赤い糸の先に悪役公爵様

キマイラ

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後編

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 あの男は幽閉されてしまった。死罪にならなかったことを喜べばいいのだろうか。けれどもうきっと彼には会えない。そのことがひどく悲しくて寂しい。北へと伸びる赤い糸を見つめてため息を吐くのが私の癖になっていた。
 
 あの男は自身の財産の名義を全て私の名前に書き換えていた。私は今もあの屋敷で暮らしている。最初に相続した財産で自身の身分を買い戻した。それから使用人たちと話し合って残りたい者はこれまで通り雇い、そうでないものには紹介状を書いてやった。ほとんどの使用人は屋敷に残った。彼らは今もまだ主人が簒奪を狙って失敗したことを受け入れられていない。なにかの間違いで主人はいずれ帰ってくるに違いないと思っているのだ。私も、そう信じられたならきっと幸せだった。けれども私は最初から知っていたからそんなふうには思えなかった。
 
 生きていくには金がいる。あの男が残した財産は到底使い切れるような額ではなかったけれど私は事業と投資を始めた。この世界では初めての保険会社を作ったのだ。始めは必要性を理解すらしてもらえなかったがなんとか軌道に乗せた。
 
 あの男が囚われの身となって五年の月日が過ぎた。使用人は少しずつ屋敷を去って新しい者を雇い入れていた。皆、現実を受け入れたのだ。それでもまだ家令は残っている。
 
 そしてある日、恩赦で彼が解放されると知ったのだ。もちろん迎えに行った。家令と二人馬車に乗り込みあの男の元へと向かった。
 
 五年ぶりに見た男は相変わらず意地の悪そうな美貌でなんだか安心した。幽閉されていたとはいえそれなりの扱いを受けていたようだ。ああ、でも、少し老けたな。もう四捨五入すれば四十だから当然といえば当然か。
 
「マクシミリアン様、ずっと、あなたが好きでした」
 
「私も君が好きだよ」
 
「今度は私があなたを養う番です」
 
「元はと言えば私の財産だろう」
 
「でも今は私のものですから」
 
「そうだな」
 
「マクシミリアン様、結婚しましょう」
 
「そういうことは私に言わせてくれないか」
 
「じゃあ、プロポーズしてください」
 
「お嬢さん、結婚してくれないか」
 
「もちろんです」
 
 いつかのように彼は私をお嬢さんと呼んだ。もうお嬢さんなんて歳じゃないとは言わなかった。ただ二人で顔を見合わせて笑い合った。ああ、私、この人と幸せになれるんだ。いつかの絶望は希望に塗り替えられた。
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