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12章 エリオン(史師の教え)
183 救い
狭い通路に男の泣き声がこだまする。エリオンは静かにその背中を見守った。
ひとしきり泣き、落ち着きを取り戻した男は、少しの羞恥を滲ませて微笑んだ。
「見苦しいところを見せて済まなかった、エリオン殿……。貴殿のおかげで私は、救われた。……いや、レオニダス様の無念を思えば、救われることなど許されぬ身ではあるが」
「ニコス殿。救われない罪人などいません。ましてや、アルゴスと主君を想うあなたに、何の罪がありましょう。あなたが苦しみに囚われ続けていれば、それこそレオニダス様たちが天で悲しまれます」
「……本当に、不思議な方だ。失礼ながらまだお若く見えるのに、なぜ貴殿の言葉はこれほどまでに胸に染みるのか」
エリオンは曖昧な笑みを浮かべた。今の人生は十九年に過ぎないが、アタランテとしての五十五年、そして「たえ」として生きた三十五年の記憶が重なっている。
(私……全部足すと、百歳を超えるのよね)
「あ、そ、それは……その……」
言い訳を捻り出すより早く、静かな通路に「きゅおん」と間抜けた音が鳴り響いた。
エリオンは顔を赤らめ、胃のあたりをぎゅっと押さえた。
「あ、はは……すみません。お腹が……」
厳かな雰囲気で騎士を慰めていたはずが、台無しである。かつての聖妃としての威厳をどこかに落としてしまった。
しかしニコスは嘲笑うどころか、恩人への気遣いを見せた。
「これは失礼した、エリオン殿。路頭に迷う身とはいえ、恩ある貴殿をもてなすこともできぬとは」
「いえいえ! お気になさらず!」
「その代わりと言っては何だが、馴染みの宿へ案内しよう」
二人は隠し通路を抜け、街路へ戻った。表通りから入り組んだ路地を通り、「銀竜亭」と記された古い看板を掲げる石造りの建物に辿り着いた。
中に入ると、安酒と酸えた匂いが鼻を突いた。食堂のようだが、その光景は惨憺たるものだった。
テーブルには数人の男たちが伏し、「もっと酒を!」と陶器のマグを振り回している。隅では男女が昼間から不謹慎な遊びに興じていた。
エリオンは、客たちの乱れように、唖然として立ち尽くす。
「アグネス! 女将、どうしたんだこれは!」
ニコスの怒声に、カウンターの奥から痩せ細った中年女性が現れた。アグネスと呼ばれた彼女は、絶望に濁った瞳で訴えた。
「ニコス様……ようやくお戻りで……」
女将はただ、目を細めて首を振った。
「領主様が亡くなってから、何もかも変わっちまったんですよ。いい仕事はお役人に奪われ、私たちは飲むしかやることがないんです」
「そうだ……アルゴス城も王の役人に奪われた。なのに私は、人々の苦しみを顧みず己の不幸ばかりに囚われ……」
ニコスは肩を落とし、エリオンに力ない笑みを向けた。
「エリオン殿、すまぬ。ここはもう、貴殿を泊められるような宿ではないようだ……」
男が諦めて足を外へ向けたとき、エリオンはその一歩を遮るように立ちはだかった。
「いいえ! 今こそ、レオニダス様への恩を返す時です!」
酒に逃げるしかない人々を、放っておけるはずがない。
ネクロザールが偽物であれ本物であれ、王に傷つけられた人を救う……今こそその時ではないか。
かつて聖妃として都に治療院を建て、民を救った記憶が彼女を突き動かす。今の自分には財も権力もない。一介の奉仕生だ。だが、知恵と意志はある。
エリオンは女将アグネスを見据えた。
「女将さん。ありったけの水がめを、ここへ運んでください!」
