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第六部
第二章・スケートに行こう(その2)
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期末テストが終る頃には、街にも木枯らしが吹き始めて特に朝晩は寒さが厳しくなり、木々もすっかり葉を落して、いよいよ本格的な冬の訪れを感じさせた。潮音が返却されたテストの結果を見ると、学年全体から見たら中の下くらいの成績だったとはいえ、全科目で赤点を取らずに済んだ。潮音はそのテスト結果を見て、これなら暁子と一緒に冬休みにどこかに行くこともできそうだと内心で安堵した。
その頃になると生徒たちの話題も、クリスマスや年末年始をどう過ごすかが中心になっていた。中には学習塾や予備校の冬期講習に通う生徒もいたが、来年の今ごろは大学入試が目前に迫ってクリスマスや正月どころではなくなるのだから、今年のうちに楽しめるものは楽しんでおこうという空気が生徒たちの間に漂っていた。
しかし潮音は、紫のことが気になっていた。紫は自らが所属している森末バレエ団のクリスマス公演に向けて練習に余念がなかったが、その公演が終って冬休みになっても、紫は勉強をしっかりやるのだろうかと潮音は思っていた。さらに昇も大学受験に向けて着々と準備を進めているのかと思うと、潮音は自分はこんなにうかうかしていていいのだろうかと引け目を感じずにはいられなかった。
潮音がそのようにして放課後の教室の中で考えていると、元気な声が背後から聞こえてきた。潮音がその声がした方を振り向くと、そこには暁子と優菜が二人そろって笑顔で手を振っていた。
「どうしたのよ潮音。せっかくテスト終ったというのに、なんか元気なさそうな顔しててさ。こういうときこそテスト前に言ったように、優菜も一緒にどこか遊びに行っていやなことなんか忘れちゃおうよ」
それには暁子の隣にいた優菜も同感なようだった。
「ほんまやで。潮音はこのところ勉強に生徒会にバレエと、ちょっと無理しすぎとちゃうかな。そりゃいろんなことを頑張るのはええけど、たまにはストレス解消もせえへんと参ってしまうよ」
そこで潮音は暁子と優菜に返事をした。
「暁子や優菜がそうやって心配してくれるのは嬉しいけど、遊びに行くといってもどこに行けばいいんだろう」
潮音が少し考えるようなそぶりを見せると、暁子はすかさず口を開いた。
「それなんだけどね。優菜がスケートリンクの券を何枚かもらったから、みんなで一緒に行ったらどうかと誘ってくれたんだ。潮音だったらバレエもやっててあたしたちより運動神経いいから、あたしたちよりスケートうまいんじゃないかな」
暁子に言われて、潮音は照れくさそうな顔をしながら手を振るしかなかった。
「そうでもないよ。スケートなんてあんまりやったことないし。紫だったらもっとうまくやれると思うけど」
「そりゃ峰山さんはあんなにバレエ上手なんやから、スケートかて上手やろうな」
「バレエがうまかったらスケートもうまいかどうかなんてわかんないけどな」
潮音と優菜が話しているそばで、暁子は自信なさげな顔をしていた。
「あたし…スケートなんて全然やったことないから不安だよ」
そのような暁子の言葉を聞いて、優菜も少し遠慮気味に口を開いた。
「実を言うとあたしも、スケート行ったことあるのはだいぶ昔の話でそれ以来行ってへんから、うまくやれる自信なんかないよ」
それでも暁子が浮かない表情をしているのを見て、潮音は慰めるかのように元気よく声をかけた。
「苦手だからとかできないからとか言ってたら、いつまでたってもうまくならないよ。どうせみんな初心者なんだから、下手でもともとというくらいの気持ちでやればいいんじゃない?」
潮音に言われて、暁子の表情は少し明るくなった。
「あんたはいつもそうだよね。何でもかんでもいろんなことを頑張ろうとするんだから。そりゃちょっと向こう見ずなところだってあるけど、あんたのそういうとこ見てると、あたしがちっちゃなことでクヨクヨしてることがバカらしくなってくるよ」
暁子の「向こう見ず」という言葉に潮音はちょっと引っかかるものがあったものの、それよりも潮音は暁子が少し元気を取り戻してくれたことの方が嬉しかった。
