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第一章 一回目の人生

第八話

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「うわぁっ!」
「………ノエル、もっかい聞くけど何であんな役立たず連れて来たの」
「役立たずって…可哀想でしょ」
「聞こえてるよ…」

森に入ってから思い切り足を引っ張るユウキに少女二人は呆れていた。
魔犬の小物を片付けたばかりだったが、ユウキは後ろで応援するのみだった。
ここまで使えないとは思わなかった、と困ったような顔をするノエルにため息をついてステラはユウキに詰め寄った。

「あなた!何で魔法の使い方分からないの!?」
「…だって、この世界には来たばっかだし」
「?」
「あ、いや何でも」
「ステラ。ユウキは今の今まで魔法の使い方…マナの存在すら知らなかったの」
「マナまで!?…よく生きていけたわね」
「苦労しなかったもんで」

相変わらずのユウキの答えに心底驚いたやら諦めたやら…というわけでステラはそれどころではないと思いながらもユウキの手を握った。

「?」
「いい?マナっていうのは体中に流れているものなの。全身に駆け巡り、私達の生命維持の手助けをしている重要なもの…それを使うのよ」
「生命維持してるのにわざわざ横からかっさらうような真似をしていいの?」
「…ええ。別にいいのよ。マナが無くなっても死ぬ訳じゃないわ。…全身に流れる物を手のひらに集中して放つ、みたいな。例えば無属性では「パワーエンチャント」、闇属性では「ブランディング」とか」
「ほうほう」

ユウキは持参した(ノエルに貰った)リュックからノートと鉛筆を取り出してメモしだす。
それを見てステラは目を見開いた。

「のっ、ノートに鉛筆!?それっ、どこでゲットしたの!?」
「え?…あー、ノエルに貰ったんだ」
「ズルいわよノエル!」
「えっ…で、でもユウキって世間知らずだし。そういうことメモしとかないと」
「うむぅ…」

不満げにステラはノエルを見つめるが、ノエルはふいと顔を逸らした。

「えっと、手のひら手のひら………」

ユウキの想像はーーーこうだ。
そのマナとやらの存在を意識する事は出来ないので、熱を意識する事にした。
熱く、熱く、熱く。
燃えそうなくらいになったら、呪文を唱える。

「パワーエンチャント!」
「「!?」」

ボウッとノエルとステラの体が燃えるように光った。
己を戸惑いながら見つめるノエルと、ユウキを見てショックを受けるような顔をしているステラ。
ステラはおぼつかない足取りでユウキに近づいて、その肩に両手を置く。
と。

「何で使えるのーーーっ!?」
「!?」

ブオンブオンと風を切る音を響かせながらステラは思い切りユウキを揺さぶり始める。
突然の事で驚きを隠せないユウキを代弁してノエルがステラに言う。

「あの、ステラ。そんな揺られたら答えられないわよ」
「!」

ようやく揺さぶるのを止めてステラは息をついた。
ユウキは点滅する眼前を振り払うように首を振ると慌てたように答える。

「え、えっと。普通にステラが言ったようにマナを…熱を手のひらに意識しただけだよ」
「普通じゃないのよ!「パワーエンチャント」は…無属性の中でも難しいの!」
「おおぅ」

ーーー俺に使ってほしくて例に出したんじゃないのか。
そんな事を考えたが、今言えばさらに揺さぶられそうな気がしたので止めた。
と。

「グルル…」
「…また小物ね」

小さめと二人が言っているがユウキからしてみれば十分大きい狼のような魔犬が現れた。
それを退治するため、ノエルは大きな紫色の宝石がはまった杖を。
ステラは腰に据えた鋭い剣を抜き出した。


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