「あ、あんた、一体……?」
「アグネス、この方は私の恩人だ。言う通りにしてやってくれ!」
「はっ、はい! ニコス様がそうおっしゃるなら!」
ニコスの強い言葉に、女将は弾かれたように地下へと降りていった。
エリオンは食堂で荒れる客たちに向かって、鋭く手を叩いた。
「さあ! あなた方、酒は充分飲んだはず! 立ってください!」
酔客たちは呆気に取られて「なまっちろい兄ちゃんが、何言ってやがる」と指を差して笑った。
「皆さんに必要なのは、一杯の水です! 女将さんに倣って水がめを運んでください」
「おいおい、俺たちと遊ぼうぜ。そんな綺麗な顔してりゃ、男でも女でも構やしねえ」
伸ばされた酔客の腕を、ニコスが烈火の如き勢いではたき落とした。
「私の恩人に触れるな! さっさと地下へ行って女将を手伝わんか!」
「ひ、ひいい! ニコス様! すいやせん!」
ニコスが次々と男女を立たせ、地下へと追い立てていく。エリオンは彼に心からの笑顔を向けた。
「助かりました。ニコス殿は、やはり皆さんに尊敬されているのですね。レオニダス様も喜んでおられますよ」
「エリオン殿……。貴殿という人は……こんな私に……」
男は涙を拭い、自らも地下室へと降りていった。
壺を抱えた一行は川へ向かい、汲みたての水を浴びるように飲んだ。
「ぷはあ、生き返る」
「お日様が、こんなに温けえなんてなあ」
人々に生気が戻るのを見て、エリオンは太陽のような笑みを浮かべた。
「皆さんは素晴らしい力を持っています! 酒に逃げるほど辛い境遇にありながら、こうして自分の力で水を運び、天の恵みを喜べるのですから」
「……でもよ、兄ちゃん。水だけじゃ腹は膨れねえよ」
奉仕生は自分の腹を抑えつつ微笑みを崩さない。
「ええ、私も同じです。お腹が空いて立っていられません! ですから、これから夕餉の支度をしましょう。足元を見てください。大地の恵みが芽吹いているではありませんか!」
エリオンの指導のもと、人々は動き出した。
男たちは林へ薪を集めに走り、女たちは河原で野草を摘む。「木苺が実っていたよ!」と顔を輝かせる者も現れた。
宿へ戻ると、食堂は戦場の活気に包まれた。
鍋にはたっぷりの水と、摘んできたばかりの野草。
アグネスは初めこそ戸惑っていたが、次第に「アク抜きは丁寧にしなさいよ!」と采配を振るい始めた。
さらに、彼女は棚の奥から干し肉の塊を引っ張り出してきた。
「草だけじゃ力が出ないだろう? 大盤振る舞いだよ!」
干し肉の旨味が溶け出した野草のシチュー。
その香ばしい匂いが食堂を満たすと、誰もが思い出話に花を咲かせた。時には亡き領主を想って涙したが、それは決して暗い涙ではなかった。
そこへ、二階から五歳ほどの男の子が顔を出した。
「母ちゃん、オイラにも食わせて!」
「ダニエル! 卑しいところはお父ちゃんそっくりだねえ」
アグネスの息子ダニエルは、真っ先にニコスへ駆け寄った。
「おじさん!」
「はは、ダニエル坊。重くなったな」
ニコスが子供を高く抱き上げると、食堂に温かい笑い声が弾けた。
「あんたのおかげだよ。今日はうちに泊まっていきな」
満足げに笑うアグネスに、エリオンは深く頭を下げた。
「ありがとうございます。……もしよろしければ、しばらく置いていただけませんか? 皿洗いでも掃除でも、何でもしますから」
「ああ、あんたはアタシたちの恩人だ。ニコス様も『代わりに用心棒をする』なんて張り切ってるし、いつまでだっていたっていいんだよ」
エリオンは、久しぶりに柔らかい寝具に身を沈め、安らかな眠りに落ちた。
――アタランテ、起きたか?
