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12章 エリオン(史師の教え)
186 さらばアルゴス
ネクロザール直属の騎士に追われ、エリオンたちは濁流の川面へと身を投げた。
激しい流れの中、エリオンはニコスに抱えられたまま必死に足をばたつかせる。
薄暗い地下水路を潜り抜け、これ以上は息が続かないともがいた刹那、顔が空気に触れた。
足に確かな手応えを感じる。水面は腰ほどの高さで、なんとか自立することができた。
エリオンはニコスに腕を引かれ、地下水路の岸へと辿り着いた。
「エリオン様、しばらくここでお待ちを」
忠実な騎士は闇の中へ消えた。一人残されたエリオンは、ずぶ濡れのローブをぎゅっと絞る。静かに流れる水音が心地よいはずなのに、体温を奪われていく感覚がひどく惨めだった。
しばらくして、松明を手にしたニコスが戻ってきた。
「あ、ここは……」
見回せば、そこはかつてニコスと初めて語り合った、城へ通じる隠し通路だった。
「この道を辿れば外へ出られます。さあ、急ぎましょう」
揺れる松明の光を頼りに、二人は進む。狭い通路の中では、時の流れがひどく遅く感じられた。
朝食も取らずに逃走する羽目になった。濡れた荷袋に詰め込まれた食料が心配だ。
……少し、休みたい。
「ニコス。……お腹は、空いていないか?」
「エリオン様、お気遣いなく。私は平気です」
騎士は足を止めない。いや、気遣いではなく、自分が限界なのだが……。
エリオンは己の情けなさに唇を噛んだ。彼女の癒しの力は、他人の傷を治し、一時的に空腹を和らげることさえできる。しかし、その慈悲は自分自身には一切届かないのだ。
女を捨てた。涙も捨てたはずだった。なのに、このあまりに惨めな状況に、早くも涙がこみ上げてきそうになる。
エリオンが必死に目を瞑り、震えを堪えたとき、瞼越しに微かな光を感じた。
「エリオン様、もうすぐです。今しばらくのご辛抱を」
光の元を辿ると、天井に穿たれた穴があった。壁をよじ登り、這い上がった先には、夏の日差しに照らされたアルゴスの草原が眩しく広がっていた。
林の陰で、エリオンは乾いた木の枝を集めた。
ニコスが松明の火を枝の山に移すと、焚き火が勢いよく燃え上がる。
中年の騎士は迷いなく服を脱ぎ、腰布一枚の姿となった。鍛え上げられた無骨な身体が、陽光に晒される。
「まずは服を乾かさねば。エリオン様、夏とはいえ濡れたままでは毒ですぞ」
エリオンはローブのフードを掴み、目をキョロキョロと泳がせた。
この誠実な男なら、自分が女だと打ち明けても尊重してくれるだろう。
しかし。
「ニコス、私は故郷の教会で、奉仕する者はみだりに肌を晒してはならぬと教えられたのだ」
「それは失礼いたしました。では、少々お待ちを」
ニコスは手際よく木々の間に紐を渡し、自らの大きなマントを掛けた。
「かたじけない」
即席の天幕の内側で、エリオンは服を脱ぎ、胸を縛りつけていた細布を解いた。水を絞り、湿ったローブを再び身に纏う。マントで隠されているとはいえ、そしてニコスが信頼できる男とはいえ、無防備な姿でいる時間は少しでも短くしたかった。
「エリオン様、濡れたままでよろしいのですか?」
「……着ている方が、体温で早く乾くだろう。それより、お腹が空いた」
水を含んでふやふやになった乾パンを、口に放り込む。水分を吸って柔らかくなったそれは、驚くほど甘みが強く、喉を通り抜けるたびに彼女の心を少しだけ解き放った。
昼間から焚き火を囲み、ようやく人心地つくと、今度は後悔の念が押し寄せてきた。
ネクロザールに傷ついた人々を救いたい。そんな崇高な信念を掲げて旅に出たというのに、今の自分はどうだ。
「ニコス……すまない。私がアタランテ像を壊したばかりに、追手を呼び寄せ、お前やピュロスの人たちにまで迷惑をかけてしまった」
エリオンは生乾きの膝を抱え、顔を伏せた。
「何をおっしゃいますか! あなた様が真実の姿を明らかにしてくださったからこそ、我らは勇気を得たのです」
