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第四部
第七章・スイート・バレンタイン(その3)
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潮音にとってこの日は、午後の授業ももどかしかった。ホームルームが一段落すると、潮音はさっそく香澄たちとの待ち合わせの場所に指定した校門の前に向かったが、そこにはすでに香澄と清子、杏李が連れだって待っていた。香澄に笑顔で手を振られると、潮音はあらためて照れくさい気分になった。
四人で連れ立って学校を後にしても、潮音はにぎやかに談笑している後輩たちとどのように接すればいいのかわからず、緊張の色を深めて顔をこわばらせるしかなかった。そのような潮音の様子は香澄にも伝わってきたようで、香澄が心配そうに声をかけた。
「どうしたんですか? 藤坂先輩はさっきからずっと黙りこくっちゃって」
それに対して、潮音はもじもじとした表情で答えるしかなかった。
「いや、今まで後輩を連れてこうやって出かけたことなんかなかったから、どんな話したらいいのかわかんないからさ…」
そのような潮音の態度を見て、香澄はじれったそうな顔をした。
「そんなに気を使うことなんかないですよ。ほかのクラスの友達と同じように、もっと自然に話をすればいいじゃないですか」
潮音はそのように言われても、自分は女子校の中で周囲の人と「自然に」話をするにはどうすればいいのかでずっと悩んでいたのにと思っていた。そこで潮音は、なんとか話題を選んで香澄に話しかけた。
「香澄ってやっぱり、お姉ちゃんのことが好きなの?」
そこで香澄は、少し声のトーンを抑え気味に答えた。
「…清子から話は聞いたんですね。私はちっちゃな頃からずっと、何をやっても姉にはかないませんでした。姉に憧れて始めた剣道だって、結局は練習についていけなくなってやめちゃったし、今だってこの学校に入ってからいつも姉の世話になってばかりだし…。それに姉はこれから大学受験に向けて頑張らなきゃいけない時期になるから、自分はせめて姉を応援しなきゃって思うんです」
さっきまでの元気さとは裏腹に、少し表情を曇らせた香澄に、潮音はそっと声をかけてやった。
「香澄がお姉ちゃんに対して引け目を感じる気持ちはよくわかるよ。私だってお姉ちゃんがいるけど、何をやってもお姉ちゃんにかなわないのも、姉ちゃんに世話になりっぱなしなのもみんな一緒だし。…でも香澄もそれにばっかりとらわれるのはよせよ。来年になったら千晶先輩は高校を卒業するんだろ? だったら香澄がこの学校で一人でやっていかなきゃいけないのに、いつまでもお姉ちゃんのことを頼ってばかりいちゃいけないじゃないか」
しかしその潮音の言葉は、かえって香澄の気を重くさせたようだった。
「…それはわかってます」
香澄の元気のない様子を見て、潮音はじれったそうに言った。
「だからそうやってクヨクヨするのはよしなよ。私だって松風みたいなお嬢様女子高でちゃんとやっていけるか不安だったし、実際に今だって中等部からうちの学校にいる子たちは、みんな勉強だって何だってできる子ばかりで、正直に言って自分はかなわないと思っている。それでもその私が、今ここでこうしてなんとかやっていっているんだ。だから香澄だって心配なんかいらないよ。香澄には同級生の友達だっているんだから、つらいときには何もかも一人で抱え込まないで、周りの人を頼りにすればいいじゃないか」
そう言って潮音が香澄のそばにいた清子と杏李を見渡すと、その二人も同感だとでもいわんばかりにうなづいていた。潮音はその二人の様子に対しても目を伏せたままの香澄の様子を見て、これまで潮音の前でも明るく元気に振舞ってきた香澄に、このような面があることが意外でならなかった。潮音はもしかして、香澄は自分自身のそのような面を隠すためにあえて周囲に対して明るく振舞っていたのかもしれないと思うと、ますます香澄に対してはデリカシーを持って接しなければいけないと感じていた。
