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しおりを挟む「おかえり」
亮太は大学の退学届けを家に預けて出てきたらしく、今は大学に通っていない。折角ここまで通ったのに勿体無いと言ったのだが、学費を自分で出すとなると難しく、退学と言っても今まで取ってきた単位が付いてきた状態での再入学になるらしく、今はお金を貯めるそうだ。
亮太がここに来てから一週間経ったが、昼は家庭教師のバイト、夜は日雇いの工事現場で働いていて全くゆっくり出来ていない。日雇いのバイトに至っては、稼いできたお金をそのまま俺に寄越そうとするから、全力で断った。勿論、亮太は不機嫌になったがその金を元手にお金を稼いだ方がいいかと思い直したらしく、初日だけ強引に渡されてそれ以降は貰っていない。
「夕飯食べたら次の現場行くから」
「……無理してない?大丈夫?そんなに働かなくても俺だってバイト増やすよ」
実際、ここ最近の亮太の睡眠時間は3時間もないはずだ。いくら丈夫とはいっても健康に悪い。
「大丈夫。まあ、身体壊すのが一番効率悪いからね、見極めながらやってる」
俺よりよっぽど優秀な亮太の言うことはだいたい正しい。本人がそう言うなら問題はないのだろうが、それは分かっても心配は心配なのだ。
「明後日は日雇いやらないつもりだから、スーパーとか行こう。遊を寂しがせるのも本意じゃないし、抱いてあげるよ」
「う、嬉しいけど休んで欲しい……」
「大丈夫。遊は体力ないからすぐへばるしいつもよりは寝れるでしょ」
「俺も日雇いやろうかな……」
思えば、亮太と同じバイト先なら一緒にいれるし、お金も稼げるし、体力もつく。一石三鳥じゃないか。なんとなく思い付いたが、結構良い案な気がしてきた。
「馬鹿なの?遊は深夜寝ないで大学行けるわけ?」
「う……でも、亮太だって同じようなもんじゃん」
「俺は体力あるから。それにあんな治安の悪いところ行かせるわけないでしょ」
「俺だってコンビニバイトしてたし、治安なんて」
「俺のオメガをそんな所に行かせるくらいなら、寝ないで俺がもう一つバイト増やすから」
「死んじゃうって!」
俺様なくせになんだかんだ過保護なところがある。しかも、俺が一番嫌がることを分かっているから何も言えない。
「そんなに急いでお金貯めなくてもいいのに」
「遊に養われるのだけは勘弁だからね。自分の限界は分かっているから大丈夫」
いつもみたいに強引なら俺だってまだ言えるのに、頭を撫でられ諭すように言われたら何も言えない。亮太は夕飯を食べると、すぐ日雇い労働に向かって行った。
こうなったら亮太がなんて言おうとも俺が早く稼ぐしかない。その早道は大手に就職すること。大手に就職するにはまず勉学だ。
朝方帰ってきただろう隣に寝ている亮太を起こさないように大学に向かう。今までも真面目に通っていたが、より真剣に取り組むようにした。
大学でのキングの欠席は何故か全く噂になっていない。誰もがまるで何事もなかったように過ごしていて、誰も金森の現状を知るものはいないようだった。その証拠に俺は今まで同じく避けられているし、注目されている。亮太が少しくらい姿を現さなくても、その存在感に変わりはない。未だ大学の支配者は亮太で、亮太が家を出たと知られればどうなるのだろうと少し不安になる。
別に俺はいいのだ。また嫌がらせが再開されたりするのかもしれない。そんなこと構わない。ただ、もし亮太が他の人に軽んじられたらと想像すると恐ろしくてならなかった。
自分の立場なんて忘れて抗議しに行くかもしれない。亮太をそんなにした元凶は俺だ。俺が落とし前をつけなきゃいけない。まだ何も起こっていない。でも、これから起こるかもしれない未来に不安を抱いた。
家に帰ってすぐ洗濯機を回し、夕食の準備をする。今まで特に節約とかはしていなかったけど、今はお金を貯めなきゃと言う意識もあり、最寄駅の少し先にある業務スーパーで買い物をするようにした。前回はまだ二人暮らしの食べる量が分からなかったから、今の冷蔵庫の中は少し寂しい。
今日の亮太は日雇いに行かず、スーパーに着いてきてくれると言っていたから、ちょっと多めに買い物をしよう。
「ただいま」
「おかえり!」
合鍵なんて案外簡単に作れるんだと知ったのはもう一週間前で、ワンルームだからこそ扉を開けたらすぐに見えるというのは結構嬉しい。そろそろ帰ってくる頃だと夕食はテーブルに準備が出来ていて、あとは食べるだけだ。
別に下手ってわけでもないけど、亮太が食べてきたものに比べれば質素で美味しくないはずだ。それでも亮太は黙々と食べてくれる。
洗い物を終えて、二人揃って外に出る。
「デートだね」
「ただの買い物じゃん」
「二人で外に出たらもうデートだよ」
「それは過去の遊に教えてあげたいね」
