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黒の帳 『一つ目の帳』
メガネ×5 〔木曜日〕
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「おはよう~」
「おはよー鈴」
「…はよ…鈴」
今日もいい天気!
しかも今の言葉を聞いて舞い上がりそうだ。光彦が名前を呼んでくれた。
久しぶりだな、あの三年間は呼ぼうとしなかったから。昨日、龍牙と話して何かが変わったんだろう。でも二人に変わった様子は無いし、イジメもバレていなさそうだ。
龍牙が先に歩き出す。光彦の方をちらと見ると、一瞬目が合った。…嬉しかった。あの怖い目じゃない。それどころか、ふんわり細めてくれた。驚きで踏み出した足が止まってしまう。
「ほら鈴、龍牙が待ってる」
「えっ…、あ、ああ、うん、そうだね」
まともに、話しかけてくれた。
あれ、これ夢?
頬がどんどん緩んでいく。嬉しい、ただただ嬉しい。昔みたいに、光彦が、笑ってくれた。
「…く、クリミツ!」
「はいはい、行くぞ」
「クリミツ、鈴?また遅刻すんぞ」
あだ名を呼んでも、何にも言わない。中学の時は呼ぶ度に殴られたのに。どういう風の吹き回しだろう。
急かす龍牙に二人で着いて行く。いつもは龍牙の隣に並ぶけど、今日は光彦…、いや、クリミツの左に回る。龍牙とは遠くなるけど、構わない。
「…あれ、鈴?」
「今日はこっち!ね、クリミツ」
「お、おう…、そうだな」
だってクリミツは龍牙が好きだから。隣にしてあげたい。
思えば、昨日の朝、クリミツが私達の間に割り込んできたのはそういう事だ。気づけて良かった。
でも、嬉しそうなクリミツとは違い、龍牙は寂しそうな顔をする。いつもの場所と違うからかな。
「…俺の隣、嫌だった?」
「え、えっ!?違う、違うよ。ちょっと気分変えてみるのもいいかなーって!」
「まだ一日しか行ってないだろ?…やっぱり、嫌?」
「嫌じゃないよっ、全然そんな事ない!」
どうしたんだろう、龍牙。
場所を少し移動しただけでここまで反応されるとは思わなかった。場所替えは私から申し出たけど、どうしたらいいか分からなくなってしまい、クリミツを見上げる。私の視線に気づいたクリミツが助け舟をくれた。
「…ほら、鈴。龍牙の隣に行ってやれ。アイツ寂しいんだってよ」
「んなっ、そこまでは言ってねえよ…。た、ただ違和感があるっつーかさ、ああ…鈴が心配なんだよ、ぼーっとしてっから」
「はいはい、寂しがり屋のうーちゃん、リンちゃんが戻ってきましたよ~!」
ニコニコ笑って茶化しながら龍牙の右に向かう。龍牙の横でリンちゃんという昔のあだ名まで出してからかってみた。すると、龍牙の顔色がみるみるうちに変わっていく。
「うるせえ、どーせ俺は寂しがり屋だよ」
「あ、ごめんって、拗ねないで?」
「だから、…近くに居ろ、俺の為に」
「…どういう意味?」
「そっ、そこは分かったって言えよ!!」
顔が赤い。からかわれたのがそこまで恥ずかしかったのか。悪いことをしてしまった。龍牙が照れ隠しからか、走り出す。
「えっ、龍牙?」
「…行くぞ」
私の足では追いつけないと踏んだのか、クリミツが手を差し伸べてくれる。今日は最っ高の日だ。やっぱり、クリミツは変わらない。優しくて格好良いクリミツは隠れてたんだ!
