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私、アデライン・オールストンには前世の記憶がある。九つの頃に完全に思い出した。もちろん誰にも言ってない。そして異母妹と彼女と仲良くする王太子殿下を見た時この世界が前世の自分がプレイしていた乙女ゲームの世界だと気付いた。気付いたけれど放っておいた。妹は殿下の攻略に失敗してバッドエンドを迎えて辺境伯夫人となっていた。そして私も今日、借金のかたにとある伯爵に後妻として嫁ぐ。
私と同じプラチナブロンドの髪に水色の目をした美しい母は私が幼い頃に亡くなってしまったけれど、薄っすらと前世の記憶があった私は特に寂しいとは思わなかった。いや、違う。乳母がいてくれたからだ。彼女がいれば寂しくなかった。アディお嬢様と優しく呼んでくれる彼女が私は大好きだった。
私が十二歳の頃だった。父が事業に失敗してしまった。その時はなんとも思わなかったけれど、だんだん質素になっていく食事や減っていく使用人を見てこれはちょっとヤバいかもと思いだした。平凡な私に知識チートなんてなかったので父の没落を止めることなんてできはしなかった。使用人もいなくなって三食食べることも難しくなってきた頃、神様が現れた。神様の名前はハワード・ソールズベリー伯爵。貧乏な我が家に援助してくれておかげで三食食べられるようになったし使用人だって送り込んでくれた。おまけに家庭教師の手配までしてくれた。善意だけじゃなくなにか裏があるだろうとは思っていたけれど私は伯爵に感謝していた。
伯爵は私と結婚したいんだそうだ。だから私が飢えないよう、不自由な思いをしないようお金を出してくれている。そして私が将来伯爵夫人になった時に困らないよう教育も与えてくれた。私は私の知らぬ間に父に売られていたらしい。父は私に泣いて謝ったけど私は父を許す気はない。伯爵には感謝しているし結婚することに不満はないんだけどそれとこれとは別っていうか。せめて事前に相談してくれればよかったんだけど。
まるで光源氏計画だなと思った私は分かった、伯爵の理想の紫の上になるわと勉強にも手を抜かなかった。
そんなわけでなんとか令嬢らしいなに不自由ない生活を送っていたのだが、私が学園に通っている間に父は庶子を迎え入れていた。その子は女の子で私の代わりに伯爵と結婚させるらしい。付け焼き刃の教育で伯爵を満足させられるのかと疑問を抱いたが伯爵もそのことを受け入れた。だが妹は乙女ゲームのヒロインだった。父と同じクリーム色の髪に薔薇色の目。間違いない。何度も液晶越しに見たヒロインだ。彼女はとんでもないスピードで王太子殿下を攻略しているようだった。そんなわけで伯爵の後妻に入るのは私だろうなと思い私は別の嫁ぎ先は探さなかった。
予想とは違いバッドエンドになった妹は辺境伯夫人となった。まあ貧乏男爵令嬢からすればとてもよい縁談だと思う。しっかり夫に尽くして幸せになってくれ。さて、伯爵にお手紙でも書こうと私はペンを取った。伯爵とは会ったことはないが文通はしている。いや、していたと言うべきか。正式に婚約はしていなかったけれど婚約者(仮)だった頃はよく手紙のやり取りをしていた。もっぱら伯爵のおかげで毎日美味しいご飯が食べられて幸せです。ありがとうございますという内容だったが。婚約者(仮)が妹に変更になってからは手紙を書くことは控えていた。やっぱり他人の婚約者(仮)に頻繁に手紙を送るのってよくないだろうし。それでも年に一度は感謝の言葉を綴っていた。
私の見た目はせいぜい中の上から上の下というところで妹の方が可憐で美しかった。なので伯爵には申し訳ないが私で許してほしい。もともと私を妻にと望んでいらっしゃったからたぶん許してくださるはずだという打算もあった。なので妹が辺境伯夫人となったのは我が家としても不可抗力です。お約束通りオールストンの娘が嫁ぎますからどうかご容赦くださいと書いて手紙を送った。
