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ほんとうのこと
翌朝目が覚めると、またルイの姿は寝台からは消えていた。身を起こそうとすると、ひどく体が重くてうまく動かなかった。それでもなんとか起き上がり、屋敷の入り口あたりまで行くと、森のほうから屋敷へ戻ってくるルイの姿が見えた。
「フェイ、起きて平気なのか」
「ルイ、おはようございます」
フェイの姿を見るや、ルイは焦った様子で戻った。少しふらついているフェイの体をさっと抱き上げると、屋敷の中へと連れ戻し火を起こしてあった居間に座らせた。温めていた白湯をフェイに飲ませたり、ルイは甲斐甲斐しく世話を焼いた。
「ルイ、そんなにしていただかなくても」
「いや、フェイに無理をさせてしまったと反省したのだ。これくらいのことはさせてくれ」
ルイはフェイがあちこちと連れ回されて疲れているだろうとわかっていたのにどうにも抑えがきかなかったことに反省していた。フェイとしては移動はほとんどルイの背に乗せてもらっていただけだったし体はさほど疲れていなかった。夜のことも、想像していたよりは大変じゃなかった。起きてみると身体は痛んだが、それよりもなんだか気恥ずかしさのほうが勝っている。けれどこうしてあたたかいところで休むとほっとした。
「今朝はどちらへ?」
「ああ、このことも話していなかった……きちんと始めから、話すよ」
ルイは少ししおれたまま、けれど改まってフェイに向き合いひとつひとつ話し始めた。
「フェイが初めて来た日、最初に会った場所があるだろう?」
「はい、あの泉がある場所ですね」
「そこに小さな私の祠があってね。そこには時折人間からの献上物が置かれていることがある」
「人間からの」
「そうだ。人間からのと言ったが、今はもうあそこを使う人は限られている。ユンロンという男だけだ」
「ユンロン……父ですか?」
ユンロンというのはフェイとジンユェの父、国王の名前だ。
「そう。ユンロンは若い頃からの熱心な龍神信仰の者だ。奴よりずっと前の代からそうで、私たちは細々とではあるが交流を続けていた。今回のフェイとの縁談は、ユンロンからの相談事だったのだ」
「……それは、知りませんでした」
「ユンロンめ、本当に何も話さなかったのだな。不器用なやつだ、何を言ってもフェイの助けにはならないと思ったのだろう」
「ルイは、父と交友関係があったのですか?」
「もう長いこと口は聞いていない。奴が若くして王になってからは会ってもいない」
そう答えるルイは少し不服そうだった。
「そういうわけで、今朝はこれを取りに行っていた。ユンロンからの手紙だ」
「手紙でやりとりをしていたのですね」
「そうだ。あいつはこの場所を知っているはずなのにここまで来ることはしない。だいたいひと月ごとくらいにこうして手紙を寄こしたり、畑で実ったものやら何かを置いていく」
ルイは器用に手紙の封をきると、ぱらりと開き中身を読む。
「フェイを私の嫁にしてほしいと言い出したのもユンロンだ。わけは聞いているか?」
「……聞いておりません」
「そうだろうと思ったよ……奴はいよいよフェイの今後をどうしてやるべきか悩んでいたのだ。国民にもう一人の王子の存在を隠してしまった手前もうフェイを王族として扱うことはできないし、大人になるにつれて一緒に育っていった角をもう誤魔化すことさえできなくなった。フェイが成人するのに、何を任せることもできないし、このまま一生を離れで過ごさせるのかとユンロンなりに苦しんでいたようだな」
「そう……だったのですね。知りませんでした」
「それで自分がどうにもできなかったツケが回ってきたのを、私に押し付けてきたというわけだな」
「ルイは、それでよく私を受け入れてくださいましたね」
「まあ、フェイに罪はないから。ほら、ユンロンがフェイのことを心配している。いつもこうして返信用の紙をつけてくれているから、暇があるときにでも返事を書いてやったらいい」
「私が書いてもいいのですね、ありがとうございます」
「当然だよ」
まさか家族に無事を伝える方法がこんなにすぐに見つかるなんてフェイは思っていなかったので素直に嬉しかった。
そこで一度話は途切れたが、それで話が終わりには思えず、フェイは訊ねた。
「どうして父とルイは会わなくなったのか、聞いてもよろしいですか?」