男はむき出しの胸をどんと叩いた。
「偽りの王を恐れる必要はないのだと、教えてくださったのはあなた様です」
エリオンの本心としては、ゴンドレシア中の「アタランテ像」を叩き壊したい。今は男の振りをしているが、いつ正体が発覚するかわからない。その時、自分そっくりの聖妃像が教えてくれる。エリオンがアタランテの生まれ変わりだと。
いや、理屈ではない。全世界から、あの「アタランテ」を消滅させたい。
聖妃? アタランテは、男に振り回され、嫉妬に狂った愚かな女だった。そんな存在は、歴史から消し去らねばならない。
「ありがとう、ニコス……。だが、私はまた、訪れる先を災難に巻き込んでしまうだろう。たとえその姿が誤っても、聖妃像の破壊は、天を冒涜する重罪なのだから」
男はしばし首を捻っていたが、はっと赤い目を見開いた。
「では、像を壊すのではなく、布を掛けるというのはいかがでしょうか? 『聖妃様がお寒そうだから』という理屈ならば、破壊の罪には問われまい。我々の真意は隠したまま、偽りの姿を遮ることができます」
エリオンはぽかんと口を開けた。
「ニコス……お前は素晴らしい男だな。強いだけでなく、これほど知恵が回るとは」
男は照れくさそうに、乾いたチュニックに袖を通した。
「ともあれ、アルゴスを離れましょう。ここからなら……北のネールガンドが近い」
「ネールガンドだと?」
エリオンの指先が、ぴくりと跳ねた。
アトレウスの統一戦争において、最後まで彼を苦しめた勇猛なる馬の民の国。最後の王ドゥルナンは、アタランテを魔女と罵倒し息絶えた。ドゥルナンは、戦場で兵の心を操り降伏させた聖妃を、何よりも憎んでいた。
千年も昔のことなのに、背筋を凍るような寒気が走り抜ける。
「ええ、わがアルゴスにとって、ネールガンドは長年の宿敵でした」
ニコスは旅の支度を整えながら、ぽつりぽつりと零す。
「どういうわけか彼らは自分たちこそが聖王の正統な末裔だと主張し、争いが絶えませんでした。私も若い頃、あの国との戦で手柄を立て、レオニダス様のお傍に仕えることになったのです」
かつての戦功を語る彼の胸には、騎士としての誇りがある。
「お前にとって、ネールガンドは今も敵なのか?」
「しかし二十年前、ネクロザール陛下がゴンドレシアを統一し、争いに終止符を打たれました。あの頃は、ようやく平和が来たと、レオニダス様と手を取り合って喜んだものです。素晴らしい王を抱くことができたと」
ニコスは悲し気に眉を寄せると荷物を取った。
「しかし誇り高いネールガンドの領主は、ネクロザールが聖王など認めないと最後まで抵抗し、その一族はことごとく滅ぼされました」
「……なんだと」
「おそらく、今のネールガンドはアルゴス以上に過酷な状況にあるでしょう」
エリオンの胸に、鋭い痛みが走った。
「ニコス! ゴンドレシアすべての苦しみを癒すことはできずとも、隣で苦しんでいる人々がいるのなら、私は力になりたい!」
奉仕生は、生乾きのローブを翻して立ち上がった。
「それでこそ、エリオン様です!」
彼女は、溢れそうになる涙を堪えるように顔を歪めた。
「ニコス……。お前はピュロスで慕われていた。戻れば穏やかに暮らせるはずだ。私についてくれば、またネクロザールの軍勢と戦うことになるぞ」
男は、奪い取ったばかりの槍を力強く握りしめた。
「その時は、このニコスの槍がお守りいたします!」
エリオンは、男の赤い眼をじっと見つめた。
この男がいなければ、ピュロスの人々に受け入れらなかった。ネクロザールの兵士から逃げられず、とっくに力尽きていただろう。
いくら女を捨てたといっても、力が強くなるわけではない。竜の娘の力は万能ではない。
重い荷物を背負い、夜露を凌ぎ、敵の剣を弾き返す力は、今の自分にはないのだ。
「……頼む。私は生涯をかけて、民を救いたい。一人では、無理なのだ」
「はい! なんと光栄な仰せか! 私のすべてを、エリオン様に捧げます!」
二人は一路、北の連峰を目指した。
