
「気にすることないよ。あんたはあんたのやりたいようにやればいいじゃない。そしたら栄介だってきっとわかってくれると思うよ」
「その『あんたのやりたいように』っていうのがわかんないから、オレは困ってるんだけどな。…今日だって紫のバレエの演技を見て、本当にすごいと思った。でもオレはどうしてもそこには追いつけないよ」
「だからあんたが無理して峰山さんみたいになる必要なんかないじゃない。あんたはあんたなんだから」
「ほんまやで。今日くらいそんなことでクヨクヨ悩んどらへんで、もっと楽しいこと考えたらええやん」
優菜にまで言われて、潮音は少し気持ちを落ち着けた。
「…そうだよね。暁子も優菜も、今日はオレのためにこんな素敵なパーティーを開いてくれてありがとう。…オレが暁子や優菜と、こうやっていつまでも友達でいられたらいいのにな」
その潮音の言葉に、暁子と優菜も一気に顔をほころばせた。夜の十時を過ぎた頃になって暁子と優菜も帰宅の途についたが、潮音が二人を玄関口で見送ると、冷気で澄みわたった夜空には月がぽっかりと浮かんでいた。その月を見上げながら、潮音は先ほど昇と一緒に観覧車に乗ったときに心の中に浮んだことを、あらためて思い返していた。
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