ウキウキな気分で学校に着いた。昨日とは違って余裕がある。龍牙は走って落ち着いたみたいで、また三人揃って歩いた。
校門が見えた時、見覚えのある青髪が視界に入った。彼もこちらに気づいたみたいで、ガンを飛ばしながら距離を詰めてくる。
「天野君おはよう!」
「おはよう阿賀野」
「天野だ!!…げっ、昨日の…」
「よぉ阿賀野。俺は栗田光彦だ。BとCの頭やるけど、文句ねぇよな」
「だから天野…、つーか、まあ正直頭なんざどうでもいいんだわ」
「え?」
昨日の取り決め通り、クリミツが頭を張ることになったと伝える。でも天野くんは逆上することなく、寧ろ…何かに悩んでいるように見える。その悩み事で頭がいっぱいなんだろうか。言葉尻も少し小さい。
「…なあお前ら。一年生の、黒髪で、ここにピンクのピン付けたイケメン…いや、美人知らねえか?」
「…へえ、そんな奴居るんだ」
「知らないな」
「うん、私も知らない」
昨日の事を知っている二人と調子を合わせて答える。やはり、天野君は私を探していた。幸い、美人=私だとは微塵も思っていない様子だ。
「まさか、探してっからこんな朝早くから居んのか?」
「あの人は学ランの前を全部留めてたから、きっと真面目な人に違いないと思ってな。だとしたら始業時間に間に合うように学校へ来るはずだ。だから待ってんだけど…全然来ねぇ。昨日介抱してくれた礼が言いてぇんだ。お前ら、見つけたら教えろよ」
確信を得た。探している美人とやらは絶対私のことだ。あの短時間で見た私の姿から、そこまで考えたのか。執念が恐ろしい。礼が言いたいと主張しているが、本心はどうなんだろうか。
「礼とか言って~、本当は口説くチャンス狙ってるだけだろ」
「ばっ、違っ、ちげーよチビ!!」
真っ赤になって天野君が返す。…この人にはバレたくないな。
天野君のチビという発言に龍牙が固まった。平均より少し小さい157cmの私とほぼ同じ背だから、ちょっとしたコンプレックスなのかもしれない。本人は『160は超えてるからな!』と言い張っていた。本当かなあ。
そんな龍牙に目敏く反応したクリミツが天野君に凄む。クリミツの方が天野君より10cmくらい高いから、威圧感もあるだろう。天野君がたじろいだのが分かった。
「あ゙?龍牙になんか言ったか」
「チッ!!お前らどっか行け!」
忌々しげに舌打ちをして、私たちにシッシと手を振る。
ふと後ろを見れば怯えている眼鏡さん達が見えた。昨日の放課後、教室で見かけた五人組だ。天野君が居るから怖くて入れないんだろう、可哀想に。
「二人とも、先に行ってて」
「どうした?」
「ちょっと用事」
あの様子では天野君が居なくなるまで校舎に入れないだろう。学校生活二日目でそれは不憫だ。初日で変な行動をとった私なんかに着いてきてくれるかは怪しいけど、仲良くなるチャンスだと信じて行こう。
「え、鈴、俺も着いてっていいか?」
「ダメ」
「え……」
「龍牙、鈴もああ言ってるし、先行こうぜ」
龍牙とクリミツの見た目は、ザ・不良だ。どちらか連れていくだけでもかなりの恐怖を与えてしまうだろう。私一人で行かせて欲しい。
落ち込む龍牙の肩をクリミツが抱く。自然なボディタッチだ。でもそんな行動に反して手がこれでもかという勢いで震えている。可愛らしい。
私が落ち込ませてしまった龍牙、どう慰めるか。クリミツ、ここは腕の見せどころだ!
