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12章 エリオン(史師の教え)
184 聖なる愛
エリオンが慌ただしく階段を降りると、女将の息子ダニエルが「兄ちゃん、遅いぞ!」と迎えてくれた。
食堂には、母アグネスの元気な叱り声が響いている。
「ほら! もっと腰を入れて床を拭くんだよ!」
「おいおい、俺たちゃ客だぜ。あんまりこき使うなよ」
「宿代も払えないような奴は客じゃないよ! ほら、サボるんじゃない!」
男たちがブツクサと言いながらも、せっせとテーブルや床を磨いている。
その中の一人、銀髪を後ろで束ねたニコスが、手慣れた様子で窓枠を叩いていた。
「アグネス、私は恥ずかしい。長年世話になっておきながら、恩返しもせず乞食に甘んじていたとは」
女将が慌てて駆け寄る。
「とんでもない! ニコス様にはゆっくり休んでいただきたいのに。あたしたちこそ、恩返しをさせてくださいよ」
エリオンは、傍らで微笑むアグネスに尋ねた。
「ニコス殿は、本当に皆さんに慕われているんですね」
「ええ、ニコス様はこんな裏通りの宿にもよく通って、金貨を弾んでくださったり、客たちの喧嘩を収めてくださったり……。本当に立派な方なんです」
エリオンは深く頷いた。墓場で見かけた時の彼は、絶望の淵を彷徨う死人のようだった。しかし今の眼には、確かな光が宿っている。
「ニコス様ぁ! このテーブル、脚がガタガタだよ!」
「全く……お前たちが暴れて壊したせいだろう。よし、今から裏山へ木を切り出しに行くぞ」
「へえへえ、騎士様には逆らえないなあ」
男たちを従えるニコスと、ふと目が合った。
「エリオン殿! お目覚めか。……そうだ、女将」
「はい、ニコス様」
「私の恩人に、特製のガレットを焼いてやってくれないか」
女将は「あいよ、任せな!」と笑い、台所へ向かった。エリオンも吸い寄せられるように後に続く。
「あの……ニコス殿には、奥方やお子様はいらっしゃらないのですか?」
かまどに薪をくべながら、気になっていたことを尋ねてみた。
「それが、ずっとお独りでね。浮いた噂一つないんだ。若い娘たちはみんな憧れていたけれど、領主様からの縁談もすべて断ってしまったそうだよ……」
アグネスは、足元でじゃれつくダニエルの頭を愛おしそうになでた。
「そういえば、女将さんのご主人は……?」
「主人は五年前に流行病で死んじまったよ。この子がまだお腹にいた頃さ。ニコス様に励ましてもらって、なんとかここまで頑張ってこれたんだ。……さあ、召し上がれ」
焼きたてのガレットから、香ばしい匂いが立ち上る。エリオンは夢中でかぶりついた。
「美味しい……! ニコス殿が勧めるわけですね」
台所で温かな時間を過ごしていたとき、突如として食堂が騒がしくなった。
「うるせえ! お前みたいなババアの顔、見飽きたんだよ! 大体、一晩や二晩、他の女と寝たくらいでグチャグチャ抜かすんじゃねえ!」
「一晩や二晩じゃないよ! あんた、十日も帰ってこないじゃない……ううっ、ひどいよ……」
まただ。ティリンス村でもよく見かけた、男女の揉め事。
奉仕生として、これを放ってはおけない。
食堂では、四十前後の男女がテーブルを挟んで睨み合っていた。泣き腫らした女の目が、あまりに痛々しい。
「静かにしてください。長年連れ添った奥方にその仕打ち……アルゴスの男性として、恥ずかしくはないのですか?」
中年男がエリオンの顔に指を突きつけてきた。反射的に身を引く。
「へっ、お前さん、いい優男だな。さては何度も女と遊んでる口だろう?」
下卑た物言いに硬直する。自分は今、男の格好をしている。つまり、女遊びをする存在として見られるということだ。
「なっ……! 馬鹿なことを。私は女など……。い、いえ、私は聖王様と聖妃様に仕える身。断じて、女性を泣かせるような真似はいたしません!」
「へえ、真面目なこった。でもよ、あの聖王様にはお妾さんが五千人もいたんだろ? だったら、俺がよそに一人や二人、女を囲ったってバチは当たらねえはずだ」
エリオンは耳を真っ赤にして声を張り上げた。
「冗談じゃない! なぜ五千人に増えている! いくらアトレウス様でも……いや……」
千年も前に死んだ夫に、猛烈に腹が立ってきた。正直、アトレウスが何人の女を囲っていたか、妻であるアタランテも正確には把握していない。だが、百人は超えていなかったはずだ……自信はないが。
いや、人数の問題ではない。夫が公然と他の女を愛したせいで、千年後の男たちの浮気が正当化されるのだ。
(ああ、恥ずかしい! あなたはなんて余計な遺産を遺してくれたの!!)