伯爵からは手紙の返事と花束が届いた。私は喜んだ。だって私でいいと我が家の不義理を許してくれたということだから。子供の頃は手紙と一緒にお菓子が届いていたので花束が届いたというのは進歩だろう。十七になった私は女として認められたというわけだ。下心もあるのだろうが伯爵は手紙の上では優しい人であった。今回の不義理も約束通り私が嫁いでくるなら許してくれるとのことである。その内容に私は安心したのだが、父がゴネたらしい。馬鹿なんじゃないだろうか。当然伯爵は今まで渡した金を返せと言うし使用人も引き上げたそうだ。私は学園にいたので知らなかったが。おまけに事業も伯爵の援助を受けていたものだからそっちも上手くいかなくなる。
私の学費、お父様に払ってもらえるのよね? と不安になった。不安は的中、学費が払えなくてこのままでは退学である。私は伯爵に泣きついた。父がなんと言おうとあなたに嫁ぎますから学園だけは卒業させてくださいお願いします。なんでも言うことを聞きますからと必死に綴って学費を援助してもらった。学費は父ではなく直接私に送られてきた。うん、父に送ったらネコババされちゃうもんね、伯爵も分かってるな。
しかも父が王太子殿下の生誕記念パーティーで辺境伯に喧嘩を売って伯爵のことまで悪し様に言ったらしい。めまいがした。本当に馬鹿なんじゃないだろうか。もちろん私は伯爵に謝罪の手紙を書いた。ここで伯爵に見捨てられると私の人生は詰むからだ。私にとって伯爵は一番条件のよい嫁ぎ先だし、破談になった場合父が新たな嫁ぎ先を見つけられるとは思わない。そうなると学園を卒業していなければいい職に就けない。もう本当に勘弁してほしい。
なんとか学園を卒業した私は伯爵のところに嫁ぐことになった。伯爵は父を生かさず殺さずのギリギリのラインで生かしていたらしい。そして父は伯爵に屈した。娘を嫁に出すことを了承したのだ。ありがとう伯爵。これで私の未来も安泰です。恋とか愛とかじゃなくて打算だったけど私は伯爵と結婚したかった。だってお金持ちだし父と違って事業も上手くやっているし領地経営だって堅実だ。歳は離れているものの父よりは若いしなにより私はアラサーだった前世の記憶がある。三十五歳とかむしろストライクゾーンだ。それに三食まともに食べられなかったあの頃のような暮らしは二度とごめんだった。この際伯爵がハゲだろうとデブだろうとロリコンだろうとかまわない。感謝の気持ちはもの凄くあるのだ。きっと愛せる。
そして嫁入り当日、馬なんてとっくに手放していたので伯爵が迎えの馬車を寄越してくれた。父は泣いていた。私はこれでようやくこの男と縁が切れるのかとホッとした。だって大恩ある伯爵をうっかり貶めるような発言をするような男だ。できれば関わりたくない。
持参金も要らない、身一つで嫁いでくればいいなんていう破格の条件の嫁入りだった。三日馬車に揺られて伯爵のお屋敷に辿り着いた。我が家とは大きさが全然違う。財力の差を思い知らされた。
伯爵と会うのはこれが初めてだった。茶色い髪に明るく輝くグリーンの目。目元は涼しげで鼻筋は通っている。唇は少し薄いだろうか。端正な美男子というよりは少しワイルドでぶっちゃけよう、タイプである。いい男じゃないの……! そう叫ばなかった自分を褒めてやりたい。
「お初にお目にかかります、旦那様。アデラインと申します」
きっちりと淑女の礼をしてご挨拶。第一印象は悪くないはずだ。あなたが手配してくださった教師の教えをきっちり受けていますよご安心くださいというアピールでもある。
「ハワード・ソールズベリーだ。遠いところよく来てくれた。まずは体を休めてくれ」
「お心遣いありがとうございます」
そうして私は広いお屋敷に足を踏み入れた。
