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第六部
第一章・潮音、アイドルになる(その6)
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十月に入ると、学園祭まであと一ヶ月を切ったというわけで、文化祭に出展するクラスやクラブはより練習や準備により熱を入れるようになり、学校全体の雰囲気もより盛り上りを見せてくる。
そのような雰囲気の中で行われた下期の生徒会役員の選挙では、紫が引き続き生徒会長を務め、寺島琴絵が文化祭の執行委員長を担当する一方で、高等部の一年生二人が就任することになっている生徒会の副会長には、壬生小春と樋沢遥子が選ばれることになった。中等部から松風女子学園に在籍していて華道部での活動実績もある小春だけでなく、遥子が生徒会の副会長に選ばれたのは、高校に入ってからフットサル同好会を設立させた行動力やバイタリティ、持ち前の明るい性格が評価されてのことであったが、紫をはじめとする二年生たちも遥子のこのような点を評価し期待していた。
下期の生徒会の役員が決まってから間もないある日の放課後、潮音が文化祭の練習を終えて紫と一緒に帰宅の途につこうとすると、校舎の玄関で遥子と小春、すぴかの三人組にばったり出会った。遥子たちの方から潮音や紫に対して明るい表情ではきはきとあいさつをするのはいつものことだったが、そこで潮音は遥子たちに尋ねてみた。
「一年のみんなは今度の文化祭で何をするの?」
それに対して遥子は快活に答えた。
「私たちの一年桜組は劇をやることになりました。題目は『ピーターパン』だけど、私がピーターパンの役をやることになって、さっきまで練習してたんですよ。小春は脚本を書いて、監督や演出だってやってるんです」
「へえ。樋沢さんのピーターパンはけっこう楽しみだな」
潮音が笑顔を見せると、遥子の隣で小春は少し恥ずかしそうな顔をしながらぼそりと答えた。
「脚本を書くのはけっこう大変でしたよ。私はうまく書けた自信はないけど。去年先輩たちがやった『ロミオとジュリエット』の劇の録画をちょくちょく見てますけど、あのとき脚本を書いたのは文芸部の寺島先輩ですよね。それに比べたら私なんか全然まだまだです」
小春にそこまで言われると、潮音と紫もお互いの表情を見合わせて苦笑せずにはいられなかった。そこですぴかが、小春に快活に声をかけた。
「小春ももっと自信持ちなよ。小春がちゃんと脚本を書いて監督もやってくれてるからこそ、みんながちゃんと劇をやれてるわけじゃない。あたしはファッション同好会の活動で忙しいから、劇には参加できないけど」
そこで遥子はすぴかをねぎらうように声をかけた。
「その代わりすぴかには衣裳で協力してもらってるじゃん。私のピーターパンの衣裳もすぴかにデザインしてもらったし、おかげでだいぶ助かってるよ」
すぴかがそれを聞いて照れくさそうな顔をしていると、先ほどから一年生たちの話を聞いていた紫がにこやかな顔で遥子たちに話しかけた。
「いずれにしてもみんな元気そうで、活動も熱心にやっているようで何よりだわ。ほんとに文化祭の当日が楽しみね。私たちも去年劇をやったから、わからないことや困ったこと、相談したいことがあったらいつでも私たちのところにいらっしゃい」
紫の話を聞くと、遥子たち一年生組は一様に嬉しそうな顔をした。一年生たちは生徒会長の紫から褒められたことで、自分たちの活動にも手ごたえを感じたようだった。そこで遥子はすかさず元気に返事をした。
「先輩たちはアイドルのパフォーマンスをやるんですよね。頑張って下さいね」
そこで潮音と紫は一年生たちと別れて校舎を後にしたが、紫はその間もずっとご機嫌そうだった。
「あの子たちはみんな仲良さそうだし、ずいぶん張り切ってるじゃない。その調子で来年の生徒会活動もやってくれたらいいんだけど。でも潮音はずいぶんあの子たちからも信頼されてるのね」