ちょっとした達成感と、龍牙への罪悪感を感じながら二人を見送る。
さあ、新しい友達は出来るだろうか。
「…おはよう!」
「ヒイッ!」「誰ですかっ」「僕達は何もしてません本当です」「立ってただけですっ!!」
「みんな落ち着くでありますよ!!」
私が話しかけると、近づいている私が見えていたはずなのに、皆口々に驚きの言葉を放つ。交流の基本は挨拶だから、元気よく明るく話しかけたのだけど、怯えさせてしまったのかもしれない。
「その…、か、カツアゲとかは…」
「しないよ。ねえ、C組の人だよね。あの天野君が怖いなら、一緒に校舎に行こう?大丈夫だから、ね?」
「あ、あんな暴力の塊の前を!?」「地雷に足が生えてるようなものですっ」「何があっても通りたくない」「大丈夫とか根拠の無いこといいいい言わないでっ!」
「皆落ち着くのです!!!」
さっきからコントのような繰り返しだ。怯える眼鏡さん達を、一人の眼鏡さんが宥めている。この人なら落ち着いて話せそうだ。
「私は紫川鈴。君達の名前を教えてくれないかな。私、君達と仲良くなりたいんだ」
「仲良く!?」「ふっ不良に突き出す気ですねっ」「そんなの絶対嫌だ死んでしまう」「不良にあんな啖呵切る人間はマトモじゃないっ!!」
「小生の名は黒宮蓮。彼らは少々怖がりでしてね。かくいう小生も震えが止まらないのです」
よく見れば黒宮君も冷や汗が凄い。
黒宮君は黒い丸渕眼鏡をかけている。よく見れば皆眼鏡の色や形がちょっと違う。
「…どうしてそんなに怖がりなのに、こんな高校来ちゃったの?」
「察せるだろ!!」「こっ、こんなとこ死んでもごめんだったのにっ」「勉強は真面目にしたんだよただ周回回す手が止まらなくてああどうしてこんな」「分かりきってること聞かないでっ!!」
「…フフ、お察しでしょう。皆馬鹿であります。ですがそんな小生達だからこそ結束力があるというもの!」
「仲が良いんだね、高校で初めて会ったの?」
さり気なく歩き出す。黒宮君が自然に足を踏み出す。黒宮君に他の四人が着いてくる。よし、このまま雑談しながら送り届けよう。
「ぼっ、僕ら二人は同じ中学だったんだ!」「いつも体育の時間は戦友だったよね」「ボクは一人だよっ、話しかけてくれた皆に感謝してるんだっ」「僕も一人だ、く、黒宮氏に助けられてね、仲間になったのさっ!」
「紹介しますぞ、左から山口、沼津、今市、宇野、…皆愉快な仲間たちでありますぞっ!」
ニコニコ嬉しそうに紹介してくれる。紹介された皆も満更じゃないという顔をしている。仲良くなれた!
「しかし宇野氏、あれは助けなどと言いませんぞ」
「いっ、いやいや、あれは助けだ。逃げる僕を隠してくれたじゃないか…。今市氏も見ていただろうっ!」「ああ、ボクだったら逃げ出してるっ、黒宮氏はこの中で一番の勇者さっ」
「助けたんだ…凄いね黒宮君。そっか、皆団結力凄そうだ。それなら、ここでも頑張って暮らせそうだね!」
にっこり笑って下駄箱を指さす。皆がぽかんとしている。でもどういう状況か気づいたみたいで、また口々に驚きの言葉を続ける。
「…あ、あれ!?」「ボボボボクらさっきまで外に居たんじゃ」「いっ、いつの間にっ」「誘導が強制イベント並っ!!」
「…な、なな、なんと…、紫川氏、礼を言いますぞ。お主無しでこの魔王城に入るのは無謀でありました故…」
「魔王城って!ふふっ、不良さんに聞かれちゃったら大変だよ?ほらほら、靴履き替えて!早く教室に行こう?」
先に上履きを出して履き替えてみせれば、固まっていた五人が漸く動き出した。
教室に着き、五人に別れを告げて龍牙の所へ向かう。
「ただいま~龍牙」
「お前…何で五人も引き連れてんだ」
「天野君が怖くて校門を通れなかったみたいでさ。龍牙もクリミツも怖いから萎縮しちゃうと思って一人で行ったの。龍牙、ごめんね?」
「いや、そういう理由だったら全然大丈夫だ。…そういう、優しいとこが、お、俺は、す、すっ」
龍牙が何か言いかけた途端チャイムが鳴った。先生、昨日はあんなことがあったから、今日は来ないかもしれない。もし来てくれたら全力で守ろう。
「龍牙、何言おうとしたの?」
「…何でもねえよ、今日も先公となかよしこよしすんの?」
「うん、担任の先生とは仲良くなりたいから」
龍牙が机の上にUNOを出す。龍牙、ここ勉強する場所だよ?でも嬉しそうにシャッフルしだすものだから、もう何も言えなかった。
「おはよー鈴」
「…はよ…鈴」
今日もいい天気!