「その伝説は、完全に間違っています!」
エリオンは瞳に鋭い光を宿し、顔を上げた。
「聖王アトレウスは、生涯、聖妃アタランテだけを愛されました。アルゴス王宮の女性たちは、誰一人として王と過ちを犯すことなく、誠実に務めを果たしたのです!」
凛とした声が食堂に響き渡る。
「さようであったか、エリオン殿」
聞き覚えのある野太い声がした。戸口には、木材を抱えたニコスたちが立っていた。
「聖王様がなぜあれほど多くの妾を囲ったのか、私にも理解できなかった。ゴンドレシアを繁栄させた偉大な方が、なぜ聖妃様を嫉妬で苦しめたのか……常々、不思議に思っていたのだ」
エリオンの額に嫌な汗がにじむ。
さっきの浮気男に嘘をつくのは平気だが、この誠実すぎる騎士に嘘を重ねるのは、ひどく心が痛む。
「あ、いや……私はそうではないかと、推測しているだけで……」
ニコスは顔をほころばせ、木材を床に置いた。
「エリオン殿は、私とこの食堂に活気を取り戻し、救ってくれた。貴殿の言葉に、過ちはなかろう。皆も、そう思うだろう!」
食堂の人々が「ニコス様!」「エリオン様!」と口々に称賛の声を上げる。
しかし、ダニエルが余計な一言を投げかけた。
「違うよぉ。教会のおじさんが言ってたもん。聖王様に女の人がいっぱいいたから、聖妃様はいつもイライラぷんぷんしてたんだって」
エリオンの頬が、一瞬で怒りの赤に染まった。小さな子供に低俗な説法をしたのは、どこのどいつだ!
彼女はダニエルの前にしゃがみ込み、努めて穏やかな声を絞り出した。
「それはね、間違った話が伝わったんだ。聖妃様をよく思わない人たちが、勝手な噂を広めただけなんだよ」
「えー、でも教会に絵があるんだよ? 聖王様の周りにいっぱい女の人がいて、聖妃様がすっごい怒ってる絵!」
エリオンの顔から血の気が引き、今度は青ざめた。
「……その不届きな教会は、どこにありますか」
怒髪天を衝く勢いで食堂を飛び出した奉仕生を、ニコスたちが「エリオン殿ー!」と慌てて追いかけた。
その絵は、ピュロス教会の聖堂を、おぞましい鮮やかさで飾っていた。
薔薇の装飾が施された、巨大な額縁。
そこには、キトンの女たちを従えた男と、彼らを睨みつける一人の女が描かれていた。
間違いない。アタランテが生涯最後に見た、あの屈辱的な壁画と同じ構図だ。夫アトレウスが、名うての職人に数カ月も掛けさせて制作させた、聖妃恥辱の記録。
彼は笑って言ったものだ。
『お前の功績と美しさを、千年二千年先まで伝えるために決まっているだろう?』と。
本当に千年も伝わるとは! だが、伝わったのは美しさでも功績でもなく、愛妾たちに囲まれる夫を睨みつける、醜い嫉妬に狂った女の姿だった。
千年経ち、文明は進化した。パンは柔らかく、ワインは澄んでいる。
そして、皮肉なことに絵画の技術までもが発達していた。
描き直されたであろうその絵の中の聖王アトレウスは、かつてより一層傲慢に胸を張り、周囲の女たちはこれ見よがしに王へ身を寄せている。
対するアタランテは――髪を逆立て、歯ぎしりをし、血走った目で彼らを呪っている。滑稽なほど醜悪に。
エリオンは無言で、腰のナイフを抜いた。
静寂に包まれた聖堂に、布地が激しく引き裂かれる音が響き渡る。
絵画の中の聖妃は、その顔を十文字に斬り裂かれた。
その直後、聖堂内に居合わせた者たちの、悲鳴にも似た叫びが上がった。
食堂には、母アグネスの元気な叱り声が響いている。
「ほら! もっと腰を入れて床を拭くんだよ!」
「おいおい、俺たちゃ客だぜ。あんまりこき使うなよ」
「宿代も払えないような奴は客じゃないよ! ほら、サボるんじゃない!」
男たちがブツクサと言いながらも、せっせとテーブルや床を磨いている。
その中の一人、銀髪を後ろで束ねたニコスが、手慣れた様子で窓枠を叩いていた。
