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『イリアス』――ギリシャ神話の叙事詩
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突然ですがみなさま、ホメロスの叙事詩『イリアス』ってご存じでしょうか?
世界史の教科書で古代ギリシャの文学として紹介されているので、中身は知らなくても名前ぐらいは聞いたことある方多いんじゃないんでしょうか?
また「トロイのヘレン」や「トロイの木馬」もよく耳にしますよね。今ではトロイの木馬というと、元ネタのトロイア戦争よりコンピューターに悪さする奴のイメージかもしれません。
ホメロスの叙事詩『イリアス』は、トロイア戦争の話です。
大昔、私は、読書感想文のホームページを作っていました。
読んだ本をジャンル関係なく紹介しておりましたが、そのなかになぜか『イリアス』がありました。
この叙事詩は、ただ今連載中の小説『勇者の冒険は続く』の元ネタです。元ネタというか名前とキャラクターの雰囲気だけ借りてますが。
せっかくなので当時のホームページの紹介文を引っ張ってきます。
読んだ本
ホメロス イリアス 上・下
松平千秋 訳
岩波文庫
1992年9月発行
Q:『イリアス』には、ギリシアの神様がどっちゃり登場するでしょ。ギリシアの神様というと、やっぱり人間的なの?
A:違う~。少なくとも『イリアス』では、人間の方がよっぽど立派だよ~。
Q:単に、イリアスの某重要人物が好きなだけでしょ。
A:違うわ! ヘクトルは某重要人物なんかじゃない! 主役よ主役! どう考えても、『イリアス』の主役はヘクトルに決定よ!
Q:わかったわかった……とりあえず、「ヘクトルってなに? 数学用語?」という人のために、『イリアス』の説明、頼むよ。
A:難しい仕事を押し付けて……。
トロイア戦争って聞いたことある? トロイアは、今のトルコの端っこ。そことギリシアが戦争するわけ。美女がきっかけでね。
トロイアの王子、パリスが、ギリシアのスパルタの王妃ヘレネに一目ぼれしてしまい、二人は手に手を取ってトロイアへ駆け落ち。これにギリシア側が怒り、美女ヘレネを取り返すぞ!……これが戦争のきっかけ。美人の人妻を巡る争いなんて、きゃ~♪
で、10年の戦いの後、ギリシアが勝ちトロイアは滅び、ヘレネはスパルタに戻るわけ。
Q:あんたが好きそうな話だね。じゃ、『イリアス』では、その戦争の一部始終が語られてるんだ?
A:そう思うでしょ? 分厚い岩波文庫で上下巻二冊も使っているから、戦争の始まりから終りまで歌われているって。
ははは、違うんだな。『イリアス』は、10年の長いトロイア戦争のうち、9年目のせいぜい2か月ぐらいの事件を扱ってるだけ。1日の戦闘に文庫本100ページぐらい使ってくれる。これ、スポーツ物の少年マンガだよ。甲子園の一試合を、半年もかかって連載するのと同じ。
とにかく、戦争のきっかけになったロマンティックな駆け落ち話は出てこないの、シクシク……。
Q:泣かなくてもいいから、『イリアス』の話を進めてよ。
A:だって、駆け落ち話好きなのにさ……。ここから『イリアス』の話に入るね。
トロイア側では、パリスのお兄さんのヘクトル王子ががんばるんけど、結局、ギリシア側のアキレウスに殺されてしまって、おしまい。
なんだ『イリアス』って文庫2冊も使ってるくせに、話はあっさりしてるなあ。
Q:いくらなんでも、省略しすぎだよ……。そんなにヘクトルって、あんたの好みなの?