――やだ! 私、また寝坊しちゃったわ。
――そんな体で無理をするな。ほら、羊のスープだ。
――まあ、あなたが作ったの? いい匂い……。
――腹の子のためにも、たくさん食うんだぞ。
――嬉しい……。私はアルゴス一、幸せな女ね。
――じゃあ、俺は世界一の幸せ者だ。あんたの笑顔を、こうして近くで見られるんだから。
――もう! くすぐったいわ! 悪いお父様ねえ……ふふ……
はっと目が覚めると、窓から差し込む陽光が部屋を白く染めていた。
夢、だった。
イドメネウスを身籠ったころだろうか……アタランテが幸福の絶頂にいた、遠い過去の断片。
エリオンは静かに首を振った。ネクロザールは、あのアトレウスではない。自分を愛おしんでくれた男は、もうこの世にはいないのだ。
「いけない、寝過ごした! 水汲みに行ってきます!」
彼女はバタバタと階段を駆け下りた。
自分はもう、大勢の侍女に守られた王妃ではない。この裏通りの宿こそが、エリオンの生きる場所なのだ。
ひとしきり泣き、落ち着きを取り戻した男は、少しの羞恥を滲ませて微笑んだ。
「見苦しいところを見せて済まなかった、エリオン殿……。貴殿のおかげで私は、救われた。……いや、レオニダス様の無念を思えば、救われることなど許されぬ身ではあるが」
「ニコス殿。救われない罪人などいません。ましてや、アルゴスと主君を想うあなたに、何の罪がありましょう。あなたが苦しみに囚われ続けていれば、それこそレオニダス様たちが天で悲しまれます」
「……本当に、不思議な方だ。失礼ながらまだお若く見えるのに、なぜ貴殿の言葉はこれほどまでに胸に染みるのか」
エリオンは曖昧な笑みを浮かべた。今の人生は十九年に過ぎないが、アタランテとしての五十五年、そして「たえ」として生きた三十五年の記憶が重なっている。
(私……全部足すと、百歳を超えるのよね)
「あ、そ、それは……その……」
言い訳を捻り出すより早く、静かな通路に「きゅおん」と間抜けた音が鳴り響いた。
エリオンは顔を赤らめ、胃のあたりをぎゅっと押さえた。
「あ、はは……すみません。お腹が……」
厳かな雰囲気で騎士を慰めていたはずが、台無しである。かつての聖妃としての威厳をどこかに落としてしまった。
しかしニコスは嘲笑うどころか、恩人への気遣いを見せた。
「これは失礼した、エリオン殿。路頭に迷う身とはいえ、恩ある貴殿をもてなすこともできぬとは」
「いえいえ! お気になさらず!」
「その代わりと言っては何だが、馴染みの宿へ案内しよう」
二人は隠し通路を抜け、街路へ戻った。表通りから入り組んだ路地を通り、「銀竜亭」と記された古い看板を掲げる石造りの建物に辿り着いた。
中に入ると、安酒と酸えた匂いが鼻を突いた。食堂のようだが、その光景は惨憺たるものだった。
テーブルには数人の男たちが伏し、「もっと酒を!」と陶器のマグを振り回している。隅では男女が昼間から不謹慎な遊びに興じていた。
エリオンは、客たちの乱れように、唖然として立ち尽くす。
「アグネス! 女将、どうしたんだこれは!」
ニコスの怒声に、カウンターの奥から痩せ細った中年女性が現れた。アグネスと呼ばれた彼女は、絶望に濁った瞳で訴えた。
「ニコス様……ようやくお戻りで……」
女将はただ、目を細めて首を振った。
「領主様が亡くなってから、何もかも変わっちまったんですよ。いい仕事はお役人に奪われ、私たちは飲むしかやることがないんです」
「そうだ……アルゴス城も王の役人に奪われた。なのに私は、人々の苦しみを顧みず己の不幸ばかりに囚われ……」
ニコスは肩を落とし、エリオンに力ない笑みを向けた。
「エリオン殿、すまぬ。ここはもう、貴殿を泊められるような宿ではないようだ……」
男が諦めて足を外へ向けたとき、エリオンはその一歩を遮るように立ちはだかった。
「いいえ! 今こそ、レオニダス様への恩を返す時です!」
酒に逃げるしかない人々を、放っておけるはずがない。
ネクロザールが偽物であれ本物であれ、王に傷つけられた人を救う……今こそその時ではないか。
かつて聖妃として都に治療院を建て、民を救った記憶が彼女を突き動かす。今の自分には財も権力もない。一介の奉仕生だ。だが、知恵と意志はある。
エリオンは女将アグネスを見据えた。
「女将さん。ありったけの水がめを、ここへ運んでください!」
「あ、あんた、一体……?」
「アグネス、この方は私の恩人だ。言う通りにしてやってくれ!」
