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第五部
第一部・ニュー・ジェネレーション(その5)
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四月も後半になると、新入生たちの多くもだいぶ学校の雰囲気になじんできた。早くも生徒たちの話題の中心は、ゴールデンウィ―クをどのように過ごすかになっていた。
そのようなある日、潮音が昼休みに弁当を食べ終った後で教室で暁子や優菜とおしゃべりしていると、廊下の方からざわついた声が聞こえてきた。潮音が何か騒ぎでも起きたのかと思って声のする方に向かうと、廊下に人だかりができていた。潮音がその人だかりをかき分けてみると、思わず息を飲まずにはいられなかった。そこでは遥子とすぴかが、何人かの二年生と言い争っていた。
「ちょっとあんたたち、校内でビラをまいたりしたらそのビラを捨てる人がいて校内が汚れて困るんだけど」
しかし遥子は、高圧的な態度を取る二年生に対して一歩も退こうとはしなかった。
「私たちだってビラをまくのは、先生や生徒会の許可を得ていますけど。それにビラをポイ捨てする人がいたら、その場で注意したらいいじゃないですか。ビラを捨てる人の方が悪いんだから」
その遥子の態度は、二年生をますますいら立たせたようだった。二年生はすぴかのスカートを短くして履くなどの制服を着崩した装いにも目を向けていた。
「あんたたちは高校から入って来たばかりのくせして、なんか態度でかいじゃない。新しいクラブを作ろうとか言って出しゃばってばかりいて。特にそっちのあんたはそんなにだらしないかっこしていいと思ってるの」
それに対して、すぴかもむっとしながら答えた。
「私は『あんた』なんて呼び方じゃなくて、ちゃんと『妻崎すぴか』って名前があるんだけど」
「そんな変な名前をつけるなんて、あんたの親の育て方もだいたい想像がつくわね」
その言葉には、すぴかも悔しそうに唇をかみしめていた。そこで潮音は、その場に飛び出さずにはいられなかった。
「いったいどうしたんだよ」
そこで二年生のうちの一人が、潮音に顔を向けて言った。
「私たちはこの子らがビラをまいて校内を汚くしたり、制服をだらしなく着崩したりしてるから注意しただけだけど。それなのにこの子たちは生意気に口答えばかりして」
潮音はその二年生に対して、思わず声を上げていた。
「あんたらはそうやって先輩ぶってるけど、ただ目立つ後輩に因縁をつけたいだけだろ。他のクラブだって勧誘のビラをまいているけれども、あんたらがそんなこと言うのは遥子たちだけじゃないか」
その間も遥子とすぴかは、いまいましそうな目つきで二年生たちをにらみつけていた。それに対して潮音は、二人をなだめるしかなかった。
「ともかく今は、遥子とすぴかも少し落ち着いて教室に戻れ。遥子たちが同好会を作ってちゃんと活動したら、みんなわかってくれると思うから」
そこで遥子とすぴかは、憤懣やる方ない表情をしながら一年桜組の教室へと戻っていった。しかし問題の二年生たちは、潮音に対しても因縁をつけてきた。
「藤坂さんだっけ。あんたこそ変に生徒会長の紫から気に入られてずいぶん偉そうにしてるじゃない」
しかしその生徒の態度に対しても、潮音がひるむことはなかった。
「いいかげんにしろよ。あんたらは下級生に注意したとか言ってるけど、生徒指導の先生にでもなったつもりなのかよ。単に目立つ下級生にいやがらせして先輩ぶってるだけだろ。こんなつまんないことでしか威張れないなんて、情けないと思わないのかよ」
潮音の堂々とした態度には、二年生たちもたじたじになってその場を立ち去った。それと同時に、野次馬のようにその場に集まった生徒たちも潮が引くかのようにそれぞれの教室へと引き上げていった。
二年梅組の教室に引き上げる途中で、暁子は潮音に言った。
「潮音もよくやったじゃん。私もあいつらの態度にはムカついてたけど、それをなんとか収めることができたのはあんただからだよ」
「もう先生たちにも報告が行ってるから、あの子たちはやっぱり牧園のババアにたっぷりお説教された後に正座させられて反省文書かされるだろうな」
「それ言ったらあんただって、ちょうど去年の今ごろに長束さんと大ゲンカして、正座させられて反省文書かされたじゃん」