A:客観的にも『イリアス』で一番ファンが多いのは、彼でしょ。あたしにしちゃ珍しくメジャー好みだわ、ほほほ……。 あたしが知ってる限り、解説書でもヘクトルのポイント高いもん。
Q:もういいよ。諦めたわ。『イリアス』の真っ当な解説は、あんたには無理だってことね。ヘクトルについて、大いに語ってちょうだい。
A:いいの? いいのね! やった~♪
まずプロフィール。お父さんはトロイアのプリアモス王で、お母さんは、お妃のヘカベ。プリアモス王は子沢山で、50人も息子と50人の娘がいたそうな。そのうち19人の子供は正妻のヘカベが産んだとか……お母さんご苦労様です。ほかのお妾さんもご苦労様です。美女ヘレネを持って帰っちゃったパリスも、ヘカベさんの子どもね。
ヘクトルは長男で、いわば跡継ぎ息子。正妻の産んだ跡継ぎという設定だと、ぼんくら息子が多いけど、彼は違うぞ。
トロイア随一の勇者さま~。背も高くルックスもいいし、武力はピカイチ。知力もなかなか、特にカリスマはすごいわ。トロイアの人々は、神様のように崇めているぐらい。
Q:はいはい、すごいね、ほんと、すごいね。
A:ほほほ、すごいでしょ? ポイントは「輝く兜」ね。『イリアス』では、人の名前の前に、枕詞のような形容がくっつくの。彼の場合、大抵、「輝く兜のヘクトル」といわれます。それと背が高い。ギリシア古典の英雄の条件でしょ。
でも顔についてはあまり説明がないの。他の人のルックスは言及してくれるけどね。ここまでカッコよかったら、顔はどうでもいいか~と思ってると、最後の最後、ヘクトルが殺され、気の毒にも身包みはがされたとき、ギリシア軍はヘクトルの端麗な容貌を見て感歎するわけ。
ふふふ。戦闘中は恐い兜で顔を隠して、蓋を開けると美男子って、きゃ~、すてきぃ。
Q:あんたはいっつもルックスだの毛並みだの外面的なところばかり騒いで、人間は中身が大事でしょ。
A:あのね~、ヘクトルが一番すごいのは、中身なのよ!! トロイアの王子というとすごそうな毛並みだけど、なにせギリシアの古典じゃ、むしろ、毛並み的には大したことない。だって、神様の子どもがゾロゾロ登場する。両親ともに人間のヘクトルは、英雄達の中では並かも。
あと、ルックスについても、美男子は英雄の条件の一つだから、並でしょ。人間で一番ルックスがいいのは、弟のパリスかな。なにせ枕詞が「その姿、神にもまごう」だしな。美人の人妻ヘレネを持って帰るだけあるぞ。
武力もトロイアでは随一だけど、ギリシア側には、ヘクトルより強い勇者がいる。最終的にアキレウスに殺されるけど、その前の大アイアスとの一騎打ちでも、ヘクトルの方が弱いし。
でもね、そんなことは問題じゃないの! 少なくとも少女マンガ的には、彼が一番!
Q:相変わらず思い込みが激しいようで
少女マンガのヒーローの最も大切な条件はね……「愛する人は君ひとり」。ルックスのよさは大前提だけど、これは絶対に外せません!
他の英雄なんて、戦争中に関わらずきれいなお姉さん侍らせて喜んでるけど、ヘクトルだけは違うわ! 彼は、愛妻のアンドロマケ一筋!
実際に、『イリアス』には、人間・神様問わずいろんな夫婦が登場するけど、仲良し夫婦はこのカップルだけ。あとは……推して知るべし。ゼウスとヘラは険悪夫婦の典型だけど、てっきりラブラブと思ってたパリスとヘレネも仲悪いんだわ。
Q:ヘクトルの話はもういいよ。じゃ、パリスとヘレネの話をしてよ。仲悪いの?