その日は放課後にバレエのレッスンがあったので、潮音はさっそく森末バレエ教室に足を向けた。潮音は期末テストの間はバレエのレッスンを休んでいたので、その分しっかりやらなければと思っていた。
潮音がバレエ教室に着くと、すでに紫はバレエの練習着に着替えて一心に練習に打ち込んでいた。クリスマスの公演が目前に迫っていることもあって、紫がバレエの練習に真剣に打ち込んでいることはその眼差しや表情からも明らかだった。潮音は自分もそそくさと練習に向かったが、紫の実力を目の当りにすると潮音は自分などまだまだだと思わずにはいられなかった。
ようやく休憩時間になったときには、真冬というのに紫は汗だくになって息も弾んでいた。紫がタオルで汗をぬぐっているところに、潮音はスポーツ飲料を差し出してやった。
「紫はほんとよく頑張るよね。これだけバレエのレッスンをやりながら学校の勉強でもテストでいい点取るんだから、ほんとに紫はすごいよ」
「このクリスマス公演は、私にとっても大切な舞台だからね。何としても成功させておきたいの」
潮音は紫をスケートに誘えないかという思いもあったが、先ほどの練習のときの紫の真剣な態度を前にしては、軽々しく声をかけることすら憚られた。しかし潮音の遠慮気味な表情を前にして、むしろ紫の方が親身に口を開いた。
「流風先輩は高三になってからバレエの練習を休んでいるけど、ちゃんと元気でやってるの?」
紫に流風について尋ねられると、潮音も少し心配そうな顔をした。
「私もこのところ最近流風姉ちゃんには会ってないんだ。流風姉ちゃんは今がまさに受験の追い込みだからね」
「流風先輩がどこの大学に行くかはまだわかんないけど、大学に入学したらまたバレエを再開したらいいのにね」
紫はかすかに笑みを浮べた後で、潮音を向き直して言った。
「ところで潮音はこの冬休みはどうするの? 来年は受験があるから、遊ぶんだったら今のうちかもしれないよ。ま、もうすでに冬休みも塾や予備校の冬期講習に通ってる子だっているけどね」
紫がそのような話題を振ったのを潮音は意外に思ったが、そこで潮音はすかさず紫に声をかけた。
「紫こそバレエのクリスマス公演が終ったら、冬休みくらい少しはゆっくり休んだら? あまり無理しすぎると体が参っちゃうよ」
「潮音がそうやって私のこと心配してくれるのはありがたいけど…だったらどこに行って何をすればいいと思う?」
そこで潮音は、紫に話をするタイミングは今しかないと意を決して、さっそく紫に話を切り出した。
「あの…優菜がスケートリンクのチケットを何枚かもらったから、この冬休みの間に暁子も一緒にスケートに行かないかって誘ってくれたんだ。でも私はこれまでスケートなんか全然やったことないから、どうも自信なくてさ…。紫はスケートやったことあるの?」
紫は落ち着き払った表情で潮音に返事をした。
「私はちっちゃな頃はバレリーナじゃなければ、フィギュアスケートの選手になりたいって思ったこともあるの。その話を親にしたら、何度かスケートリンクに連れて行ってもらったんだ。それでスケートもできるようになったんだけど、今でもテレビでフィギュアスケートの競技をよく見るよ」
「紫ってほんとに何でもできるんだね…すごいよ」
潮音がため息混じりに言うと、紫は手を振ってそれを否定した。
「そんな…子どもの頃にちょっと憧れてただけだよ。私はそのうちバレエの方が忙しくなったから、スケートは今じゃ毎年の冬ごとに一回くらい行く程度だけど」
そこで潮音は、勇気を出して紫に話しかけた。
「それでも紫はスケートできるだけすごいよ。だからぜひ紫も私たちと一緒にスケートリンクに来て、スケートのこととか教えてくれないかな」
そこで紫は少し考えた後で、潮音の申し出を快諾した。
「いいよ。バレエのクリスマス公演が終った後の冬休みだったら時間も取れると思うから。そりゃ私だって、人にちゃんとスケートを教えられるかどうかはわかんないけどね。あとどうせスケート行くなら、もっとほかの子も誘って行かない? たとえば光瑠やキャサリンとか」
「そうだよね。紫と話していて、ますますスケートに行くのが楽しみになったよ」
潮音は紫が自身の誘いに乗り気になったのを見て嬉しそうな顔をしただけでなく、紫がもっと他の友達も誘ってくれたらますますにぎやかなことになりそうだと思って、ふと軽く息をついた。