そうこうしているうちに、潮音たちは駅前にある少しおしゃれな菓子店の前に来ていた。しかしこの菓子店では、松風女子学園以外にもいろいろな学校の制服を着た少女たちが、バレンタインのチョコを買おうと人だかりを作っていた。潮音はそれを見てげんなりとした気分になったが、香澄たちと一緒にここまで来た以上、あまりみっともないざまは見せられないし、もう引き返すこともできないと覚悟を決めて、チョコを買い求めることにした。
中学生や高校生の小遣いではあまり高価なチョコを買うことはできなかったものの、潮音は大切なのは値段や立派さよりも誠意だと思い直すと、チョコの包みを買い求めることにした。――潮音はそのチョコを昇に贈るつもりだった。
潮音はこれまで自分がさんざん世話になってきた暁子や優菜にも何も贈らなくていいのかと一瞬思ったが、暁子や優菜に今さらチョコなど贈っても冷やかされるだけだろうと思ったから、この二人に関しては見送ることにした。
そこで潮音は、ふと紫のことを思い出していた。――潮音にとって紫は、自分が高校に入って以来ずっと憧れの存在だった。潮音はもし自分が男の子のままだったらきっと異性として紫に惚れていただろうと思うと、自分の心の中のもやもやした気持ちを断ち切るために、チョコの包みをもう一つ買い求めることにした。
潮音がちらりと香澄の方を振り向くと、香澄も色とりどりのチョコの包みを前にして、清子や杏李と一緒にチョコを選んでいた。潮音は香澄が先ほどと比べて明るさを取り戻した様子を見て、内心で安堵するとともに、やはり香澄はいつも通りの明るく元気な態度でいなければと思っていた。
潮音たちがレジで会計を済ませると、香澄はさっそく明るい声をあげた。
「藤坂先輩もチョコを買えて良かったですね。ちゃんと好きな人にチョコを渡せたらいいですね」
潮音は一見お調子者に見える香澄も、他人に対して誰にチョコをあげるのかをいちいち詮索しないあたり、やはり根はしっかりしていると感じていた。
「ありがとう、香澄。一人でチョコを買いに行くなんて恥ずかしくてできなかったけど、香澄たちがついていてくれたおかげで、ようやくチョコを買えたよ。誰に渡すかは内緒だけど」
潮音が香澄にお礼を言うと、そばにいた清子と杏李も表情をほころばせた。そこで香澄はいたずらっぽい口調で言った。
「藤坂先輩って案外内気で優柔不断なんですね」
その香澄の言葉には、潮音もむっとした表情をした。
「そんなことどうだっていいだろ。香澄こそ千晶先輩に渡すチョコはちゃんと買えたのかよ」
しかしそこで、杏李が口に人差し指を当てて「しっ」と軽く息を吐き、潮音と香澄に静かにするようにゼスチャーをした。杏李が黙って目配せをした先にいた人影に目を向けると、潮音と香澄もぎくりとせずにはいられなかった。杏李の視線の先でチョコを選んでいたのは、紫その人だった。潮音たちが息を飲んでしばらく遠くから紫を見守っていると、紫はどのようなチョコを買うべきか、いつになく迷っているように見えた。
潮音たちは紫に気づかれていないことを幸いに、足音を立てないようにしながらあわてて菓子店を後にすると、駅までの道を急いだ。ようやく駅の改札口まで来ると、香澄は息をはずませながら言った。
「まさか峰山先輩までチョコを買いに来ているとは思いませんでした。峰山先輩にもチョコを渡す彼氏とかいるんでしょうか」
「そりゃ紫はあれだけ美人で、勉強もバレエもできて性格だってしっかりしてるんだから、彼氏の一人くらいいたっておかしくないよ。もし私が男の子だったら、きっと紫に惚れていたかもしれないな」
その潮音の言葉を聞いて、香澄だけでなく清子と杏李も皆はぐらかされたような、きょとんとした表情をした。潮音はここに紫が来るとまずいと思って、香澄たちと別れて帰途につくことにした。
