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龍たちの会合(二)
「ふふ。みなさん本当に賑やかで素敵な方たちですね」
「今日はフェイがいるからね。普段はもっと静かなときもある。言っただろう、龍も妖精も同じだと。みんなおしゃべりで、人の子に興味があるんだよ」
「それは、人と龍との関わりが少なくなってしまったからというのもあるのでしょうか」
「そうだね。もともとは人里と交流して同じように生きていた龍は多いから。またあの頃のように暮らすことは難しいとわかっているからね、積極的に里に降りることはしない。だからこそ、どんどんと新しくなっていく人間の暮らしや文化に興味が尽きないんだ」
ルイとフェイが話していると、それぞれ持ち寄った食べ物や酒で既に盛り上がっている龍たちが話に加わってくる。
「本当に寂しいものだよね。私なんかは昔は人と同じ家で暮らして家族のようにしていたから、もうあの暮らしが戻らないのかと思うとせつないよ」
「私はまだ村の人たちには龍神様として認知されているから、たまにお話をしたり、年に一度ともに食事をとったりしているよ。いつもたくさんの献上物で人の文化に触れられるのは嬉しいね。あの木の実の粥も村の人から教えてもらったんだ。フェイ殿も、また困ったら私を頼るといい。」
「あの粥の作り方を教えてくださった御方でしたか。ありがとうございました。今も人と親しくしているのですね」
「ああ、私はね。でも私のようなのは稀だ。ほら、そこの真っ黒いのなんかは人と関わったことは一度だってないんだ」
その緑色の髪と瞳を持つ龍が指さしたのは、真っ黒い姿をした龍だった。なんとか人のような形をとっているが、体も大きいし髪は龍のたてがみそのものだ。鋭い目つきに鱗に覆われた顔では、一目見て人だとは思えないだろう。人との交わりがなければ、変化は難しいものなのかもしれない。
「……私は半神だからね。土地神とその地に住まう龍の間の子だ。人とは深く関わるというより、その地を守ることで信仰の対象とされてきた身だ。私のようなものの姿を人の目に晒せば信仰も遠ざかる。生きるためだ」
「うん、そういう龍も居る。半神ともなると人と関わらずとも人なくしては生きられない。だからいろいろさ」
「気になっていたんだが、きみのその角は龍のものとよく似ているが、きみもなにかのまじりものか?」
「いえ、私は人と人との間に生まれた子です。これは突然変異としか言いようがなく……」
「そうか、うん。そういうこともあるね」
「なに、昔はよくあったことだろう。まあ片角というのはなかなか珍しいが、繊細でキレイだ」
「うんうん。するりとなめらかで、青白い色が美しい。おまえさんにぴったり似合っているね」
「あ……ありがとうございます」
フェイはあまり角を褒められたことはなかったので、とても変な気持ちになった。けれど、龍たちはもちろんお世辞などを言っているわけはなく、皆にこにこと笑ってフェイの片角を綺麗だと褒めた。
見渡すと、龍の姿は本当に様々だった。ごつごつと黒い岩のような角を持つ龍も居て、確かにああいった角が自分についていたならきっと似合わなかっただろうとフェイは素直に思う。
ずっとずっとこんなものはなければいいと思ってきた角を、まるで羽織の色でも褒めるみたいに気軽に言われたものだから、フェイは「そうか、ここではむしろこの姿が馴染むのだな。この姿を恥じることなど微塵もいらないことなのだ」と理解した。
それは、フェイの生きてきた時間のすべてを覆してしまうような出来事だった。
フェイにとってはとても特別だったその瞬間は、龍たちにとっては何気ない会話のひとつに過ぎない。
龍たちはフェイの手土産の豆をうまいうまいと言って食べて酒を飲み、あたたかな丘で輪になり和やかに時間は過ぎていった。
「フェイ殿、ルイをよろしく頼むよ。またいつでも来るといい」
「よろしいのですか?」
「もちろんだとも、フェイはもう私たちの仲間だよ」