しかも今の言葉を聞いて舞い上がりそうだ。光彦が名前を呼んでくれた。
久しぶりだな、あの三年間は呼ぼうとしなかったから。昨日、龍牙と話して何かが変わったんだろう。でも二人に変わった様子は無いし、イジメもバレていなさそうだ。
龍牙が先に歩き出す。光彦の方をちらと見ると、一瞬目が合った。…嬉しかった。あの怖い目じゃない。それどころか、ふんわり細めてくれた。驚きで踏み出した足が止まってしまう。
「ほら鈴、龍牙が待ってる」
「えっ…、あ、ああ、うん、そうだね」
まともに、話しかけてくれた。
あれ、これ夢?
頬がどんどん緩んでいく。嬉しい、ただただ嬉しい。昔みたいに、光彦が、笑ってくれた。
「…く、クリミツ!」
「はいはい、行くぞ」
「クリミツ、鈴?また遅刻すんぞ」
あだ名を呼んでも、何にも言わない。中学の時は呼ぶ度に殴られたのに。どういう風の吹き回しだろう。
急かす龍牙に二人で着いて行く。いつもは龍牙の隣に並ぶけど、今日は光彦…、いや、クリミツの左に回る。龍牙とは遠くなるけど、構わない。
「…あれ、鈴?」
「今日はこっち!ね、クリミツ」
「お、おう…、そうだな」
だってクリミツは龍牙が好きだから。隣にしてあげたい。
思えば、昨日の朝、クリミツが私達の間に割り込んできたのはそういう事だ。気づけて良かった。
でも、嬉しそうなクリミツとは違い、龍牙は寂しそうな顔をする。いつもの場所と違うからかな。
「…俺の隣、嫌だった?」
「え、えっ!?違う、違うよ。ちょっと気分変えてみるのもいいかなーって!」
「まだ一日しか行ってないだろ?…やっぱり、嫌?」
「嫌じゃないよっ、全然そんな事ない!」
どうしたんだろう、龍牙。
場所を少し移動しただけでここまで反応されるとは思わなかった。場所替えは私から申し出たけど、どうしたらいいか分からなくなってしまい、クリミツを見上げる。私の視線に気づいたクリミツが助け舟をくれた。
「…ほら、鈴。龍牙の隣に行ってやれ。アイツ寂しいんだってよ」
「んなっ、そこまでは言ってねえよ…。た、ただ違和感があるっつーかさ、ああ…鈴が心配なんだよ、ぼーっとしてっから」
「はいはい、寂しがり屋のうーちゃん、リンちゃんが戻ってきましたよ~!」
ニコニコ笑って茶化しながら龍牙の右に向かう。龍牙の横でリンちゃんという昔のあだ名まで出してからかってみた。すると、龍牙の顔色がみるみるうちに変わっていく。
「うるせえ、どーせ俺は寂しがり屋だよ」
「あ、ごめんって、拗ねないで?」
「だから、…近くに居ろ、俺の為に」
「…どういう意味?」
「そっ、そこは分かったって言えよ!!」
顔が赤い。からかわれたのがそこまで恥ずかしかったのか。悪いことをしてしまった。龍牙が照れ隠しからか、走り出す。
「えっ、龍牙?」
「…行くぞ」
私の足では追いつけないと踏んだのか、クリミツが手を差し伸べてくれる。今日は最っ高の日だ。やっぱり、クリミツは変わらない。優しくて格好良いクリミツは隠れてたんだ!