その暁子の言葉には、潮音も露骨にいやそうな顔をした。
「でもさっきはあたしだって見てて冷や冷やしたよ。もしあんたがあの子たちに手を上げたりしたら、あんたまで謹慎させられていたからね」
「でもすぴかの恰好は、牧園のババアあたりから注意されるだろうなとは思ってたんだ。もっとやんわりと言った方がいいかな」
潮音と暁子がそのように話しているうちに予鈴が鳴って、潮音たちも午後の授業の準備にとりかかった。
その日は午後の授業の間もずっと、潮音は遥子たちのことが気になってしょうがなかった。潮音は特に、何日か前にプールの前ですぴかに会ったとき、考え込むような表情をしていたことが気になっていた。
放課後になるとすぐ、潮音は遥子たちの所属している一年桜組に向かった。しかし潮音が一年桜組の教室に着くと、一年生たちがさっそく潮音の前に人垣を作り、押すな押すなの混雑になった。中等部から在籍していた生徒たちはすでに体育祭や文化祭で潮音が活躍したことを知っていたし、高等部で入学した生徒にとっても、先ほどの騒ぎを納めたことで潮音への注目の度合いは一気に高まったのだった。
潮音は自分の噂が瞬時に一年生のみんなに伝わる口コミの速さにあらためて驚いたが、何よりも自分が一学年下の後輩たちから熱い視線を浴びていることを感じてげんなりせずにはいられなかった。
そのどさくさの中で潮音は何とかして遥子と小春、すぴかの三人と落ち合うと、カフェテリアに向かった。潮音たちがあらためて席につくと、普段は明るくて元気な遥子もいつになくおどおどしており、動揺を隠せずにいるようだった。潮音はこれまでの精力的に活動していたの遥子の姿を知っているだけに、このような遥子の姿を直視することができなかった。潮音はただ、言葉で遥子たちを慰めることしかできなかった。
「あんな連中のことなんか気にするなよ。人数が集まって同好会ができるのが目標じゃなくて、むしろ同好会ができてから後の方がいろいろやらなきゃいけないことや大変なことがたくさんあるんだろ? それなのにあんな下らないいやがらせを受けたくらいでくじけててどうするんだよ」
しかし潮音にそう言われたときの遥子は、目に涙を浮べていた。潮音は日ごろ明るく活発な遥子が涙を見せたことに対して、ますます当惑せずにはいられなかった。潮音はいつも気丈に振舞っている遥子にも、精神的にもろい一面があるのかもしれないと思っていた。
「どうして泣いてるんだよ」
「いや、あんな目にあって悔しいからじゃなくて、藤坂先輩のような自分の話を聞いて自分のために活動してくれる人は今までいなかったから…」
そこで潮音は遥子に尋ねてみた。
「どうして陽子って松風に来たわけ? 女子サッカーやフットサルをやってる学校だったらほかにもあるかもしれないのに」
「松風は私の母も通っていた学校だし、女子校だったらむしろ男子の目を気にせず自由にやりたいことがやれると思ったから…」
「遥子でも男子からどう見られるか気になるんだ。そんなの気にしなきゃいいじゃん」
「でも…私はいいけどすぴかはもう何日も前からこのようないやがらせを受けていたって言うし、私が周りのことを考えないで突っ走ったせいで、すぴかにまでいやな思いをさせて…」
潮音はすぴかが数日前から表情を曇らせていたのはそのためだったのかと思ったが、同時に遥子のぐずぐずした態度にもいら立ちを感じていた。
「人に迷惑かけたり傷ついたりするのを心配してたら、何もできやしないよ。私だってこの学校入ってからさんざん無茶なことばかりやってきたし、時にはトラブルだって起こしたけど、その結果今の自分があるって思ってる。だから後輩たちには自分のやりたいことを諦めてほしくないんだ」
その潮音の話を、遥子だけでなく小春とすぴかも黙ったまま聞いていた。
そのときだった。入学したばかりの中等部の一年生を中心とする何人かの生徒たちが遥子のもとに寄ってきた。
「私たち…フットサル同好会に入りたいんです。樋沢先輩たちが一生懸命活動しているのを見て、私たちもやってみたいと思うようになりました」
「私も小学校まで、男子と一緒にサッカーをやっていたんです」
それを見て遥子は一瞬嬉しそうな顔をしたものの、態度を緩めることはなかった。
「練習はきついことだってあるよ。それでもいいの?」
