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5 定番ですが、主人公は王子様
(16)かわいくて優しい『友達』が欲しい
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パリスは、ヘクトルの妻アンドロマケを訪ねた。彼女の侍女オイノネと親密な関係を築くため。
しかし、パリスの障害となる男がそこにいた。
「ヘクトル……なんで?」
「俺が自分の家にいたら、おかしいか?」
大男は膝の幼子に「お前の叔父上だぞ」と笑いかけた。
パリスは、子供に吸い寄せられるように近づく。小さな頭をそっとなでた。
「赤ちゃんじゃないんだね」
ヘクトルから何度も見せられたカメオには、赤子の顔が彫られていた。
「旅から戻るたびに、重くなるんだ」と、ヘクトルは顔を崩している。
パリスは、ここまでだらしなく笑った旅の仲間を、初めて見た。
偉そうなヘクトルは嫌いだが、こういうヘクトルは嫌いじゃない。
となりのアンドロマケが、笑いながら立ち上がった。
「パリス様……いえ、アレクサンドロス様でしたね」
「あ、パリスの方がいいかな」
「ではパリス様。おけがされていますね。痛くありませんか?」
「あ、ちょっと痛いけど、大丈夫です」
アンドロマケに促され、パリスは椅子に座る。
「僕、昨日、アンドロマケさんと女の子たちのお陰で楽しかったんで、お礼に笛を吹きに来たんです」
「侍女たちから、パリス様の笛は素晴らしいと聞いております。楽しみだわ」
「そ、それで……女の子たちはどうしてるかな? できればみんなに聴いてほしいな」
「ごめんなさいね。洗濯ものを取りに出払っているの」
「そうか……どうしようかな……」
パリスはヘクトルの元にしゃがみ込み、膝の上の子供に話しかけた。
「アステュアナクス君だっけ? よく聴いてね」
成りたての王子は、初めて会う甥に笛を聴かせた。昨晩は女子受けする切ないメロディを奏でたが、今回は子供受けするリズミカルで明るい曲を吹く。
子供は父の膝から降りて、パリスの笛の音に合わせて手を叩き、踊りだす。
吹き終わると、子供は「もっともっと」とせがんだ。
七回ほど繰り返し飽きてきたパリスは、子供をひょいっと抱き上げた。
「きゃははは~、イカロスだあ~」
アステュアナクスは、手を伸ばしパタパタと振り回す。
「うわ、暴れないで……い、いたた」
先ほどモブの兵士に虐められ、パリスの全身は痛みから回復していない。
ヘクトルが子供を抱き上げ「良かったな。叔父上に遊んでもらって」と頭をなでた。
「アレクサンドロス、お前は、いい父親になりそうだな」
「パリス様、ありがとうございます。この子本当に楽しそうで……あら、もうお休み?」
アンドロマケは、夫の膝の上で眠りこけた我が子を抱いて、奥の部屋に消える。
パリスは、苦手な男と二人きりになってしまった。
「アレクサンドロス。アンドロマケは満足したようだ。まだなにかあるのか?」
「いや、アンドロマケさんに話があって……」
「話なら俺が聞こう。大体、俺の妻になんの用だ?」
ヘクトルに睨まれ、パリスは身を竦める。こいつには言いにくいし言いたくないが、この砦を突破しないと、目的は達成できない。
「あ、あのさあ……昨日、アンドロマケさんの女の子たちとお話して……えーと、そう友達になりたいんだ! 大きな城で友達がいないのは寂しいんだ」
「お前の言う『友達』が特殊なのはわかっているよ。よく、その辺で知り合った女と『友達』になって、一晩どこかへ消えていったよな」
兄に下心を見透かされたパリスは、硬直した。
「確認するが『友達』はひとりでいいのか?」
パリスは大きく頷いた。
ヘクトルの様子だと、オイノネと『友達』になることを許してくれそうだ。が、さすがに『二人以上』と答えたら、この堅物は許可しないだろう。二人の方がより楽しめるが、贅沢は言ってられない。
「早い方がいいな。三日待てるか?」
「もちろん!」
できれば今晩から仲良くしたいが、うるさいヘクトルが認めてくれたのだ。三日ぐらい我慢できる。
「もうひとつ確認だ。相手は、オイノネでいいんだな?」
「うん……あれ、なんで知ってるの?」
「オイノネに、友達以上のこと、しただろ?」
「あ、あれは……だれから聞いたの?」
「だれからなど、どうでもいい。お前があやしい行動をしたら、俺の耳に届く……今回もな」
「今回?」
「俺は兵士たちを鍛えていたのに、ロクでもない知らせのせいで、急いで帰ってきたんだぞ」
では、老女が親切に王宮を案内してくれたのは……ヘクトルが戻るまでの時間稼ぎだったのか!
