つのつきの子は龍神の妻となる

白湯すい

文字の大きさ
4 / 28

これから

「あの、私はこれからどうなるのでしょうか」
「どうとは?」
「失礼ながら、龍神様の妻になるというのが、どういうことなのか、何をすべきなのかを知らされておりません」
「ああ、そういうことか」

 龍は表情を変えずに言った。このときだけでなく、龍はあまり表情を変えることがない。

「人の結婚とさほど変わらない」
「そうなのですか?」
「とって食われると思っていたか?」
「……そういうこともあるかと思っておりました」
「まあ、過去にそうした時代もあった」
「龍は人を食べるのですか?」
「人はごちそうだ」
「ごちそう……」
「特に若い女はな。贄として捧げられ、食ったことはある。おまえのことも、食おうかと思っていたがやめた」
「……それは、どうして?」
「……さあね」

 龍はこれまで聞かれたことには淡々と答えていたというのに、フェイのその問いには初めてはぐらかすようなことを言ったきり、答えてはくれなかった。

「フェイは食べられたいのか?」
「いいえ」
「ならば食わない。ごちそうだと言っただろう、贅沢品だということだ。嫌がるものを無理やりにしてまで食う必要はない」
「そういうものですか」
「そういうものだ」
 フェイはてっきりここで死ぬものだと思っていたから、思わず拍子抜けした。

「ここは私と夫婦となった者が住むための場所で、大昔に人の手で作られた。ここで暮らした人間もいくらか居る」

 龍の言う通り、この部屋にも人の生活が見える。かまどに鍋や食器があったり、水を貯めておく瓶があったり、奥の部屋が幕で仕切られていたり、休むための長椅子があったりする。

「こんな場所があったなんて、今も驚いています」
「人間はもう来なくなった。知らぬのも無理はない」

「私は『つのつき』と呼ばれて、離れから出てはならないとされて生きてきました。この世界はまだ知らぬことばかりです」
「外に出たことはなかったのか? 一度も?」
「弟が連れ出してくれたことは何度かありました」
「弟がいるのか」
「はい。弟は私に、一緒に外に出て普通に暮らしてほしかったようです」

 ジンユェは何度も父や他の高官たちにフェイを閉じ込めることに抗議していたようだったが、父たちが首を縦に振ることはなかった。

「フェイは出たいとは思わなかったのか」
「出たい気持ちはありましたが、それよりも恐ろしかったのです。私を見慣れているはずの王宮の使用人でさえ、私を見るたびに顔を顰めました。私のような異形の子が市井に産まれたときには、赤子のうちに殺されていたといいます。外に出て私の姿が明るみになればどういう扱いを受けるのか、王族に私のような者が居るとわかれば国がどうなってしまうのか……それを思えばとても恐ろしかった」
「…………ふむ、そうだね」

 フェイが何よりも恐れたのは、平和な国の王家にいらぬ波風を立ててしまうことだった。自分が後ろ指をさされて石を投げられることよりも、きっと父の後を継ぐであろうジンユェの未来に影を落とすようなことはしたくなかった。

「フェイ、おまえは優しいのだね」
「私が? そうでしょうか」
「ああ。ここらは人が寄りつかない。だからこのあたりでは自由に出歩いてもいい。何かあれば私が守るよ」
「あ、ありがとうございます」
「街とは違って何もないが」
「いいえ、じゅうぶんすぎるほどです」

 フェイが暮らしてきた、がらんとした広い部屋には何もなかった。それに比べたらここには何でもあると言っていいほどだった。

「外に出てもいい、なんて、まだ実感が湧きません」
「それにも少しずつ慣れていけばいい。強制はしない」
「はい、わかりました」

 フェイはてっきり自分のことを今日終える命と思っていた。けれど食われるということはなく、それどころか自由に過ごしてもいいなどと言う。
 王宮にある庭にさえあまり出たことがないフェイにとって実感が湧かないのも無理はなかった。
感想 0

あなたにおすすめの小説

おひめさまな俺、帝王に溺愛される

  *  ゆるゆ
BL
帝王陛下に捧げられることになった小国の王族レイには、大変な問題が──! ……男です。

俺は夜、社長の猫になる

衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。 ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。 言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。 タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。 けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。

繋ぎの婚約を契約通り解消しようとしたら、王宮に溺愛軟禁されました

こたま
BL
エレンは子爵家のオメガ令息として産まれた。年上のアルファの王子殿下と年齢が釣り合うオメガ令息が少なく、他国との縁組も纏まらないため家格は低いが繋ぎとして一応婚約をしている。王子のことは兄のように慕っており、初恋の人ではあるけれど、契約終了時期か王子に想い人が現れた時には解消されるものと考えていた。ところが婚約解消時期の直前に王子宮に軟禁された。結婚を承諾するまでここから出さないと王子から溢れるほどの愛を与えられる。ハッピーエンドオメガバースBLです。

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

その首輪は、弟の牙でしか外せない。

ゆずまめ鯉
BL
養子ゆえに、王位継承権を持たないオメガで長男のレイン(24)は、国家騎士団として秘密裏に働き、ただ義弟たちを守るためだけに生きてきた。 第一継承権を持つアルファで次男のリオール(19)は、そんな兄に「ごく潰し」と陰口を叩く連中を許せなかった。自分を犠牲にしてまで守る価値はないと思っていた。なにかと怪我の多い国家騎士団を辞めさせたかった。 初めて訪れた発情期のとき。約束をすっぽかされたリオールが不審に思い、兄の部屋へ行くと、国家騎士団の同僚──グウェンソード(28)に押し倒されるところを目撃して激高する。 「今すぐ部屋から出ろ!」 独占欲をあらわにしたリオールは、グウェンソードを部屋から追い出し、兄であるレインを欲望のままに抱いた。 翌朝、差し出されたのは特注の首輪──外せるのはリオールのみ。 「俺以外に触らせるな」 そう囁かれたレインは、何年も首輪と弟の執着に縛られ続けてきた。 弟には婚約者がいるのに、こんな関係を続けてもいいのか。 本当にこのままでもいいのか。 ひたすら執着して独占したがる弟と、罪悪感に苛まれる兄。 その首輪は、いつか弟の牙で血に染まるのか──。 どうにかしてレインを落としたいリオールと、弟との関係に悩むレインのオメガバースです。 リオール・グランケット(19)×レイン・グランケット(24) ※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。 三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。

【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。