その遥子の問いかけにも、入会を志望した生徒たちは黙ってうなづいた。そこで遥子は、フットサル同好会の活動について生徒たちに説明を始めた。それを見て潮音は、安堵の表情を浮べた。
「この調子じゃ、五月いっぱいまで待たなくても、連休明けくらいまでには部員が十人集まりそうだね」
しかしそのとき、すぴかは少し言いにくそうに声をひそめながら口を開いた。
「ごめん…あたしやっぱり、フットサル同好会に入るのやめるわ」
潮音はそのすぴかの発言に驚いたが、遥子や小春はさほどのショックを受けていないようだった。
「そりゃあたしはすぴかをフットサル同好会に誘ったし、すぴかに協力してもらったけど、ほんとにフットサルをやりたいのかなって思ってたから…。練習だって大変だから、本気でやる気がないなら入らない方がいいよ。あたしだってそうまでして、すぴかにつきあってほしいとは思ってないし」
遥子の言葉に、すぴかも深くうなづいた後で、笑顔で口を開いた。
「その代わり、あたしは陽子が頑張ってるのを見て、自分だってやりたいことをやってみたいって思うようになったんだ。そこで考えたんだけど、ファッション同好会っていうのはどうかな? うちの学校だっておしゃれやファッションとか好きな人多そうだし。それで文化祭でファッションショーとかやってみたいな」
それを聞いて、小春も満足そうだった。
「ええんとちゃう? すぴかのやりたいことやるのが一番やで」
潮音はすぴかや小春の話を聞きながら、バイタリティのある後輩たちを頼もしく思うと同時に、そのためにはいろいろ解決しなければいけない課題も多そうだと感じていた。そこですぴかが、潮音に目を向けた。
「そこで藤坂先輩からも、あの生徒会長に対してファッション同好会を作るのを認めるように相談してくれませんか?」
すぴかが潮音のことを頼りにしている様子は、潮音にもありありと伝わってきた。潮音は紫を説得するのも簡単じゃなさそうだと思って、内心でやれやれと言いたくなった。
しかしそこでさらに、何人もの後輩が潮音のところに寄ってきた。
「藤坂先輩、さっき樋沢さんたちを先輩から助けるのを見てすごいと思いました。これからもよろしくお願いします」
後輩たちが潮音に熱い視線を向けて喝采を浴びせるのを聞きながら、潮音は自分は当り前のことをしただけなのに、もういいかげんにしてくれと思っていた。
そのようなある日、潮音が昼休みに弁当を食べ終った後で教室で暁子や優菜とおしゃべりしていると、廊下の方からざわついた声が聞こえてきた。潮音が何か騒ぎでも起きたのかと思って声のする方に向かうと、廊下に人だかりができていた。潮音がその人だかりをかき分けてみると、思わず息を飲まずにはいられなかった。そこでは遥子とすぴかが、何人かの二年生と言い争っていた。
「ちょっとあんたたち、校内でビラをまいたりしたらそのビラを捨てる人がいて校内が汚れて困るんだけど」
しかし遥子は、高圧的な態度を取る二年生に対して一歩も退こうとはしなかった。
「私たちだってビラをまくのは、先生や生徒会の許可を得ていますけど。それにビラをポイ捨てする人がいたら、その場で注意したらいいじゃないですか。ビラを捨てる人の方が悪いんだから」
その遥子の態度は、二年生をますますいら立たせたようだった。二年生はすぴかのスカートを短くして履くなどの制服を着崩した装いにも目を向けていた。
「あんたたちは高校から入って来たばかりのくせして、なんか態度でかいじゃない。新しいクラブを作ろうとか言って出しゃばってばかりいて。特にそっちのあんたはそんなにだらしないかっこしていいと思ってるの」
それに対して、すぴかもむっとしながら答えた。
「私は『あんた』なんて呼び方じゃなくて、ちゃんと『妻崎すぴか』って名前があるんだけど」
「そんな変な名前をつけるなんて、あんたの親の育て方もだいたい想像がつくわね」
その言葉には、すぴかも悔しそうに唇をかみしめていた。そこで潮音は、その場に飛び出さずにはいられなかった。
「いったいどうしたんだよ」
そこで二年生のうちの一人が、潮音に顔を向けて言った。
「私たちはこの子らがビラをまいて校内を汚くしたり、制服をだらしなく着崩したりしてるから注意しただけだけど。それなのにこの子たちは生意気に口答えばかりして」
潮音はその二年生に対して、思わず声を上げていた。