A:ヘレネは、トロイア戦争の元凶の美女。だから「ほほほ、私のために男たちが戦ってくれるのね~」と、悪魔的な女王様ぶりをはっきしてくれるかと期待したのに、全然違う~。
パリスと駆け落ちしたころは、ラブラブだったヘレネ。でも戦争がおこり9年も経つと、パリスが非常事態には頼りない、ルックスだけが取り柄の男とわかってしまったんでしょ。パリスの頼りなさをなじり、駆け落ちを後悔するばかり。
心はパリスを見限っているのに、ギリシアに戻るでもなく、惰性でパリスの奥さんを続けている。
これ、有閑マダムがジゴロに騙されつつ、縁が切れないケースじゃん。ヘレネは、スパルタ王宮の財宝を持ち出しているから、パリスに貢いでいるわけだし。
ある意味、普通の女性なんだね。あたしは、そういう彼女の弱さ、共感しちゃうな。
Q:美女と共感するって、あんた、ずうずうしいぞ。
A:もう一つ、共感する点があるよ。ヘレネは夫のパリスより、義理の兄さんのヘクトルの頼もしさに密かに惹かれているみたいなの。
ヘレネは、トロイア王宮の一族から冷遇されたけど、プリアモス王とヘクトルだけが彼女をかばったわけ。ああ、ヘクトルってステキ♪
Q:だからヘクトルの話はもういいって。そうだ、弟のパリスの話をしてよ。
A:最初は、きれいで頼りない兄ちゃんかと思ってました。でも、兄のヘクトルとの屈折した関係がいいんだな~。
超優等生の兄貴ヘクトルは、パリスをなじるなじる。しかも「お前は容姿だけの人間だ」と何度もいうところを見ると、ルックス的には、ヘクトルより上みたい。なにせ「神にも見まがう」らしいから。
できすぎた兄を持つ弟って、かわいそう。ヘクトルびいきのあたしさえ、パリスが気の毒になってしまった。
でも、ヘクトルはパリスを「お前はやればできる」と励ます。アキレウスにとどめをさされたとき「パリスがお前を倒すだろう」と言う。『イリアス』の後の話だけど、実際にアキレウスを倒したのは、パリスだし。
ヘクトルなりに、この弟に期待していたんだね。
Q:どうやってもヘクトルの話になっちゃうのね。他に感想はないの?
A:だって、ヘクトルかっこいいんだもん……。他の感想は……
美女を巡る戦争だから、ロマンティックかと思ったら、違う。古代の戦争ものだけあって、かなり残酷。
頭蓋骨が粉々とか、戦車が屍の群れを踏み潰して進むだの……これ以上語れません! 血が苦手な人は覚悟した方がいいよ。
体調が悪いときにうっかり読むと、ますます気分が悪くなります。
Q:戦争はロマンスじゃないし残酷だよ。
A:これは、一種の反戦文学かと思ったぐらい。
英雄が活躍する戦記ものなら、悪いやつを討伐して世界が平和になりました、になりそうだけと、『イリアス』は違うんだよね。
勧善懲悪ではないの。どれほど人格が優れても、神々に真面目に仕えても、情け容赦なく殺されてしまう。
不毛な戦争を誰もがやめたがっているのに、神々の介入という形で戦争が続行され、神々の気まぐれで犠牲者が続出する。これは、現代にも通じる、戦争の虚しさ愚かさそのものでしょう。
作者ホメロスの意図はわからないけど、私はかなり「反戦」のメッセージを感じたなあ。古代ギリシア人は、どう思ったのかな?
Q:ようやく真面目モードになったね。神々は、どう関わるわけ?
A:トロイア戦争は、神々もギリシア側とトロイア側にわかれて、戦闘に干渉するんだ。
干渉の仕方はいろいろあるよ。夢に現れる、人の心を動かす、身近な人に化けて忠告を与える形でそそのかす、ヒットポイント回復もあったなあ。戦闘でピンチにたった英雄たちを、テレポーテーションみたいにその場から救うとか、ヴァリエーションは様々ね。
ほとんどの神様は、ポリシーをはっきりさせていて、終始、自分が決めた陣営を応援している。でも、例外な神様がいるんだ。ギリシア神話でも最高ランクの神様で、特に女性の評判がいかにも悪そうな神様がねえ……
Q:というと、ゼウス?
A:ピンポーン! 女と見れば手を出さずにいられないという、気の毒な病気にかかった、神々の王様ゼウスで~す。
ギリシア神話というと、最高神ゼウスがあっちこっちで浮気して子どもを作って、それを奥様のヘラが癇癪を起こし、浮気相手の彼女やその子どもにいやがらせする……そのパターンだよね。
『イリアス』は、せいぜい2か月ぐらいのできごとなので、さすがに浮気して子どもを作る暇はないけど、険悪だよ。
ヘラは、一貫してギリシア側を助けるわけ。でも、ゼウスは初めトロイア側を応援する。なんでこの二人が離婚しないのか、わからない~。少なくとも、二人を結び付けているのは、愛情じゃなくて利害関係みたい。
どう考えても、奥さん一人を大切にしているただの人間ヘクトルの方が、人格的にはず~っと優れているもん!