「…………そうだな、とても言いにくいことだが、避けては先に進めまい」
何を聞いても淡々と受け答えをするルイにしては珍しくそう返した。その顔は本当に気まずそうだったが、フェイは敢えてそれを無視することにした。
「フェイ、起きて平気なのか」
「ルイ、おはようございます」
フェイの姿を見るや、ルイは焦った様子で戻った。少しふらついているフェイの体をさっと抱き上げると、屋敷の中へと連れ戻し火を起こしてあった居間に座らせた。温めていた白湯をフェイに飲ませたり、ルイは甲斐甲斐しく世話を焼いた。
「ルイ、そんなにしていただかなくても」
「いや、フェイに無理をさせてしまったと反省したのだ。これくらいのことはさせてくれ」
ルイはフェイがあちこちと連れ回されて疲れているだろうとわかっていたのにどうにも抑えがきかなかったことに反省していた。フェイとしては移動はほとんどルイの背に乗せてもらっていただけだったし体はさほど疲れていなかった。夜のことも、想像していたよりは大変じゃなかった。起きてみると身体は痛んだが、それよりもなんだか気恥ずかしさのほうが勝っている。けれどこうしてあたたかいところで休むとほっとした。
「今朝はどちらへ?」
「ああ、このことも話していなかった……きちんと始めから、話すよ」
ルイは少ししおれたまま、けれど改まってフェイに向き合いひとつひとつ話し始めた。
「フェイが初めて来た日、最初に会った場所があるだろう?」
「はい、あの泉がある場所ですね」
「そこに小さな私の祠があってね。そこには時折人間からの献上物が置かれていることがある」
「人間からの」
「そうだ。人間からのと言ったが、今はもうあそこを使う人は限られている。ユンロンという男だけだ」
「ユンロン……父ですか?」
ユンロンというのはフェイとジンユェの父、国王の名前だ。
「そう。ユンロンは若い頃からの熱心な龍神信仰の者だ。奴よりずっと前の代からそうで、私たちは細々とではあるが交流を続けていた。今回のフェイとの縁談は、ユンロンからの相談事だったのだ」
「……それは、知りませんでした」
「ユンロンめ、本当に何も話さなかったのだな。不器用なやつだ、何を言ってもフェイの助けにはならないと思ったのだろう」
「ルイは、父と交友関係があったのですか?」
「もう長いこと口は聞いていない。奴が若くして王になってからは会ってもいない」
そう答えるルイは少し不服そうだった。
「そういうわけで、今朝はこれを取りに行っていた。ユンロンからの手紙だ」
「手紙でやりとりをしていたのですね」
「そうだ。あいつはこの場所を知っているはずなのにここまで来ることはしない。だいたいひと月ごとくらいにこうして手紙を寄こしたり、畑で実ったものやら何かを置いていく」
ルイは器用に手紙の封をきると、ぱらりと開き中身を読む。
「フェイを私の嫁にしてほしいと言い出したのもユンロンだ。わけは聞いているか?」
「……聞いておりません」
「そうだろうと思ったよ……奴はいよいよフェイの今後をどうしてやるべきか悩んでいたのだ。国民にもう一人の王子の存在を隠してしまった手前もうフェイを王族として扱うことはできないし、大人になるにつれて一緒に育っていった角をもう誤魔化すことさえできなくなった。フェイが成人するのに、何を任せることもできないし、このまま一生を離れで過ごさせるのかとユンロンなりに苦しんでいたようだな」
「そう……だったのですね。知りませんでした」
「それで自分がどうにもできなかったツケが回ってきたのを、私に押し付けてきたというわけだな」
「ルイは、それでよく私を受け入れてくださいましたね」
「まあ、フェイに罪はないから。ほら、ユンロンがフェイのことを心配している。いつもこうして返信用の紙をつけてくれているから、暇があるときにでも返事を書いてやったらいい」
「私が書いてもいいのですね、ありがとうございます」
「当然だよ」
まさか家族に無事を伝える方法がこんなにすぐに見つかるなんてフェイは思っていなかったので素直に嬉しかった。
そこで一度話は途切れたが、それで話が終わりには思えず、フェイは訊ねた。
「どうして父とルイは会わなくなったのか、聞いてもよろしいですか?」
「…………そうだな、とても言いにくいことだが、避けては先に進めまい」
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