皆と仲良くしたい美青年の話

ねこりんご

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黒の帳 『一つ目の帳』

+ 天野視点『憂鬱』

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俺は走り続けた。

一刻も早く教室に戻りたい。あのアホどもの騒ぎも今ばかりは恋しい。頭のおかしいヤバい空間に居たものだから、俺の精神状態は今ヤバめだ。

段々、見覚えのある風景になってきた。
ここを行けば俺の教室はすぐだ。

俺は、見覚えのある人物を見つけた。
根暗野郎だ。

一瞬安心しそうになったが、俺はあることを思い出した。
根暗野郎のせいで横山に連れて行かれたんだが?

怒りの余り、走る速度を上げて根暗野郎に突進した。文字通り突進だ。

「テメェ!!!」
「うわぁっ!?」

勢いよく倒れたその姿に、一瞬、守ると約束したことを思い出したが、それと俺がついさっき感じた恐怖はまた別の話だ。

「あ、天野君?」
「天野君?じゃねぇよ!!テメェのせいでとんでもねぇ目に遭ったわ!!!!」

胸ぐらを掴んで思いっきり揺さぶった。こいつのせいだ。俺も屋上で裏番に会いたかったのに、会えないどころかとんでもない目にあった。

「ぅああああとんでもない目って何いいい」
「あー、テメェには内緒なんだった。今の話忘れろ」

横山の顔が頭を過り、すぐさま話すのを止めた。
鈴にはナイショ、奴はそう言っていたからだ。

「でも、突進してきて、その上揺さぶって」
「わ、す、れ、ろ。いいな?」
「分かったよ…」

よし、それでいいんだ。
しかし…、この間抜けな受け答え、なんだか安心してきた。
いや、マジで俺がさっきまでいた空間は何だったんだ。あそこだけ異空間すぎる。

「…はー、何か安心する」
「え?」
「お前、結構マトモだよな」
「そう…かな」
「いや、マトモだ。俺が今逃げて来たところに比べたらな…」

 もう二度と会いたくない。横山に遭遇するのもごめんだ。疲れてそう零すと、根暗野郎はある提案をしてきた。

「…明日は、一緒にお昼食べない?」
「昼?…あ、テメェどこ行ってたんだよ」
「裏番さんと二人でお昼」
「…………んじゃあ、明日は俺も連れてけ。それでいい」
「分かったよ」

よし、これでリンさんの手がかりが得られる!

気分が高揚するが、その素振りは一切顔に出さずに教室に入った。やはり、俺が入ると全員がこちらを見る。お前ら何なんだよ。だが、舌打ちをすれば全員が目を逸らす。だったら最初から見るんじゃねぇ。

さっきと同じ場所に座り、ついでに根暗野郎を観察する。
横山はコイツのことを聞いてきた。リンさんに似た格好といい、並外れた頭脳といい、コイツは何者なんだ。しかし見ていて分かることは無い。それは散々昼前に経験したことだ。見てても何も無いから飽きたんだよな。
ふと外に目をやれば、雨が降っている。

「マジか、死ねよ」

クソ、今日傘持ってきてねぇんだよ。
根暗野郎は俺の独り言を拾い上げ、驚いた様子で俺に話しかけてきた。

「どうしたの急に」
「…外見ろガリ勉。机ばっか見てんだから分かるわけねぇだろ」
「………ああ、雨?そんなに嫌いなの?」
「違ぇよ、今日傘忘れたんだ。…ダリィ」

帰りたくないし、傘も無い。最悪だ。雨の勢いは中々あるから、走って帰ったとしてもかなり濡れてしまうだろう。全身ずぶ濡れになるしかないが、そうなると制服を洗わなきゃならない。あのクソ親がやってくれるわけがないので、俺がやるしかない。ダルい。
しかし、それならまだいい方だ。アタシの仕事を増やしたいの!?なんてヒスを起こして怒鳴ってきたら最悪だ。

…家、帰りたくねぇなあ。

「……家に、帰りたくないの?」
「なっ、何で知ってんだっ気持ち悪ぃ」

何で分かった。コイツキモイ。でもさっきのキモい奴らよりはマシだ、と気を取り直し、話の続きを聞いた。

「ううん、何か、嫌そうだなーって思っただけ」
「…エスパーかよ、それもキモイ」

うーん、キモイ。いや、全然マシだな。
帰りのことを思うとどんどん気が重くなってきた。話を続けるのもダルく、俺は机に伏せた。これなら話しかけてこないだろう。

「…私傘持ってるよ」

…?
何が言いたいんだろうか。
まさか、一緒に帰るとか?

「一緒に帰らない?」

やはりか。でも、何か癪だ。
俺が雨に濡れたくないのを分かっているから、言っているのだろうか。俺のために態々?それは少し、いや、かなり嫌だ。
そうだ、こいつを守る約束があるのだから、それのせいにしてしまえばいい。
そう決めた俺は、突っ伏したまま返事をした。

「テメェが、絡まれねェようにな。俺が送ってってやるよ。お前のためにだぞ。傘なんかじゃねェ」
「………うん、お願いしたいな。私喧嘩弱いから」
「へっ、感謝しろよ」

俺…だせぇ。絶対これ、根暗野郎に本音バレてる。根暗野郎の返事にかかった時間で丸わかりだ。

「…天野君」
「…………何」

一緒に帰る約束の次はなんだ。何の用だ。

「家来る?私一人暮らしなんだ」

一瞬、頷きそうになった。今日は、いや、常日頃から家には帰りたくない。一日くらい、離れたい。

だがこいつは、きっと幸せな暮らしを送っている。

そうでもなきゃこんな能天気な性格にはならない。友達を沢山作りたい、なんて、人と過ごすことに関して楽しさしか知らないから出てくる言葉だ。
そんな幸せな生活を見せつけられたら、俺は守るという約束を破ってしまうだろう。
こんなに幸せなのに、何で俺が守らなきゃいけないんだ、って。俺のとこには、クソ親が一人居るだけなのに、って。

「…誰が行くか、馬鹿」
「そう」
「………でも」
「ん?」

根暗野郎は短く返事した。短かったせいで、素っ気ないのか悲しいのかも分からない。

今は嫌だが、気が変わるかもしれない。昔の俺に似ているコイツは、きっと、そこまで悪い奴じゃない。今は無理だけど、もっとこいつのことを知れば、ダチくらいにはなれるかもしれない。それこそ、家に遊びに行くようなダチに。

「気が向いたら、行ってやる」

ツンデレのような返事をしてしまった。
恥ずかしい。

「…天野君?」

うっせ。話しかけんな。恥ずいんだよ。
その後も何度か話しかけられたが、全部無視した。それに取り合ってしまったら、きっと、俺は恥ずいことを言うから。


そっか、帰り、濡れなくていいんだな。

そう考えたら、少し嬉しくなった。
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