紫からそのように言われると、潮音は顔から火が出そうになった。
「そ、そんなことないよ…」
「いや、潮音はあの子たちが新しい同好会をつくりたいと言ったときにだいぶ協力してたじゃない。そういうところをあの子たちもちゃんと見てるんだと思うよ」
紫に褒められて、潮音は傾きかけた秋の西日を浴びながらますます照れくさそうな顔をせずにはいられなかった。
十月に入って文化祭の準備が進む一方で、生徒たちの間では誰を文化祭に招待するかが話題になっていた。松風女子学園の文化祭の入場はチケット制になっており、生徒には家族向けの他に配布されるチケットの枚数に限りがあるために、誰を文化祭に招待するかが生徒たちにとっては一大事だった。高校から入学した生徒の中には、他の高校に進学した中学時代の友人を誘おうとしている生徒もいたが、そこで潮音はある日の昼休みに教室で弁当を食べながら、ぼそりと暁子に言った。
「この中に誰か彼氏にチケットをあげようって子はいないのかよ。そりゃナンパ目的で来る男だっているかもしれないから、チケット制になっているのは仕方ないけど」
「人が誰を文化祭に呼ぼうと、その人の勝手でしょ」
「椎名と尾上さんは水泳部の練習で大変だから来られそうにないしな」
そこで暁子は、潮音の顔を向き直して言った。
「じゃあ潮音、尚洋に通ってる彼氏を誘ったらどうなのよ」
潮音は暁子が言っているのは昇のことだとすぐに気がついたが、昇は去年も文化祭に来てくれたなとふと思っていた。
「あの彼氏、去年はけっこうみんなから注目されてたじゃん。そりゃ尚洋行ってて頭良さそうだもんね」
「何言ってるんだよ。暁子こそ栄介が来るんじゃないの」
「栄介は来年が高校受験だからとかなんとか言ってるよ。日ごろそんなに勉強もしてないくせに。やっぱり栄介は女子校の文化祭に行くのが照れくさいんじゃないかな」
「栄介ってけっこう照れ屋だからな。そんなこと気にしなきゃいいのに」
そこで潮音は、ふと息をついた後であらためて暁子に話しかけた。
「家族以外に誰かを誘うとしたら、漣はぜひとも誘いたいって思ってるんだ」
潮音の言葉を聞いて、暁子も納得したような顔をした。
「漣って去年あんたの誕生パーティーに来てた子だよね。…たしかあの子もあんたと一緒じゃなかったっけ」
暁子の言葉に、潮音は軽くうなづいた。それを見て暁子は潮音にそっと声をかけた。
「やっぱりあんたにとって、あの子のことは気になるみたいね。そうやって自分と同じような立場で困っている子がいたらほっておけないのが、あんたのいいとこだよね。この前一緒に東京に行ったときに知り合ったみなもって子とも、あんたはすぐに仲良くなったじゃない」
そこで潮音は、あらためてみなもについて暁子に話しかけた。
「みなもとは今でもSNSで連絡を取り合ってるよ。私が文化祭でアイドルをやるって話をしたら、みなもも意外そうにしていたっけ。でもみなもの行ってる通信制の高校って、文化祭とかあるのかな」
「そういう行事に参加するのが苦手で、通信制の高校に行った子もいるかもしれないけどね」
「漣もちょっとそういうとこあるからな。だから漣がちゃんと学校でやっていけてるか心配なんだよ」
「だったらその漣って子を文化祭に誘えばいいじゃない。でもあんたがアイドルの真似やってるところをあの子が見たら、いったいどんな顔をするかな」
「暁子までそういうこと言うかよ」
暁子が冷やかすようなそぶりを見せたので、潮音はいやそうな顔をした。ちょうどそのとき、昼休みの終りを告げる予鈴のチャイムが鳴ったので、潮音と暁子はそれぞれの席に戻って午後の授業の支度をすることにした。
「潮音も生徒会の活動頑張ってね」
「暁子こそ今、手芸部でバザーに出す品物を作ってるんだろ。バザーにも人が来てくれるといいね」
その日帰宅してから、潮音は漣にどうやって文化祭のチケットを渡そうかと考えていた。とりあえず潮音はスマホを操作してSNSで漣に連絡を取ってみた。
