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6 主人公は、あっさりワナにはまる
(35)主人公、二十話ぶりにちょっとだけ登場
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輝ける神アポロンは、ギリシャの上空で呟いた。
「そうだともパリス、私はお前のために病を流行らせたのだぞ。どこにいるのだ?」
太陽の神は、天の高みより若者を探し求める。
パリスは、森の獣道を慎重に進んでいた。
ほとんど忘れられていた主人公が、ようやく登場した。
「パリス! 二度とトロイアを滅亡させてはならない! あの時の過ちを繰り返してはならぬ!」
病をもたらす神アポロンは、輝く眼を閉ざし、「あの時」を思い浮かべた。
あの時。
ヘクトルが生まれて間もなく、アカイア最強の戦士アキレウスの働きで、トロイアはあっけなく滅亡する。
赤子のヘクトルは助け出され、トロイアの生き残りと共に、アカイアの辺境に逃れた。
「アフロディテに言われるまでもなく、私はもう、自身を崇めてくれた民が滅ぶ絶望を知っている」
神の閉ざされた瞼が震える。
「私は絶望のあまり、無駄な抵抗と知りながら、アカイアの各地に病の矢を放った」
パリスの故郷もアポロンの病の矢から逃れることはできなかった。
病の謎を明かすためアカイア人パリスは旅に出た。
「ヘクトルは成長し家族を持った。あのヘクトルにトロイア再興の意思はなかったが、私は待った」
しかし彼の幸せは束の間のこと、アカイア人の手先にヘクトルの妻子は殺されてしまう。
「皮肉にもあの不幸がきっかけで、ヘクトルは立ち上がった」
やがてヘクトルとアカイア人パリスは出会い、意気投合した。
「あのパリスはアカイア人とはいえ、ヘクトルと固い絆で結ばれていた。が、アキレウスめ!」
ほどなくヘクトルは、無敵の刺客アキレウスに殺された。パリスはアキレウスを倒し、ヘクトルの復活を神に祈る。
「あの時、私は無力な己を呪った! しかし……私ではない神が、パリス、そして私自身の望みをかなえたのだ」
時は、トロイア滅亡前、ヘクトル誕生の直後に戻った。
「我が望みを叶えたのは、時の神クロノスといったな。まさか、時を操る神が現れるとはな」
以前の世界ではアキレウスがトロイアを滅ぼしたが、新たな世界ではアキレウスの誕生が遅れたため滅亡を免れた。
「アキレウスの誕生がずれたのも、時の神の働きなのか? ともあれ私は、この機会を生かすべく動いた」
ヘクトルは順調に育ち、王妃ヘカベがまた身ごもった。
アポロンは、その子がパリスだと確信した。ヘクトルを失ったパリスの魂は、今度こそヘクトルを守るため、彼の弟として生まれることを望んだのだろうか。
そこでアポロンは、プリアモスとヘカベに不吉な夢を見せた。それだけでは飽き足らず、夢占い師に乗り移りパリスを捨てるよう助言した。
「パリス、私はあえてお前をトロイアの外に行かせた。お前がアカイアの普通の民『パリス』として生きられるように。その生き方は、やがてトロイアを守る力となるはずだ」
当のパリスは森を抜け、踏み固められた道を黙々と歩いている。
「お前の成人を待って、前と同じように村の若者に病を流行らせた。お前を旅立たせるために」
神が天から見つめる青年は、脚を止めた。道端で泣きじゃくる幼子に声をかけている。
「そしてお前は再びヘクトルに出会った。そこまでは私の力だったが……」
太陽神は唇を噛み締める。
「1500年後から来たあの男、私のカッサンドラに近づく許しがたい奴だが……呼び出したのはやはりクロノス……あれは何者だ?」
アポロンは、首を傾けた。
「クロノス……ゼウスの父神もクロノスという名だったな」
北にそびえるオリュンポスの白い雪がまぶしい。
「ゼウスは、この地を支配する前に、父であるクロノスを奈落の底に閉じ込めたらしい。まさかクロノスは奈落の底から出てきたのか?」
しばし神は考え込むが、かっと目を見開く
「いや、ゼウスの父であるクロノスは、時の神ではなかった。似た名前を持つ別の神だろう。どうであれ私は、オリュンポスの者どもと戦うのみ……しかし……」
ギリシャの大地を、太陽がギラギラと照り付ける。
「私の力はヘリオスに勝る。アカイアの太陽とてその気になれば操れよう」
アポロンは、イデ山にポセイドンが押しかけ、オリュンポスに誘ってきたことを思い出した。
「が、太陽を操る力はあるのに、民に私の神意は伝わらない!」
トロイアの守護神は、頭を抱える。
「これも全てゼウスの技だ! 顕現の力がゼウスに吸い取られていく。かつては占い師の身を借りて、我が意を告げることもできたのに」
アポロンは自らを抱きしめた。
「私に力がないから、愛しいカッサンドラに会うためには、魂を神界に呼び出すしかない。今の私は、人の姿を借りることもできない。なんと嘆かわしいことか!」
天空で嘆くアポロンの下、トロイア生まれの若者は、泣きじゃくる子供の手を引いている。
