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未亡人の哀しみと死者の声
BARで聞いた噂
しおりを挟む「やぁラズロ、どうしたしけた顔して」
狭くて暗くて煙草臭いいつものBARで、いつもの顔触れがラズロを迎える。
「やあオイゲンさん、どうも。そんなにしけた顔すかねぇ」
「おうおう、いつもの二割……いや、三割り増しでしけてんな。仕事が退屈かぁ?」
ひっひっと遠慮のない笑い声を上げるBARの常連のオイゲンは、すでにだいぶ飲んでいるのかすっかり機嫌良く出来上がっている。
「いらっしゃいラズロさん。いつもので?」
「あぁ、頼むよ」
マスターが心得たようにボトルを取り、グラスにウィスキーを注いでいく。
仕事帰り、特に行くあてもないラズロはこのBARで一杯やって帰るのが日課となっている。
「おぉ、そういやぁさラズロ。あんたもうあの話は聞いたかい?」
オイゲンがラズロの肩を抱き、声を顰めて囁くように尋ねた。
ラズロは、彼のその様子に軽く眉をあげる。口端が曲がり、なんとも皮肉げな笑いを浮かべた。
「さぁ、なんのことだか。今夜はどんなトンデモ噂話なんです?」
「ひゃっは! こりゃ単なる噂話じゃねえぞ、ほんとのことなんだから」
オイゲンは楽しげにカラカラ笑いながらラズロの薄い背中をバシバシと叩いた。
マスターが置いてくれたグラスを受け取りながら、肩を竦めるマスターと目線を交わし合う。
「はいはい、うそでもほんとでも、聞かせてくださいな。ぜひ」
ラズロはオイゲンの話を促した。
「おう、聞いて驚け……! なんとよぉ、なんと……そこの路地裏のずっと空き家になってた元骨董屋あんだろ。あそこに新しい店ができてよ」
オイゲンが話し出す。
うらびれた薄暗い小路で、華やかな大通りと胡乱なスラムのちょうど境にある所だ。
「その店の主人てのがね……なんでもどこかのお偉い貴族様の落とし胤だとかで。骨董屋なんだかガラクタ屋なんだかよくわからねえ店をやり始めたのよ」
「へぇ……。まぁよく聞く話じゃないですか、貴族の坊ちゃまが遊び半分の店を開くのは」
そんな勿体ぶるような話かな、とラズロは思わず苦笑を深める。
オイゲンは赤ら顔でジロリとラズロを睨み付けた。
「慌てんな、話はこっからさ。なんとその主人てのはよ……死者の声が聞けんだと」
「………………はぁ?」
重々しく告げられた噂の真相に、ラズロはついそんな声を溢す。
「リーサ婆さんは知ってるだろ、あの婆さんがな……死んだ倅の遺したたくさんのガラクタを持ってったんだとよ。そしたら……」
「はは……まさか……なんです、倅殿の声が聞こえて感動的な話でもできたって……?」
ラズロの相槌の声音は、どうにも冷めたものになる。
「あぁ……いや、それがな。リーサ婆さんの言うには……感動ってより……。あすこの倅、ずっと画家目指して目の出ないまま死んじまったろ。その……怨念めいたよ」
「…………怨念?」
ここまで言っておいて、オイゲンは躊躇うように口を閉ざす。
「ちょっとちょっと……! 気になるとこでやめないでくださいよぉ」
ラズロは促す。
ここまで聞かせておいてオチがないのはいくらなんでもつまらないと思うのだ。
「ふふ……オイゲンさんが言い淀むのも仕方ないことですよ」
「マスターは知ってるんですかぁ。ならマスターから言ってくれても」
「いや……! 俺が言う!」
オイゲンが再び口を開く。
「リーサ婆さんの倅の霊はよ、こう言ってたんだと。“どいつもこいつもクソだ! おれの絵の価値をわからないインポ野郎だ! クソクソクソ!”って……よ」
「……………………えぇ」
マスターは苦笑していた。
ラズロは、予想だにしていなかったそのオチに、ぎょろっとした目を丸く見開く。
「そ、そりゃ……リーサさんはなんて……?」
「間違いない、あたしの倅だ……って、よ……」
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