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婚礼式(二)
家族に会うのはずいぶんと久しぶりだった。気付けば季節は巡り、まる一年ほどが経っていたことにフェイは驚いていた。
弟のジンユェに会ったのもすでに数か月前のことで、フェイは嬉しい反面なんだか緊張してしまっていた。
「家族に会うのに緊張するということもないだろう」
「そうですね。そうなんですけど……」
どこかおどおどとしているフェイをルイが窘める。それでもフェイは落ち着かない様子だった。
そんなフェイの心境をよそに時間は流れ、緑龍が迎えに行っていた父ユンロン、弟ジンユェ、従者ミンシャが屋敷へとやってくる。
「兄様!」
「ジン」
パッと表情を明るくして駆け寄ってくれた弟に少し緊張がほどけたフェイ。ジンユェの傍にいたミンシャも驚いたような嬉しいような顔をしていた。
「兄様、お久しぶりです。とても綺麗だ」
「ジンも変わりないようでよかった。ミンシャも」
「……フェイ様、またお会いできるとは思っていませんでした……。お元気でいらっしゃいましたか」
「ああ、ミンシャにはたくさん心配をかけてしまってすまない。私は見ての通り、何も変わりなく元気に過ごしているよ」
「いいえ、いいのです。フェイ様が元気で幸せなら……とてもお美しい。素敵ですね」
「ありがとう」
別れ際不安に押しつぶされそうになりながら涙をこぼしていたミンシャが、今度はフェイの元気な姿を見て安堵に瞳を潤ませている。フェイはミンシャのことがずっと気がかりだったが、この顔が見られてよかったと心から思った。
そして、弟と幼馴染のミンシャの後ろで父はゆったりと佇んでいた。父ユンロンはいつもの王の姿ではなく、けれど平服というわけでもない装束に身を包んでいた。フェイは父のそんな姿は初めて見た。
「……元気そうで何よりだ、フェイロン。手紙もいつも読んでいたよ。……ここへ招いてくれてありがとう」
「父様……わざわざご足労いただき、ありがとうございます」
「私を気遣うことはない。今日は私は王でもなんでもない、ただのお前の父親としてここへ来ているのだから」
「まさか来ていただけるとは思っておりませんでした。けれど……お会いできて、とても嬉しいです」
父に会えば、自分がどういう気持ちになるものかフェイは想像がつかなかった。けれど、意外なほどに心は穏やかで、純粋な『会えて嬉しい』という気持ちだけがあった。
「久しぶりだね、ユンロン」
「……っ、ルイ。本当に久しぶりだ。この度は……いや、ルイにはいつも、本当にすまないと思って……」
「いい。私はもう何も怒っていないし恨んでもいない。今日のお前は王ではないのだろう。であればお前は今日ただの私の友人で、フェイの父だ。何も後ろめたいことはなかろう」
「ルイ……お前は本当に良い奴だな」
「今更だ」
父ユンロンと話すルイをじっと見るフェイ。なんだか不思議な感じがしたけれど、本当にふたりはかつて親しい友だったのだとその空気感だけでもわかる。いつになくくだけた口調の父と、いつもよりもほんの少し荒っぽい言葉を使うルイは、まるで年若い男同士の友達みたいに見えた。
式は滞りなく進んだ。儀式というのもさほど大掛かりなものではなく、池にひっそりとある小さな祠の前で結ばれた挨拶をして、ふたりで連なる灯篭に火を灯して回る。
あたたかな春の夜に、夫婦の仲睦まじい姿を皆が見つめ、誰もがそこにいるすべてのひとびとの幸せを願う空間となった。
「フェイ様……とてもお幸せそうですね」
「……ああ、そうだな」
密かにフェイに想いを寄せていたミンシャが、ジンユェの隣でぽつりとつぶやく。ジンユェはミンシャが泣いているかと思ったが、その瞳はいつものようにきらきらと潤み、フェイたちの灯した火をちらちらと映しているばかりだった。
その姿はとても美しく、心からフェイの幸せを喜んでいるのだとわかって、ジンユェも安心した。
「始めは龍神様に輿入れなど……と思っていたが、俺も兄様があんな風に柔らかに笑うのを初めて見た。兄様は、いつもどこか寂しそうな笑顔をしていたから」
「……はい。でも今は……とてもきれいです。素敵な方なのですね、龍神様は」
「……うん。ルイは、兄様のこと、とても大切に想ってる。ルイが兄様に、あんな顔をさせているのだろうな」
「なんだか少し……妬けちゃいますね。そういうことではないのでしょうけれど、私たちではフェイ様の寂しさを埋めてあげられなかったんだって」
「……そうだな。でもミンシャ……そんなことを言いながら、嬉しそうだ」
「はい。ミンシャはフェイ様が幸せになってくれることが、いちばん嬉しいです。それは、ジン様もですよね」
「そうとも」
そう言って二人は笑った。ずっとフェイのことが気がかりだったジンユェとミンシャだったが、ようやく心の中の霧がすっきりと晴れていくような気分だった。