通された部屋は明るく日当たりがよかった。クリーム色のカーテンがより明るい印象を与えている。ここが私の部屋か、趣味がいい。それに家具だって一級品だろう。実家との格の違いを感じる。伯爵、じゃないや、旦那様は私なんかが妻でよかったのだろうか。もっと家柄のいい娘だっていくらでも手中に収められるだろうに。
ソールズベリー伯爵は妻は若ければ若いほどいいと思っている。それが私の知っている旦那様の評判だ。けれど私はそれが事実と異なるだろうことも知っている。だって、評判通りの人間だったなら私が学費の援助を求めた時に拒否して一刻も早く嫁いで来いと言っていただろうから。旦那様は私の学費を払ってくれたのだ。そんな人じゃない。いや、ロリコンではあるのかもしれないが。私と旦那様は十七歳差。下手したら親子でもおかしくはないのである。
旦那様は私の前に三人の妻を迎えて全員と離婚している。なにか問題があるのかもしれないが今のところ扱いもいいし文通をしていた限りでは常識的で優しい人だった。旦那様の妻である限りは裕福な暮らしができるのだ。頑張りたい。実家に戻されるとか勘弁してほしい。
夕食を共にした。ふむ、食べ方も綺麗だ。今のところ旦那様に悪いところはない。普通に世間話も振ってくれるしコミュニケーション能力も問題なし。なんで三回も離婚してるんだろう。
そして初夜である。旦那様にとっては四人目の妻なので慣れたものであろうが私にとっては初めてだ。緊張でガチガチだ。前世も生娘だったのだ。仕方ないだろう。
やって来た旦那様はそれはそれは申し訳なさそうな顔で私に告げたのだった。
「すまないアデライン、君を愛することはない。いや、正確には恐らく私は君を愛することができない。許してくれ」
いや、どういうこと?
「……私は旦那様に望まれてこの場にいるものだと思っておりました。白い結婚をお望みということですか?」
「いや、君には妻として私の子を産んでほしい」
「事情をお話しくださいませ。私、少々混乱しております」
そうして語られたのはにわかには信じ難い話だった。なんと旦那様は三人の妻に浮気されて離婚したのだという。一人目の侯爵令嬢とは完全な政略結婚だったそうだ。二人目は伯爵令嬢でこれも政略結婚。三人目の伯爵令嬢とは恋愛結婚だと思っていたが別の男がいて托卵されたらしい。
「流石に三度も不貞を働かれると女性を信じられなくなった。それに三人目の妻は私を愛していると言いながら黒目黒髪の子供を産んだ。彼女はくすんだブロンドに榛色の目をしていたんだ」
そう語る旦那様は淡々としていた。よかった、前の奥様に未練はないらしい。
「それでも跡取りが必要だから妻が必要だった。間違いなく私の子を産んでくれる妻が。そこで困窮している家庭の娘に目を付けた。実家が頼れないなら私と離縁すると困るだろう? それに君のプラチナブロンドの髪も都合がよかった。別の男の子を産んだらすぐに分かる。私と同じ目と髪の色をした男を作られたらそこまでだが」
「旦那様、私は旦那様に感謝しています。決して裏切りません。それに私も恋や愛でなく打算で嫁いで来たのです。旦那様の妻になれば飢えることがないだろうと」
「君を飢えさせるような真似はしない。なに不自由ない暮らしを提供すると約束しよう。だから私の子を産んでほしい」
「もちろんでございます。それが妻の勤めですから」
そう言って微笑めば旦那様はホッとしたような顔をした。もとより私はそのつもりだった。伯爵夫人として盤石の地位を得たかったから。私は旦那様に見初められたのではなく都合の良い契約結婚の相手としてここに呼ばれたようだ。ちょっとがっかりしたのは内緒にしよう。傷付いたというほどのことじゃないから口にしないのがお互いの為だろう。
「……跡取りを産んだ後なら君の好きにしてもらってもかまわない」
「はい。旦那様、私を信用できないのですよね? なら私は一人にならず常に侍女と共にいるとお約束いたします」
「最初の妻は侍女も不貞に協力していた」
「では、私を屋敷に閉じ込めてくださいませ」
