女王様、ラビット・ファーを纏う

草津 玲緒

文字の大きさ
1 / 20

【0】

しおりを挟む
 ――ちょっと違うんだよなぁ。
 俺、杉尾すぎお玖音くいんは、自ら大きく広げた股の間に見える頭頂部をぼんやりと見つめていた。
「くふぃん……くん、きほち、ひぃ?」
いつまでたっても勃つ気配のないペニスを咥えながら、上目づかいで問いかける男に傲岸な態度で応える。
「――ちょっと疲れてるのかもねぇ」
伏せ目がちにため息をついた俺に、彼の目が一段と欲望を滾らせてギラつく。
笹島ささじま――と言ったか。名前はよく覚えていない。
会社帰りにふらっと寄ったバーで声を掛けられ、自慢のフェラチオテクニックを披露するというから、とりあえずホテルに入ってみた。
確かに、物凄いディープスロートを繰り返す。
この攻撃を受ければ大概の男性ならば、そう時間がかからないうちに昇天するだろう。ただ、俺としては正直、ただ痛いだけの口淫にほとほと疲れ果てていた。内心では何度も舌打ちを繰り返し、早くこの煩わしい時間を終わらせて欲しいと切に願っていた。
「笹島さん、俺……もう……っ」
 弱々しい俺の声に笹島がばっと勢いよく顔をあげた。そんな彼の、まるでさんざん弄んだ小動物に最後のトドメをさすぞと言わんばかりの鋭い視線を遮るために、両手で彼の頭を押さえつけた。
(これじゃあ、本当に感じているみたいじゃないかっ)
 そんな俺のリアクションに、多少の問題と誤解が生じていたようだ。
 待っていました! とばかりに舌を使って追い上げる彼に気付かれないように天井を仰ぎ、薄汚れたビニールクロスを見つめる。
(ここって、改修の予定とかないのかなぁ……)
「外装をリニューアルしたばかりのホテルだ」と、笹島が入った時に熱く語っていたことを思い出し、建設会社の営業としてのクセでつい建物の要所要所に目がいってしまう。
 毒々しい色が入り混じった壁紙、安物の家具。床のリノリウムも所々剥がれていて、お世辞でも清潔感があるとは言い難い。
ホテルを利用するにあたって金銭的に厳しいという者なら、ただセックスするだけと割り切れば、安い料金設定で休憩時間も長く良心的だと思う。しかし、俺は立派な社会人で、それなりの仕事をして給料を貰ってる。
成り行きで入ったホテルとはいえ、あまりのセンスのなさに勃つモノも勃たない。
まぁ、それが要因なわけではないのだが……。
俺がそんなことを考えているとは思わない笹島は一心不乱に口での奉仕を続けている。
(勃つわけないよ……)
 心の中でため息交じりにぼやきながらも、そのため息を吐息にすり替えた。
「あぁ……も……、ダメ……っ」
 掠れるような声と同時にぶるりと身体を震わせた俺は、一瞬の硬直のあとぐったりと背中の羽枕に身を任せた。胸を喘がせて呼吸を整える――フリをする。
口内に何の感触も感じられなかった笹島は訝しげに顔をあげると、枕に顔を埋めたまま肩で息を繰り返す俺を見下ろした。
「――玖音くん?」
「ごめん……。俺、ドライでイッちゃったみたい……。恥ずかしい……」
 自称『屈託のない』栗色の瞳を潤ませながら、狐につままれたような表情の笹島を上目づかいで見上げる。
 その顔は許しを乞う時の子供…………いや、まさしく迷子の小動物と比喩しても過言ではないだろう。
自分で言うのもなんだが、たとえ百戦錬磨と自称する男がいても、この顔に絆されない奴はいない。
「玖音くんって……ホントに可愛いねぇ!」
そんなことを知る由もない行きずりの相手である笹島は、俺の汗ばんだ髪を指先で弄びながら、何とも言えない微笑みを見せる。
自分のテクニックで堕ちた男の数をカウントしながら優越感に浸る……という自己満足の典型だ。