漣も返事をしたので、潮音は自分の学校の学園祭が近づいていることをさりげなく話してみた。その話題でしばらく話した後で、潮音はどうやって漣にチケットを渡せばいいかとメッセージを送信した。そこで漣が、自分の通っている布引女学院の近くまで来てほしいと言って、潮音に受け渡しの場所と日時を指定した。潮音もそれに同意はしたものの、この場ではまだ、学園祭で自分がアイドルのパフォーマンスをやることは漣には黙っておくことにした。
そして潮音は漣に指定された日に、文化祭の練習を終えた後で、漣が待合せ場所に指定した布引女学院の近くの公園に向かった。潮音が公園に着いたときには漣もすでに待っており、その場で潮音は漣に文化祭のチケットを手渡した。潮音はそのまま、漣がこのところ学校で元気にやっているのかなどについて話をしたい気持ちもあったが、十月に入って日暮れも早まっていたので、話もそこそこにお互いの家に帰ることにした。
潮音は漣と別れて帰宅の途についてから、布引女学院に通っている流風のことを思い出していた。潮音は流風も今大学受験を控えた大変な時期だということはわかっていたし、流風はどこの大学に進学するのだろうかということも気になっていたが、せめて一度流風に会って話をすることができればと考えていた。
そしてさらに、潮音は昇にチケットを渡そうと思ってはいたものの、それには少しためらいの気持ちもあった。しかし潮音はぐずぐずしてばかりいたって始まらないと思い直すと、漣にチケットを手渡してから数日たった夕食前の頃に、自宅の隣にある昇の家を訪ねて玄関口で昇にチケットを手渡した。潮音が緊張した様子をしているのを見て昇は怪訝そうな顔をしていたが、潮音はぜひ文化祭に来てほしいとだけ告げると、足早に昇の家の玄関を後にした。
潮音が昇に文化祭のチケットを手渡した翌日になって、アイドルのパフォーマンスで着る衣装ができたと放課後の練習で告げられた。潮音はフリルなどをあしらったカラフルな衣裳を目の当りにして、文化祭に向けて頑張らなければならないとあらためて意を新たにしていた。しかし紫が衣裳を前にして嬉しそうな顔をしている反面で、光瑠がどこか複雑そうな表情をしているのには、潮音もなんだかなあと思わずにはいられなかった。
そのような雰囲気の中で行われた下期の生徒会役員の選挙では、紫が引き続き生徒会長を務め、寺島琴絵が文化祭の執行委員長を担当する一方で、高等部の一年生二人が就任することになっている生徒会の副会長には、壬生小春と樋沢遥子が選ばれることになった。中等部から松風女子学園に在籍していて華道部での活動実績もある小春だけでなく、遥子が生徒会の副会長に選ばれたのは、高校に入ってからフットサル同好会を設立させた行動力やバイタリティ、持ち前の明るい性格が評価されてのことであったが、紫をはじめとする二年生たちも遥子のこのような点を評価し期待していた。
下期の生徒会の役員が決まってから間もないある日の放課後、潮音が文化祭の練習を終えて紫と一緒に帰宅の途につこうとすると、校舎の玄関で遥子と小春、すぴかの三人組にばったり出会った。遥子たちの方から潮音や紫に対して明るい表情ではきはきとあいさつをするのはいつものことだったが、そこで潮音は遥子たちに尋ねてみた。
「一年のみんなは今度の文化祭で何をするの?」
それに対して遥子は快活に答えた。
「私たちの一年桜組は劇をやることになりました。題目は『ピーターパン』だけど、私がピーターパンの役をやることになって、さっきまで練習してたんですよ。小春は脚本を書いて、監督や演出だってやってるんです」
「へえ。樋沢さんのピーターパンはけっこう楽しみだな」
潮音が笑顔を見せると、遥子の隣で小春は少し恥ずかしそうな顔をしながらぼそりと答えた。
「脚本を書くのはけっこう大変でしたよ。私はうまく書けた自信はないけど。去年先輩たちがやった『ロミオとジュリエット』の劇の録画をちょくちょく見てますけど、あのとき脚本を書いたのは文芸部の寺島先輩ですよね。それに比べたら私なんか全然まだまだです」