潮音は帰宅してからも、明日のバレンタインデーはバレエのレッスンがあるから紫にはそのついでにチョコを渡せばいいとして、昇にはどのタイミングでチョコを渡せばいいのか迷っていた。潮音はバレエのレッスンが終って帰宅してから、昇の自宅の前でチョコを手渡すしかないかなと思っていたが、昇がいつごろ帰宅するか、タイミングが合わなかったらどうしようという点が気になっていた。
しかしそこで、潮音は先ほどの菓子店で紫は誰に贈るためのチョコを買おうとしていたのだろうという点が気になっていた。潮音は紫がクリスマスにバレエで共演した栗沢渉にチョコを渡してもおかしくないと思っていたが、そうなると潮音は渉に対して少し嫉妬の念を覚えずにはいられなかった。
潮音はこんなことばかり気にしたところで何にもならないと強引にも思い込むことで、心の中の雑念を打消そうとしたが、それ以外にもやはり玲花だって今ごろ浩三に渡すチョコの準備をしているのだろうかと思うと、自分がかつて玲花にひそかに想いを寄せていた頃のことを思い出して、少しほろ苦い気分になった。
さらに潮音はここ数日の暁子の様子も気になっていた。中学まではそのようなそぶりなど見せなかった暁子も、高校になって変ってきているのかもしれないと思って、潮音はかすかに心に波風が立つのを感じていた。潮音は雑念を振り払うために机に向かって参考書とノートを広げても、なかなか勉強が手につかなかった。
ちょうどその頃、暁子は日曜日に作って冷蔵庫に保存していたチョコを包装紙とリボンで包んでいた。これには栄介に渡す義理チョコもあったが、暁子はそのチョコを渡す本命の相手のことをひそかに想い浮べていた。さらに優菜も同じ頃、チョコに沿えるカードを書いていた。玲花が浩三に渡すチョコの準備をしていたのは潮音の予想通りだったが、その一方で紫は家で双子の妹の萌葱や浅葱と一緒に話をしていたものの、その二人からも渉にチョコを渡すのかと尋ねられて赤面していた。香澄はチョコを隠したまま、姉の千晶を前にしても作り笑いを浮べるしかなかった。バレンタインデーを翌日に控えて、それぞれの家ではさまざまな思いが交錯していた。
四人で連れ立って学校を後にしても、潮音はにぎやかに談笑している後輩たちとどのように接すればいいのかわからず、緊張の色を深めて顔をこわばらせるしかなかった。そのような潮音の様子は香澄にも伝わってきたようで、香澄が心配そうに声をかけた。
「どうしたんですか? 藤坂先輩はさっきからずっと黙りこくっちゃって」
それに対して、潮音はもじもじとした表情で答えるしかなかった。
「いや、今まで後輩を連れてこうやって出かけたことなんかなかったから、どんな話したらいいのかわかんないからさ…」
そのような潮音の態度を見て、香澄はじれったそうな顔をした。
「そんなに気を使うことなんかないですよ。ほかのクラスの友達と同じように、もっと自然に話をすればいいじゃないですか」
潮音はそのように言われても、自分は女子校の中で周囲の人と「自然に」話をするにはどうすればいいのかでずっと悩んでいたのにと思っていた。そこで潮音は、なんとか話題を選んで香澄に話しかけた。
「香澄ってやっぱり、お姉ちゃんのことが好きなの?」
そこで香澄は、少し声のトーンを抑え気味に答えた。
「…清子から話は聞いたんですね。私はちっちゃな頃からずっと、何をやっても姉にはかないませんでした。姉に憧れて始めた剣道だって、結局は練習についていけなくなってやめちゃったし、今だってこの学校に入ってからいつも姉の世話になってばかりだし…。それに姉はこれから大学受験に向けて頑張らなきゃいけない時期になるから、自分はせめて姉を応援しなきゃって思うんです」
さっきまでの元気さとは裏腹に、少し表情を曇らせた香澄に、潮音はそっと声をかけてやった。