「……二番目の妻は屋敷の下男と不貞を働いた」
流石に困った。
「……なら、お邪魔にならないようにしますから旦那様のお側に置いてくださいますか?」
「そうしてもらえると私も嬉しい」
「アデライン、私の望みは君に私の子を産んでもらうことだ。君も私に望むことがあれば言ってくれ。可能な限り叶えよう」
「では、アディと呼んでくださいませ」
「そんなことでいいのか」
「はい」
「……欲しいものができたり、他に望みを思い付いたらすぐに私に言うように。いいね? アディ」
「はい、旦那様」
私をアディと呼んでくれたのは亡き母と乳母だけだ。だから私は夫となる人にはそう呼んでほしかった。たとえ愛されないとしても。
「おいで、アディ」
そう言って旦那様は私の手を取って寝台へと導いた。促されるまま横になれば旦那様が覆い被さってきた。
「気を楽にして力を抜いてくれ」
そうは言われても緊張しているのだ。無理である。そんな私を旦那様はくすぐった。
「ひい、おやめください、あははは」
ゼェハァと息を乱す私に悪戯っぽく微笑んだ。
「力が抜けたな?」
息も整わぬままなんとか頷けば口付けられた。肉厚な舌が唇を割り開いて口内に侵入してくる。歯列をなぞられ口蓋をくすぐられて縮こまる舌を捕まえられた。なにかに縋り付きたくて旦那様の夜着を右手でギュッと掴めば大きな手で捕まえられてそのまま指を絡められた。
「ん、ふぅ……んっ」
旦那様は右手だけで器用に私の夜着をはだけさせてそのまま胸の膨らみを揉みしだいた。そして反対側の胸にしゃぶりついた。
「あ……」
胸の先端を舌でくすぐられて転がされて私は小さく声を上げた。もう片方も指でくにくにと刺激されてなんだかもうたまらない。
不埒な手が下へ下へと這っていって秘裂をなぞる。下着越しに陰核に触れられてビクリと体を震わせた。すりすりと何度か撫でるように触れられて、それから下着を取り払われた。
「あ、んん……あっ」
直接触れられるのはかなりの刺激だった。声が抑えられない。指を噛んでなんとか抑える。
「アディ、指を噛むな。可愛い声を聞かせてくれ」
指を噛むのをやめた。だって旦那様にダメって言われたし。でも声は抑えたい。恥ずかしいから。
くるくると円を描くように弄ばれて頭からつま先までビリビリしちゃうような感覚に堪らず声を上げれば旦那様は微笑むのだった。ああ、その顔、エロい。
「上手にイケたな」
指が隘路に侵入してくる。あくまでゆっくりと慣らしていく動きに少しホッとしたのも束の間、指がお腹側のある場所を掠めて私は声を上げた。
「あ……!」
「ここか?」
そう言ってそこばかり触れるものだからなんとか頷いてやめてほしいと懇願する。
「そこ、いやぁ!」
「こんなに気持ちよさそうにしてるのに?」
「だって、なんか、へんなかんじ」
「アディ、これは気持ちがいいんだ」
そう言ってだんだん指を増やされて私は喘いだ。
「あ、ああ」
これが気持ちいいということなのかと真っ白になった頭でぼんやりと考えた。息を整える間もなく熱いものが秘部に触れてそのまま押し入ってきた。
「アディ、ゆっくり息をして力を抜いてくれ」
言われた通りにしてるつもりだ。旦那様はどんどん私の中に入ってくる。これ以上入らないと思うのに実際には入っていくのだ。熱くて硬くて旦那様が小さく動く度に声が出た。
「あ、あっ」
痛みより熱を感じた。熱くて熱くて気持ちがよかった。小さくゆっくりだった腰の動きがだんだん大胆になっていく。私はただただ喘いで陰茎を締め付けて果てた。だけども抽送は止まらない。おかしくなりそうだと思いながら揺さぶられることしかできない。
「や、だんなさま、おかしくなっちゃう……!」
私の必死の訴えは甘えたような声音で、旦那様は止まってはくれなかった。一度頂に押し上げられた体は容易く達した。
「ああん!」
何度目か分からない絶頂を迎えた時、ようやく旦那様も果てた。
