皆と仲良くしたい美青年の話

ねこりんご

文字の大きさ
139 / 153
黒の帳 『一つ目の帳』

赤紫? 青紫?

しおりを挟む
どうしようもない不安に私がいっぱいいっぱいになってしまい、天野君のことはうやむやになってしまった。

結局、その後は二人きりで登校だった。学校に着くと、校門のあたりに、体育の先生…武内先生が立っていた。

「あー、そういや明日体育だわ。菊池が言ってた」
「えっ、そうなの? 時間割…結構適当なんだね」
「ん。誰かが暴れて何か壊れると、休みになってズレるらしいぞ」
「え、えっ?」

そんなの初耳だ。私が目を見開くと、龍牙はにししと笑った。

「そりゃあここ不良校だし~」
「片桐龍牙!!!!!」

武内先生がこちらを見たかと思うと、龍牙を見て大声を上げた。一体何だろうか。
私は分からなかったけれど、龍牙は心当たりがあるらしく、やべ、と小声で呟いた。

「お前体力テストやってないだろ!!今すぐここに来い!!」
「あ…後でやりまーーーす!!!」
「龍牙!?」
「おいコラ片桐!!!!」

龍牙はそう叫ぶと、私の隣から勢いよく駆け出してしまった。走っていった方向からするに、恐らく裏門から学校に入るつもりなのだろう。
そんなに嫌なのか。どうせ受けることになるのだから、逃げたら余計に怒られるだけじゃないか。

駆け出す龍牙を見た武内先生が、物凄い速さで走り始めた。

ちらりと後ろを振り向いた龍牙は、ぎょっとし、走る速度を上げた。

「は!?速すぎんだろっ!!!」
「待たんか!!!!」

なんて活動的な先生だろう。紅陵さんや氷川さんさえいなければ、この不良校、あっという間に改善されてしまうんじゃないか。

走っていく二人を、周りの生徒たちがけらけらと笑って見ていた。確かに、一回りも年が違う人たちの本気の鬼ごっこは、ちょっぴり面白い。

以前武内先生に追いかけられた時、紅陵さんは私を抱えて逃げ切った。龍牙はどうだろうか。
龍牙、大丈夫かなあ。



ともかく、私だけでもきちんと時間通り登校しなくちゃ。
そう思って足を踏み出そうとしたら、視界がぐるんと回転して、体が浮いた。

…え?


「おっはよ~」
「えっ、あ、紅陵さん!?」


私の体は、紅陵さんに抱きかかえられていた。見上げれば、それはそれは整った美顔が間近に見える。目が合うと、紅陵さんはにこっと笑って私を更に抱き寄せた。所謂お姫様抱っこという体勢で、これは、恥ずかしい。

「クロちゃんは今日も可愛いね♡」
「なんで抱っこしてるんですか…?」

私が首を傾げると、紅陵さんは急に無表情になった。温もりの無い視線でどこか一点を見つめている。恐ろしくも気になった私は、紅陵さんの視線の先を追った。

「ヒッ」
「い、行こうぜ」
「くそっ、惜しかったなあ…」

紅陵さんが見つめていたのは、見覚えのある三人組だった。私の体をべたべた触ってきた、中西君、東君、下崎君だ。三人は恨めしげにこちらを見ている。

何が、惜しかったんだろう。

そう考えて、恐ろしくなった。龍牙と天野君がいない私に近づいて、どうするつもりだったんだろう。

「こ、紅陵さん」
「んー?」
「ありがとうございます」

紅陵さんは、多分、助けてくれたんだろう。私がお礼を言うと、紅陵さんはゆったりと口角を上げて微笑んだ。

「可愛いから抱っこしただけ。あの三人組がどうとか、恩着せがましいことしたくないからさ…」

紅陵さんはなんて優しいんだろう。このお姫様抱っこはやっぱり恥ずかしいけど、守ってくれたのなら頷ける。

紅陵さんは言葉を切り、私の顎に手を伸ばした。

「ありがとうって思ってくれんなら、今日こそ俺と一緒にお昼食べよ? 金曜日のこと、ちゃんと謝りたいし、俺…クロちゃんと二人きりになりたい」

顎をくい、と持ち上げられ、透き通る翡翠に射抜かれ、私は一気に体温が上がった。頬だって、多分赤くなっている。こんなにも整った顔が近くにあると、頭がぼうっとしてしまい、判断力がじわじわと鈍り出す。

「………だめ?」
「ぃ、い、ですよ…」

こてん、と首を傾げられ、私の口からするりと言葉がこぼれ落ちた。

私の返事を聞いて、紅陵さんは満足したらしく、にっこりと微笑んだ。目元が愛しげに細められるその笑顔に、また私の体温が上がっていく。

だけど、紅陵さんはまた無表情になった。私を抱き上げたまま後ろを向くと、そこには不満げな顔をしている同級生がいた。

「テメェ、鈴下ろせ」
「天野君…」
「鈴はテメェのモンじゃねぇんだよ、コラ」

目の当たりの筋肉をひくつかせて、天野君は紅陵さんをぎろりと睨みつけた。何が気に入らないんだろう。

少し疑問に思ったけど、その疑問より強く湧き上がる感情があった。

「いいの? そういうこと言って」
「あ?」
「俺がいなきゃ、困るんじゃねぇの?」
「…鈴を、下ろせ」
「あのさあ、俺の話聞い」

「紅陵さん」

二人が何か大事そうな話しをしているけれど、この湧き上がる感情は抑えられない。耐えきれずに口を出すと、二人は揃って私の顔を見た。


「恥ずかしいので、お、下ろしてください」

恥ずかしさ。

それには、勝てない。
先程から、多くの生徒の目線を感じる。紅陵さんは有名らしいし、この体躯はただでさえ目立つというのに、そんな彼が私をお姫様抱っこしているんだ。見るなという方が難しいだろう。