Q:またヘクトル……ゼウスがトロイアを応援しているってことは、あんたの好きなヘクトルの味方でしょ。いいじゃない。
A:ちがーう! ギリシアの神様は、ホントわがまま! 捧げ物をケチると報復が恐い。
この点、ヘクトルは超わがままなギリシアの神々に対しても、実にまめまめしく仕えたのよ! それなのに、ヘクトルは気の毒にもアキレウスに殺されてしまった。
ヘクトルは、人間としてアキレウスに劣ったわけじゃないのよ。
なのに、アキレウス>ヘクトルと、神様たちはランキングを設定した。
理由はね……ヘクトルの両親は、人間。アキレウスは、女神と人間のハーフ。だからなんだって。
ひどい! つまり、人種差別じゃないか!
ヘクトルは並外れた努力をしてきたのに、両親が人間という理由だけで、人格的にはガキとしかいいようのないアキレウスの下におかれた。
ギリシアの神様は、絶対どこか間違ってる!
Q:どうしても、ヘクトルなんだね。でも、ゼウスはトロイア側なの? それとも最後はギリシアが勝つから、結局、ギリシアの味方なの?
A:凡人のあたしに、最高神の壮大な計画なんて、わかるわけないでしょ!
せっかくだから、『イリアス』大ざっぱなストーリーを追ってみようか。
・ギリシア軍の最強戦士アキレウスは、手柄の割に粗略に扱われ不満が鬱積。ついに「やってられっか!」キレて、戦線を離脱する。
・アキレウスは、母親である女神テティスに「ママ~、ギリシア軍のあいつらをなんとかして」と訴える。
・女神テティスは可愛い息子のため、ゼウスの膝に取りすがる。
・ゼウスは、「ヘラが恐いな~」とぶつぶつ言うが引き受けて、ギリシア軍を苦しめることにする。
・さらにヘクトルが大好きなゼウスは、彼の名声を上げたい。神の力添えで、ヘクトルはギリシア軍の戦士をどんどん殺す。よってギリシア側は犠牲者が続出。
・ヘクトルは、アキレウスの親友パトロクロスを殺す。それまで引っ込んでいたアキレウスは、親友の仇ヘクトルを討つため、ついに出動。
・ゼウスは、それまで神々の戦闘への干渉を抑えていたが、解禁する。
・神様同士でガンガン戦うもんだから、犠牲者続出&天変地異。ゼウスはとーっても、ハイな気持ちになってしまう。
・アキレウスはヘクトルを殺す。死体になったヘクトルは、気の毒にもアキレウスのおもちゃにされる。
・ヘクトルの父親プリアモス王は単身アキレウスの元に乗り込む。莫大な身代金と引き換えにヘクトルの遺骸を取り戻し、無事に葬儀が行われて『イリアス』終了。
Q:最初にストーリーぐらい説明してよ。で、ゼウスの壮大な計画ってなんなの?
A:だ・か・ら、わからないって言うのに!
ゼウスは、自分のお気に入りの人間の名声を上げるために、有名無名の犠牲者を作ってるよね。人間たちも、神々こそ戦争の原因だと、しばしば嘆く。
それに戦争や天変地異が起きると、ゼウスはハイテンションで気持ちよくなっちゃうらしい。
……これってどう考えても、RPGのラストボスそのものじゃない!!
アキレウス、君は間違っていたよ。RPGのセオリーなら、ここで真のボスの正体に気がつくべきなんだよ。
真の敵はヘクトルじゃない! 神々のゼウスに決まっているじゃないか! 最高難度のダンジョン、オリンポス山の頂上をめざして、ラストボス、神々の父ゼウスを倒すんだ!!
……あ、ゼウスが倒れたらギリシア神話終わっちゃうか。
2023年11月補足
いや、恥ずかしいです。ヘクトル様推し。それだけです。
トロイア戦争を描いた映画というと、ブラッド・ピットがアキレウスを演じた『トロイ』でしょう。パリスを演じたのはオーランド・ブルーム。この感想文を書いた後に公開され、もちろん見に行きました。
私てきには、エリック・バナのヘクトル様がカッコよかったので、満足な映画です。
イリアスには、ゼウスがなぜトロイア戦争を起こしたのかは書いてないので、当時の私はマジに、ゼウスの壮大な計画を知りませんでした。
その後、ギリシャ神話の本を読みウェブで調べたところ……神々の王ゼウスは、人類を削減するために戦争を起こしたそうです。
いや~ゼウス様、完璧なまでにラスボスです。
世界史の教科書で古代ギリシャの文学として紹介されているので、中身は知らなくても名前ぐらいは聞いたことある方多いんじゃないんでしょうか?