あんなに豪遊したデートより、夜に薄暗い道を手を繋いで歩くデートの方が楽しい。不安もある。先は分からない。それは痛いほど分かってる。だけど、浮かれてしまうのは許して欲しい。こんな日々が来ることを祈ってた。いや、嘘だ。来るはずもないと諦めて、でも妄想して満足して終わらせていた。
繋いだ手を強く握る。そうしたらそれ以上の力で握り返された。ああ、大丈夫だ。きっと大丈夫。亮太が隣にいるならなんだっていい。
なんでも3%オフと言う割引デーということもあって、大量に買い出しをする。トイレットペーパーは特割で12ロールを二つも買ってしまった。エコバッグに買ったものを詰めていると後ろから声を掛けられた。
「小林さん?」
「豪くん」
そう言えば、こっち側は豪くんの居住エリアだ。ここで買い物をしていてもおかしくない。偶然だね、と明るく話しかけたいところだが、豪くんが亮太を凝視していて、なんとなく危機感を感じた。
「あ、あの、その亮太とは」
「小林さんを解放してください!」
いや、そうだよね。直近で会った時に愛人とかの話したもんね。豪くん、正義感強いしね。でも、待ってくれ。今は事情が違うんだ。俺が説明しなきゃいけないのに、焦って言葉が出ない。
「はあ?何言ってんの、お前」
案の定、そんな事情を知らない亮太が臨戦体制に入っていてもっと焦る。亮太はそんなに沸点が低い方ではないが、豪くんを彼氏だと勘違いしたくらいには意識していたはずだ。前ならヘラヘラ勘違いだよと笑えたが、今は笑えない。というか、亮太が人に対してお前って言ったの初めて聞いた。
「金森さん、あなたは間違ってる。小林さんは渡しません」
「勝手なこと言うなよ。お前、遊のなんなわけ?」
「……恋人候補です!」
豪くんが少し考えて大嘘を言う。いや、恋愛感情ないって言ってたよね!?なんでそんな嘘言うの?!
亮太が俺を睨んでくるので慌てて首を振る。違います。違います。豪くんは友人です……というか豪くん暴走しないで!
「相手にしてらんない。行くよ」
亮太が俺の手を引く。長身美形アルファの2人の睨み合いに怯んで何も言えない俺はそのまま付いていくが、がしりと反対の腕を取られた。両側に引っ張られて、ぐえと声が出る。
「離してくれる?」
「金森さんが離してください」
とんでもない美形二人が平凡な男を取り合っている図。側から見れば面白いはずで、凄い視線が刺さる。女子高生がこちらにスマホを向けた時点で、困惑してる場合じゃないと声を張る。
「ちょっと待って!話を聞いて!」
俺の主張に豪くんが手を離した。片方からの引っ張られる力が消えて、亮太の腕の中にぽすりと収まる。片手で多くの荷物を持ちながら、俺を引き寄せる亮太に思うところあったのか、はたと目を瞬かせた。
「す、すみません。つい……」
「うん。豪くんが俺を心配しての行為だって分かってるから、場所移動しない?」
豪くんが近くの公園を教えてくれて、そこに移動する。トイレットペーパー二つに重い液体は亮太が全部持ってくれて、俺は軽い物だけ。俺ももっと待つよと言っても、亮太は譲らなかった。
「あの、俺とんでもない勘違いしてた気がしてるんですが、どういったご関係で?」
公園に着いた頃にはもう豪くんは反省ムードで、俺達の関係を薄々察していたようだ。亮太は後ろで豪くんを睨んでいるので、俺が亮太は自分の家を捨ててまで俺を選んでくれたと事情を説明した。
静かに聞き終えた豪くんが勢いよく頭を下げる。
「すみませんでした!俺、金森さんのこと誤解しててました。俺の父親みたいな最低な人だって思い込んでて、本当に申し訳ありません」
亮太は謝られたことに対して何も言わないし、豪くんはずっと頭を下げたまんまだ。夜の公園で涼しい風が吹く。いつまでこの沈黙が続くのか。もう我慢できないと話そうとした時、亮太が話し始めた。
「遊のこと狙ってる?」
「え……」
俺と豪くんがポカンとして、いち早く察した豪くんが首をブンブン回して否定し始めた。
「狙ってないです!さっきのは嘘で、恋愛感情はないです!小林さんは尊敬する友人のひとりで」
「その割には噛み付いて来たけど?」
「母が愛人やっていて苦労は知っていたので、止めないとってそればかりでした」
「……ふーん、ならもういいよ」
亮太が興味をなくしたように豪くんから目を離す。豪くんがそれに少し驚いた顔をして、俺を見た。
「……本当に恋人なんですね……あの、応援してます」
「うん。ありがとう」
ひたすら恐縮している豪くんと別れて、家路に着く。
「ごめん。俺がちゃんと説明してればこんなことならなかったのに」
「別にいいよ。愛人にしようとしてたのは本当だし。ただ、あんまり他の男に触らせないで」
「触る……ああ、腕掴まれたやつ?」
「そう。俺のなんだから。あと誰が遊のこと好きになるか分かんないし」
超絶美形が平凡な男に何を言っているんだ。亮太に俺がどれだけモテないか悲しい自慢をし始めようとした所でスマホが鳴った。
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