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女将が慌てて駆け寄る。
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エリオンは、傍らで微笑むアグネスに尋ねた。
「ニコス殿は、本当に皆さんに慕われているんですね」
「ええ、ニコス様はこんな裏通りの宿にもよく通って、金貨を弾んでくださったり、客たちの喧嘩を収めてくださったり……。本当に立派な方なんです」
エリオンは深く頷いた。墓場で見かけた時の彼は、絶望の淵を彷徨う死人のようだった。しかし今の眼には、確かな光が宿っている。
「ニコス様ぁ! このテーブル、脚がガタガタだよ!」
「全く……お前たちが暴れて壊したせいだろう。よし、今から裏山へ木を切り出しに行くぞ」
「へえへえ、騎士様には逆らえないなあ」
男たちを従えるニコスと、ふと目が合った。
「エリオン殿! お目覚めか。……そうだ、女将」
「はい、ニコス様」
「私の恩人に、特製のガレットを焼いてやってくれないか」
女将は「あいよ、任せな!」と笑い、台所へ向かった。エリオンも吸い寄せられるように後に続く。
「あの……ニコス殿には、奥方やお子様はいらっしゃらないのですか?」
かまどに薪をくべながら、気になっていたことを尋ねてみた。
「それが、ずっとお独りでね。浮いた噂一つないんだ。若い娘たちはみんな憧れていたけれど、領主様からの縁談もすべて断ってしまったそうだよ……」
アグネスは、足元でじゃれつくダニエルの頭を愛おしそうになでた。
「そういえば、女将さんのご主人は……?」
「主人は五年前に流行病で死んじまったよ。この子がまだお腹にいた頃さ。ニコス様に励ましてもらって、なんとかここまで頑張ってこれたんだ。……さあ、召し上がれ」
焼きたてのガレットから、香ばしい匂いが立ち上る。エリオンは夢中でかぶりついた。
「美味しい……! ニコス殿が勧めるわけですね」
台所で温かな時間を過ごしていたとき、突如として食堂が騒がしくなった。
「うるせえ! お前みたいなババアの顔、見飽きたんだよ! 大体、一晩や二晩、他の女と寝たくらいでグチャグチャ抜かすんじゃねえ!」
「一晩や二晩じゃないよ! あんた、十日も帰ってこないじゃない……ううっ、ひどいよ……」
まただ。ティリンス村でもよく見かけた、男女の揉め事。
奉仕生として、これを放ってはおけない。
食堂では、四十前後の男女がテーブルを挟んで睨み合っていた。泣き腫らした女の目が、あまりに痛々しい。
「静かにしてください。長年連れ添った奥方にその仕打ち……アルゴスの男性として、恥ずかしくはないのですか?」
中年男がエリオンの顔に指を突きつけてきた。反射的に身を引く。
「へっ、お前さん、いい優男だな。さては何度も女と遊んでる口だろう?」
下卑た物言いに硬直する。自分は今、男の格好をしている。つまり、女遊びをする存在として見られるということだ。
「なっ……! 馬鹿なことを。私は女など……。い、いえ、私は聖王様と聖妃様に仕える身。断じて、女性を泣かせるような真似はいたしません!」
「へえ、真面目なこった。でもよ、あの聖王様にはお妾さんが五千人もいたんだろ? だったら、俺がよそに一人や二人、女を囲ったってバチは当たらねえはずだ」
エリオンは耳を真っ赤にして声を張り上げた。
「冗談じゃない! なぜ五千人に増えている! いくらアトレウス様でも……いや……」
千年も前に死んだ夫に、猛烈に腹が立ってきた。正直、アトレウスが何人の女を囲っていたか、妻であるアタランテも正確には把握していない。だが、百人は超えていなかったはずだ……自信はないが。
いや、人数の問題ではない。夫が公然と他の女を愛したせいで、千年後の男たちの浮気が正当化されるのだ。
(ああ、恥ずかしい! あなたはなんて余計な遺産を遺してくれたの!!)