また「トロイのヘレン」や「トロイの木馬」もよく耳にしますよね。今ではトロイの木馬というと、元ネタのトロイア戦争よりコンピューターに悪さする奴のイメージかもしれません。
ホメロスの叙事詩『イリアス』は、トロイア戦争の話です。
大昔、私は、読書感想文のホームページを作っていました。
読んだ本をジャンル関係なく紹介しておりましたが、そのなかになぜか『イリアス』がありました。
この叙事詩は、ただ今連載中の小説『勇者の冒険は続く』の元ネタです。元ネタというか名前とキャラクターの雰囲気だけ借りてますが。
せっかくなので当時のホームページの紹介文を引っ張ってきます。
読んだ本
ホメロス イリアス 上・下
松平千秋 訳
岩波文庫
1992年9月発行
Q:『イリアス』には、ギリシアの神様がどっちゃり登場するでしょ。ギリシアの神様というと、やっぱり人間的なの?
A:違う~。少なくとも『イリアス』では、人間の方がよっぽど立派だよ~。
Q:単に、イリアスの某重要人物が好きなだけでしょ。
A:違うわ! ヘクトルは某重要人物なんかじゃない! 主役よ主役! どう考えても、『イリアス』の主役はヘクトルに決定よ!
Q:わかったわかった……とりあえず、「ヘクトルってなに? 数学用語?」という人のために、『イリアス』の説明、頼むよ。
A:難しい仕事を押し付けて……。
トロイア戦争って聞いたことある? トロイアは、今のトルコの端っこ。そことギリシアが戦争するわけ。美女がきっかけでね。
トロイアの王子、パリスが、ギリシアのスパルタの王妃ヘレネに一目ぼれしてしまい、二人は手に手を取ってトロイアへ駆け落ち。これにギリシア側が怒り、美女ヘレネを取り返すぞ!……これが戦争のきっかけ。美人の人妻を巡る争いなんて、きゃ~♪
で、10年の戦いの後、ギリシアが勝ちトロイアは滅び、ヘレネはスパルタに戻るわけ。
Q:あんたが好きそうな話だね。じゃ、『イリアス』では、その戦争の一部始終が語られてるんだ?
A:そう思うでしょ? 分厚い岩波文庫で上下巻二冊も使っているから、戦争の始まりから終りまで歌われているって。
ははは、違うんだな。『イリアス』は、10年の長いトロイア戦争のうち、9年目のせいぜい2か月ぐらいの事件を扱ってるだけ。1日の戦闘に文庫本100ページぐらい使ってくれる。これ、スポーツ物の少年マンガだよ。甲子園の一試合を、半年もかかって連載するのと同じ。
とにかく、戦争のきっかけになったロマンティックな駆け落ち話は出てこないの、シクシク……。
Q:泣かなくてもいいから、『イリアス』の話を進めてよ。
A:だって、駆け落ち話好きなのにさ……。ここから『イリアス』の話に入るね。
トロイア側では、パリスのお兄さんのヘクトル王子ががんばるんけど、結局、ギリシア側のアキレウスに殺されてしまって、おしまい。
なんだ『イリアス』って文庫2冊も使ってるくせに、話はあっさりしてるなあ。
Q:いくらなんでも、省略しすぎだよ……。そんなにヘクトルって、あんたの好みなの?