小春にそこまで言われると、潮音と紫もお互いの表情を見合わせて苦笑せずにはいられなかった。そこですぴかが、小春に快活に声をかけた。
「小春ももっと自信持ちなよ。小春がちゃんと脚本を書いて監督もやってくれてるからこそ、みんながちゃんと劇をやれてるわけじゃない。あたしはファッション同好会の活動で忙しいから、劇には参加できないけど」
そこで遥子はすぴかをねぎらうように声をかけた。
「その代わりすぴかには衣裳で協力してもらってるじゃん。私のピーターパンの衣裳もすぴかにデザインしてもらったし、おかげでだいぶ助かってるよ」
すぴかがそれを聞いて照れくさそうな顔をしていると、先ほどから一年生たちの話を聞いていた紫がにこやかな顔で遥子たちに話しかけた。
「いずれにしてもみんな元気そうで、活動も熱心にやっているようで何よりだわ。ほんとに文化祭の当日が楽しみね。私たちも去年劇をやったから、わからないことや困ったこと、相談したいことがあったらいつでも私たちのところにいらっしゃい」
紫の話を聞くと、遥子たち一年生組は一様に嬉しそうな顔をした。一年生たちは生徒会長の紫から褒められたことで、自分たちの活動にも手ごたえを感じたようだった。そこで遥子はすかさず元気に返事をした。
「先輩たちはアイドルのパフォーマンスをやるんですよね。頑張って下さいね」
そこで潮音と紫は一年生たちと別れて校舎を後にしたが、紫はその間もずっとご機嫌そうだった。
「あの子たちはみんな仲良さそうだし、ずいぶん張り切ってるじゃない。その調子で来年の生徒会活動もやってくれたらいいんだけど。でも潮音はずいぶんあの子たちからも信頼されてるのね」
紫からそのように言われると、潮音は顔から火が出そうになった。
「そ、そんなことないよ…」
「いや、潮音はあの子たちが新しい同好会をつくりたいと言ったときにだいぶ協力してたじゃない。そういうところをあの子たちもちゃんと見てるんだと思うよ」
紫に褒められて、潮音は傾きかけた秋の西日を浴びながらますます照れくさそうな顔をせずにはいられなかった。
十月に入って文化祭の準備が進む一方で、生徒たちの間では誰を文化祭に招待するかが話題になっていた。松風女子学園の文化祭の入場はチケット制になっており、生徒には家族向けの他に配布されるチケットの枚数に限りがあるために、誰を文化祭に招待するかが生徒たちにとっては一大事だった。高校から入学した生徒の中には、他の高校に進学した中学時代の友人を誘おうとしている生徒もいたが、そこで潮音はある日の昼休みに教室で弁当を食べながら、ぼそりと暁子に言った。
「この中に誰か彼氏にチケットをあげようって子はいないのかよ。そりゃナンパ目的で来る男だっているかもしれないから、チケット制になっているのは仕方ないけど」
「人が誰を文化祭に呼ぼうと、その人の勝手でしょ」
「椎名と尾上さんは水泳部の練習で大変だから来られそうにないしな」
そこで暁子は、潮音の顔を向き直して言った。
「じゃあ潮音、尚洋に通ってる彼氏を誘ったらどうなのよ」
潮音は暁子が言っているのは昇のことだとすぐに気がついたが、昇は去年も文化祭に来てくれたなとふと思っていた。
「あの彼氏、去年はけっこうみんなから注目されてたじゃん。そりゃ尚洋行ってて頭良さそうだもんね」
「何言ってるんだよ。暁子こそ栄介が来るんじゃないの」
「栄介は来年が高校受験だからとかなんとか言ってるよ。日ごろそんなに勉強もしてないくせに。やっぱり栄介は女子校の文化祭に行くのが照れくさいんじゃないかな」
「栄介ってけっこう照れ屋だからな。そんなこと気にしなきゃいいのに」
そこで潮音は、ふと息をついた後であらためて暁子に話しかけた。
「家族以外に誰かを誘うとしたら、漣はぜひとも誘いたいって思ってるんだ」
潮音の言葉を聞いて、暁子も納得したような顔をした。
「漣って去年あんたの誕生パーティーに来てた子だよね。…たしかあの子もあんたと一緒じゃなかったっけ」
暁子の言葉に、潮音は軽くうなづいた。それを見て暁子は潮音にそっと声をかけた。
