取り巻き令嬢Fの婚活

キマイラ

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 以前私のことをどう思っているのかと聞いた時に好ましいと言われた豪胆さなんて元々持ち合わせていないものだった。本当の私はこんなにも臆病で不安に思っているのだから。

 焼きたてのクッキーを一つ摘まめばまだ温かく、口の中でホロと崩れていった。お菓子作りは堂々巡りの思考から抜け出す為のいつもの手段だった。けれどできあがってしまえばそれまでで、また思考の海に沈んでしまう。

 抱きしめられた腕の中で一時私は不安を忘れた。あの腕の力強さと触れた体温、それは確かに信じられるものだった。言葉よりも一度の抱擁がフランシスさんを信じさせてくれたのだ。だから私はこうして一人過ごす時間に耐えられる。けれどそれで不安がなくなるというわけではなくて。春になれば少しはマシになるだろうかと考えていた不安は季節が巡っても確かに心の中に存在し続けた。

 そんな私に向き合いたいとフランシスさんは言ってくれた。けれど向き合わないといけないのは私の方だ。私自身が不安と向き合って乗り越えなければならない。そうでなければ不安の解消は一時的なものであり続ける。優しいフランシスさんのことだ。きっと何度でも不安の解消に付き合ってくれる。けれどそれでは根本的な解決には至らない。今はいい。いつかそれを重荷に感じる日が来るかもしれない。そう思うと怖くなる。先のことをあれやこれやと思い悩むのも私の悪い癖だった。

 不安に向き合うと言ってもどうすればいいのか分からない。不安の原因が自信のなさにあることは分かっている。でもどうすれば自信が持てるのだろう。そこで毎度行き詰るのだ。

 このままじゃ不安を抱えたまま夏が来る。今年の夏休みは採寸の為に実家に戻るからフランシスさんとは一か月近く会えない。耐えられるだろうか。

「ハア……」

 ため息を一つ吐いた。

 抱きしめられれば、その腕の力強さに愛されているような気がした。体温に触れれば心が満たされた。……愛されているのだと心の底から思えれば、きっとこの不安は溶けてなくなる。

 自信を持つことと愛されていると心の底から思うこと。どちらも私には難しそうだが、どちらが簡単だろう。分からない。けれどここは一つ自分に言い聞かせてみるとしよう。

 私は自分に自信を持っている。どこに? だめだ。分からない。自信を持てる要素がないからそもそも自信が無いのだ。見た目だって平凡だし性格だってご覧の通りうじうじしている。……自信を持つのは難しそうだ。

 ……もう一つの方を試してみよう。私は愛されている。そうだ、愛されている。面倒臭いことこの上ない私に向き合ってくれるくらいだ。愛されてる。うん、こっちの方がいい気がする。それに私の実家にも一緒に来てくれた。片道二週間もかかるのに。愛されてるはずだ。そうでなければ実家訪問なんてのらりくらりと躱されるだろう。

「愛されてる。だから大丈夫」

 そう口にして自分に言い聞かせた。きっと大丈夫。だって冷静に考えてみれば愛情を疑うようなことは今までに一度も無かった。これからだってそうだろう。フランシスさんが不実な行いをすることはまずないと言い切れる。そのくらい信頼している。

 ……別に不安を乗り越えられなくてもいいような気がしてきた。だって、これまでのフランシスさんの行動が愛情を信じさせてくれる。それで私は不安を解消できるのだから。抱きしめられれば手っ取り早いけど、特別何かをしてもらわなくてもフランシスさんが普通にしてくれていれば私の不安は消えるわけで……。だったら別に不安になったっていいんじゃないかと思った。思い悩むのはちょっと疲れるけど、そんな時はフランシスさんの行動を思い出して、愛されていると自分に言い聞かせればいい。ただそれだけのことだったのだ。それに気付くのに恐ろしく時間がかかった。

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