「そうだよ! 僕は、オイノネと仲良くしたいんだよ!」
監視されていたことは気持ち悪いが、パリスは開き直るしかない。
ほどなくアンドロマケが戻り、椅子に腰かけた。
「オイノネのことを、そこまで想ってくださるのね」
パリスは照れくさそうに頭を掻いた。女主人が歓迎してくれるなら、問題なさそうだ。
「アステュアナクスは、眠ったか?」
「ええ。叔父様にたくさん遊んでもらって疲れたみたい」
「まったく、コイツのせいで仕事が進まない」
頭を抱えたヘクトルの肩に、アンドロマケが手を添えた。
「私は嬉しかったわ。パリス様のお陰で、あなたが早く帰ってきてくださったもの」
妻の甘ったるい言葉を耳にし、夫は顔を上げる。
「アンドロマケ……そういうことを言ってはいけない」
「ごめんなさい。嫁ぐ前から、あなたの宿命は覚悟していたけれど……すこしでも傍にいてほしくて……」
パリスは、これ……出ていった方がいいパターンかな? と腰を浮かせる。
「だ・か・ら、そうやって喜ばせるな! 俺がおかしくなるだろ!」
ヘクトルは、アンドロマケの顔を引き寄せ口づけた。
「あ……ダメです、ヘクトル様……パリス様がいらっしゃるのに……」
妻は夫を押しとどめようとするが、夫は妻をきつく抱きしめる。
人目もはばからずベタつく夫婦に、パリスはドン引きした。
パリスは旅の間のヘクトルを思い出す。
彼が女性に触れるのは、転んだ人を立ち上がらせるなど、必要に迫られた時だけだった。
パリスは散々この男に背中をビシバシ叩かれたが、同じ旅仲間、ナウシカにはそんなことはしない。ヘクトルと彼女は肩を組んだこともない。たとえマッチョでも女子は女子。ヘクトルはナウシカを、彼なりに女性として尊重してきたのだろう。
パリスは、ヘクトルから美人妻の自慢は聞かされていた。二人きりになったらイチャイチャするんだろうと思っていた。
が、人前でもマジキスするタイプとは思っていなかった。
「えーと、じゃあ僕はこれで……」
これ以上この部屋にいると、こいつらレーティングを逸脱しそうだ。パリスはそろそろと立ち上がり、後ずさりする。
ヘクトルは、アンドロマケを胸に抱いたまま、去ろうとするパリスに声を掛けた。
「お前の結婚が決まって、ほっとしたよ」
しかし、パリスの障害となる男がそこにいた。
「ヘクトル……なんで?」
「俺が自分の家にいたら、おかしいか?」
大男は膝の幼子に「お前の叔父上だぞ」と笑いかけた。
パリスは、子供に吸い寄せられるように近づく。小さな頭をそっとなでた。
「赤ちゃんじゃないんだね」
ヘクトルから何度も見せられたカメオには、赤子の顔が彫られていた。
「旅から戻るたびに、重くなるんだ」と、ヘクトルは顔を崩している。
パリスは、ここまでだらしなく笑った旅の仲間を、初めて見た。
偉そうなヘクトルは嫌いだが、こういうヘクトルは嫌いじゃない。
となりのアンドロマケが、笑いながら立ち上がった。
「パリス様……いえ、アレクサンドロス様でしたね」
「あ、パリスの方がいいかな」
「ではパリス様。おけがされていますね。痛くありませんか?」
「あ、ちょっと痛いけど、大丈夫です」
アンドロマケに促され、パリスは椅子に座る。
「僕、昨日、アンドロマケさんと女の子たちのお陰で楽しかったんで、お礼に笛を吹きに来たんです」
「侍女たちから、パリス様の笛は素晴らしいと聞いております。楽しみだわ」
「そ、それで……女の子たちはどうしてるかな? できればみんなに聴いてほしいな」
「ごめんなさいね。洗濯ものを取りに出払っているの」
「そうか……どうしようかな……」
パリスはヘクトルの元にしゃがみ込み、膝の上の子供に話しかけた。
「アステュアナクス君だっけ? よく聴いてね」
成りたての王子は、初めて会う甥に笛を聴かせた。昨晩は女子受けする切ないメロディを奏でたが、今回は子供受けするリズミカルで明るい曲を吹く。
子供は父の膝から降りて、パリスの笛の音に合わせて手を叩き、踊りだす。
吹き終わると、子供は「もっともっと」とせがんだ。
七回ほど繰り返し飽きてきたパリスは、子供をひょいっと抱き上げた。
「きゃははは~、イカロスだあ~」
アステュアナクスは、手を伸ばしパタパタと振り回す。
「うわ、暴れないで……い、いたた」
先ほどモブの兵士に虐められ、パリスの全身は痛みから回復していない。
