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4 古代ギリシャで謎といったらスフィンクス!
(13)父と息子
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──親父が欲しいのは、俺の命──
息子の命を欲しがる天才数学者?
一同は、信じがたい旅人の言葉で、顔面蒼白となった。
と、大国の王子ヘクトルが、力いっぱい叫ぶ。
「父が息子の命を欲しがる? ありえぬ! 俺が旅するのは息子のためだ! あいつが継ぐトロイアを平和で豊かな国にするためだ! あいつのためなら、俺はいつでも死ねる!」
息子のためならいつでも死ねる──王子の言葉にナウシカは顔を曇らせた。パリスは顔を曇らせる王女をじっと見つめつつ、田舎の暮らしを振り返る。
(そうだ。父さん母さんが言ってた。子供のいない父さんと母さんが、森の中に捨てられた僕を見つけて拾ったって……ヘクトルが本当に兄さんなら……)
ここで唐突にパリスが捨て子だと明かされるが、話を先に進めよう。
ヘクトルは両刃の剣を高く掲げた。
「旅の人。そなたが父に何をしたかは問わないが、あれはもう父ではない。忘れるのだ」
男は寂しげに首を振った。
「俺が何をした? ただ生きてただけさ……でも親父の生涯を完璧にするには、俺は今日、42歳で死ななきゃいけないのさ」
中年男は、口ずさむ。
寂しげな声が、スフィンクスの住む山に響いた。
ディオファントスは一生のうち
6分の1を少年として過ごし
その後、12分の1はあごひげを生やしていた
さらに7分の1を経て結婚式を挙げ
5年後に子どもをもうけた
しかし息子は、父の一生の半分しか生きずに世を去った
子を失って4年後にディオファントスも亡くなった
ヘクトルとナウシカは、またかよ、よくわからん、と言わんばかりに首を捻る。
スフィンクスは、足からくる激痛に美しい顔を歪ませている。
パリスだけはうんうんと頷き、パッと顔を上げた。
「おじさん、これはなぞなぞだね。この謎を解くと、おじさんは42歳で死ぬことになるんだ」
「さすがはパリスさん。察しがいいな。で、俺は明日、43歳になるってことよ」
「でもこれはただのなぞなぞだよ。おじさんが死ぬことはないって」
旅の男は悲し気に首を振る。スフィンクスは、激痛に喘ぎながら吠えた。
「息子よ! お前が今日、死んでくれなければ、わしの墓に刻む言葉が、あの完璧な墓碑銘が変わってしまう!」
三人パーティーの誰もが、スフィンクス、いやスフィンクスを乗っ取った天才数学者の理不尽な要求に怒りを覚えた。
ヘクトルがまなじりをつりあげ、スフィンクスに斬りかかった。
「怪物め! お前こそ、墓に行くがよい!」
剣を振りかざすヘクトルをパリスとナウシカが抑え込むが、彼の怒りは収まらない。
「離せ! 息子を殺そうとする父など、父ではない! 俺が成敗してやる!」
「兄さん! 待ってよ! スフィンクスさんが死んじゃう!」
「ヘクトル! 息子かわいさのあまり、あいつを憎むのはわかるよ。が、悪いのはスフィンクスを乗っ取った奴だ」
そのとき。
晴れた青空が突然、群雲に隠され、輝く大地が影に覆われた。
雷鳴が鳴り響き、稲光が目を刺す。
かつてエジプトのファラオを守護していたスフィンクスが、雄たけびを上げた。
「子を殺そうとする汚らわしい魂よ、我から消え失せろ!!」
「おいおい、お前が謎をくれ、と、言ったんじゃろうが」
怪物の口から、美女の声と老人の声が交互に繰り返される。
「子殺しの魔物の力など借りとうない! それぐらいなら、我はこの地で子供らにバカにされる方を選ぶ!」
怪物は天に向かって叫び、翼を何度も羽ばたかせた。
「うわあああ、やめるんじゃあ、わしの、わしの生涯が……」
そのとき。
スフィンクスの上に白い霧の塊が集まる。霧は老人の顔を形作った。
「親父!」
中年男が霧に叫ぶ。
「親父はアレキサンドリアへ還れ! 俺はこの夢の国に残る。そしたら、俺は、そっちで死んだことになるだろ?」
パリスが叫んだ。
「おじさん! そんなのひどいよ!」
「ありがとな、パリスさん。でもいーんだよ。俺は役立たずだったし、親父みたいに数学は全然できないからな」
「……すまん、息子よ……お前は、本当にいい子じゃ」
三人パーティーは、親子をただ見守った。
天才数学者の影を、息子は睨みつけた。
「親父、これだけは絶対、約束しろ……84歳まで生きろ。84歳になるまで絶対に死ぬな」
「もちろんじゃ」
白い影が頷いた。
「いいか……85歳になる前に、死ぬんだぞ、絶対だ。一日も余計に長生きするんじゃねーぞ」
「……わかった。わしを見損なうな」
ディオファントスの息子は、悲し気に微笑み、天に向かって両手を上げた。
「クロノス様! お願いです。親父の魂を、俺たちのいたアレキサンドリアに戻してください」
老人はニヤッと笑う。その影は空気に溶けてなくなった。
雷鳴はおさまり、重く垂れこめた雲は消え去る。
テーバイの空は、青い輝きを取り戻した。
息子の命を欲しがる天才数学者?