かつて馬の民と恐れられたネールガンドの人々が、今、苦難にたたされているのだ。
激しい流れの中、エリオンはニコスに抱えられたまま必死に足をばたつかせる。
薄暗い地下水路を潜り抜け、これ以上は息が続かないともがいた刹那、顔が空気に触れた。
足に確かな手応えを感じる。水面は腰ほどの高さで、なんとか自立することができた。
エリオンはニコスに腕を引かれ、地下水路の岸へと辿り着いた。
「エリオン様、しばらくここでお待ちを」
忠実な騎士は闇の中へ消えた。一人残されたエリオンは、ずぶ濡れのローブをぎゅっと絞る。静かに流れる水音が心地よいはずなのに、体温を奪われていく感覚がひどく惨めだった。
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「あ、ここは……」
見回せば、そこはかつてニコスと初めて語り合った、城へ通じる隠し通路だった。
「この道を辿れば外へ出られます。さあ、急ぎましょう」
揺れる松明の光を頼りに、二人は進む。狭い通路の中では、時の流れがひどく遅く感じられた。
朝食も取らずに逃走する羽目になった。濡れた荷袋に詰め込まれた食料が心配だ。
……少し、休みたい。
「ニコス。……お腹は、空いていないか?」
「エリオン様、お気遣いなく。私は平気です」
騎士は足を止めない。いや、気遣いではなく、自分が限界なのだが……。
エリオンは己の情けなさに唇を噛んだ。彼女の癒しの力は、他人の傷を治し、一時的に空腹を和らげることさえできる。しかし、その慈悲は自分自身には一切届かないのだ。
女を捨てた。涙も捨てたはずだった。なのに、このあまりに惨めな状況に、早くも涙がこみ上げてきそうになる。
エリオンが必死に目を瞑り、震えを堪えたとき、瞼越しに微かな光を感じた。
「エリオン様、もうすぐです。今しばらくのご辛抱を」
光の元を辿ると、天井に穿たれた穴があった。壁をよじ登り、這い上がった先には、夏の日差しに照らされたアルゴスの草原が眩しく広がっていた。
林の陰で、エリオンは乾いた木の枝を集めた。
ニコスが松明の火を枝の山に移すと、焚き火が勢いよく燃え上がる。
中年の騎士は迷いなく服を脱ぎ、腰布一枚の姿となった。鍛え上げられた無骨な身体が、陽光に晒される。
「まずは服を乾かさねば。エリオン様、夏とはいえ濡れたままでは毒ですぞ」
エリオンはローブのフードを掴み、目をキョロキョロと泳がせた。
この誠実な男なら、自分が女だと打ち明けても尊重してくれるだろう。
しかし。
「ニコス、私は故郷の教会で、奉仕する者はみだりに肌を晒してはならぬと教えられたのだ」
「それは失礼いたしました。では、少々お待ちを」
ニコスは手際よく木々の間に紐を渡し、自らの大きなマントを掛けた。
「かたじけない」
即席の天幕の内側で、エリオンは服を脱ぎ、胸を縛りつけていた細布を解いた。水を絞り、湿ったローブを再び身に纏う。マントで隠されているとはいえ、そしてニコスが信頼できる男とはいえ、無防備な姿でいる時間は少しでも短くしたかった。
「エリオン様、濡れたままでよろしいのですか?」
「……着ている方が、体温で早く乾くだろう。それより、お腹が空いた」
水を含んでふやふやになった乾パンを、口に放り込む。水分を吸って柔らかくなったそれは、驚くほど甘みが強く、喉を通り抜けるたびに彼女の心を少しだけ解き放った。
昼間から焚き火を囲み、ようやく人心地つくと、今度は後悔の念が押し寄せてきた。
ネクロザールに傷ついた人々を救いたい。そんな崇高な信念を掲げて旅に出たというのに、今の自分はどうだ。
「ニコス……すまない。私がアタランテ像を壊したばかりに、追手を呼び寄せ、お前やピュロスの人たちにまで迷惑をかけてしまった」
エリオンは生乾きの膝を抱え、顔を伏せた。
「何をおっしゃいますか! あなた様が真実の姿を明らかにしてくださったからこそ、我らは勇気を得たのです」
男はむき出しの胸をどんと叩いた。