「その伝説は、完全に間違っています!」
エリオンは瞳に鋭い光を宿し、顔を上げた。
「聖王アトレウスは、生涯、聖妃アタランテだけを愛されました。アルゴス王宮の女性たちは、誰一人として王と過ちを犯すことなく、誠実に務めを果たしたのです!」
凛とした声が食堂に響き渡る。
「さようであったか、エリオン殿」
聞き覚えのある野太い声がした。戸口には、木材を抱えたニコスたちが立っていた。
「聖王様がなぜあれほど多くの妾を囲ったのか、私にも理解できなかった。ゴンドレシアを繁栄させた偉大な方が、なぜ聖妃様を嫉妬で苦しめたのか……常々、不思議に思っていたのだ」
エリオンの額に嫌な汗がにじむ。
さっきの浮気男に嘘をつくのは平気だが、この誠実すぎる騎士に嘘を重ねるのは、ひどく心が痛む。
「あ、いや……私はそうではないかと、推測しているだけで……」
ニコスは顔をほころばせ、木材を床に置いた。
「エリオン殿は、私とこの食堂に活気を取り戻し、救ってくれた。貴殿の言葉に、過ちはなかろう。皆も、そう思うだろう!」
食堂の人々が「ニコス様!」「エリオン様!」と口々に称賛の声を上げる。
しかし、ダニエルが余計な一言を投げかけた。
「違うよぉ。教会のおじさんが言ってたもん。聖王様に女の人がいっぱいいたから、聖妃様はいつもイライラぷんぷんしてたんだって」
エリオンの頬が、一瞬で怒りの赤に染まった。小さな子供に低俗な説法をしたのは、どこのどいつだ!
彼女はダニエルの前にしゃがみ込み、努めて穏やかな声を絞り出した。
「それはね、間違った話が伝わったんだ。聖妃様をよく思わない人たちが、勝手な噂を広めただけなんだよ」
「えー、でも教会に絵があるんだよ? 聖王様の周りにいっぱい女の人がいて、聖妃様がすっごい怒ってる絵!」
エリオンの顔から血の気が引き、今度は青ざめた。
「……その不届きな教会は、どこにありますか」
怒髪天を衝く勢いで食堂を飛び出した奉仕生を、ニコスたちが「エリオン殿ー!」と慌てて追いかけた。
その絵は、ピュロス教会の聖堂を、おぞましい鮮やかさで飾っていた。
薔薇の装飾が施された、巨大な額縁。
そこには、キトンの女たちを従えた男と、彼らを睨みつける一人の女が描かれていた。
間違いない。アタランテが生涯最後に見た、あの屈辱的な壁画と同じ構図だ。夫アトレウスが、名うての職人に数カ月も掛けさせて制作させた、聖妃恥辱の記録。
彼は笑って言ったものだ。
『お前の功績と美しさを、千年二千年先まで伝えるために決まっているだろう?』と。
本当に千年も伝わるとは! だが、伝わったのは美しさでも功績でもなく、愛妾たちに囲まれる夫を睨みつける、醜い嫉妬に狂った女の姿だった。
千年経ち、文明は進化した。パンは柔らかく、ワインは澄んでいる。
そして、皮肉なことに絵画の技術までもが発達していた。
描き直されたであろうその絵の中の聖王アトレウスは、かつてより一層傲慢に胸を張り、周囲の女たちはこれ見よがしに王へ身を寄せている。
対するアタランテは――髪を逆立て、歯ぎしりをし、血走った目で彼らを呪っている。滑稽なほど醜悪に。
エリオンは無言で、腰のナイフを抜いた。
静寂に包まれた聖堂に、布地が激しく引き裂かれる音が響き渡る。
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