……旦那様は床上手でもあったらしい。なんてことを考えていた。三人に浮気されたくらいだから下手かもしれないと覚悟していたのに。旦那様はぐったりした私の体を清めてくれた。事後処理も完璧だ。いや本当になんでこの人浮気されたの? 絶賛賢者タイムだろうに額にキスまでしてくれる。
「アディ、大丈夫か?」
「はい」
「明日は一日ゆっくりしてもらってかまわない」
「旦那様のお側にいなくていいのですか」
「ああ、無理はしないでくれ」
そう言って髪を撫でてくれるのだから旦那様は優しい。うん、四人目の妻である私だけは絶対に旦那様を裏切らないと誓いを新たにした。
私と同じプラチナブロンドの髪に水色の目をした美しい母は私が幼い頃に亡くなってしまったけれど、薄っすらと前世の記憶があった私は特に寂しいとは思わなかった。いや、違う。乳母がいてくれたからだ。彼女がいれば寂しくなかった。アディお嬢様と優しく呼んでくれる彼女が私は大好きだった。
私が十二歳の頃だった。父が事業に失敗してしまった。その時はなんとも思わなかったけれど、だんだん質素になっていく食事や減っていく使用人を見てこれはちょっとヤバいかもと思いだした。平凡な私に知識チートなんてなかったので父の没落を止めることなんてできはしなかった。使用人もいなくなって三食食べることも難しくなってきた頃、神様が現れた。神様の名前はハワード・ソールズベリー伯爵。貧乏な我が家に援助してくれておかげで三食食べられるようになったし使用人だって送り込んでくれた。おまけに家庭教師の手配までしてくれた。善意だけじゃなくなにか裏があるだろうとは思っていたけれど私は伯爵に感謝していた。
伯爵は私と結婚したいんだそうだ。だから私が飢えないよう、不自由な思いをしないようお金を出してくれている。そして私が将来伯爵夫人になった時に困らないよう教育も与えてくれた。私は私の知らぬ間に父に売られていたらしい。父は私に泣いて謝ったけど私は父を許す気はない。伯爵には感謝しているし結婚することに不満はないんだけどそれとこれとは別っていうか。せめて事前に相談してくれればよかったんだけど。
まるで光源氏計画だなと思った私は分かった、伯爵の理想の紫の上になるわと勉強にも手を抜かなかった。
そんなわけでなんとか令嬢らしいなに不自由ない生活を送っていたのだが、私が学園に通っている間に父は庶子を迎え入れていた。その子は女の子で私の代わりに伯爵と結婚させるらしい。付け焼き刃の教育で伯爵を満足させられるのかと疑問を抱いたが伯爵もそのことを受け入れた。だが妹は乙女ゲームのヒロインだった。父と同じクリーム色の髪に薔薇色の目。間違いない。何度も液晶越しに見たヒロインだ。彼女はとんでもないスピードで王太子殿下を攻略しているようだった。そんなわけで伯爵の後妻に入るのは私だろうなと思い私は別の嫁ぎ先は探さなかった。
予想とは違いバッドエンドになった妹は辺境伯夫人となった。まあ貧乏男爵令嬢からすればとてもよい縁談だと思う。しっかり夫に尽くして幸せになってくれ。さて、伯爵にお手紙でも書こうと私はペンを取った。伯爵とは会ったことはないが文通はしている。いや、していたと言うべきか。正式に婚約はしていなかったけれど婚約者(仮)だった頃はよく手紙のやり取りをしていた。もっぱら伯爵のおかげで毎日美味しいご飯が食べられて幸せです。ありがとうございますという内容だったが。婚約者(仮)が妹に変更になってからは手紙を書くことは控えていた。やっぱり他人の婚約者(仮)に頻繁に手紙を送るのってよくないだろうし。それでも年に一度は感謝の言葉を綴っていた。
私の見た目はせいぜい中の上から上の下というところで妹の方が可憐で美しかった。なので伯爵には申し訳ないが私で許してほしい。もともと私を妻にと望んでいらっしゃったからたぶん許してくださるはずだという打算もあった。なので妹が辺境伯夫人となったのは我が家としても不可抗力です。お約束通りオールストンの娘が嫁ぎますからどうかご容赦くださいと書いて手紙を送った。