「偽りの王を恐れる必要はないのだと、教えてくださったのはあなた様です」
エリオンの本心としては、ゴンドレシア中の「アタランテ像」を叩き壊したい。今は男の振りをしているが、いつ正体が発覚するかわからない。その時、自分そっくりの聖妃像が教えてくれる。エリオンがアタランテの生まれ変わりだと。
いや、理屈ではない。全世界から、あの「アタランテ」を消滅させたい。
聖妃? アタランテは、男に振り回され、嫉妬に狂った愚かな女だった。そんな存在は、歴史から消し去らねばならない。
「ありがとう、ニコス……。だが、私はまた、訪れる先を災難に巻き込んでしまうだろう。たとえその姿が誤っても、聖妃像の破壊は、天を冒涜する重罪なのだから」
男はしばし首を捻っていたが、はっと赤い目を見開いた。
「では、像を壊すのではなく、布を掛けるというのはいかがでしょうか? 『聖妃様がお寒そうだから』という理屈ならば、破壊の罪には問われまい。我々の真意は隠したまま、偽りの姿を遮ることができます」
エリオンはぽかんと口を開けた。
「ニコス……お前は素晴らしい男だな。強いだけでなく、これほど知恵が回るとは」
男は照れくさそうに、乾いたチュニックに袖を通した。
「ともあれ、アルゴスを離れましょう。ここからなら……北のネールガンドが近い」
「ネールガンドだと?」
エリオンの指先が、ぴくりと跳ねた。
アトレウスの統一戦争において、最後まで彼を苦しめた勇猛なる馬の民の国。最後の王ドゥルナンは、アタランテを魔女と罵倒し息絶えた。ドゥルナンは、戦場で兵の心を操り降伏させた聖妃を、何よりも憎んでいた。
千年も昔のことなのに、背筋を凍るような寒気が走り抜ける。
「ええ、わがアルゴスにとって、ネールガンドは長年の宿敵でした」
ニコスは旅の支度を整えながら、ぽつりぽつりと零す。
「どういうわけか彼らは自分たちこそが聖王の正統な末裔だと主張し、争いが絶えませんでした。私も若い頃、あの国との戦で手柄を立て、レオニダス様のお傍に仕えることになったのです」
かつての戦功を語る彼の胸には、騎士としての誇りがある。
「お前にとって、ネールガンドは今も敵なのか?」
「しかし二十年前、ネクロザール陛下がゴンドレシアを統一し、争いに終止符を打たれました。あの頃は、ようやく平和が来たと、レオニダス様と手を取り合って喜んだものです。素晴らしい王を抱くことができたと」
ニコスは悲し気に眉を寄せると荷物を取った。
「しかし誇り高いネールガンドの領主は、ネクロザールが聖王など認めないと最後まで抵抗し、その一族はことごとく滅ぼされました」
「……なんだと」
「おそらく、今のネールガンドはアルゴス以上に過酷な状況にあるでしょう」
エリオンの胸に、鋭い痛みが走った。
「ニコス! ゴンドレシアすべての苦しみを癒すことはできずとも、隣で苦しんでいる人々がいるのなら、私は力になりたい!」
奉仕生は、生乾きのローブを翻して立ち上がった。
「それでこそ、エリオン様です!」
彼女は、溢れそうになる涙を堪えるように顔を歪めた。
「ニコス……。お前はピュロスで慕われていた。戻れば穏やかに暮らせるはずだ。私についてくれば、またネクロザールの軍勢と戦うことになるぞ」
男は、奪い取ったばかりの槍を力強く握りしめた。
「その時は、このニコスの槍がお守りいたします!」
エリオンは、男の赤い眼をじっと見つめた。
この男がいなければ、ピュロスの人々に受け入れらなかった。ネクロザールの兵士から逃げられず、とっくに力尽きていただろう。
いくら女を捨てたといっても、力が強くなるわけではない。竜の娘の力は万能ではない。
重い荷物を背負い、夜露を凌ぎ、敵の剣を弾き返す力は、今の自分にはないのだ。
「……頼む。私は生涯をかけて、民を救いたい。一人では、無理なのだ」
「はい! なんと光栄な仰せか! 私のすべてを、エリオン様に捧げます!」
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