あの鐘がなる前に

夏川彩香

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1 白い封筒

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大学生の時、実家を出て一人暮らしをしている准の元に1枚の封筒が届いた。綺麗な白い封筒で、木山 准へと、見覚えのある字で書いてあった。
封筒を裏っ返してみると、綾瀬 夏希よりと、書いてある。
夏希は准の幼なじみの1人だ。
六軒の家が向かい合ってたっていた。そこの子供たちは、ずっと一緒にいて幼稚園から高校までずっと一緒だった。
世にいう“腐れ縁”と言うやつだろう。
そして、夏希は准にとって初恋の人だった。
今でも夏希とはよく話したり、飲みに行ったりもする。
だから、この封筒の内容はだいたいわかる。
部屋にはいってから封筒を開けた。
花柄のカードに夏希の字で「吉川さんと結婚することにしました!だから、友人スピーチを准に頼みたいです。返事は、早めにお願い!てか、電話の方が早かった?まぁ、いいや!返事は電話で!」
・・やっぱり予想はあったていた。
吉川さんとは、高校時代の野球部の先輩だ。手紙に書いてあった通りに、夏希に電話をかけた。しばらくして夏希の声が聞こえた。 
「もしもしー?准?」
「あー、俺だよ。俺。」
「あっ准ね!てかさ、それやめなって!オレオレ詐欺みたいでしょっ!」
夏希のからかう笑い声が聞こえる。
「ほっとけ癖なんだよっ!でさお前の手紙見たよ・・・。」
これで、すぐに『おめでとう』と言えないのはまだ夏希が好きだから。
「勇太とか春樹とか連れて手伝わせに行くわ」
「じゃあ、6人でまた集まろうよ」
「あっ、6人とか懐かしいな!沙奈とか結婚してから全然会わねー。」
「そうなんだよねー。あたし、春樹に沙奈の結婚式以来あってないもん。」
6人は、幼稚園から高校までずっと同じだった。
でも、高校を卒業してからそれぞれ進路が違いバラバラになった。
最後に6人全員が揃ったのはちょうど1年ほど前の沙奈の結婚式だった。
「6人そろうなんて、嬉しいね。」
電話の向こうからでも夏希の嬉しさが伝わってくる。
じゃあ、予定みんなに予定聞いたらまた連絡するねと、夏希が一方的に言って電話が切れた。
 「あーあ。」
准は、部屋のカーテンを閉めて冷蔵庫に入っている缶ビールを出して飲み始める。
冷えきったビールがぬるく感じるのはきっと・・・。夏希のせいだ。
夏希とは、生まれた頃から幼なじみでずっと一緒だった。
夏希の事は今でも好きなんだろうな。
やっぱり、好きなんだよ。きっと・・・


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