弟のジンユェに会ったのもすでに数か月前のことで、フェイは嬉しい反面なんだか緊張してしまっていた。
「家族に会うのに緊張するということもないだろう」
「そうですね。そうなんですけど……」
どこかおどおどとしているフェイをルイが窘める。それでもフェイは落ち着かない様子だった。
そんなフェイの心境をよそに時間は流れ、緑龍が迎えに行っていた父ユンロン、弟ジンユェ、従者ミンシャが屋敷へとやってくる。
「兄様!」
「ジン」
パッと表情を明るくして駆け寄ってくれた弟に少し緊張がほどけたフェイ。ジンユェの傍にいたミンシャも驚いたような嬉しいような顔をしていた。
「兄様、お久しぶりです。とても綺麗だ」
「ジンも変わりないようでよかった。ミンシャも」
「……フェイ様、またお会いできるとは思っていませんでした……。お元気でいらっしゃいましたか」
「ああ、ミンシャにはたくさん心配をかけてしまってすまない。私は見ての通り、何も変わりなく元気に過ごしているよ」
「いいえ、いいのです。フェイ様が元気で幸せなら……とてもお美しい。素敵ですね」
「ありがとう」
別れ際不安に押しつぶされそうになりながら涙をこぼしていたミンシャが、今度はフェイの元気な姿を見て安堵に瞳を潤ませている。フェイはミンシャのことがずっと気がかりだったが、この顔が見られてよかったと心から思った。
そして、弟と幼馴染のミンシャの後ろで父はゆったりと佇んでいた。父ユンロンはいつもの王の姿ではなく、けれど平服というわけでもない装束に身を包んでいた。フェイは父のそんな姿は初めて見た。
「……元気そうで何よりだ、フェイロン。手紙もいつも読んでいたよ。……ここへ招いてくれてありがとう」
「父様……わざわざご足労いただき、ありがとうございます」
「私を気遣うことはない。今日は私は王でもなんでもない、ただのお前の父親としてここへ来ているのだから」
「まさか来ていただけるとは思っておりませんでした。けれど……お会いできて、とても嬉しいです」
父に会えば、自分がどういう気持ちになるものかフェイは想像がつかなかった。けれど、意外なほどに心は穏やかで、純粋な『会えて嬉しい』という気持ちだけがあった。
「久しぶりだね、ユンロン」
「……っ、ルイ。本当に久しぶりだ。この度は……いや、ルイにはいつも、本当にすまないと思って……」
「いい。私はもう何も怒っていないし恨んでもいない。今日のお前は王ではないのだろう。であればお前は今日ただの私の友人で、フェイの父だ。何も後ろめたいことはなかろう」
「ルイ……お前は本当に良い奴だな」
「今更だ」
父ユンロンと話すルイをじっと見るフェイ。なんだか不思議な感じがしたけれど、本当にふたりはかつて親しい友だったのだとその空気感だけでもわかる。いつになくくだけた口調の父と、いつもよりもほんの少し荒っぽい言葉を使うルイは、まるで年若い男同士の友達みたいに見えた。
式は滞りなく進んだ。儀式というのもさほど大掛かりなものではなく、池にひっそりとある小さな祠の前で結ばれた挨拶をして、ふたりで連なる灯篭に火を灯して回る。
あたたかな春の夜に、夫婦の仲睦まじい姿を皆が見つめ、誰もがそこにいるすべてのひとびとの幸せを願う空間となった。
「フェイ様……とてもお幸せそうですね」
「……ああ、そうだな」
密かにフェイに想いを寄せていたミンシャが、ジンユェの隣でぽつりとつぶやく。ジンユェはミンシャが泣いているかと思ったが、その瞳はいつものようにきらきらと潤み、フェイたちの灯した火をちらちらと映しているばかりだった。
その姿はとても美しく、心からフェイの幸せを喜んでいるのだとわかって、ジンユェも安心した。
「始めは龍神様に輿入れなど……と思っていたが、俺も兄様があんな風に柔らかに笑うのを初めて見た。兄様は、いつもどこか寂しそうな笑顔をしていたから」
「……はい。でも今は……とてもきれいです。素敵な方なのですね、龍神様は」
「……うん。ルイは、兄様のこと、とても大切に想ってる。ルイが兄様に、あんな顔をさせているのだろうな」
「なんだか少し……妬けちゃいますね。そういうことではないのでしょうけれど、私たちではフェイ様の寂しさを埋めてあげられなかったんだって」
「……そうだな。でもミンシャ……そんなことを言いながら、嬉しそうだ」
「はい。ミンシャはフェイ様が幸せになってくれることが、いちばん嬉しいです。それは、ジン様もですよね」
「そうとも」
そう言って二人は笑った。ずっとフェイのことが気がかりだったジンユェとミンシャだったが、ようやく心の中の霧がすっきりと晴れていくような気分だった。
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