潮音はバレエのレッスンから自宅に戻ると、さっそくスマホで暁子と優菜に、紫もスケートに行きたいと興味を示したことや、もっと他の友達を誘おうとしていることを伝えた。暁子と優菜もその話を聞いて嬉しそうな反応をしたが、潮音はこれで冬休みがより楽しいものになればいいのにと思って、期待に胸をふくらませていた。
その頃になると生徒たちの話題も、クリスマスや年末年始をどう過ごすかが中心になっていた。中には学習塾や予備校の冬期講習に通う生徒もいたが、来年の今ごろは大学入試が目前に迫ってクリスマスや正月どころではなくなるのだから、今年のうちに楽しめるものは楽しんでおこうという空気が生徒たちの間に漂っていた。
しかし潮音は、紫のことが気になっていた。紫は自らが所属している森末バレエ団のクリスマス公演に向けて練習に余念がなかったが、その公演が終って冬休みになっても、紫は勉強をしっかりやるのだろうかと潮音は思っていた。さらに昇も大学受験に向けて着々と準備を進めているのかと思うと、潮音は自分はこんなにうかうかしていていいのだろうかと引け目を感じずにはいられなかった。
潮音がそのようにして放課後の教室の中で考えていると、元気な声が背後から聞こえてきた。潮音がその声がした方を振り向くと、そこには暁子と優菜が二人そろって笑顔で手を振っていた。
「どうしたのよ潮音。せっかくテスト終ったというのに、なんか元気なさそうな顔しててさ。こういうときこそテスト前に言ったように、優菜も一緒にどこか遊びに行っていやなことなんか忘れちゃおうよ」
それには暁子の隣にいた優菜も同感なようだった。
「ほんまやで。潮音はこのところ勉強に生徒会にバレエと、ちょっと無理しすぎとちゃうかな。そりゃいろんなことを頑張るのはええけど、たまにはストレス解消もせえへんと参ってしまうよ」
そこで潮音は暁子と優菜に返事をした。
「暁子や優菜がそうやって心配してくれるのは嬉しいけど、遊びに行くといってもどこに行けばいいんだろう」
潮音が少し考えるようなそぶりを見せると、暁子はすかさず口を開いた。
「それなんだけどね。優菜がスケートリンクの券を何枚かもらったから、みんなで一緒に行ったらどうかと誘ってくれたんだ。潮音だったらバレエもやっててあたしたちより運動神経いいから、あたしたちよりスケートうまいんじゃないかな」
暁子に言われて、潮音は照れくさそうな顔をしながら手を振るしかなかった。
「そうでもないよ。スケートなんてあんまりやったことないし。紫だったらもっとうまくやれると思うけど」
「そりゃ峰山さんはあんなにバレエ上手なんやから、スケートかて上手やろうな」
「バレエがうまかったらスケートもうまいかどうかなんてわかんないけどな」
潮音と優菜が話しているそばで、暁子は自信なさげな顔をしていた。
「あたし…スケートなんて全然やったことないから不安だよ」
そのような暁子の言葉を聞いて、優菜も少し遠慮気味に口を開いた。
「実を言うとあたしも、スケート行ったことあるのはだいぶ昔の話でそれ以来行ってへんから、うまくやれる自信なんかないよ」
それでも暁子が浮かない表情をしているのを見て、潮音は慰めるかのように元気よく声をかけた。
「苦手だからとかできないからとか言ってたら、いつまでたってもうまくならないよ。どうせみんな初心者なんだから、下手でもともとというくらいの気持ちでやればいいんじゃない?」
潮音に言われて、暁子の表情は少し明るくなった。
「あんたはいつもそうだよね。何でもかんでもいろんなことを頑張ろうとするんだから。そりゃちょっと向こう見ずなところだってあるけど、あんたのそういうとこ見てると、あたしがちっちゃなことでクヨクヨしてることがバカらしくなってくるよ」
暁子の「向こう見ず」という言葉に潮音はちょっと引っかかるものがあったものの、それよりも潮音は暁子が少し元気を取り戻してくれたことの方が嬉しかった。
その日は放課後にバレエのレッスンがあったので、潮音はさっそく森末バレエ教室に足を向けた。潮音は期末テストの間はバレエのレッスンを休んでいたので、その分しっかりやらなければと思っていた。
潮音がバレエ教室に着くと、すでに紫はバレエの練習着に着替えて一心に練習に打ち込んでいた。クリスマスの公演が目前に迫っていることもあって、紫がバレエの練習に真剣に打ち込んでいることはその眼差しや表情からも明らかだった。潮音は自分もそそくさと練習に向かったが、紫の実力を目の当りにすると潮音は自分などまだまだだと思わずにはいられなかった。