A:客観的にも『イリアス』で一番ファンが多いのは、彼でしょ。あたしにしちゃ珍しくメジャー好みだわ、ほほほ……。 あたしが知ってる限り、解説書でもヘクトルのポイント高いもん。
Q:もういいよ。諦めたわ。『イリアス』の真っ当な解説は、あんたには無理だってことね。ヘクトルについて、大いに語ってちょうだい。
A:いいの? いいのね! やった~♪
まずプロフィール。お父さんはトロイアのプリアモス王で、お母さんは、お妃のヘカベ。プリアモス王は子沢山で、50人も息子と50人の娘がいたそうな。そのうち19人の子供は正妻のヘカベが産んだとか……お母さんご苦労様です。ほかのお妾さんもご苦労様です。美女ヘレネを持って帰っちゃったパリスも、ヘカベさんの子どもね。
ヘクトルは長男で、いわば跡継ぎ息子。正妻の産んだ跡継ぎという設定だと、ぼんくら息子が多いけど、彼は違うぞ。
トロイア随一の勇者さま~。背も高くルックスもいいし、武力はピカイチ。知力もなかなか、特にカリスマはすごいわ。トロイアの人々は、神様のように崇めているぐらい。
Q:はいはい、すごいね、ほんと、すごいね。
A:ほほほ、すごいでしょ? ポイントは「輝く兜」ね。『イリアス』では、人の名前の前に、枕詞のような形容がくっつくの。彼の場合、大抵、「輝く兜のヘクトル」といわれます。それと背が高い。ギリシア古典の英雄の条件でしょ。
でも顔についてはあまり説明がないの。他の人のルックスは言及してくれるけどね。ここまでカッコよかったら、顔はどうでもいいか~と思ってると、最後の最後、ヘクトルが殺され、気の毒にも身包みはがされたとき、ギリシア軍はヘクトルの端麗な容貌を見て感歎するわけ。
ふふふ。戦闘中は恐い兜で顔を隠して、蓋を開けると美男子って、きゃ~、すてきぃ。
Q:あんたはいっつもルックスだの毛並みだの外面的なところばかり騒いで、人間は中身が大事でしょ。
A:あのね~、ヘクトルが一番すごいのは、中身なのよ!! トロイアの王子というとすごそうな毛並みだけど、なにせギリシアの古典じゃ、むしろ、毛並み的には大したことない。だって、神様の子どもがゾロゾロ登場する。両親ともに人間のヘクトルは、英雄達の中では並かも。
あと、ルックスについても、美男子は英雄の条件の一つだから、並でしょ。人間で一番ルックスがいいのは、弟のパリスかな。なにせ枕詞が「その姿、神にもまごう」だしな。美人の人妻ヘレネを持って帰るだけあるぞ。
武力もトロイアでは随一だけど、ギリシア側には、ヘクトルより強い勇者がいる。最終的にアキレウスに殺されるけど、その前の大アイアスとの一騎打ちでも、ヘクトルの方が弱いし。
でもね、そんなことは問題じゃないの! 少なくとも少女マンガ的には、彼が一番!
Q:相変わらず思い込みが激しいようで
少女マンガのヒーローの最も大切な条件はね……「愛する人は君ひとり」。ルックスのよさは大前提だけど、これは絶対に外せません!
他の英雄なんて、戦争中に関わらずきれいなお姉さん侍らせて喜んでるけど、ヘクトルだけは違うわ! 彼は、愛妻のアンドロマケ一筋!
実際に、『イリアス』には、人間・神様問わずいろんな夫婦が登場するけど、仲良し夫婦はこのカップルだけ。あとは……推して知るべし。ゼウスとヘラは険悪夫婦の典型だけど、てっきりラブラブと思ってたパリスとヘレネも仲悪いんだわ。
Q:ヘクトルの話はもういいよ。じゃ、パリスとヘレネの話をしてよ。仲悪いの?
