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5話 一撃姫の噂(side:アレク)
しおりを挟む「アレク! 今日はもう帰るのか?」
「ああ、まあな。」
今日の業務を終え廊下を歩いていると、同僚のロイが声をかけてきた。
「なあなあ! 一撃姫の話、聞いたか?」
話したくて仕方ないといった感じだ。
「はあ? 一撃姫? なんだそれは。」
およそそれを名付けた奴のネーミングセンスを疑う。
「それがな、今日は王立学園の卒業式だったろ? 卒業式の後の舞踏会ですげえ事が起きたんだよ!」
興奮したように話しかけてくる。
「わかったから、少し落ち着いて話してくれ。」
こいつがこうなったら最後まで聞かないと放してくれそうにない。
「ああ、すまんすまん。俺もこれを聞いたときはびっくりしてな~。おまえ最近の学園の噂聞いてないか? 光の魔法が使える女子生徒がいるっていう……。」
「ああ、それなら聞いている。希少な魔法を扱えるということで平民から… たしか、キャンベル男爵に引き取られて学園に通うことになったとか。」
「そうそう! そのクララ・キャンベルという娘なんだが転入してから瞬く間に第二王子やその側近、高位の貴族の子息を次々に篭絡していった………と、おい!」
途中までは普通に聞いていたが周りに聞かれたら不味そうな話の流れになってきたのでロイの襟首を捕まえて近くの部屋に入った。
「その話、嘘ではないのだな?」
「嘘じゃない!俺の弟も同じ学園に通っているが、彼女を囲んで王子達がチヤホヤしているのを何度も見ているんだってよ、そんで婚約者のマーガレット嬢がそれをお諫めしている姿も見たことがあるそうだ。」
「そんな、まさか……。」
「そのまさかだったんだよ。なんでも、今日の舞踏会の場で彼女を取り巻いている男共がマーガレット嬢を卒業生達がいる目の前でいじめをしていたなどと糾弾したらしい。」
「はあ? なんでそんな馬鹿なことを……。」
あまりの話に開いた口が塞がらない。
「そしたら、マーガレット嬢を庇うようにヴィクトリア嬢が婚約者のジェフリー・クレイグ― あいつも例の娘の取り巻きだったんだが、そのジェフリーに食って掛かったらしい。で、奴はヴィクトリア嬢を公衆の面前で罵倒した挙句、婚約破棄を宣言したらしい。」
「…………。」
あまりの愚かな行いに言葉が出なかった。
ジェフリー・クレイグは侯爵家の三男で末っ子ということで甘やかされて育ったらしい。
上の二人の兄は優秀な文官となっているがジェフリーは学問では兄以上に才能を開花させることはなかった。それではと、親が騎士団に入隊させようとしたのだが仮入隊の1日目でリタイヤした。
婚約者のヴィクトリア嬢は才色兼備で第二王子の婚約者のマーガレット嬢と並ぶとそこら中に花が咲き誇るようだと噂の美少女らしい。
ヴィクトリア嬢の父親は宰相を務めている、妻を早くに亡くしそれはもう目に入れても痛くないというくらい娘を可愛がっていると有名だ。それこそジェフリーとの婚約の時もかなり荒れたが、国王陛下のとりなしでなんとか首を縦に振ったというのは有名な話だった。
「おい、それが本当なら国が荒れるぞ……。」
それほど娘ラブの父親なのだ。
「それがなあ、それで終わりじゃないんだ。」
「いや、もう俺はお腹がいっぱいなのだが。」
「まあ、聞けや。婚約破棄を宣言したジェフリーに、一撃姫―― ヴィクトリア嬢が腹に一発、拳をぶち込んだらしい。」
「はあああああ!?」
「俺も最初聞いたときは同じ反応だったよ。でも大勢が見ている前でやったからホントらしい。しかも、その一撃でジェフリーは完全にのびていたらしいぜ。」
あまりの話の展開に正直ついて行けなかった。
「まあ、その後はヴィクトリア嬢とマーガレット嬢が会場から立ち去ったみたいだけど、これからが大変だろうな~。さっき、すっごい形相の宰相が足早に王宮の廊下を歩いていたらしい。」
およそ令嬢らしからぬことをしてしまったのだ、宰相の怒りは相当なものだろう。
一撃姫、か。
どのようなご令嬢か会ってみたいな。
などと思っていたらその数刻後にまさか本人に会って、俺がこの騒動の渦中に巻き込まれていくなどとはその時は夢にも思わなかった。
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