「香澄がお姉ちゃんに対して引け目を感じる気持ちはよくわかるよ。私だってお姉ちゃんがいるけど、何をやってもお姉ちゃんにかなわないのも、姉ちゃんに世話になりっぱなしなのもみんな一緒だし。…でも香澄もそれにばっかりとらわれるのはよせよ。来年になったら千晶先輩は高校を卒業するんだろ? だったら香澄がこの学校で一人でやっていかなきゃいけないのに、いつまでもお姉ちゃんのことを頼ってばかりいちゃいけないじゃないか」
しかしその潮音の言葉は、かえって香澄の気を重くさせたようだった。
「…それはわかってます」
香澄の元気のない様子を見て、潮音はじれったそうに言った。
「だからそうやってクヨクヨするのはよしなよ。私だって松風みたいなお嬢様女子高でちゃんとやっていけるか不安だったし、実際に今だって中等部からうちの学校にいる子たちは、みんな勉強だって何だってできる子ばかりで、正直に言って自分はかなわないと思っている。それでもその私が、今ここでこうしてなんとかやっていっているんだ。だから香澄だって心配なんかいらないよ。香澄には同級生の友達だっているんだから、つらいときには何もかも一人で抱え込まないで、周りの人を頼りにすればいいじゃないか」
そう言って潮音が香澄のそばにいた清子と杏李を見渡すと、その二人も同感だとでもいわんばかりにうなづいていた。潮音はその二人の様子に対しても目を伏せたままの香澄の様子を見て、これまで潮音の前でも明るく元気に振舞ってきた香澄に、このような面があることが意外でならなかった。潮音はもしかして、香澄は自分自身のそのような面を隠すためにあえて周囲に対して明るく振舞っていたのかもしれないと思うと、ますます香澄に対してはデリカシーを持って接しなければいけないと感じていた。
そうこうしているうちに、潮音たちは駅前にある少しおしゃれな菓子店の前に来ていた。しかしこの菓子店では、松風女子学園以外にもいろいろな学校の制服を着た少女たちが、バレンタインのチョコを買おうと人だかりを作っていた。潮音はそれを見てげんなりとした気分になったが、香澄たちと一緒にここまで来た以上、あまりみっともないざまは見せられないし、もう引き返すこともできないと覚悟を決めて、チョコを買い求めることにした。
中学生や高校生の小遣いではあまり高価なチョコを買うことはできなかったものの、潮音は大切なのは値段や立派さよりも誠意だと思い直すと、チョコの包みを買い求めることにした。――潮音はそのチョコを昇に贈るつもりだった。
潮音はこれまで自分がさんざん世話になってきた暁子や優菜にも何も贈らなくていいのかと一瞬思ったが、暁子や優菜に今さらチョコなど贈っても冷やかされるだけだろうと思ったから、この二人に関しては見送ることにした。
そこで潮音は、ふと紫のことを思い出していた。――潮音にとって紫は、自分が高校に入って以来ずっと憧れの存在だった。潮音はもし自分が男の子のままだったらきっと異性として紫に惚れていただろうと思うと、自分の心の中のもやもやした気持ちを断ち切るために、チョコの包みをもう一つ買い求めることにした。
潮音がちらりと香澄の方を振り向くと、香澄も色とりどりのチョコの包みを前にして、清子や杏李と一緒にチョコを選んでいた。潮音は香澄が先ほどと比べて明るさを取り戻した様子を見て、内心で安堵するとともに、やはり香澄はいつも通りの明るく元気な態度でいなければと思っていた。
潮音たちがレジで会計を済ませると、香澄はさっそく明るい声をあげた。
「藤坂先輩もチョコを買えて良かったですね。ちゃんと好きな人にチョコを渡せたらいいですね」
潮音は一見お調子者に見える香澄も、他人に対して誰にチョコをあげるのかをいちいち詮索しないあたり、やはり根はしっかりしていると感じていた。
「ありがとう、香澄。一人でチョコを買いに行くなんて恥ずかしくてできなかったけど、香澄たちがついていてくれたおかげで、ようやくチョコを買えたよ。誰に渡すかは内緒だけど」