A:ヘレネは、トロイア戦争の元凶の美女。だから「ほほほ、私のために男たちが戦ってくれるのね~」と、悪魔的な女王様ぶりをはっきしてくれるかと期待したのに、全然違う~。
パリスと駆け落ちしたころは、ラブラブだったヘレネ。でも戦争がおこり9年も経つと、パリスが非常事態には頼りない、ルックスだけが取り柄の男とわかってしまったんでしょ。パリスの頼りなさをなじり、駆け落ちを後悔するばかり。
心はパリスを見限っているのに、ギリシアに戻るでもなく、惰性でパリスの奥さんを続けている。
これ、有閑マダムがジゴロに騙されつつ、縁が切れないケースじゃん。ヘレネは、スパルタ王宮の財宝を持ち出しているから、パリスに貢いでいるわけだし。
ある意味、普通の女性なんだね。あたしは、そういう彼女の弱さ、共感しちゃうな。
Q:美女と共感するって、あんた、ずうずうしいぞ。
A:もう一つ、共感する点があるよ。ヘレネは夫のパリスより、義理の兄さんのヘクトルの頼もしさに密かに惹かれているみたいなの。
ヘレネは、トロイア王宮の一族から冷遇されたけど、プリアモス王とヘクトルだけが彼女をかばったわけ。ああ、ヘクトルってステキ♪
Q:だからヘクトルの話はもういいって。そうだ、弟のパリスの話をしてよ。
A:最初は、きれいで頼りない兄ちゃんかと思ってました。でも、兄のヘクトルとの屈折した関係がいいんだな~。
超優等生の兄貴ヘクトルは、パリスをなじるなじる。しかも「お前は容姿だけの人間だ」と何度もいうところを見ると、ルックス的には、ヘクトルより上みたい。なにせ「神にも見まがう」らしいから。
できすぎた兄を持つ弟って、かわいそう。ヘクトルびいきのあたしさえ、パリスが気の毒になってしまった。
でも、ヘクトルはパリスを「お前はやればできる」と励ます。アキレウスにとどめをさされたとき「パリスがお前を倒すだろう」と言う。『イリアス』の後の話だけど、実際にアキレウスを倒したのは、パリスだし。
ヘクトルなりに、この弟に期待していたんだね。
Q:どうやってもヘクトルの話になっちゃうのね。他に感想はないの?
A:だって、ヘクトルかっこいいんだもん……。他の感想は……
美女を巡る戦争だから、ロマンティックかと思ったら、違う。古代の戦争ものだけあって、かなり残酷。
頭蓋骨が粉々とか、戦車が屍の群れを踏み潰して進むだの……これ以上語れません! 血が苦手な人は覚悟した方がいいよ。
体調が悪いときにうっかり読むと、ますます気分が悪くなります。
Q:戦争はロマンスじゃないし残酷だよ。
A:これは、一種の反戦文学かと思ったぐらい。
英雄が活躍する戦記ものなら、悪いやつを討伐して世界が平和になりました、になりそうだけと、『イリアス』は違うんだよね。
勧善懲悪ではないの。どれほど人格が優れても、神々に真面目に仕えても、情け容赦なく殺されてしまう。
不毛な戦争を誰もがやめたがっているのに、神々の介入という形で戦争が続行され、神々の気まぐれで犠牲者が続出する。これは、現代にも通じる、戦争の虚しさ愚かさそのものでしょう。
作者ホメロスの意図はわからないけど、私はかなり「反戦」のメッセージを感じたなあ。古代ギリシア人は、どう思ったのかな?
Q:ようやく真面目モードになったね。神々は、どう関わるわけ?
A:トロイア戦争は、神々もギリシア側とトロイア側にわかれて、戦闘に干渉するんだ。
干渉の仕方はいろいろあるよ。夢に現れる、人の心を動かす、身近な人に化けて忠告を与える形でそそのかす、ヒットポイント回復もあったなあ。戦闘でピンチにたった英雄たちを、テレポーテーションみたいにその場から救うとか、ヴァリエーションは様々ね。
ほとんどの神様は、ポリシーをはっきりさせていて、終始、自分が決めた陣営を応援している。でも、例外な神様がいるんだ。ギリシア神話でも最高ランクの神様で、特に女性の評判がいかにも悪そうな神様がねえ……
Q:というと、ゼウス?
A:ピンポーン! 女と見れば手を出さずにいられないという、気の毒な病気にかかった、神々の王様ゼウスで~す。
ギリシア神話というと、最高神ゼウスがあっちこっちで浮気して子どもを作って、それを奥様のヘラが癇癪を起こし、浮気相手の彼女やその子どもにいやがらせする……そのパターンだよね。
『イリアス』は、せいぜい2か月ぐらいのできごとなので、さすがに浮気して子どもを作る暇はないけど、険悪だよ。
ヘラは、一貫してギリシア側を助けるわけ。でも、ゼウスは初めトロイア側を応援する。なんでこの二人が離婚しないのか、わからない~。少なくとも、二人を結び付けているのは、愛情じゃなくて利害関係みたい。
どう考えても、奥さん一人を大切にしているただの人間ヘクトルの方が、人格的にはず~っと優れているもん!
