少年と図書館

３

頭がおかしくなりそうだった。耳をふさいでも聞こえてくる少年の無機質な感情のともらない声。
聞こえてくる声を聴いているとだんだんと発音が異なるのに気づいた。
最初は”無視”悲しいだったのがだんだんと”虫”は悲しいに聞こえるのだ。
私の太ももで何かが動くのを感じた。
「いやああああああああああ」
それは無数の小さな羽虫だった。あの黒い手から湧いて出てくる無数の虫がワラワラと体をよじ登ってくる
。気持ち悪い、私は手で払い落そうとするけど虫は一向に減る気配がない。それどころか増えているようにすら感じる。
「いやだ！虫はいやあ！」
なんとも言えない感触がからだをむしばむ。
私の声なんてまるで気にしないかのように虫たちはどんどん体に這い上がってくる。そして体中を覆い尽くした虫たちが一斉に口元に向かってきた。手でその虫たちを払い落としているうちに虫たちの動きが止まった。
（助かった）
そう思った次の瞬間、お腹の中に冷たいものが広がる感覚を覚えた。
恐る恐る視線を落とすとおなかの中から小さな足が何本も突き出していた。
「えっ？」
何が起こったのか分からなかった。だってついさっきまで虫は一匹たりとも私のお腹の中にはいなかったはずなのだから。それにこんなおおきい虫なんかじゃなくてもっと小さな羽虫のような大きさをしていたはずだ。
「どうして……？いたい……いたいいたいいたい！！！」
突然激痛が走ったかと思うと体が燃え上がるような熱さと痛みを感じるようになった。
体の中が焼けるように熱い。
必死になって体を動かそうと試みるが手足が全く動かない。ただうごめくことしかできない自分の無力さに涙が出てきた。
「もうやめてえええええええ」
私はたまらず叫んだ。

視界の端に少年を見た。
『これで“ムシ”できないよね、オ・ネ・エ・チ・ャ・ン』