「パリス、頼むぞ! お前の力が今こそ必要なのだ」
輝ける神は、トロイアに向かって空を駆け抜けていった。
「そうだともパリス、私はお前のために病を流行らせたのだぞ。どこにいるのだ?」
太陽の神は、天の高みより若者を探し求める。
パリスは、森の獣道を慎重に進んでいた。
ほとんど忘れられていた主人公が、ようやく登場した。
「パリス! 二度とトロイアを滅亡させてはならない! あの時の過ちを繰り返してはならぬ!」
病をもたらす神アポロンは、輝く眼を閉ざし、「あの時」を思い浮かべた。
あの時。
ヘクトルが生まれて間もなく、アカイア最強の戦士アキレウスの働きで、トロイアはあっけなく滅亡する。
赤子のヘクトルは助け出され、トロイアの生き残りと共に、アカイアの辺境に逃れた。
「アフロディテに言われるまでもなく、私はもう、自身を崇めてくれた民が滅ぶ絶望を知っている」
神の閉ざされた瞼が震える。
「私は絶望のあまり、無駄な抵抗と知りながら、アカイアの各地に病の矢を放った」
パリスの故郷もアポロンの病の矢から逃れることはできなかった。
病の謎を明かすためアカイア人パリスは旅に出た。
「ヘクトルは成長し家族を持った。あのヘクトルにトロイア再興の意思はなかったが、私は待った」
しかし彼の幸せは束の間のこと、アカイア人の手先にヘクトルの妻子は殺されてしまう。
「皮肉にもあの不幸がきっかけで、ヘクトルは立ち上がった」
やがてヘクトルとアカイア人パリスは出会い、意気投合した。
「あのパリスはアカイア人とはいえ、ヘクトルと固い絆で結ばれていた。が、アキレウスめ!」
ほどなくヘクトルは、無敵の刺客アキレウスに殺された。パリスはアキレウスを倒し、ヘクトルの復活を神に祈る。
「あの時、私は無力な己を呪った! しかし……私ではない神が、パリス、そして私自身の望みをかなえたのだ」
時は、トロイア滅亡前、ヘクトル誕生の直後に戻った。
「我が望みを叶えたのは、時の神クロノスといったな。まさか、時を操る神が現れるとはな」
以前の世界ではアキレウスがトロイアを滅ぼしたが、新たな世界ではアキレウスの誕生が遅れたため滅亡を免れた。
「アキレウスの誕生がずれたのも、時の神の働きなのか? ともあれ私は、この機会を生かすべく動いた」
ヘクトルは順調に育ち、王妃ヘカベがまた身ごもった。
アポロンは、その子がパリスだと確信した。ヘクトルを失ったパリスの魂は、今度こそヘクトルを守るため、彼の弟として生まれることを望んだのだろうか。
そこでアポロンは、プリアモスとヘカベに不吉な夢を見せた。それだけでは飽き足らず、夢占い師に乗り移りパリスを捨てるよう助言した。
「パリス、私はあえてお前をトロイアの外に行かせた。お前がアカイアの普通の民『パリス』として生きられるように。その生き方は、やがてトロイアを守る力となるはずだ」
当のパリスは森を抜け、踏み固められた道を黙々と歩いている。
「お前の成人を待って、前と同じように村の若者に病を流行らせた。お前を旅立たせるために」
神が天から見つめる青年は、脚を止めた。道端で泣きじゃくる幼子に声をかけている。
「そしてお前は再びヘクトルに出会った。そこまでは私の力だったが……」
太陽神は唇を噛み締める。
「1500年後から来たあの男、私のカッサンドラに近づく許しがたい奴だが……呼び出したのはやはりクロノス……あれは何者だ?」
アポロンは、首を傾けた。
「クロノス……ゼウスの父神もクロノスという名だったな」
北にそびえるオリュンポスの白い雪がまぶしい。
「ゼウスは、この地を支配する前に、父であるクロノスを奈落の底に閉じ込めたらしい。まさかクロノスは奈落の底から出てきたのか?」
しばし神は考え込むが、かっと目を見開く
「いや、ゼウスの父であるクロノスは、時の神ではなかった。似た名前を持つ別の神だろう。どうであれ私は、オリュンポスの者どもと戦うのみ……しかし……」
ギリシャの大地を、太陽がギラギラと照り付ける。
「私の力はヘリオスに勝る。アカイアの太陽とてその気になれば操れよう」
アポロンは、イデ山にポセイドンが押しかけ、オリュンポスに誘ってきたことを思い出した。
「が、太陽を操る力はあるのに、民に私の神意は伝わらない!」
トロイアの守護神は、頭を抱える。
「これも全てゼウスの技だ! 顕現の力がゼウスに吸い取られていく。かつては占い師の身を借りて、我が意を告げることもできたのに」
アポロンは自らを抱きしめた。
「私に力がないから、愛しいカッサンドラに会うためには、魂を神界に呼び出すしかない。今の私は、人の姿を借りることもできない。なんと嘆かわしいことか!」
天空で嘆くアポロンの下、トロイア生まれの若者は、泣きじゃくる子供の手を引いている。
「パリス、頼むぞ! お前の力が今こそ必要なのだ」
輝ける神は、トロイアに向かって空を駆け抜けていった。
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