Q:またヘクトル……ゼウスがトロイアを応援しているってことは、あんたの好きなヘクトルの味方でしょ。いいじゃない。
A:ちがーう! ギリシアの神様は、ホントわがまま! 捧げ物をケチると報復が恐い。
この点、ヘクトルは超わがままなギリシアの神々に対しても、実にまめまめしく仕えたのよ! それなのに、ヘクトルは気の毒にもアキレウスに殺されてしまった。
ヘクトルは、人間としてアキレウスに劣ったわけじゃないのよ。
なのに、アキレウス>ヘクトルと、神様たちはランキングを設定した。
理由はね……ヘクトルの両親は、人間。アキレウスは、女神と人間のハーフ。だからなんだって。
ひどい! つまり、人種差別じゃないか!
ヘクトルは並外れた努力をしてきたのに、両親が人間という理由だけで、人格的にはガキとしかいいようのないアキレウスの下におかれた。
ギリシアの神様は、絶対どこか間違ってる!
Q:どうしても、ヘクトルなんだね。でも、ゼウスはトロイア側なの? それとも最後はギリシアが勝つから、結局、ギリシアの味方なの?
A:凡人のあたしに、最高神の壮大な計画なんて、わかるわけないでしょ!
せっかくだから、『イリアス』大ざっぱなストーリーを追ってみようか。
・ギリシア軍の最強戦士アキレウスは、手柄の割に粗略に扱われ不満が鬱積。ついに「やってられっか!」キレて、戦線を離脱する。
・アキレウスは、母親である女神テティスに「ママ~、ギリシア軍のあいつらをなんとかして」と訴える。
・女神テティスは可愛い息子のため、ゼウスの膝に取りすがる。
・ゼウスは、「ヘラが恐いな~」とぶつぶつ言うが引き受けて、ギリシア軍を苦しめることにする。
・さらにヘクトルが大好きなゼウスは、彼の名声を上げたい。神の力添えで、ヘクトルはギリシア軍の戦士をどんどん殺す。よってギリシア側は犠牲者が続出。
・ヘクトルは、アキレウスの親友パトロクロスを殺す。それまで引っ込んでいたアキレウスは、親友の仇ヘクトルを討つため、ついに出動。
・ゼウスは、それまで神々の戦闘への干渉を抑えていたが、解禁する。
・神様同士でガンガン戦うもんだから、犠牲者続出&天変地異。ゼウスはとーっても、ハイな気持ちになってしまう。
・アキレウスはヘクトルを殺す。死体になったヘクトルは、気の毒にもアキレウスのおもちゃにされる。
・ヘクトルの父親プリアモス王は単身アキレウスの元に乗り込む。莫大な身代金と引き換えにヘクトルの遺骸を取り戻し、無事に葬儀が行われて『イリアス』終了。
Q:最初にストーリーぐらい説明してよ。で、ゼウスの壮大な計画ってなんなの?
A:だ・か・ら、わからないって言うのに!
ゼウスは、自分のお気に入りの人間の名声を上げるために、有名無名の犠牲者を作ってるよね。人間たちも、神々こそ戦争の原因だと、しばしば嘆く。
それに戦争や天変地異が起きると、ゼウスはハイテンションで気持ちよくなっちゃうらしい。
……これってどう考えても、RPGのラストボスそのものじゃない!!
アキレウス、君は間違っていたよ。RPGのセオリーなら、ここで真のボスの正体に気がつくべきなんだよ。
真の敵はヘクトルじゃない! 神々のゼウスに決まっているじゃないか! 最高難度のダンジョン、オリンポス山の頂上をめざして、ラストボス、神々の父ゼウスを倒すんだ!!
……あ、ゼウスが倒れたらギリシア神話終わっちゃうか。
2023年11月補足
いや、恥ずかしいです。ヘクトル様推し。それだけです。
トロイア戦争を描いた映画というと、ブラッド・ピットがアキレウスを演じた『トロイ』でしょう。パリスを演じたのはオーランド・ブルーム。この感想文を書いた後に公開され、もちろん見に行きました。
私てきには、エリック・バナのヘクトル様がカッコよかったので、満足な映画です。
イリアスには、ゼウスがなぜトロイア戦争を起こしたのかは書いてないので、当時の私はマジに、ゼウスの壮大な計画を知りませんでした。
その後、ギリシャ神話の本を読みウェブで調べたところ……神々の王ゼウスは、人類を削減するために戦争を起こしたそうです。
いや~ゼウス様、完璧なまでにラスボスです。
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