ようやく休憩時間になったときには、真冬というのに紫は汗だくになって息も弾んでいた。紫がタオルで汗をぬぐっているところに、潮音はスポーツ飲料を差し出してやった。
「紫はほんとよく頑張るよね。これだけバレエのレッスンをやりながら学校の勉強でもテストでいい点取るんだから、ほんとに紫はすごいよ」
「このクリスマス公演は、私にとっても大切な舞台だからね。何としても成功させておきたいの」
潮音は紫をスケートに誘えないかという思いもあったが、先ほどの練習のときの紫の真剣な態度を前にしては、軽々しく声をかけることすら憚られた。しかし潮音の遠慮気味な表情を前にして、むしろ紫の方が親身に口を開いた。
「流風先輩は高三になってからバレエの練習を休んでいるけど、ちゃんと元気でやってるの?」
紫に流風について尋ねられると、潮音も少し心配そうな顔をした。
「私もこのところ最近流風姉ちゃんには会ってないんだ。流風姉ちゃんは今がまさに受験の追い込みだからね」
「流風先輩がどこの大学に行くかはまだわかんないけど、大学に入学したらまたバレエを再開したらいいのにね」
紫はかすかに笑みを浮べた後で、潮音を向き直して言った。
「ところで潮音はこの冬休みはどうするの? 来年は受験があるから、遊ぶんだったら今のうちかもしれないよ。ま、もうすでに冬休みも塾や予備校の冬期講習に通ってる子だっているけどね」
紫がそのような話題を振ったのを潮音は意外に思ったが、そこで潮音はすかさず紫に声をかけた。
「紫こそバレエのクリスマス公演が終ったら、冬休みくらい少しはゆっくり休んだら? あまり無理しすぎると体が参っちゃうよ」
「潮音がそうやって私のこと心配してくれるのはありがたいけど…だったらどこに行って何をすればいいと思う?」
そこで潮音は、紫に話をするタイミングは今しかないと意を決して、さっそく紫に話を切り出した。
「あの…優菜がスケートリンクのチケットを何枚かもらったから、この冬休みの間に暁子も一緒にスケートに行かないかって誘ってくれたんだ。でも私はこれまでスケートなんか全然やったことないから、どうも自信なくてさ…。紫はスケートやったことあるの?」
紫は落ち着き払った表情で潮音に返事をした。
「私はちっちゃな頃はバレリーナじゃなければ、フィギュアスケートの選手になりたいって思ったこともあるの。その話を親にしたら、何度かスケートリンクに連れて行ってもらったんだ。それでスケートもできるようになったんだけど、今でもテレビでフィギュアスケートの競技をよく見るよ」
「紫ってほんとに何でもできるんだね…すごいよ」
潮音がため息混じりに言うと、紫は手を振ってそれを否定した。
「そんな…子どもの頃にちょっと憧れてただけだよ。私はそのうちバレエの方が忙しくなったから、スケートは今じゃ毎年の冬ごとに一回くらい行く程度だけど」
そこで潮音は、勇気を出して紫に話しかけた。
「それでも紫はスケートできるだけすごいよ。だからぜひ紫も私たちと一緒にスケートリンクに来て、スケートのこととか教えてくれないかな」
そこで紫は少し考えた後で、潮音の申し出を快諾した。
「いいよ。バレエのクリスマス公演が終った後の冬休みだったら時間も取れると思うから。そりゃ私だって、人にちゃんとスケートを教えられるかどうかはわかんないけどね。あとどうせスケート行くなら、もっとほかの子も誘って行かない? たとえば光瑠やキャサリンとか」
「そうだよね。紫と話していて、ますますスケートに行くのが楽しみになったよ」
潮音は紫が自身の誘いに乗り気になったのを見て嬉しそうな顔をしただけでなく、紫がもっと他の友達も誘ってくれたらますますにぎやかなことになりそうだと思って、ふと軽く息をついた。
潮音はバレエのレッスンから自宅に戻ると、さっそくスマホで暁子と優菜に、紫もスケートに行きたいと興味を示したことや、もっと他の友達を誘おうとしていることを伝えた。暁子と優菜もその話を聞いて嬉しそうな反応をしたが、潮音はこれで冬休みがより楽しいものになればいいのにと思って、期待に胸をふくらませていた。
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