「あんたらはそうやって先輩ぶってるけど、ただ目立つ後輩に因縁をつけたいだけだろ。他のクラブだって勧誘のビラをまいているけれども、あんたらがそんなこと言うのは遥子たちだけじゃないか」
その間も遥子とすぴかは、いまいましそうな目つきで二年生たちをにらみつけていた。それに対して潮音は、二人をなだめるしかなかった。
「ともかく今は、遥子とすぴかも少し落ち着いて教室に戻れ。遥子たちが同好会を作ってちゃんと活動したら、みんなわかってくれると思うから」
そこで遥子とすぴかは、憤懣やる方ない表情をしながら一年桜組の教室へと戻っていった。しかし問題の二年生たちは、潮音に対しても因縁をつけてきた。
「藤坂さんだっけ。あんたこそ変に生徒会長の紫から気に入られてずいぶん偉そうにしてるじゃない」
しかしその生徒の態度に対しても、潮音がひるむことはなかった。
「いいかげんにしろよ。あんたらは下級生に注意したとか言ってるけど、生徒指導の先生にでもなったつもりなのかよ。単に目立つ下級生にいやがらせして先輩ぶってるだけだろ。こんなつまんないことでしか威張れないなんて、情けないと思わないのかよ」
潮音の堂々とした態度には、二年生たちもたじたじになってその場を立ち去った。それと同時に、野次馬のようにその場に集まった生徒たちも潮が引くかのようにそれぞれの教室へと引き上げていった。
二年梅組の教室に引き上げる途中で、暁子は潮音に言った。
「潮音もよくやったじゃん。私もあいつらの態度にはムカついてたけど、それをなんとか収めることができたのはあんただからだよ」
「もう先生たちにも報告が行ってるから、あの子たちはやっぱり牧園のババアにたっぷりお説教された後に正座させられて反省文書かされるだろうな」
「それ言ったらあんただって、ちょうど去年の今ごろに長束さんと大ゲンカして、正座させられて反省文書かされたじゃん」
その暁子の言葉には、潮音も露骨にいやそうな顔をした。
「でもさっきはあたしだって見てて冷や冷やしたよ。もしあんたがあの子たちに手を上げたりしたら、あんたまで謹慎させられていたからね」
「でもすぴかの恰好は、牧園のババアあたりから注意されるだろうなとは思ってたんだ。もっとやんわりと言った方がいいかな」
潮音と暁子がそのように話しているうちに予鈴が鳴って、潮音たちも午後の授業の準備にとりかかった。
その日は午後の授業の間もずっと、潮音は遥子たちのことが気になってしょうがなかった。潮音は特に、何日か前にプールの前ですぴかに会ったとき、考え込むような表情をしていたことが気になっていた。
放課後になるとすぐ、潮音は遥子たちの所属している一年桜組に向かった。しかし潮音が一年桜組の教室に着くと、一年生たちがさっそく潮音の前に人垣を作り、押すな押すなの混雑になった。中等部から在籍していた生徒たちはすでに体育祭や文化祭で潮音が活躍したことを知っていたし、高等部で入学した生徒にとっても、先ほどの騒ぎを納めたことで潮音への注目の度合いは一気に高まったのだった。
潮音は自分の噂が瞬時に一年生のみんなに伝わる口コミの速さにあらためて驚いたが、何よりも自分が一学年下の後輩たちから熱い視線を浴びていることを感じてげんなりせずにはいられなかった。
そのどさくさの中で潮音は何とかして遥子と小春、すぴかの三人と落ち合うと、カフェテリアに向かった。潮音たちがあらためて席につくと、普段は明るくて元気な遥子もいつになくおどおどしており、動揺を隠せずにいるようだった。潮音はこれまでの精力的に活動していたの遥子の姿を知っているだけに、このような遥子の姿を直視することができなかった。潮音はただ、言葉で遥子たちを慰めることしかできなかった。
「あんな連中のことなんか気にするなよ。人数が集まって同好会ができるのが目標じゃなくて、むしろ同好会ができてから後の方がいろいろやらなきゃいけないことや大変なことがたくさんあるんだろ? それなのにあんな下らないいやがらせを受けたくらいでくじけててどうするんだよ」
しかし潮音にそう言われたときの遥子は、目に涙を浮べていた。潮音は日ごろ明るく活発な遥子が涙を見せたことに対して、ますます当惑せずにはいられなかった。潮音はいつも気丈に振舞っている遥子にも、精神的にもろい一面があるのかもしれないと思っていた。
「どうして泣いてるんだよ」