伯爵からは手紙の返事と花束が届いた。私は喜んだ。だって私でいいと我が家の不義理を許してくれたということだから。子供の頃は手紙と一緒にお菓子が届いていたので花束が届いたというのは進歩だろう。十七になった私は女として認められたというわけだ。下心もあるのだろうが伯爵は手紙の上では優しい人であった。今回の不義理も約束通り私が嫁いでくるなら許してくれるとのことである。その内容に私は安心したのだが、父がゴネたらしい。馬鹿なんじゃないだろうか。当然伯爵は今まで渡した金を返せと言うし使用人も引き上げたそうだ。私は学園にいたので知らなかったが。おまけに事業も伯爵の援助を受けていたものだからそっちも上手くいかなくなる。
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しかも父が王太子殿下の生誕記念パーティーで辺境伯に喧嘩を売って伯爵のことまで悪し様に言ったらしい。めまいがした。本当に馬鹿なんじゃないだろうか。もちろん私は伯爵に謝罪の手紙を書いた。ここで伯爵に見捨てられると私の人生は詰むからだ。私にとって伯爵は一番条件のよい嫁ぎ先だし、破談になった場合父が新たな嫁ぎ先を見つけられるとは思わない。そうなると学園を卒業していなければいい職に就けない。もう本当に勘弁してほしい。
なんとか学園を卒業した私は伯爵のところに嫁ぐことになった。伯爵は父を生かさず殺さずのギリギリのラインで生かしていたらしい。そして父は伯爵に屈した。娘を嫁に出すことを了承したのだ。ありがとう伯爵。これで私の未来も安泰です。恋とか愛とかじゃなくて打算だったけど私は伯爵と結婚したかった。だってお金持ちだし父と違って事業も上手くやっているし領地経営だって堅実だ。歳は離れているものの父よりは若いしなにより私はアラサーだった前世の記憶がある。三十五歳とかむしろストライクゾーンだ。それに三食まともに食べられなかったあの頃のような暮らしは二度とごめんだった。この際伯爵がハゲだろうとデブだろうとロリコンだろうとかまわない。感謝の気持ちはもの凄くあるのだ。きっと愛せる。
そして嫁入り当日、馬なんてとっくに手放していたので伯爵が迎えの馬車を寄越してくれた。父は泣いていた。私はこれでようやくこの男と縁が切れるのかとホッとした。だって大恩ある伯爵をうっかり貶めるような発言をするような男だ。できれば関わりたくない。
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伯爵と会うのはこれが初めてだった。茶色い髪に明るく輝くグリーンの目。目元は涼しげで鼻筋は通っている。唇は少し薄いだろうか。端正な美男子というよりは少しワイルドでぶっちゃけよう、タイプである。いい男じゃないの……! そう叫ばなかった自分を褒めてやりたい。
「お初にお目にかかります、旦那様。アデラインと申します」
きっちりと淑女の礼をしてご挨拶。第一印象は悪くないはずだ。あなたが手配してくださった教師の教えをきっちり受けていますよご安心くださいというアピールでもある。
「ハワード・ソールズベリーだ。遠いところよく来てくれた。まずは体を休めてくれ」
「お心遣いありがとうございます」
そうして私は広いお屋敷に足を踏み入れた。
通された部屋は明るく日当たりがよかった。クリーム色のカーテンがより明るい印象を与えている。ここが私の部屋か、趣味がいい。それに家具だって一級品だろう。実家との格の違いを感じる。伯爵、じゃないや、旦那様は私なんかが妻でよかったのだろうか。もっと家柄のいい娘だっていくらでも手中に収められるだろうに。