ヘクトルが子供を抱き上げ「良かったな。叔父上に遊んでもらって」と頭をなでた。
「アレクサンドロス、お前は、いい父親になりそうだな」
「パリス様、ありがとうございます。この子本当に楽しそうで……あら、もうお休み?」
アンドロマケは、夫の膝の上で眠りこけた我が子を抱いて、奥の部屋に消える。
パリスは、苦手な男と二人きりになってしまった。
「アレクサンドロス。アンドロマケは満足したようだ。まだなにかあるのか?」
「いや、アンドロマケさんに話があって……」
「話なら俺が聞こう。大体、俺の妻になんの用だ?」
ヘクトルに睨まれ、パリスは身を竦める。こいつには言いにくいし言いたくないが、この砦を突破しないと、目的は達成できない。
「あ、あのさあ……昨日、アンドロマケさんの女の子たちとお話して……えーと、そう友達になりたいんだ! 大きな城で友達がいないのは寂しいんだ」
「お前の言う『友達』が特殊なのはわかっているよ。よく、その辺で知り合った女と『友達』になって、一晩どこかへ消えていったよな」
兄に下心を見透かされたパリスは、硬直した。
「確認するが『友達』はひとりでいいのか?」
パリスは大きく頷いた。
ヘクトルの様子だと、オイノネと『友達』になることを許してくれそうだ。が、さすがに『二人以上』と答えたら、この堅物は許可しないだろう。二人の方がより楽しめるが、贅沢は言ってられない。
「早い方がいいな。三日待てるか?」
「もちろん!」
できれば今晩から仲良くしたいが、うるさいヘクトルが認めてくれたのだ。三日ぐらい我慢できる。
「もうひとつ確認だ。相手は、オイノネでいいんだな?」
「うん……あれ、なんで知ってるの?」
「オイノネに、友達以上のこと、しただろ?」
「あ、あれは……だれから聞いたの?」
「だれからなど、どうでもいい。お前があやしい行動をしたら、俺の耳に届く……今回もな」
「今回?」
「俺は兵士たちを鍛えていたのに、ロクでもない知らせのせいで、急いで帰ってきたんだぞ」
では、老女が親切に王宮を案内してくれたのは……ヘクトルが戻るまでの時間稼ぎだったのか!
「そうだよ! 僕は、オイノネと仲良くしたいんだよ!」
監視されていたことは気持ち悪いが、パリスは開き直るしかない。
ほどなくアンドロマケが戻り、椅子に腰かけた。
「オイノネのことを、そこまで想ってくださるのね」
パリスは照れくさそうに頭を掻いた。女主人が歓迎してくれるなら、問題なさそうだ。
「アステュアナクスは、眠ったか?」
「ええ。叔父様にたくさん遊んでもらって疲れたみたい」
「まったく、コイツのせいで仕事が進まない」
頭を抱えたヘクトルの肩に、アンドロマケが手を添えた。
「私は嬉しかったわ。パリス様のお陰で、あなたが早く帰ってきてくださったもの」
妻の甘ったるい言葉を耳にし、夫は顔を上げる。
「アンドロマケ……そういうことを言ってはいけない」
「ごめんなさい。嫁ぐ前から、あなたの宿命は覚悟していたけれど……すこしでも傍にいてほしくて……」
パリスは、これ……出ていった方がいいパターンかな? と腰を浮かせる。
「だ・か・ら、そうやって喜ばせるな! 俺がおかしくなるだろ!」
ヘクトルは、アンドロマケの顔を引き寄せ口づけた。
「あ……ダメです、ヘクトル様……パリス様がいらっしゃるのに……」
妻は夫を押しとどめようとするが、夫は妻をきつく抱きしめる。
人目もはばからずベタつく夫婦に、パリスはドン引きした。
パリスは旅の間のヘクトルを思い出す。
彼が女性に触れるのは、転んだ人を立ち上がらせるなど、必要に迫られた時だけだった。
パリスは散々この男に背中をビシバシ叩かれたが、同じ旅仲間、ナウシカにはそんなことはしない。ヘクトルと彼女は肩を組んだこともない。たとえマッチョでも女子は女子。ヘクトルはナウシカを、彼なりに女性として尊重してきたのだろう。
パリスは、ヘクトルから美人妻の自慢は聞かされていた。二人きりになったらイチャイチャするんだろうと思っていた。
が、人前でもマジキスするタイプとは思っていなかった。
「えーと、じゃあ僕はこれで……」
これ以上この部屋にいると、こいつらレーティングを逸脱しそうだ。パリスはそろそろと立ち上がり、後ずさりする。
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