「はっ、はい! ニコス様がそうおっしゃるなら!」
ニコスの強い言葉に、女将は弾かれたように地下へと降りていった。
エリオンは食堂で荒れる客たちに向かって、鋭く手を叩いた。
「さあ! あなた方、酒は充分飲んだはず! 立ってください!」
酔客たちは呆気に取られて「なまっちろい兄ちゃんが、何言ってやがる」と指を差して笑った。
「皆さんに必要なのは、一杯の水です! 女将さんに倣って水がめを運んでください」
「おいおい、俺たちと遊ぼうぜ。そんな綺麗な顔してりゃ、男でも女でも構やしねえ」
伸ばされた酔客の腕を、ニコスが烈火の如き勢いではたき落とした。
「私の恩人に触れるな! さっさと地下へ行って女将を手伝わんか!」
「ひ、ひいい! ニコス様! すいやせん!」
ニコスが次々と男女を立たせ、地下へと追い立てていく。エリオンは彼に心からの笑顔を向けた。
「助かりました。ニコス殿は、やはり皆さんに尊敬されているのですね。レオニダス様も喜んでおられますよ」
「エリオン殿……。貴殿という人は……こんな私に……」
男は涙を拭い、自らも地下室へと降りていった。
壺を抱えた一行は川へ向かい、汲みたての水を浴びるように飲んだ。
「ぷはあ、生き返る」
「お日様が、こんなに温けえなんてなあ」
人々に生気が戻るのを見て、エリオンは太陽のような笑みを浮かべた。
「皆さんは素晴らしい力を持っています! 酒に逃げるほど辛い境遇にありながら、こうして自分の力で水を運び、天の恵みを喜べるのですから」
「……でもよ、兄ちゃん。水だけじゃ腹は膨れねえよ」
奉仕生は自分の腹を抑えつつ微笑みを崩さない。
「ええ、私も同じです。お腹が空いて立っていられません! ですから、これから夕餉の支度をしましょう。足元を見てください。大地の恵みが芽吹いているではありませんか!」
エリオンの指導のもと、人々は動き出した。
男たちは林へ薪を集めに走り、女たちは河原で野草を摘む。「木苺が実っていたよ!」と顔を輝かせる者も現れた。
宿へ戻ると、食堂は戦場の活気に包まれた。
鍋にはたっぷりの水と、摘んできたばかりの野草。
アグネスは初めこそ戸惑っていたが、次第に「アク抜きは丁寧にしなさいよ!」と采配を振るい始めた。
さらに、彼女は棚の奥から干し肉の塊を引っ張り出してきた。
「草だけじゃ力が出ないだろう? 大盤振る舞いだよ!」
干し肉の旨味が溶け出した野草のシチュー。
その香ばしい匂いが食堂を満たすと、誰もが思い出話に花を咲かせた。時には亡き領主を想って涙したが、それは決して暗い涙ではなかった。
そこへ、二階から五歳ほどの男の子が顔を出した。
「母ちゃん、オイラにも食わせて!」
「ダニエル! 卑しいところはお父ちゃんそっくりだねえ」
アグネスの息子ダニエルは、真っ先にニコスへ駆け寄った。
「おじさん!」
「はは、ダニエル坊。重くなったな」
ニコスが子供を高く抱き上げると、食堂に温かい笑い声が弾けた。
「あんたのおかげだよ。今日はうちに泊まっていきな」
満足げに笑うアグネスに、エリオンは深く頭を下げた。
「ありがとうございます。……もしよろしければ、しばらく置いていただけませんか? 皿洗いでも掃除でも、何でもしますから」
「ああ、あんたはアタシたちの恩人だ。ニコス様も『代わりに用心棒をする』なんて張り切ってるし、いつまでだっていたっていいんだよ」
エリオンは、久しぶりに柔らかい寝具に身を沈め、安らかな眠りに落ちた。
――アタランテ、起きたか?
――やだ! 私、また寝坊しちゃったわ。
――そんな体で無理をするな。ほら、羊のスープだ。
――まあ、あなたが作ったの? いい匂い……。
――腹の子のためにも、たくさん食うんだぞ。
――嬉しい……。私はアルゴス一、幸せな女ね。
――じゃあ、俺は世界一の幸せ者だ。あんたの笑顔を、こうして近くで見られるんだから。
――もう! くすぐったいわ! 悪いお父様ねえ……ふふ……
はっと目が覚めると、窓から差し込む陽光が部屋を白く染めていた。
夢、だった。
イドメネウスを身籠ったころだろうか……アタランテが幸福の絶頂にいた、遠い過去の断片。
エリオンは静かに首を振った。ネクロザールは、あのアトレウスではない。自分を愛おしんでくれた男は、もうこの世にはいないのだ。
「いけない、寝過ごした! 水汲みに行ってきます!」
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