【R18】僕は彼女としたいだけ 微妙なリケジョに振り回される

さんかく ひかる

文字の大きさ
49 / 77
三章 僕は彼女に伝えたい

47  ファミレスでの告白

しおりを挟む
 僕と堀口宗太は、篠崎あいらの自宅最寄り駅からJR線で東に三駅進んだところで降りた。
 二十四時間営業のファミレスのテーブルで、向かい合った。

 あいらのアパートで宗太を問い詰めたかったが、なんとかこらえた。追求の場として、あえて人目のあるスペースを選んだ。移動するまでの十五分間は、気まずいなんてもんじゃない。僕は奴に背を向け、車内の吊り広告に意識を集中させて乗り切った。
 宗太の告白をファミレスで聞いて正解だった。ここが真夜中の公園だったら、間違いなくボコボコにしていた。


「マサハルとあるってると、女子たちのあつーい視線が刺さるんだよ。お前は全然、気がつかねーけどね」

 それは僕には責任のないことだ。

「だから、あいらちゃんがお前に惚れてるの、すぐわかった」

 宗太はグラスの生ビールを、ごくごく飲み干す。

「科学史の授業であいらちゃん見っけて声かけたら、俺の顔、知ってた。俺、お前とつるんでたから、『三好君の友達』と認識したんだろうなあ」

「なぜ、わざわざ声かけた?」

「十代のうちに、童貞卒業したくてさ」

 この時点で奴を殴りたくなったので、テーブルの下で拳を握りしめる。

「卒業相手がお前に惚れてる女って、最高じゃん」

「宗太……最低だ」

「ほかの女には相手されなかったけど、あいらちゃん、お前の情報で釣ったら、喜んで食いついてきたぜ」

 肉用ナイフのエッジで、こいつをギザギザに刻んでやりたい。

「で、俺とあいらちゃん、誕生日が五月で一浪同士。ま、俺の方が一週間先輩なんだけどさ」

「生まれた日なんて偶然を誇るとは、惨めだな」

 二月生まれで現役の僕は、まだ十八歳。だからといって宗太に負けたわけではない。

「二十歳の前に何とかしたい俺は、土曜日、あいらちゃんを下宿に呼んで、缶チューハイ飲んでるうちに、卒業できたってわけ」

「犯罪だな。警察に突き出してやる」

「犯罪? ああ、そんとき俺、ニ十歳の前日だったから、酒飲んだのは確かに犯罪だな。ま、あいらちゃんも、同罪だけど」

「酔わせて無理矢理なんて、最低だろ!」

 奴はまったく動揺せず、ニタニタ笑っている。

「ざーんねーん! 俺たち飲んでスゲー盛り上がって、やっちゃっただけだよぉ」

「嘘つくな!」

 それはあり得ない。篠崎あいらは、最初から僕を好きだった。

「じゃ、これ証拠」

 宗太はスマホを取り出し写真を見せた。

「ほれ、あいらちゃん、可愛いだろ」

 どこかのカラオケボックスで、あいらと宗太が並んで笑っている。
 落ち着け! この写真は、僕とする前に撮ったんだ。それならあり得る。
 宗太は僕の希望を察したのか、スマホを操作し写真のプロパティを見せた。

「これ日付ね」

 僕の希望は呆気なく潰えた。日付は八月の終わりだった。よく見ると、二人とも半袖で日焼けしている。明らかに夏に撮った写真だ。

 宗太はこれ見よがしに、写真のサムネイル一覧を表示させた。
 カラオケボックスのほか、居酒屋、バーガーショップなど、写真は五点。どの二人も笑顔を見せている。
 一番新しい日付は、十月。両親の横やりで、僕と彼女と気まずくなった頃だ。
 両親は篠崎あいらの素行を興信所に調べさせていたが、宗太と出かけた記録はなかった。二人が会っていたのは、一月か二月に一度だ。調査期間は二週間だったから、引っ掛からなかったのだろう。

「なー、これでも俺、あいらちゃんと無理矢理したんかなあ?」

 男の邪悪な笑いが止まらない。二人はたまに外で会うぐらい良好な関係だった……強引に結ばれた関係なら、あいらは会おうとしないだろう。
 いや?