「ありがとうございます」
お開きの時間になり、彼らは口々にフェイに一言声をかけてから散り散りに空の向こうへ飛び立っていった。
ルイもフェイの目をふさぐと龍の姿に戻り、フェイを背に乗せて屋敷へと戻る。
「どうだった。騒がしいやつらだっただろう」
「……とても不思議な時間でした。妖精たちとお話したときとはまた違う……」
「そうなのか?」
「ええ。なんと言いますか……不思議と、彼らをとても近しいものとして感じられました。人と龍とに区別がなかったのだということを、話では聞いていましたが、きっとこういうことだったのかもしれないと、少しだけ理解できた気がします」
「なるほど、確かに妖精たちや動物たちと人間はかなり存在としては遠いけれど、龍は自然と人に寄り添って生きてきたものだから。龍が人の姿をとるのもそういう理由があるし……それに、フェイがよりそう感じたのは、その角のせいだろう?」
「……はい。私はルイと暮らすようになってからもどこか、この姿に引け目を感じていたのです。正しくは、その意識が私の根底に根付いてしまっていた。けれど彼らはそんなことはなんでもないことだと……それどころか、この角を美しいと言ってくださった。そんなことは初めてだったのです」
ジンユェもミンシャも、「角がはえていてもいなくても、フェイ様はフェイ様だ」と向き合ってくれていた。けれど龍たちは、「片角をもつフェイの姿」を「あなたらしくて美しい」と言ったのだ。
「……なるほどね。龍にとって角があるなんてことは、ごく当たり前のことだから、彼らは特別なことを言ったわけではないけれども、時としてそういう言葉こそが心に響くこともある」
「私にさえ、そういう見方はこれまでありませんでした。人と離れ、人に恐れられてもなお、人を愛している彼らだからこそ、私にもあそこに居場所があったのだと思えました」
「またともに行こう。皆喜ぶよ」
「……はい」
飛ぶ龍の背ではまるで自分さえ身軽になったようで、心地が良い。
フェイは今日龍たちと話したことを生涯忘れたくはないと願う。彼らのようにどんなことも軽やかに、愛情深い人になりたいと思った。
「今日はフェイがいるからね。普段はもっと静かなときもある。言っただろう、龍も妖精も同じだと。みんなおしゃべりで、人の子に興味があるんだよ」
「それは、人と龍との関わりが少なくなってしまったからというのもあるのでしょうか」
「そうだね。もともとは人里と交流して同じように生きていた龍は多いから。またあの頃のように暮らすことは難しいとわかっているからね、積極的に里に降りることはしない。だからこそ、どんどんと新しくなっていく人間の暮らしや文化に興味が尽きないんだ」
ルイとフェイが話していると、それぞれ持ち寄った食べ物や酒で既に盛り上がっている龍たちが話に加わってくる。
「本当に寂しいものだよね。私なんかは昔は人と同じ家で暮らして家族のようにしていたから、もうあの暮らしが戻らないのかと思うとせつないよ」
「私はまだ村の人たちには龍神様として認知されているから、たまにお話をしたり、年に一度ともに食事をとったりしているよ。いつもたくさんの献上物で人の文化に触れられるのは嬉しいね。あの木の実の粥も村の人から教えてもらったんだ。フェイ殿も、また困ったら私を頼るといい。」
「あの粥の作り方を教えてくださった御方でしたか。ありがとうございました。今も人と親しくしているのですね」
「ああ、私はね。でも私のようなのは稀だ。ほら、そこの真っ黒いのなんかは人と関わったことは一度だってないんだ」
その緑色の髪と瞳を持つ龍が指さしたのは、真っ黒い姿をした龍だった。なんとか人のような形をとっているが、体も大きいし髪は龍のたてがみそのものだ。鋭い目つきに鱗に覆われた顔では、一目見て人だとは思えないだろう。人との交わりがなければ、変化は難しいものなのかもしれない。