「いや、あんな目にあって悔しいからじゃなくて、藤坂先輩のような自分の話を聞いて自分のために活動してくれる人は今までいなかったから…」
そこで潮音は遥子に尋ねてみた。
「どうして陽子って松風に来たわけ? 女子サッカーやフットサルをやってる学校だったらほかにもあるかもしれないのに」
「松風は私の母も通っていた学校だし、女子校だったらむしろ男子の目を気にせず自由にやりたいことがやれると思ったから…」
「遥子でも男子からどう見られるか気になるんだ。そんなの気にしなきゃいいじゃん」
「でも…私はいいけどすぴかはもう何日も前からこのようないやがらせを受けていたって言うし、私が周りのことを考えないで突っ走ったせいで、すぴかにまでいやな思いをさせて…」
潮音はすぴかが数日前から表情を曇らせていたのはそのためだったのかと思ったが、同時に遥子のぐずぐずした態度にもいら立ちを感じていた。
「人に迷惑かけたり傷ついたりするのを心配してたら、何もできやしないよ。私だってこの学校入ってからさんざん無茶なことばかりやってきたし、時にはトラブルだって起こしたけど、その結果今の自分があるって思ってる。だから後輩たちには自分のやりたいことを諦めてほしくないんだ」
その潮音の話を、遥子だけでなく小春とすぴかも黙ったまま聞いていた。
そのときだった。入学したばかりの中等部の一年生を中心とする何人かの生徒たちが遥子のもとに寄ってきた。
「私たち…フットサル同好会に入りたいんです。樋沢先輩たちが一生懸命活動しているのを見て、私たちもやってみたいと思うようになりました」
「私も小学校まで、男子と一緒にサッカーをやっていたんです」
それを見て遥子は一瞬嬉しそうな顔をしたものの、態度を緩めることはなかった。
「練習はきついことだってあるよ。それでもいいの?」
その遥子の問いかけにも、入会を志望した生徒たちは黙ってうなづいた。そこで遥子は、フットサル同好会の活動について生徒たちに説明を始めた。それを見て潮音は、安堵の表情を浮べた。
「この調子じゃ、五月いっぱいまで待たなくても、連休明けくらいまでには部員が十人集まりそうだね」
しかしそのとき、すぴかは少し言いにくそうに声をひそめながら口を開いた。
「ごめん…あたしやっぱり、フットサル同好会に入るのやめるわ」
潮音はそのすぴかの発言に驚いたが、遥子や小春はさほどのショックを受けていないようだった。
「そりゃあたしはすぴかをフットサル同好会に誘ったし、すぴかに協力してもらったけど、ほんとにフットサルをやりたいのかなって思ってたから…。練習だって大変だから、本気でやる気がないなら入らない方がいいよ。あたしだってそうまでして、すぴかにつきあってほしいとは思ってないし」
遥子の言葉に、すぴかも深くうなづいた後で、笑顔で口を開いた。
「その代わり、あたしは陽子が頑張ってるのを見て、自分だってやりたいことをやってみたいって思うようになったんだ。そこで考えたんだけど、ファッション同好会っていうのはどうかな? うちの学校だっておしゃれやファッションとか好きな人多そうだし。それで文化祭でファッションショーとかやってみたいな」
それを聞いて、小春も満足そうだった。
「ええんとちゃう? すぴかのやりたいことやるのが一番やで」
潮音はすぴかや小春の話を聞きながら、バイタリティのある後輩たちを頼もしく思うと同時に、そのためにはいろいろ解決しなければいけない課題も多そうだと感じていた。そこですぴかが、潮音に目を向けた。
「そこで藤坂先輩からも、あの生徒会長に対してファッション同好会を作るのを認めるように相談してくれませんか?」
すぴかが潮音のことを頼りにしている様子は、潮音にもありありと伝わってきた。潮音は紫を説得するのも簡単じゃなさそうだと思って、内心でやれやれと言いたくなった。
しかしそこでさらに、何人もの後輩が潮音のところに寄ってきた。
「藤坂先輩、さっき樋沢さんたちを先輩から助けるのを見てすごいと思いました。これからもよろしくお願いします」
後輩たちが潮音に熱い視線を向けて喝采を浴びせるのを聞きながら、潮音は自分は当り前のことをしただけなのに、もういいかげんにしてくれと思っていた。
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