「宗太、お前、あいらを脅して会ったんだろ?」

 奴との関係を僕にばらすとか、脅迫されたに違いない。

「ざけんじゃねー!」

 ドスンと鈍い音が鳴った。奴の拳がテーブルを叩く。

「お前さあ、あいらちゃんが脅されて無理矢理俺と遊ぶ女と思ってんの?」

 篠崎あいらがどんな女なのか、僕にはもうわからない。ただ、彼女の意志ではなく脅された方が、まだ望みはある。
 そうだ。あいらは『なかったことにしよう』と言っていた。仮に彼女が自分の意志で宗太と寝たにしても、彼女にとっていい思い出ではなかったはず。
 宗太を黙らせてやる。

「お前があいらとしたのは、一度だけだ」

 僕は数えられないぐらい、篠崎あいらを抱いた。

「ひゃーはははは! やった数で勝ったと思ってんだ! 惨めだねぇ」

 違うのか? 落ち着け。それは間違いない。

「お前があいらちゃんとやれたの、俺のお陰なんだぜ。感謝しろ」

「そうだな、確かに僕は、宗太に教えてもらった。女子をマンションに呼ぶなら、フルーツタルトとコンドームを用意するんだろ」

 奴は笑い転げ、テーブルをどんどん叩いた。

「ちげーって! 思い出せよ。なんであいらちゃんは、お前んち行くことになったんだ?」

 思い出すも何も、忘れるわけがない。暗幕に囲われた実験室で、彼女は「エッチを知りたい」と僕に迫ってきた。

「思い出したな? 俺があいらちゃんに教えたんだ。お前とやれる方法を」

 最低男は何を言ってる? 篠崎あいらが僕に近づいたきっかけすら、こいつの仕業なのか?

「あいらちゃんさー、俺とやった後もお前に未練タラタラだったワケ。だから『小説にエッチシーンを書きたいから教えて』って迫れば奴でも堕ちるって教えたんさ。あの子、小説頑張ってたからさ」

 僕ら二人は、善良な顔をした蛇男に操られていたのか? 僕が青山星佳ではなく篠崎あいらを選んだことも、こいつの策略なのか?

「……なぜわざわざそんな方法を、あいらに教えた?」

 宗太の口が、いやらしく捻じ曲がる。

「あいらちゃんの初めては俺が頂いちゃったから、残りをお前に譲ってやろうかなって。何度お前があいらちゃんとやっても、初めてだけは俺のもんだ。ひぇへへっ、へへへへ」

 堪えろ自分! こいつの首をねじ切りたくても、今は耐えろ!

「お前『本命とやれないなら童貞でいい』なーんてえらそーに吹いてたけど、俺とオ・ン・ナ・ジ! 元カノに未練あったクセに、かわい~女と楽しくやりやがって、チャラいよなあ」

「そんなことはない! 僕は本気だ!」

「こんのぉ、クソったれ!」

 突然、宗太はフォークを握りしめ、僕の目の前に突きつけた。金属のぼやけた先端が、微かにまつ毛に触れる。
 とっさに僕は瞼を閉じる。
 目を固く瞑りながら怒りを募らせる。冗談じゃない! なぜこの僕が脅されなければならない? こいつを叩きのめしたい衝動をこらえているのに。

「お前が本気なら、あいらちゃんがあんな寂しい小説、書くわけないだろ!! 俺、ぜってー謝らねーぞ!」

 小説とは、双曲線軌道を進む彗星の孤独を描いた物語のことだろう。
 なるほど、宗太なりの理屈があるわけだ。
 だからといって理不尽な脅しに甘んじるわけにはいかない。遠慮なく反撃させてもらおう。
 僕は目を開けた。フォークを握る宗太の手首を素早く握り、力強く捻った。
 カラン、とフォークがテーブルに落ちる。

「い……いて……いて、っいやあああ……」

「痛いだろうね」

 宗太が顔をしかめている。

「や、やめ! やめろ! わ、わりぃ! いてえ、いてえよお! わるかったよぉ」

 詫びの言葉を確認できたので、彼を苦痛から解放した。奴は手首を握りしめ、僕を睨みつけた。

「……三好雅春、お前、顔と頭だけじゃないんだな、握力すげー」

 すっと僕は立ち上がり、千円札をテーブルに置く。僕が頼んだのはドリンクバーだけ。充分、釣りが来るだろう。

「僕は暴力が嫌いなんだ。また今度な」

「今度ねえ……ま、あいらちゃんは、俺が嫁にするけどね」

 僕は、かつて友人だった男の遠吠えを無視して、深夜のファミレスを後にした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end** ◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です! https://estar.jp/novels/26513389

