つのつきの子は龍神の妻となる

白湯すい

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小さな狼

 ロジュの社はまさに神様が祀られているところ、といった雰囲気で、古い建物ながら神聖な雰囲気が漂っていた。

「戻ったよ」
「……」

 中からは何か気配がするものの、返事はない。木々に覆われていて薄暗い場所なのに、部屋の明かりもつけずに小さな何かがうずくまっていた。

「ふたりとも、入ってくれ。狭いところだが」
「お邪魔します」

 ロジュが部屋を歩き回りながらランプの中の蝋燭にふっと息を吹きかけると、たちまち火が灯っていった。
 部屋が明るくなると、部屋の隅で膝を抱えていた子の姿が見えるようになる。小さな子どもと聞いていたが、想像していたよりも大きい。歳はきっと十五くらいだろうか。しかし、大人びた顔つきの割にひどく痩せていて小柄だ。体の大きなロジュにとっては小さな子どもに見えただろう。

「…………誰?」
「こんにちは。突然お邪魔してごめんなさい。私はフェイロンと言って、ロジュ様のお友達です」
「……ろじゅ?」
「私の名だ」

 フェイが少し近寄るとおどおどしていたようだったが、目線を合わせてやるとフェイにはあまり警戒していないようだった。しかし、ロジュから声が返ってくるとびくりと反応していた。

「おや、自己紹介もまだだったのですね。彼はロジュといって、私にとてもよくしてくださる龍神様なのですよ。お嫌でなければ、あなたのお名前もお聞かせ願えますか?」
「…………シャオラン」
「シャオラン。教えてくれてありがとう。ああ、こちらの白い方の人はルイといって、その……私の旦那様です」
「……フェイロン、ルイ…ロジュ」
「そうです。私のことは気軽にフェイとお呼びください」

 フェイがにこりと笑うと、ほんの少しだけれどシャオランの緊張が解けたような気がした。

「……フェイさんは、人間なの? 片方だけ、角がある……」
「はい。これは突然変異で……生まれつきのもので、私はただの人間です。……シャオランも、そうですよね?」
「……うん。父さんも、母さんも、普通なのに。……おれだけ」

 シャオランの言う『普通』という言葉に、フェイも胸がちくりと痛んだ。どうしたって今の世では、フェイやシャオランのような人間は『普通』ではない。シャオランがぎゅっと膝を抱えるのに合わせて、灰色のふさふさとした尻尾が縮こまって体に寄せられる。

「……私も、親にも弟にも、私のような角はありませんでした。私の国では私のような子を『つのつき』と呼び、縁起が悪いとされていました」
「縁起が悪い……?」
「つのつきの子が産まれた家には必ず災い……悪いことが起きると言われているのです。私にそんなことを起こせる特別な力はないのですがね」
「おれも同じだ。みんな俺の尻尾を見て、おまえは変だって、お前みたいな子が生まれるのは不吉なんだって言ってた」

 シャオランはしゅんとしおれた様子でそう話した。それを聞いていた龍たちも少し悲しそうにしていた。

「……シャオラン、君は村に戻りたいか」
「……わからない。父さんや母さんと一緒に居たいけど、ふたりともおれのことが好きじゃないんだって思い知ったから」

 フェイと話して少し緊張が解けたシャオランは、ロジュの問いかけに少し怯えながらもそう答えた。

「私はおまえが望むのなら、ここで暮らしてもいいと思っている。私は力が強くて恐ろしいかもしれないが、おまえを傷つけることはしないよ。むしろ私なら、おまえをあらゆるものから守ってやれる」

 ロジュはフェイの話す口調を見習って、できるだけシャオランに伝わりやすい言葉遣いで話した。シャオランは少し戸惑いながらフェイやルイを見る。

「シャオラン、ロジュ様は恐ろしいものではありませんよ。私もあなたと事情は違いますが、家族から離れて今はルイとふたり、山奥で暮らしています。ロジュ様は私のこの、人にも馴染めず龍のものでもないおかしな角を、特別扱いせずすんなりと受け入れてくださった……姿を違うものを責め立てたりはしない御方です」
「姿が違うというのならば、私だってそうだからね。私は龍と神の間の子で、他の者たちのように流麗な美しさは持っていないし、人の姿をとるのも下手だ」
「…………姿の、違うもの……」

 シャオランはしばし考え込み、ふるふると首を振って何か決意したようだった。そして、初めてロジュのもとに近寄る。

「……おれ、ここに居てもいいの?」
「ああ、構わないよ」
「ロジュは、おれを嫌いじゃない?」
「嫌う理由がない。私は、人の子を守るためにここに在る」
「人の子を守るために……?」
「私は半神だから。半分は龍で、半分は神だ。私には加護の……この森や村の人々が豊かでいられるようにする力がある。人々が私に願うならば、私はそれに応える」
「村の人たちがお祈りしていたのは、ロジュにだったのか」
「そういうことになる」
「すごい」

 シャオランは少しずつロジュと話してロジュのことを知っていく。完全に恐れが消えたわけではなさそうだが、すっかり隣に座って会話をして、その姿は傍から見ていると姿は違えど親子のようだった。

「……なんだか、うまくいきそうですね」
「うん、よかった。私の出番はなかったね」
「ふふ。ルイも少し、見た目は怖いですから」
「私が? そうなのか」
「やっぱり、自覚がおありでなかったのですね」

 ロジュとシャオランを眺めながら、フェイとルイはそんな風に話してくすくすと笑い合うのだった。
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