「やっぱりあんたにとって、あの子のことは気になるみたいね。そうやって自分と同じような立場で困っている子がいたらほっておけないのが、あんたのいいとこだよね。この前一緒に東京に行ったときに知り合ったみなもって子とも、あんたはすぐに仲良くなったじゃない」
そこで潮音は、あらためてみなもについて暁子に話しかけた。
「みなもとは今でもSNSで連絡を取り合ってるよ。私が文化祭でアイドルをやるって話をしたら、みなもも意外そうにしていたっけ。でもみなもの行ってる通信制の高校って、文化祭とかあるのかな」
「そういう行事に参加するのが苦手で、通信制の高校に行った子もいるかもしれないけどね」
「漣もちょっとそういうとこあるからな。だから漣がちゃんと学校でやっていけてるか心配なんだよ」
「だったらその漣って子を文化祭に誘えばいいじゃない。でもあんたがアイドルの真似やってるところをあの子が見たら、いったいどんな顔をするかな」
「暁子までそういうこと言うかよ」
暁子が冷やかすようなそぶりを見せたので、潮音はいやそうな顔をした。ちょうどそのとき、昼休みの終りを告げる予鈴のチャイムが鳴ったので、潮音と暁子はそれぞれの席に戻って午後の授業の支度をすることにした。
「潮音も生徒会の活動頑張ってね」
「暁子こそ今、手芸部でバザーに出す品物を作ってるんだろ。バザーにも人が来てくれるといいね」
その日帰宅してから、潮音は漣にどうやって文化祭のチケットを渡そうかと考えていた。とりあえず潮音はスマホを操作してSNSで漣に連絡を取ってみた。
漣も返事をしたので、潮音は自分の学校の学園祭が近づいていることをさりげなく話してみた。その話題でしばらく話した後で、潮音はどうやって漣にチケットを渡せばいいかとメッセージを送信した。そこで漣が、自分の通っている布引女学院の近くまで来てほしいと言って、潮音に受け渡しの場所と日時を指定した。潮音もそれに同意はしたものの、この場ではまだ、学園祭で自分がアイドルのパフォーマンスをやることは漣には黙っておくことにした。
そして潮音は漣に指定された日に、文化祭の練習を終えた後で、漣が待合せ場所に指定した布引女学院の近くの公園に向かった。潮音が公園に着いたときには漣もすでに待っており、その場で潮音は漣に文化祭のチケットを手渡した。潮音はそのまま、漣がこのところ学校で元気にやっているのかなどについて話をしたい気持ちもあったが、十月に入って日暮れも早まっていたので、話もそこそこにお互いの家に帰ることにした。
潮音は漣と別れて帰宅の途についてから、布引女学院に通っている流風のことを思い出していた。潮音は流風も今大学受験を控えた大変な時期だということはわかっていたし、流風はどこの大学に進学するのだろうかということも気になっていたが、せめて一度流風に会って話をすることができればと考えていた。
そしてさらに、潮音は昇にチケットを渡そうと思ってはいたものの、それには少しためらいの気持ちもあった。しかし潮音はぐずぐずしてばかりいたって始まらないと思い直すと、漣にチケットを手渡してから数日たった夕食前の頃に、自宅の隣にある昇の家を訪ねて玄関口で昇にチケットを手渡した。潮音が緊張した様子をしているのを見て昇は怪訝そうな顔をしていたが、潮音はぜひ文化祭に来てほしいとだけ告げると、足早に昇の家の玄関を後にした。
潮音が昇に文化祭のチケットを手渡した翌日になって、アイドルのパフォーマンスで着る衣装ができたと放課後の練習で告げられた。潮音はフリルなどをあしらったカラフルな衣裳を目の当りにして、文化祭に向けて頑張らなければならないとあらためて意を新たにしていた。しかし紫が衣裳を前にして嬉しそうな顔をしている反面で、光瑠がどこか複雑そうな表情をしているのには、潮音もなんだかなあと思わずにはいられなかった。
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