ウキウキな気分で学校に着いた。昨日とは違って余裕がある。龍牙は走って落ち着いたみたいで、また三人揃って歩いた。
校門が見えた時、見覚えのある青髪が視界に入った。彼もこちらに気づいたみたいで、ガンを飛ばしながら距離を詰めてくる。
「天野君おはよう!」
「おはよう阿賀野」
「天野だ!!…げっ、昨日の…」
「よぉ阿賀野。俺は栗田光彦だ。BとCの頭やるけど、文句ねぇよな」
「だから天野…、つーか、まあ正直頭なんざどうでもいいんだわ」
「え?」
昨日の取り決め通り、クリミツが頭を張ることになったと伝える。でも天野くんは逆上することなく、寧ろ…何かに悩んでいるように見える。その悩み事で頭がいっぱいなんだろうか。言葉尻も少し小さい。
「…なあお前ら。一年生の、黒髪で、ここにピンクのピン付けたイケメン…いや、美人知らねえか?」
「…へえ、そんな奴居るんだ」
「知らないな」
「うん、私も知らない」
昨日の事を知っている二人と調子を合わせて答える。やはり、天野君は私を探していた。幸い、美人=私だとは微塵も思っていない様子だ。
「まさか、探してっからこんな朝早くから居んのか?」
「あの人は学ランの前を全部留めてたから、きっと真面目な人に違いないと思ってな。だとしたら始業時間に間に合うように学校へ来るはずだ。だから待ってんだけど…全然来ねぇ。昨日介抱してくれた礼が言いてぇんだ。お前ら、見つけたら教えろよ」
確信を得た。探している美人とやらは絶対私のことだ。あの短時間で見た私の姿から、そこまで考えたのか。執念が恐ろしい。礼が言いたいと主張しているが、本心はどうなんだろうか。
「礼とか言って~、本当は口説くチャンス狙ってるだけだろ」
「ばっ、違っ、ちげーよチビ!!」
真っ赤になって天野君が返す。…この人にはバレたくないな。
天野君のチビという発言に龍牙が固まった。平均より少し小さい157cmの私とほぼ同じ背だから、ちょっとしたコンプレックスなのかもしれない。本人は『160は超えてるからな!』と言い張っていた。本当かなあ。
そんな龍牙に目敏く反応したクリミツが天野君に凄む。クリミツの方が天野君より10cmくらい高いから、威圧感もあるだろう。天野君がたじろいだのが分かった。
「あ゙?龍牙になんか言ったか」
「チッ!!お前らどっか行け!」
忌々しげに舌打ちをして、私たちにシッシと手を振る。
ふと後ろを見れば怯えている眼鏡さん達が見えた。昨日の放課後、教室で見かけた五人組だ。天野君が居るから怖くて入れないんだろう、可哀想に。
「二人とも、先に行ってて」
「どうした?」
「ちょっと用事」
あの様子では天野君が居なくなるまで校舎に入れないだろう。学校生活二日目でそれは不憫だ。初日で変な行動をとった私なんかに着いてきてくれるかは怪しいけど、仲良くなるチャンスだと信じて行こう。
「え、鈴、俺も着いてっていいか?」
「ダメ」
「え……」
「龍牙、鈴もああ言ってるし、先行こうぜ」
龍牙とクリミツの見た目は、ザ・不良だ。どちらか連れていくだけでもかなりの恐怖を与えてしまうだろう。私一人で行かせて欲しい。
落ち込む龍牙の肩をクリミツが抱く。自然なボディタッチだ。でもそんな行動に反して手がこれでもかという勢いで震えている。可愛らしい。
私が落ち込ませてしまった龍牙、どう慰めるか。クリミツ、ここは腕の見せどころだ!