一同は、信じがたい旅人の言葉で、顔面蒼白となった。
と、大国の王子ヘクトルが、力いっぱい叫ぶ。
「父が息子の命を欲しがる? ありえぬ! 俺が旅するのは息子のためだ! あいつが継ぐトロイアを平和で豊かな国にするためだ! あいつのためなら、俺はいつでも死ねる!」
息子のためならいつでも死ねる──王子の言葉にナウシカは顔を曇らせた。パリスは顔を曇らせる王女をじっと見つめつつ、田舎の暮らしを振り返る。
(そうだ。父さん母さんが言ってた。子供のいない父さんと母さんが、森の中に捨てられた僕を見つけて拾ったって……ヘクトルが本当に兄さんなら……)
ここで唐突にパリスが捨て子だと明かされるが、話を先に進めよう。
ヘクトルは両刃の剣を高く掲げた。
「旅の人。そなたが父に何をしたかは問わないが、あれはもう父ではない。忘れるのだ」
男は寂しげに首を振った。
「俺が何をした? ただ生きてただけさ……でも親父の生涯を完璧にするには、俺は今日、42歳で死ななきゃいけないのさ」
中年男は、口ずさむ。
寂しげな声が、スフィンクスの住む山に響いた。
ディオファントスは一生のうち
6分の1を少年として過ごし
その後、12分の1はあごひげを生やしていた
さらに7分の1を経て結婚式を挙げ
5年後に子どもをもうけた
しかし息子は、父の一生の半分しか生きずに世を去った
子を失って4年後にディオファントスも亡くなった
ヘクトルとナウシカは、またかよ、よくわからん、と言わんばかりに首を捻る。
スフィンクスは、足からくる激痛に美しい顔を歪ませている。
パリスだけはうんうんと頷き、パッと顔を上げた。
「おじさん、これはなぞなぞだね。この謎を解くと、おじさんは42歳で死ぬことになるんだ」
「さすがはパリスさん。察しがいいな。で、俺は明日、43歳になるってことよ」
「でもこれはただのなぞなぞだよ。おじさんが死ぬことはないって」
旅の男は悲し気に首を振る。スフィンクスは、激痛に喘ぎながら吠えた。
「息子よ! お前が今日、死んでくれなければ、わしの墓に刻む言葉が、あの完璧な墓碑銘が変わってしまう!」
三人パーティーの誰もが、スフィンクス、いやスフィンクスを乗っ取った天才数学者の理不尽な要求に怒りを覚えた。
ヘクトルがまなじりをつりあげ、スフィンクスに斬りかかった。
「怪物め! お前こそ、墓に行くがよい!」
剣を振りかざすヘクトルをパリスとナウシカが抑え込むが、彼の怒りは収まらない。
「離せ! 息子を殺そうとする父など、父ではない! 俺が成敗してやる!」
「兄さん! 待ってよ! スフィンクスさんが死んじゃう!」
「ヘクトル! 息子かわいさのあまり、あいつを憎むのはわかるよ。が、悪いのはスフィンクスを乗っ取った奴だ」
そのとき。
晴れた青空が突然、群雲に隠され、輝く大地が影に覆われた。
雷鳴が鳴り響き、稲光が目を刺す。
かつてエジプトのファラオを守護していたスフィンクスが、雄たけびを上げた。
「子を殺そうとする汚らわしい魂よ、我から消え失せろ!!」
「おいおい、お前が謎をくれ、と、言ったんじゃろうが」
怪物の口から、美女の声と老人の声が交互に繰り返される。
「子殺しの魔物の力など借りとうない! それぐらいなら、我はこの地で子供らにバカにされる方を選ぶ!」
怪物は天に向かって叫び、翼を何度も羽ばたかせた。
「うわあああ、やめるんじゃあ、わしの、わしの生涯が……」
そのとき。
スフィンクスの上に白い霧の塊が集まる。霧は老人の顔を形作った。
「親父!」
中年男が霧に叫ぶ。
「親父はアレキサンドリアへ還れ! 俺はこの夢の国に残る。そしたら、俺は、そっちで死んだことになるだろ?」
パリスが叫んだ。
「おじさん! そんなのひどいよ!」
「ありがとな、パリスさん。でもいーんだよ。俺は役立たずだったし、親父みたいに数学は全然できないからな」
「……すまん、息子よ……お前は、本当にいい子じゃ」
三人パーティーは、親子をただ見守った。
天才数学者の影を、息子は睨みつけた。
「親父、これだけは絶対、約束しろ……84歳まで生きろ。84歳になるまで絶対に死ぬな」
「もちろんじゃ」
白い影が頷いた。
「いいか……85歳になる前に、死ぬんだぞ、絶対だ。一日も余計に長生きするんじゃねーぞ」
「……わかった。わしを見損なうな」
ディオファントスの息子は、悲し気に微笑み、天に向かって両手を上げた。
「クロノス様! お願いです。親父の魂を、俺たちのいたアレキサンドリアに戻してください」
老人はニヤッと笑う。その影は空気に溶けてなくなった。
雷鳴はおさまり、重く垂れこめた雲は消え去る。
テーバイの空は、青い輝きを取り戻した。
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