ソールズベリー伯爵は妻は若ければ若いほどいいと思っている。それが私の知っている旦那様の評判だ。けれど私はそれが事実と異なるだろうことも知っている。だって、評判通りの人間だったなら私が学費の援助を求めた時に拒否して一刻も早く嫁いで来いと言っていただろうから。旦那様は私の学費を払ってくれたのだ。そんな人じゃない。いや、ロリコンではあるのかもしれないが。私と旦那様は十七歳差。下手したら親子でもおかしくはないのである。
旦那様は私の前に三人の妻を迎えて全員と離婚している。なにか問題があるのかもしれないが今のところ扱いもいいし文通をしていた限りでは常識的で優しい人だった。旦那様の妻である限りは裕福な暮らしができるのだ。頑張りたい。実家に戻されるとか勘弁してほしい。
夕食を共にした。ふむ、食べ方も綺麗だ。今のところ旦那様に悪いところはない。普通に世間話も振ってくれるしコミュニケーション能力も問題なし。なんで三回も離婚してるんだろう。
そして初夜である。旦那様にとっては四人目の妻なので慣れたものであろうが私にとっては初めてだ。緊張でガチガチだ。前世も生娘だったのだ。仕方ないだろう。
やって来た旦那様はそれはそれは申し訳なさそうな顔で私に告げたのだった。
「すまないアデライン、君を愛することはない。いや、正確には恐らく私は君を愛することができない。許してくれ」
いや、どういうこと?
「……私は旦那様に望まれてこの場にいるものだと思っておりました。白い結婚をお望みということですか?」
「いや、君には妻として私の子を産んでほしい」
「事情をお話しくださいませ。私、少々混乱しております」
そうして語られたのはにわかには信じ難い話だった。なんと旦那様は三人の妻に浮気されて離婚したのだという。一人目の侯爵令嬢とは完全な政略結婚だったそうだ。二人目は伯爵令嬢でこれも政略結婚。三人目の伯爵令嬢とは恋愛結婚だと思っていたが別の男がいて托卵されたらしい。
「流石に三度も不貞を働かれると女性を信じられなくなった。それに三人目の妻は私を愛していると言いながら黒目黒髪の子供を産んだ。彼女はくすんだブロンドに榛色の目をしていたんだ」
そう語る旦那様は淡々としていた。よかった、前の奥様に未練はないらしい。
「それでも跡取りが必要だから妻が必要だった。間違いなく私の子を産んでくれる妻が。そこで困窮している家庭の娘に目を付けた。実家が頼れないなら私と離縁すると困るだろう? それに君のプラチナブロンドの髪も都合がよかった。別の男の子を産んだらすぐに分かる。私と同じ目と髪の色をした男を作られたらそこまでだが」
「旦那様、私は旦那様に感謝しています。決して裏切りません。それに私も恋や愛でなく打算で嫁いで来たのです。旦那様の妻になれば飢えることがないだろうと」
「君を飢えさせるような真似はしない。なに不自由ない暮らしを提供すると約束しよう。だから私の子を産んでほしい」
「もちろんでございます。それが妻の勤めですから」
そう言って微笑めば旦那様はホッとしたような顔をした。もとより私はそのつもりだった。伯爵夫人として盤石の地位を得たかったから。私は旦那様に見初められたのではなく都合の良い契約結婚の相手としてここに呼ばれたようだ。ちょっとがっかりしたのは内緒にしよう。傷付いたというほどのことじゃないから口にしないのがお互いの為だろう。
「……跡取りを産んだ後なら君の好きにしてもらってもかまわない」
「はい。旦那様、私を信用できないのですよね? なら私は一人にならず常に侍女と共にいるとお約束いたします」
「最初の妻は侍女も不貞に協力していた」
「では、私を屋敷に閉じ込めてくださいませ」
「……二番目の妻は屋敷の下男と不貞を働いた」
流石に困った。
「……なら、お邪魔にならないようにしますから旦那様のお側に置いてくださいますか?」
「そうしてもらえると私も嬉しい」
「アデライン、私の望みは君に私の子を産んでもらうことだ。君も私に望むことがあれば言ってくれ。可能な限り叶えよう」