「……私は半神だからね。土地神とその地に住まう龍の間の子だ。人とは深く関わるというより、その地を守ることで信仰の対象とされてきた身だ。私のようなものの姿を人の目に晒せば信仰も遠ざかる。生きるためだ」
「うん、そういう龍も居る。半神ともなると人と関わらずとも人なくしては生きられない。だからいろいろさ」
「気になっていたんだが、きみのその角は龍のものとよく似ているが、きみもなにかのまじりものか?」
「いえ、私は人と人との間に生まれた子です。これは突然変異としか言いようがなく……」
「そうか、うん。そういうこともあるね」
「なに、昔はよくあったことだろう。まあ片角というのはなかなか珍しいが、繊細でキレイだ」
「うんうん。するりとなめらかで、青白い色が美しい。おまえさんにぴったり似合っているね」
「あ……ありがとうございます」
フェイはあまり角を褒められたことはなかったので、とても変な気持ちになった。けれど、龍たちはもちろんお世辞などを言っているわけはなく、皆にこにこと笑ってフェイの片角を綺麗だと褒めた。
見渡すと、龍の姿は本当に様々だった。ごつごつと黒い岩のような角を持つ龍も居て、確かにああいった角が自分についていたならきっと似合わなかっただろうとフェイは素直に思う。
ずっとずっとこんなものはなければいいと思ってきた角を、まるで羽織の色でも褒めるみたいに気軽に言われたものだから、フェイは「そうか、ここではむしろこの姿が馴染むのだな。この姿を恥じることなど微塵もいらないことなのだ」と理解した。
それは、フェイの生きてきた時間のすべてを覆してしまうような出来事だった。
フェイにとってはとても特別だったその瞬間は、龍たちにとっては何気ない会話のひとつに過ぎない。
龍たちはフェイの手土産の豆をうまいうまいと言って食べて酒を飲み、あたたかな丘で輪になり和やかに時間は過ぎていった。
「フェイ殿、ルイをよろしく頼むよ。またいつでも来るといい」
「よろしいのですか?」
「もちろんだとも、フェイはもう私たちの仲間だよ」
「ありがとうございます」
お開きの時間になり、彼らは口々にフェイに一言声をかけてから散り散りに空の向こうへ飛び立っていった。
ルイもフェイの目をふさぐと龍の姿に戻り、フェイを背に乗せて屋敷へと戻る。
「どうだった。騒がしいやつらだっただろう」
「……とても不思議な時間でした。妖精たちとお話したときとはまた違う……」
「そうなのか?」
「ええ。なんと言いますか……不思議と、彼らをとても近しいものとして感じられました。人と龍とに区別がなかったのだということを、話では聞いていましたが、きっとこういうことだったのかもしれないと、少しだけ理解できた気がします」
「なるほど、確かに妖精たちや動物たちと人間はかなり存在としては遠いけれど、龍は自然と人に寄り添って生きてきたものだから。龍が人の姿をとるのもそういう理由があるし……それに、フェイがよりそう感じたのは、その角のせいだろう?」
「……はい。私はルイと暮らすようになってからもどこか、この姿に引け目を感じていたのです。正しくは、その意識が私の根底に根付いてしまっていた。けれど彼らはそんなことはなんでもないことだと……それどころか、この角を美しいと言ってくださった。そんなことは初めてだったのです」
ジンユェもミンシャも、「角がはえていてもいなくても、フェイ様はフェイ様だ」と向き合ってくれていた。けれど龍たちは、「片角をもつフェイの姿」を「あなたらしくて美しい」と言ったのだ。
「……なるほどね。龍にとって角があるなんてことは、ごく当たり前のことだから、彼らは特別なことを言ったわけではないけれども、時としてそういう言葉こそが心に響くこともある」
「私にさえ、そういう見方はこれまでありませんでした。人と離れ、人に恐れられてもなお、人を愛している彼らだからこそ、私にもあそこに居場所があったのだと思えました」
「またともに行こう。皆喜ぶよ」
「……はい」
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