顔を真っ赤にして抗議すると、二人はなぜか固まってしまった。

「「………」」
「……あの」
「「………」」
「お、おろして、ください」
「……あ、ああ、ごめんな、下ろすよ」

再度訴えると、紅陵さんははっとしたような顔をして、私を下ろしてくれた。きちんと着地したつもりだが、私は足首の痛みを感じてよろめいてしまった。
この前の捻挫が、まだ完治してなかったんだ。

「うわっ」
「大丈夫か?」
「…ぅ、ん」

よろめいた私を支えてくれたのは、天野君だった。見上げると、思ったより顔が近くにあって、私は咄嗟に顔を逸らしてしまった。

どうして、また、体温が上がるんだろう。

天野君と距離が近くなることなんて今までにもたくさんあった。どうして今意識するんだ。私より幾分か大きな体で、しっかり支えてもらっているからだろうか。

「あ、ありがと」
「……おう」

顔を逸らしてお礼を言うと、天野君もどこか歯切れ悪く答えた。疑問に思って再び天野君の顔を見ると、天野君も顔を赤くして顔を逸らしていた。

「天野君?」
「………あー、うるせ、うっせぇ」
「なんで、顔」
「ん」

私たちの間を、紅陵さんの大きな手が遮った。紅陵さんは不満げな顔で頬を膨らませている。

「ちーかーいー」
「………」

近い、とは、私と天野君の距離のことだろう。
でもそう言われても、どう返したらいいか分からない。固まっている私に、ある音が届いた。

よく聞きなれた、授業開始や授業の終わりを知らせる音、チャイム。

それが、鳴った、ということは。



「……遅刻だ…」

「だな」
「えっ、クロちゃんそんなの気にしてんの?」
「俺らと違ってマジメなんだよ」
「確かに。天野とは違うな」
「あ? テメェもだろうが」
「いや、俺は好きな子に近づくこともできないヘタレ童貞とは違うかなあ」
「あ"!?」

二人の間にばちばちと火花が散っている気がする。二人が話しているところをきちんと見たことがなかったけれど、こんなに仲が悪かったんだ。

「あの…喧嘩しないでください」

私にとっては、二人とも大切な友人だ。その二人が悪感情を剥き出しにしているのは、あまり見たくない。私がそう言うと、二人は暫く見つめあったあと、ぷい、と顔を逸らした。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

全寮制男子校でモテモテ。親衛隊がいる俺の話

みき
BL
全寮制男子校でモテモテな男の子の話。 BL 総受け 高校生 親衛隊 王道 学園 ヤンデレ 溺愛 完全自己満小説です。 数年前に書いた作品で、めちゃくちゃ中途半端なところ(第4話)で終わります。実験的公開作品

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

俺の親友がモテ過ぎて困る

くるむ
BL
☆完結済みです☆ 番外編として短い話を追加しました。 男子校なのに、当たり前のように毎日誰かに「好きだ」とか「付き合ってくれ」とか言われている俺の親友、結城陽翔(ゆうきはるひ) 中学の時も全く同じ状況で、女子からも男子からも追い掛け回されていたらしい。 一時は断るのも面倒くさくて、誰とも付き合っていなければそのままOKしていたらしいのだけど、それはそれでまた面倒くさくて仕方がなかったのだそうだ(ソリャソウダロ) ……と言う訳で、何を考えたのか陽翔の奴、俺に恋人のフリをしてくれと言う。 て、お前何考えてんの? 何しようとしてんの? ……てなわけで、俺は今日もこいつに振り回されています……。 美形策士×純情平凡♪

モブらしいので目立たないよう逃げ続けます

餅粉
BL
ある日目覚めると見慣れた天井に違和感を覚えた。そしてどうやら僕ばモブという存存在らしい。多分僕には前世の記憶らしきものがあると思う。 まぁ、モブはモブらしく目立たないようにしよう。 モブというものはあまりわからないがでも目立っていい存在ではないということだけはわかる。そう、目立たぬよう……目立たぬよう………。 「アルウィン、君が好きだ」 「え、お断りします」 「……王子命令だ、私と付き合えアルウィン」 目立たぬように過ごすつもりが何故か第二王子に執着されています。 ざまぁ要素あるかも………しれませんね

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

風紀委員長様は王道転校生がお嫌い

八(八月八)
BL
※11/12 10話後半を加筆しました。  11/21 登場人物まとめを追加しました。 【第7回BL小説大賞エントリー中】 山奥にある全寮制の名門男子校鶯実学園。 この学園では、各委員会の委員長副委員長と、生徒会執行部が『役付』と呼ばれる特権を持っていた。 東海林幹春は、そんな鶯実学園の風紀委員長。 風紀委員長の名に恥じぬ様、真面目実直に、髪は七三、黒縁メガネも掛けて職務に当たっていた。 しかしある日、突如として彼の生活を脅かす転入生が現われる。 ボサボサ頭に大きなメガネ、ブカブカの制服に身を包んだ転校生は、元はシングルマザーの田舎育ち。母の再婚により理事長の親戚となり、この学園に編入してきたものの、学園の特殊な環境に慣れず、あくまでも庶民感覚で突き進もうとする。 おまけにその転校生に、生徒会執行部の面々はメロメロに!? そんな転校生がとにかく気に入らない幹春。 何を隠そう、彼こそが、中学まで、転校生を凌ぐ超極貧ド田舎生活をしてきていたから! ※11/12に10話加筆しています。

処理中です...