4 / 16
4
ある昼下がり。私とパーシヴァルさんはお茶をしていた。場所は自宅である。私はコーヒー、パーシヴァルさんには紅茶を淹れた。午前中で仕事を終わらせたパーシヴァルさんとこうしてお茶を飲むことは稀にあった。異世界であってもコーヒーの味は私のいた世界と変わらないしこういった時間の穏やかさも変わらない。たとえ一歩市壁の外に出ればモンスターが闊歩しているような世界であってもだ。この世界の都市は基本的に壁に囲まれているらしい。らしいというのは私が他の街を知らないからだ。そして初日に賞金首と出会ってしまったことから分かるように治安もさほどよくない。そんな世界でもなんとか生きていられるのはひとえにパーシヴァルさんのおかげだった。彼が働いてくれるおかげで私は市壁の中でのうのうとしていられるし、日が落ちてから女一人で出歩くような無防備な真似もせずに済んでいる。どうしてもの時は一緒に着いてきてくれるのだ。物理的な面でもそうだし、それだけじゃなく精神的にもかなり救われているのだ。この世界の常識は私にとっての非常識。この世界の住人にとっては当たり前のことでも私には分からないことがある。パーシヴァルさんも私からすれば割とファンタジー世界の住人だけど、それでも私の常識と比較的近い。だから分からないと言い合えるのだ。これは精神衛生上かなりありがたいことだった。色々な意味でパーシヴァルさんは私の生命線だった。だから私はその手を離せない。いや、離したくない。だって、この世界で唯一の理解者なのだから。
「……私、あなたがいないと生きていけないかもしれません」
なんとなく、口にするつもりのなかった言葉が口を衝いていた。
「俺はずっとお傍にいますよ」
なんでもないように穏やかな顔をしてパーシヴァルさんは答えた。
「本当に、感謝してるんですよ。時々思うんです。わけの分からない世界に迷い込んだんじゃなくて、自分の頭がおかしいんじゃないかって。本当はこの世界の住人なのに、自分は異世界から来たっていう妄想に取り憑かれているんじゃないかって……!」
「マスター」
その一言は労しげだった。
「でもあなたが、パーシヴァルさんがいてくれたから。私と同じようにこの世界の常識を解さないあなたが傍にいてくれたから、だからどうにかやってこれたんです」
一度言葉を区切ってそれから続けた。この先が一番言いたかったことだ。
「パーシヴァルさん、あの時助けに来てくれてありがとうございました。召喚されたのがあなたで本当によかった」
すごく晴れやかな気分だった。タイミングが掴めなくて中々口にできなかった感謝の言葉もようやく伝えられたから自然と頬が緩む。
「これからもよろしくお願いします」
「もちろんです、マスター」
パーシヴァルさんは穏やかな笑みを湛えていた。
「……私、あなたがいないと生きていけないかもしれません」
なんとなく、口にするつもりのなかった言葉が口を衝いていた。
「俺はずっとお傍にいますよ」
なんでもないように穏やかな顔をしてパーシヴァルさんは答えた。
「本当に、感謝してるんですよ。時々思うんです。わけの分からない世界に迷い込んだんじゃなくて、自分の頭がおかしいんじゃないかって。本当はこの世界の住人なのに、自分は異世界から来たっていう妄想に取り憑かれているんじゃないかって……!」
「マスター」
その一言は労しげだった。
「でもあなたが、パーシヴァルさんがいてくれたから。私と同じようにこの世界の常識を解さないあなたが傍にいてくれたから、だからどうにかやってこれたんです」
一度言葉を区切ってそれから続けた。この先が一番言いたかったことだ。
「パーシヴァルさん、あの時助けに来てくれてありがとうございました。召喚されたのがあなたで本当によかった」
すごく晴れやかな気分だった。タイミングが掴めなくて中々口にできなかった感謝の言葉もようやく伝えられたから自然と頬が緩む。
「これからもよろしくお願いします」
「もちろんです、マスター」
パーシヴァルさんは穏やかな笑みを湛えていた。
あなたにおすすめの小説
おばさんは、ひっそり暮らしたい
蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
完璧な政略結婚のはずでしたが、宰相閣下の“私の妻”扱いが甘すぎます
星乃和花
恋愛
政略結婚のはずでした。
家同士の利も、立場の釣り合いも、全部きちんと整った、完璧に合理的な結婚。
……なのに、夫となった冷徹宰相は、なぜか人前で私を「最高の妻」と紹介し、暮らしを完璧に整え、他人に近づかれると不機嫌になってしまいます。
“天使”と噂される穏やかな令嬢フィオナもまた、
そんな不器用な優しさに少しずつ心をほどかれて――。
これは、条件で選ばれたはずの夫婦が、
いつの間にかお互いを“ただ一人”として欲しくなるまでの、甘くてやさしい政略結婚物語。
(毎日21:50更新ー全8話)
義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話
よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。
「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。
取り巻き令嬢Fの婚活
キマイラ
恋愛
前世の記憶を取り戻し自分が乙女ゲームの攻略対象の取り巻きFだと気付いた私は取り巻きをやめ婚活を始める。そんなある日うっかり婚活仲間に既成事実を作っていかないかと言ってしまった。
一夜の過ちで懐妊したら、幼なじみの冷酷皇帝に溺愛されました
由香
恋愛
没落貴族の娘・柳月鈴は、宮廷で医官見習いとして働いていた。
ある夜、皇帝即位の宴で酒に酔い、幼なじみだった皇帝・李景珩と再会する。
遠い存在になったはずの彼。
けれど、その夜をきっかけに月鈴の運命は大きく動き出す。
冷酷と恐れられる皇帝が、なぜか彼女だけには甘すぎて――。
~春の国~片足の不自由な王妃様
クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。
春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。
街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。
それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。
しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。
花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??
虚弱姫はコワモテ将軍の筋肉に触りたい
隙間ちほ
恋愛
◼︎無骨な英雄×病弱な筋肉フェチ姫
◼︎辺境伯の末娘エルナは、領軍の英雄マテウスとの結婚が決まった。政略結婚――のはずが、実は姫は将軍の熱烈なファン。姫がノリノリで嫁ぐ一方、当のマテウスは「か弱い姫君に嫌われている」と思い込み、距離を取ってしまう……。
◼︎筋肉と鼻血とすれ違いラブコメ。
◼︎超高速展開、サクッと読めます。