友達婚~5年もあいつに片想い~

日下奈緒
恋愛
求人サイトの作成の仕事をしている梨衣は 同僚の大樹に5年も片想いしている 5年前にした 「お互い30歳になっても独身だったら結婚するか」 梨衣は今30歳 その約束を大樹は覚えているのか

その溺愛も仕事のうちでしょ?〜拾ったワケありお兄さんをヒモとして飼うことにしました〜

濘-NEI-
恋愛
梅原奏多、30歳。 男みたいな名前と見た目と声。何もかもがコンプレックスの平凡女子。のはず。 2ヶ月前に2年半付き合った彼氏と別れて、恋愛はちょっとクールダウンしたいところ。 なのに、土砂降りの帰り道でゴミ捨て場に捨てられたお兄さんを発見してしまって、家に連れて帰ると決めてしまったから、この後一体どうしましょう!? ※この作品はエブリスタさんにも掲載しております。

叱られた冷淡御曹司は甘々御曹司へと成長する

花里 美佐
恋愛
冷淡財閥御曹司VS失業中の華道家 結婚に興味のない財閥御曹司は見合いを断り続けてきた。ある日、祖母の師匠である華道家の孫娘を紹介された。面と向かって彼の失礼な態度を指摘した彼女に興味を抱いた彼は、自分の財閥で花を活ける仕事を紹介する。 愛を知った財閥御曹司は彼女のために冷淡さをかなぐり捨て、甘く変貌していく。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

俺様外科医の溺愛、俺の独占欲に火がついた、お前は俺が守る

ラヴ KAZU
恋愛
ある日、まゆは父親からお見合いを進められる。 義兄を慕ってきたまゆはお見合いを阻止すべく、車に引かれそうになったところを助けてくれた、祐志に恋人の振りを頼む。 そこではじめてを経験する。 まゆは三十六年間、男性経験がなかった。 実は祐志は父親から許嫁の存在を伝えられていた。 深海まゆ、一夜を共にした女性だった。 それからまゆの身が危険にさらされる。 「まゆ、お前は俺が守る」 偽りの恋人のはずが、まゆは祐志に惹かれていく。 祐志はまゆを守り切れるのか。 そして、まゆの目の前に現れた工藤飛鳥。 借金の取り立てをする工藤組若頭。 「俺の女になれ」 工藤の言葉に首を縦に振るも、過去のトラウマから身体を重ねることが出来ない。 そんなまゆに一目惚れをした工藤飛鳥。 そして、まゆも徐々に工藤の優しさに惹かれ始める。 果たして、この恋のトライアングルはどうなるのか。

【完結】あなたに恋愛指南します

夏目若葉
恋愛
大手商社の受付で働く舞花(まいか)は、訪問客として週に一度必ず現れる和久井(わくい)という男性に恋心を寄せるようになった。 お近づきになりたいが、どうすればいいかわからない。 少しずつ距離が縮まっていくふたり。しかし和久井には忘れられない女性がいるような気配があって、それも気になり…… 純真女子の片想いストーリー 一途で素直な女 × 本気の恋を知らない男 ムズキュンです♪

敏腕ドクターは孤独な事務員を溺愛で包み込む

華藤りえ
恋愛
 塚森病院の事務員をする朱理は、心ない噂で心に傷を負って以来、メガネとマスクで顔を隠し、人目を避けるようにして一人、カルテ庫で書類整理をして過ごしていた。  ところがそんなある日、カルテ庫での昼寝を日課としていることから“眠り姫”と名付けた外科医・神野に眼鏡とマスクを奪われ、強引にキスをされてしまう。  それからも神野は頻繁にカルテ庫に来ては朱理とお茶をしたり、仕事のアドバイスをしてくれたりと関わりを深めだす……。  神野に惹かれることで、過去に受けた心の傷を徐々に忘れはじめていた朱理。  だが二人に思いもかけない事件が起きて――。 ※大人ドクターと真面目事務員の恋愛です🌟 ※R18シーン有 ※全話投稿予約済 ※2018.07.01 にLUNA文庫様より出版していた「眠りの森のドクターは堅物魔女を恋に堕とす」の改稿版です。 ※現在の版権は華藤りえにあります。 💕💕💕神野視点と結婚式を追加してます💕💕💕 ※イラスト:名残みちる(https://x.com/___NAGORI)様  デザイン:まお(https://x.com/MAO034626) 様 にお願いいたしました🌟

処理中です...