潮音が香澄にお礼を言うと、そばにいた清子と杏李も表情をほころばせた。そこで香澄はいたずらっぽい口調で言った。
「藤坂先輩って案外内気で優柔不断なんですね」
その香澄の言葉には、潮音もむっとした表情をした。
「そんなことどうだっていいだろ。香澄こそ千晶先輩に渡すチョコはちゃんと買えたのかよ」
しかしそこで、杏李が口に人差し指を当てて「しっ」と軽く息を吐き、潮音と香澄に静かにするようにゼスチャーをした。杏李が黙って目配せをした先にいた人影に目を向けると、潮音と香澄もぎくりとせずにはいられなかった。杏李の視線の先でチョコを選んでいたのは、紫その人だった。潮音たちが息を飲んでしばらく遠くから紫を見守っていると、紫はどのようなチョコを買うべきか、いつになく迷っているように見えた。
潮音たちは紫に気づかれていないことを幸いに、足音を立てないようにしながらあわてて菓子店を後にすると、駅までの道を急いだ。ようやく駅の改札口まで来ると、香澄は息をはずませながら言った。
「まさか峰山先輩までチョコを買いに来ているとは思いませんでした。峰山先輩にもチョコを渡す彼氏とかいるんでしょうか」
「そりゃ紫はあれだけ美人で、勉強もバレエもできて性格だってしっかりしてるんだから、彼氏の一人くらいいたっておかしくないよ。もし私が男の子だったら、きっと紫に惚れていたかもしれないな」
その潮音の言葉を聞いて、香澄だけでなく清子と杏李も皆はぐらかされたような、きょとんとした表情をした。潮音はここに紫が来るとまずいと思って、香澄たちと別れて帰途につくことにした。
潮音は帰宅してからも、明日のバレンタインデーはバレエのレッスンがあるから紫にはそのついでにチョコを渡せばいいとして、昇にはどのタイミングでチョコを渡せばいいのか迷っていた。潮音はバレエのレッスンが終って帰宅してから、昇の自宅の前でチョコを手渡すしかないかなと思っていたが、昇がいつごろ帰宅するか、タイミングが合わなかったらどうしようという点が気になっていた。
しかしそこで、潮音は先ほどの菓子店で紫は誰に贈るためのチョコを買おうとしていたのだろうという点が気になっていた。潮音は紫がクリスマスにバレエで共演した栗沢渉にチョコを渡してもおかしくないと思っていたが、そうなると潮音は渉に対して少し嫉妬の念を覚えずにはいられなかった。
潮音はこんなことばかり気にしたところで何にもならないと強引にも思い込むことで、心の中の雑念を打消そうとしたが、それ以外にもやはり玲花だって今ごろ浩三に渡すチョコの準備をしているのだろうかと思うと、自分がかつて玲花にひそかに想いを寄せていた頃のことを思い出して、少しほろ苦い気分になった。
さらに潮音はここ数日の暁子の様子も気になっていた。中学まではそのようなそぶりなど見せなかった暁子も、高校になって変ってきているのかもしれないと思って、潮音はかすかに心に波風が立つのを感じていた。潮音は雑念を振り払うために机に向かって参考書とノートを広げても、なかなか勉強が手につかなかった。
ちょうどその頃、暁子は日曜日に作って冷蔵庫に保存していたチョコを包装紙とリボンで包んでいた。これには栄介に渡す義理チョコもあったが、暁子はそのチョコを渡す本命の相手のことをひそかに想い浮べていた。さらに優菜も同じ頃、チョコに沿えるカードを書いていた。玲花が浩三に渡すチョコの準備をしていたのは潮音の予想通りだったが、その一方で紫は家で双子の妹の萌葱や浅葱と一緒に話をしていたものの、その二人からも渉にチョコを渡すのかと尋ねられて赤面していた。香澄はチョコを隠したまま、姉の千晶を前にしても作り笑いを浮べるしかなかった。バレンタインデーを翌日に控えて、それぞれの家ではさまざまな思いが交錯していた。
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