皆と仲良くしたい美青年の話

ねこりんご

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黒の帳 『一つ目の帳』

+ 天野視点『可愛い可愛い幼馴染み』

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俺はリンさんが好きで、アイツは何とも思ってない。二人とも好きになるなんて有り得るか!?

「あ、天野君!」
「うおおぉおおお!?」

俺が自分に言い聞かせた途端、当の本人が声をかけてきた。入口を見れば、片桐と鈴が入ってくるところだった。
今来るのかよ。丁度鈴のことを考えていたせいで、無駄に驚いたじゃねぇか。

片桐と鈴は俺の隣に座った。鈴を真ん中にするようにして、左右に俺たちが座るという席順だ。鈴の手には弁当箱がある。そうだよな、今から昼飯食うんだよな。

…?
違和感を、感じる。


……これ、どこかで見たような…どこだ?

その違和感の正体が分からない。
見た場所を思い出せない。
思い出せそうなのに思い出せないって、凄くもどかしい。



…そうだ、先に喋り出さないと。
話題を俺が出さなければ、先程の大声について聞かれるかもしれない。どうして天野君は大声を出したの?みたいな感じで。お前のことを考えてたからだ、なんてキモすぎる。

俺は何とか話題を操作しようと、口を開いた。

「ず、随分遅かったじゃねぇか」
「まあ色々あってさ。それで、天野君はどうしたの?」

クソ、これ絶対さっきの大声のことだろ。どうにかして逸らせないか?

「何が?」
「悩んでたよね。考え事?悩みだったら相談に乗るよ」

お前についての悩みだよ!!

「もしかして恋の悩みだったり?」

片桐の言葉に、俺の思考は一時停止した。


えっ、鈴についての悩みが、恋の悩み?


この推測って、どういう、ことだよ。
俺は……まさか?

意識した途端、じわじわと体温が上がるのを感じた。多分、顔のどこかが赤くなってるんだろうな。

認めたくないが、俺はまさか、この、隣の奴のこと…?

顔を隠すべきだった。この動揺が表れた顔を、鈴をに見られたからだ。よりにもよってコイツに見られるとは。

「誰について?どんなお悩みなの?」
「……い、いや、お前に聞かれても…」

だって、俺がお前のこと……す、す…かもしれないんだぞ。お前についての恋の悩みかも、なんて口が裂けても言えねぇよ。

「どーせ、リンって奴だろ」

ああ、そうだ。そうなんだ。

「………ちげーよ」
「えっ、マジで?」
「マジだ」

リンさん、のはずなのに、俺の口からは違うと出た。まさか、無意識?

俺は考えた。本当は、どっちが好きなんだろう。

リンさんは、美人で優しくて、素敵な人だ。
鈴は、少し馬鹿っぽいけど、優しくて、ちょっぴり寂しがり屋で、可愛……、い、いや、まあ、いい所がある。

リンさんの隣はドキドキするけれど、鈴の隣は心がぽかぽかして落ち着く。片桐や栗田、他のダチには絶対感じない暖かさだ。

これって、違う種類の恋?

俺はどっちの方が好きなんだろう。
クソ偉そうな上にどちらか選べる前提だが、俺の感情の整理くらいは許して欲しい。

俺は、どう思ってるんだ。

両方好きなのか、どちらかが好きなのか。
自分のことなのに、分からない。

「…そっか、そっかあ…」
「…………あ?」

鈴は何かに納得したようにこくこくと頷くと、俺に笑顔を向けた。一体何を話すんだ?コイツは俺の推測が正しければ、俺のことが好きなはずだ。

「絶対上手くいくよ。相手も天野君のこと好きだろうし」

………えっ。

鈴は、変わらない笑顔で俺を見ている。
心做しか、鈴は照れ気味に喋っていたような気がする。

おい、鈴、その相手って誰だよ。
絶対ってことは、ソイツのこと知ってんだろ?
それか……お前自身、だから、絶対って言い切れるんじゃないか?

小ぶりな唇がふんわりと弧を描く。な、何か、意識したら、色々なところが可愛く見えてきた。つーかよくよく見たらリンさんに唇が似ている。桜色に艷めく、可愛いリンさんの口。
何だか顔を見ていられず、俺は咄嗟に顔を逸らした。
どくどくとなる心臓の鼓動がうるさい。先程よりも確実に体温が上がっている。

「誰のこと話してんだ?」
「も~、天野君の好きな人に決まってるじゃん!」
「ばっ、調子乗んな!まだ好きってわけじゃ…」

やばい、墓穴を掘った。まだ、だなんて、もう好きみたいなもんじゃねぇか。天野君の好きな人は自分だ、と言わんばかりの偉そうな口調に、思わず声が出たんだ。クソ、こいつの手の上で転がされているような気分だ。

だが、意識すればするほど、ドキドキドキドキ心臓がうるさくなっていく。

「誰なんだよソイツ。リン以外に居んのか、おい天野」
「私と天野君の秘密~、ね、天野君」

こてんと首を傾げて俺にぽそりと呟く。
くすりと笑う鈴は、色っぽい。

やばい、馬鹿馬鹿馬鹿、俺の馬鹿、嘘だろ。

何でリンさんの時みたいにドキドキしてるんだ。
落ち着け。

「天野君?」
「…うっせ。お前は……」

俺はこんなに取り乱しているのに、鈴は動揺する素振りを全く見せない。

鈴は、何を思ってるんだ。俺が好きなのか?それとも、俺のこの動揺に既に気づいていて、俺を弄んでるのか?

分からない、分からない。

「…何も思わないのかよ」
「え?」
「……………俺だけかよ、クソ…」

俺は勢いよく立ち上がり、後ろからかけられる声を無視して逃げるように屋上を出て行った。
こんな所居られるか。これ以上居たらどんな失言をするか分からない。何より、アイツの隣は変な気分になる。リンさんへの思いが揺らぐんだ。
俺の感情がぐちゃぐちゃになる。

まるで、リンさんと鈴がそっくり、みたいな。
二人とも優しくて、可愛くて、クソ…何なんだよ。

リンさんと鈴は重ねないと誓ったのに、どうしても似ているところが見つかってしまう。唇、身振り手振り、控えめな笑い方、背格好、身だしなみの良さ。

何なんだ、何なんだよ。

それで、俺は、何で嫌じゃないんだ。

リンさんへの気持ちが揺らぐなんて、嫌な、はずなのに。

寧ろ、これは……、いや…
あああ…もう!!!


これは、誰かに相談するしかねぇ。口が固くて信用できる奴で、恋愛経験が豊富な奴。

一人心当たりがある。

中学の時、色恋沙汰で散々騒がせた、東雲しののめ先輩。あの人に相談してみよう。あの人は女ったらしに見えるが、本命へのアドバイスも結構出来たはずだ。この混ざりに混ざりまくった俺の恋心を、あの人なら解き明かしてくれる。

モヤモヤする。
リンさんも鈴も、何かおかしい。
どうして二人は、こんなに似てるんだ?

そのおかしさの正体に気づくことなく、俺はトントンと階段を下りていくのだった。
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