「では、アディと呼んでくださいませ」
「そんなことでいいのか」
「はい」
「……欲しいものができたり、他に望みを思い付いたらすぐに私に言うように。いいね? アディ」
「はい、旦那様」
私をアディと呼んでくれたのは亡き母と乳母だけだ。だから私は夫となる人にはそう呼んでほしかった。たとえ愛されないとしても。
「おいで、アディ」
そう言って旦那様は私の手を取って寝台へと導いた。促されるまま横になれば旦那様が覆い被さってきた。
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「ん、ふぅ……んっ」
旦那様は右手だけで器用に私の夜着をはだけさせてそのまま胸の膨らみを揉みしだいた。そして反対側の胸にしゃぶりついた。
「あ……」
胸の先端を舌でくすぐられて転がされて私は小さく声を上げた。もう片方も指でくにくにと刺激されてなんだかもうたまらない。
不埒な手が下へ下へと這っていって秘裂をなぞる。下着越しに陰核に触れられてビクリと体を震わせた。すりすりと何度か撫でるように触れられて、それから下着を取り払われた。
「あ、んん……あっ」
直接触れられるのはかなりの刺激だった。声が抑えられない。指を噛んでなんとか抑える。
「アディ、指を噛むな。可愛い声を聞かせてくれ」
指を噛むのをやめた。だって旦那様にダメって言われたし。でも声は抑えたい。恥ずかしいから。
くるくると円を描くように弄ばれて頭からつま先までビリビリしちゃうような感覚に堪らず声を上げれば旦那様は微笑むのだった。ああ、その顔、エロい。
「上手にイケたな」
指が隘路に侵入してくる。あくまでゆっくりと慣らしていく動きに少しホッとしたのも束の間、指がお腹側のある場所を掠めて私は声を上げた。
「あ……!」
「ここか?」
そう言ってそこばかり触れるものだからなんとか頷いてやめてほしいと懇願する。
「そこ、いやぁ!」
「こんなに気持ちよさそうにしてるのに?」
「だって、なんか、へんなかんじ」
「アディ、これは気持ちがいいんだ」
そう言ってだんだん指を増やされて私は喘いだ。
「あ、ああ」
これが気持ちいいということなのかと真っ白になった頭でぼんやりと考えた。息を整える間もなく熱いものが秘部に触れてそのまま押し入ってきた。
「アディ、ゆっくり息をして力を抜いてくれ」
言われた通りにしてるつもりだ。旦那様はどんどん私の中に入ってくる。これ以上入らないと思うのに実際には入っていくのだ。熱くて硬くて旦那様が小さく動く度に声が出た。
「あ、あっ」
痛みより熱を感じた。熱くて熱くて気持ちがよかった。小さくゆっくりだった腰の動きがだんだん大胆になっていく。私はただただ喘いで陰茎を締め付けて果てた。だけども抽送は止まらない。おかしくなりそうだと思いながら揺さぶられることしかできない。
「や、だんなさま、おかしくなっちゃう……!」
私の必死の訴えは甘えたような声音で、旦那様は止まってはくれなかった。一度頂に押し上げられた体は容易く達した。
「ああん!」
何度目か分からない絶頂を迎えた時、ようやく旦那様も果てた。
……旦那様は床上手でもあったらしい。なんてことを考えていた。三人に浮気されたくらいだから下手かもしれないと覚悟していたのに。旦那様はぐったりした私の体を清めてくれた。事後処理も完璧だ。いや本当になんでこの人浮気されたの? 絶賛賢者タイムだろうに額にキスまでしてくれる。
「アディ、大丈夫か?」
「はい」
「明日は一日ゆっくりしてもらってかまわない」
「旦那様のお側にいなくていいのですか」
「ああ、無理はしないでくれ」
そう言って髪を撫でてくれるのだから旦那様は優しい。うん、四人目の妻である私だけは絶対に旦那様を裏切らないと誓いを新たにした。
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