 両手で頬を挟まれて額に何度もキスをされるが、俺はくすぐったいような表情で照れ笑いを繰り返す。
 これも演技だ……。
「笹島さん。俺、シャワー浴びてくる」
 彼の手をそっと解きながら、ベッドをおりてシャワールームへと向かった。
 この長い時間の中でやっと手に入れたプライベートな時間を邪魔されまいと、念には念を入れて施錠を確認し、ひんやりとしたバスルームに足を踏み入れた。
 水圧が弱く、設定温度の微調節もきかないシャワー水栓に苛立ち、更にぬるいお湯に打たれながら俺は何度も舌打ちを繰り返す。
「今夜はハズレ……だな」
 湯気で曇った鏡に映る自分を見つめる。
 身長は平均身長よりもほんの少し低め、女性に負けないと自負する白い肌はきめ細かい。無駄なものがない分ほどよくついた筋肉と、細いウェスト。華奢に見られがちだが、スーツを着ればそれなりに見える体つき。
 生まれつき色素が薄いせいで髪も瞳も明るい栗色だが、それが母親譲りの女顔をより可愛く見せている。
そんな容姿からか男女を問わず人気があり、声を掛けられれば断る理由もないので、今日もこうして見知らぬ男と体の付き合いをしているのだ。
 そうかといって遊び人だという自覚はまったくない。
二十五歳という年齢を感じさせない童顔、天然っぽい言動、小動物のような仕草。そのすべてが仮の姿だと言ったら……?
「――あぁ、また尻軽男の烙印を押されるのかぁ。イメージ、最悪だろ……」
 シャワーを止め、鏡の前で悶絶する姿は誰も知らない俺の本当の姿だ。濡れた髪をぐしゃぐしゃとかきむしり、悔しさに奥歯を噛む。
そして……無意識に唇から零れる名がシャワールームに響いた。
騎士きし……」
 何度も繰り返しながら、次第に大きくなり始めたモノを上下に扱き始める。笹島の口淫でも勃つことがなかったそれは、その名を繰り返すだけで硬さを増し、腹につきそうなほど力を持ち反り返っている。
 ピクピクと先端を震わせながら透明な蜜を垂れ流す様は卑猥としかいえない。
 俺のペニスを口一杯に頬張りながら、先端で喉の奥を突かれて嘔吐く彼の苦しげな顔を思い出して、思わず身体を震わせた。
「はぁ……、騎士……好きっ」
 まるでオナニーを覚えたての中学生のように、閉じた目の裏で大好きな『彼』を犯しながら手淫に耽る。
 腰の奥にジワリと広がる甘い疼きに無意識に腰を揺らしながら、手の動きも次第に早くなっていく。
「女には渡さない……からっ。あぁぁ……あぁっ」
 淡いピンク色のタイルに大量の白濁を放ちながら、妄想の中の彼もまた共に達していた。残滓を指先で絞り出しながら大きく息を吐く。
 再びシャワーのレバーを捻ると、まだ余韻の残る身体に湯がゆるゆると当たる。その感触に何かを求めてやまない後孔が疼くのを感じ、ゆっくりと流されていく白濁を見つめながら俺は口元を綻ばせた。
「もったいないなぁ…………」
普段の俺からは想像できないほど醜悪な低い声が響く。
ウサギの着ぐるみの中から顔を覗かせたのは、恐ろしいまでの猛獣だった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

【完結済】極上アルファを嵌めた俺の話

降魔 鬼灯
BL
 ピアニスト志望の悠理は子供の頃、仲の良かったアルファの東郷司にコンクールで敗北した。  両親を早くに亡くしその借金の返済が迫っている悠理にとって未成年最後のこのコンクールの賞金を得る事がラストチャンスだった。  しかし、司に敗北した悠理ははオメガ専用の娼館にいくより他なくなってしまう。  コンサート入賞者を招いたパーティーで司に想い人がいることを知った悠理は地味な自分がオメガだとバレていない事を利用して司を嵌めて慰謝料を奪おうと計画するが……。  

処理中です...