ちょっとした達成感と、龍牙への罪悪感を感じながら二人を見送る。
さあ、新しい友達は出来るだろうか。
「…おはよう!」
「ヒイッ!」「誰ですかっ」「僕達は何もしてません本当です」「立ってただけですっ!!」
「みんな落ち着くでありますよ!!」
私が話しかけると、近づいている私が見えていたはずなのに、皆口々に驚きの言葉を放つ。交流の基本は挨拶だから、元気よく明るく話しかけたのだけど、怯えさせてしまったのかもしれない。
「その…、か、カツアゲとかは…」
「しないよ。ねえ、C組の人だよね。あの天野君が怖いなら、一緒に校舎に行こう?大丈夫だから、ね?」
「あ、あんな暴力の塊の前を!?」「地雷に足が生えてるようなものですっ」「何があっても通りたくない」「大丈夫とか根拠の無いこといいいい言わないでっ!」
「皆落ち着くのです!!!」
さっきからコントのような繰り返しだ。怯える眼鏡さん達を、一人の眼鏡さんが宥めている。この人なら落ち着いて話せそうだ。
「私は紫川鈴。君達の名前を教えてくれないかな。私、君達と仲良くなりたいんだ」
「仲良く!?」「ふっ不良に突き出す気ですねっ」「そんなの絶対嫌だ死んでしまう」「不良にあんな啖呵切る人間はマトモじゃないっ!!」
「小生の名は黒宮蓮。彼らは少々怖がりでしてね。かくいう小生も震えが止まらないのです」
よく見れば黒宮君も冷や汗が凄い。
黒宮君は黒い丸渕眼鏡をかけている。よく見れば皆眼鏡の色や形がちょっと違う。
「…どうしてそんなに怖がりなのに、こんな高校来ちゃったの?」
「察せるだろ!!」「こっ、こんなとこ死んでもごめんだったのにっ」「勉強は真面目にしたんだよただ周回回す手が止まらなくてああどうしてこんな」「分かりきってること聞かないでっ!!」
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「ぼっ、僕ら二人は同じ中学だったんだ!」「いつも体育の時間は戦友だったよね」「ボクは一人だよっ、話しかけてくれた皆に感謝してるんだっ」「僕も一人だ、く、黒宮氏に助けられてね、仲間になったのさっ!」
「紹介しますぞ、左から山口、沼津、今市、宇野、…皆愉快な仲間たちでありますぞっ!」
ニコニコ嬉しそうに紹介してくれる。紹介された皆も満更じゃないという顔をしている。仲良くなれた!
「しかし宇野氏、あれは助けなどと言いませんぞ」
「いっ、いやいや、あれは助けだ。逃げる僕を隠してくれたじゃないか…。今市氏も見ていただろうっ!」「ああ、ボクだったら逃げ出してるっ、黒宮氏はこの中で一番の勇者さっ」
「助けたんだ…凄いね黒宮君。そっか、皆団結力凄そうだ。それなら、ここでも頑張って暮らせそうだね!」
にっこり笑って下駄箱を指さす。皆がぽかんとしている。でもどういう状況か気づいたみたいで、また口々に驚きの言葉を続ける。
「…あ、あれ!?」「ボボボボクらさっきまで外に居たんじゃ」「いっ、いつの間にっ」「誘導が強制イベント並っ!!」
「…な、なな、なんと…、紫川氏、礼を言いますぞ。お主無しでこの魔王城に入るのは無謀でありました故…」
「魔王城って!ふふっ、不良さんに聞かれちゃったら大変だよ?ほらほら、靴履き替えて!早く教室に行こう?」
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「お前…何で五人も引き連れてんだ」
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「いや、そういう理由だったら全然大丈夫だ。…そういう、優しいとこが、お、俺は、す、すっ」
龍牙が何か言いかけた途端チャイムが鳴った。先生、昨日はあんなことがあったから、今日は来ないかもしれない。もし来てくれたら全力で守ろう。
「龍牙、何言おうとしたの?」
「…何でもねえよ、今日も先公となかよしこよしすんの?」
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